クィーン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『クィーン』とは、2006年にイギリスで制作された政治映画である。ダイアナ元皇太子妃の交通事故死を受けて、ただ1人沈黙を貫き通すエリザベス女王の姿と就任間もないブレア首相が国民と王室との和解に奔走する姿が描き出されていく。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』のヘレン・ミレン、『フロスト×ニクソン』のマイケル・シーンが共演し、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』、『疑惑のチャンピオン』などを手掛けたスティーブン・フリアーズが監督を務めた。

『クィーン』の概要

『クィーン』とは、2006年にイギリスで制作された政治映画である。『ゴヤの名画と優しい泥棒』や『消されたヘッドライン』などで知られるヘレン・ミレンと『フロスト×ニクソン』や『ドクター・ドリトル』などで知られるマイケル・シーンが出演した。
1997年8月31日、ダイアナ元皇太子妃がフランス・パリで交通事故によって急死した。突然の訃報に対して就任間もないブレア首相は王室と国民との和解に奔走するが、エリザベス女王はダイアナは既に王室を去った人間と見なしており、沈黙を貫き通していく。
第79回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、衣装デザイン賞、作曲賞の合計7部門にノミネートされ、エリザベス女王を演じたヘレン・ミレンが主演女優賞を受賞した。

『クィーン』のあらすじ・ストーリー

新しい首相の就任

1997年5月2日、イギリスでは新しい首相を決める選挙が行われており、バッキンガム宮殿に住むイギリス女王エリザベス2世は選挙の行方を見守っていた。しかし、選挙権を持つ市民とは違って女王自身には選挙権がない。1度でいいから投票に行ってみたいと思いながらも、それが叶わないことを彼女は嘆いていた。
前哨戦の勢いのまま労働党の党首トニー・ブレアが首相として当選を果たした。国民から盛大な祝福を受けているブレアは妻シェリーと共にバッキンガム宮殿に車で向かっていく。歴代の首相同様に首相就任の正式な承認を女王から得るためであった。
女王との謁見の前にブレアとシェリーは、宮殿の侍従から決して女王に背中を見せてはいけないことや言葉遣いなど細かい礼儀作法を教えられる。
そして女王と謁見の時を迎えたブレアは緊張から作法がちぐはぐになりながらも、女王から首相就任の承認を得ることができた。ブレアの妻シェリーも女王に謁見した。
エリザベスは夫妻に対してにこやかな表情を浮かべながらも、内心では憲法や伝統の改革を考えるブレアとシェリーのぞんざいな態度を不快に思っていた。

ダイアナ元皇太子妃の急死

トニー・ブレアが首相に就任してから3か月後の8月。女王は夫エディンバラ公フィリップと息子のチャールズ皇太子、そして2人の孫であるウィリアム、ヘンリーと共にスコットランドにあるバルモラル城に滞在していた。1996年にダイアナ元皇太子妃はチャールズと離婚し、その後は精力的に多くの活動に従事している。さらに新しい恋人ができたこともあり、ニュースは連日彼女のことを報じている。かねてからダイアナと合わない性格であった女王とフィリップはダイアナの報道を目にするたびに顔をしかめるのだった。
そして8月31日の深夜、侍従の女性が深刻な表情を浮かべながら女王の寝室へやって来た。パリで、ダイアナ元皇太子妃がパパラッチを振り切ろうとしたことが原因で交通事故が起き、重体であるというのだ。
続報を待っていた女王とチャールズにもたらされたのは、ダイアナ元皇太子妃死亡という最悪の知らせだった。
突然の訃報に打ちひしがれながらも、チャールズは元妻ダイアナの遺体を引き取るために王室のプライベートジェットに乗ってパリへ飛ぶことを決める。だが、それを聞いた女王は、ダイアナは既に王室を去った人間、つまり民間人であるからチャールズは行くべきではないと咎める。
しかし、女王の母エリザベス王太后の取りなしにより、チャールズは王室のプライベートジェットに乗ってパリへと向かっていくのだった。

国民のプリンセス

就任間もないブレア首相はダイアナ元皇太子妃が国民から広く愛されていることに注目し、ダイアナは「国民のプリンセス」であったという言葉で突然の死を悼む声明を出し、国民の心を一気につかむ。しかし、スコットランドにあるバルモラル城に休養のために滞在していたエリザベス女王はダイアナ元皇太子妃死亡に対して頑なに沈黙を貫いていた。ダイアナは既に王室を去った人間であると見なしており、彼女の死に関する報道は「一部の人間が扇動した結果である」と考えているからだった。
2人の孫ウィリアムとヘンリーは既に父親から母親の死を知らされていたようで、女王は孫たちのことを思うと気が気ではなかった。
フィリップは気落ちした2人の孫のために鹿狩りに行くことを思いつくが、ダイアナが亡くなった時に行くのは不謹慎ではないかと思うのであった。
一方、ロンドンではブレア首相が就任して間もない時に起きた突然の出来事への対応に追われていた。パリからダイアナの遺体を引き取ってきたチャールズ皇太子を空港で出迎えるということも対応の1つであった。

沈黙を貫き通す女王

「国民のプリンセス」という言葉で哀悼の意を表したブレアが国民の心をつかむことと反対に、女王は未だにダイアナ元皇太子妃死亡に対して沈黙を貫き通していた。母を亡くした2人の孫をマスメディアや国民の狂騒から守るためにロンドンに戻ることなく、休養先であるスコットランドのバルモラル城に留まり続けていたのだ。
チャールズ皇太子はパリでダイアナ元皇太子妃がいかに人々から愛されていたのかを目の当たりにし、かつては王室の一員であったダイアナの死に対して何の声明も出さない女王の態度は理解に苦しむことをブレアに話す。ロンドンでダイアナの死を嘆き悲しむ国民の姿を直に見ているブレアもチャールズと同じ気持ちであった。
ブレアはバルモラル城に留まる女王に電話を掛け、ダイアナの死を悼む声明を発表するように助言するが、女王は耳を貸さない。結局、ダイアナは今では民間人であって王室の人間ではない。長年の伝統としきたりを守り抜いてきた女王にとって、民間人となったダイアナを王室の人間と同じ扱いにすることはできないのだ。その考えを、悲しみに暮れるイギリス国民も支持してくれることを女王は信じていた。

破られた沈黙

8月31日にダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故によって命を落として以来、女王は頑なに沈黙を貫き通していた。新聞各紙は亡くなったダイアナ元皇太子妃を持ち上げ、反対に女王を辛辣な言葉で批判していた。滞在先のバルモラル城で女王は新聞を毎朝読んでおり、一面に書かれているとげとげしい言葉を目にしていた。今やイギリス国民の4人に1人が王制に反対していることをブレア首相から女王は聞かされ、黙り込んでしまう。
そして国民の不満の声が抑えきれなくなってきたと感じたブレア首相は女王に電話を掛ける。そして首相は女王に対し、可能な限り早くロンドンへ戻ってくること、国葬を執り行うこと、そしてダイアナ元皇太子妃に対して王室として声明を発表することを伝える。これらを行えば、国民の気持ちを変えることができるだろうと思い、首相は懸命に女王を説得していった。
そしてパリでダイアナ元皇太子妃が交通事故死してから5日経った9月5日、ついに女王はテレビを通してダイアナ元皇太子妃に対する哀悼の意を発表する。
既に王室を去った人間に対して女王はできる限りの敬意を込めて哀悼の言葉をゆっくりと紡いでいった。ダイアナを心から愛していたイギリス国民と共に彼女の冥福を懸命に祈っていく。その様子を自宅のテレビで見ていたブレア首相は感極まった様子で見ているのであった。

『クィーン』の登場人物・キャラクター

主人公

エリザベス2世(演:ヘレン・ミレン)

日本語吹替:倉野章子
イギリスの女王。新しく首相に就任したトニー・ブレアが憲法や伝統の大改革を主張してきたこと、彼の妻シェリーのぞんざいな態度に対して不快感を抱いている。
バルモラル城で休養中であった際にダイアナ元皇太子妃の急死を知る。しかし、彼女は既に王室を去った人間であり、そのことを報じるメディアの動きに対して、「一部の人間が扇動した結果である」と考えている。
母親を亡くした2人の孫をメディアや国民の狂騒から守るためにも休養先のバルモラル城に留まり、ロンドンへは戻らないことを決める。
イギリス国民がダイアナ元皇太子妃の急死を悼む中、頑なに沈黙を貫き通すが、その姿勢に国民の不満が高まっていき、ついには王室廃止の考えが出てきてしまう。
やがて世論の声を無視できなくなってきたことを受け、ダイアナの急死から5日後の9月5日、テレビ放送を通じて哀悼の意を伝えた。

エリザベス2世の家族

エディンバラ公フィリップ(演:ジェームズ・クロムウェル)

日本語吹替:田原アルノ
女王エリザベス2世の夫であり、チャールズ皇太子の父親。ダイアナ元皇太子妃を「王室の権威を汚した人物」と見なしており、ひどく嫌っている。また、彼女に関する報道にもうんざりしており、妻エリザベスに頻繁に干渉してくるブレア首相を不快に感じている。

チャールズ皇太子(演:アレックス・ジェニングス)

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