押井守が「風立ちぬ」を一刀両断!宮崎駿の矛盾を指摘!?
世界的アニメ監督宮崎駿の『風立ちぬ』を、同じくその実力を広く世に知られたアニメ監督の押井守が毒舌全開で批評した。押井曰く、この作品には「宮崎駿の“矛盾”が込められている」とのことで、容赦のない論評は賛否両論。ここでは、当時の反応を紹介する。
“矛盾” がこの映画のひとつのテーマになっている
出典: news.ameba.jp
「飛行機を作るのが夢なのに、それは戦争の道具であるという矛盾。仕事に本腰を入れたい、だから結婚するという矛盾。飛行機の設計士は信じられないくらいに忙しいはずで、家に帰る時間さえないくらい。にもかかわらず結婚するわけだから矛盾だよ。堀越二郎が抱えるそんな矛盾は、そのまま宮さん(宮崎駿)に当てはまる。宮さん自身、もう矛盾のカタマリ」
「あれが君のゼロかい?」
宮崎駿『風立ちぬ』
「ゼロ」とは、もちろん零式艦上戦闘機のことです。
年末には「永遠のゼロ」も公開されるし、
本物の零戦も里帰りしたことだし、
なんとなく今年は零戦の年のようです。
ジブリの悪口を掲載できる、
日本で唯一の雑誌『TV Bros.』の依頼で、
東宝本社の試写室に行ってきました。
そういえば前回の『アリエッティ』も
『ポニョ』も、同誌の依頼で見た記憶があります。
何を喋ったかは思い出せませんが。
試写室のポスターを見て一驚しました。
主役が人間です。
「ヒロインの少女を除いて
登場人物は全員豚」方式だと思い込んでいたのですが、
なんと登場人物全員が人間でした。
舞台は戦前の日本だし、実機も出てくるので、
さすがに登場人物が豚では世界観が破綻すると考えたのか、
遺族の心境を慮って堀越二郎を豚にするわけにはいかない、
と判断したのか、あるいはその両方なのか、
よく判りませんが、とにかく人間です。
それがどうした、と思われる方もいるでしょうが、
少年や豚や(中年男)を主役として描き続けてきた監督が、
青年を主人公に据えるということは、
これは実は大変な決断を要することであって、
僕もまた「戦う女」と
「オヤジ」のみを主役にしてきましたが、
「青年」を主役に据える度胸は未だにありません。
青年を主役に据えるということは、
つまり否応なくそこに自分の中のある部分――
理想化された自分を描くことに直結する可能性が高く、
きわめてキケンな香りがするからです。
豚や少年と違って、「人間の青年」には逃げ道がありません。
宮さん、大丈夫かしら――と他人事ながら心配しつつ、幕が開きました。
宮さん、ついに色気づきました。
おそらく日本のアニメ史上、もっともキスシーンの多い作品でしょう。
新婚初夜のドキドキまで描かれています。
カプロニもユンカースも、九試単戦も吹っ飛びます。
零戦の映画だと思って見に行くと、古典的な恋愛映画でビックリ。
いつものジブリ映画だと思って子供連れで出かけたお母さんたちは、子どもたちの目を塞ぐべきかどうかで、悩むことになるでしょう。
まあ、そのかわりにタップリ泣けるかもしれませんが。
いったい何があったのでしょう。
ド近眼で、ヘヴィスモーカーで、仕事から離れられない堀越二郎青年はもちろん、宮崎駿その人です。
婚約者の自宅の庭から忍び込んだり、駆け落ち同然で上司の家へ逃げ込んで結婚したりの大活躍です。
斯くありたかったであろう青春の日々を臆面もなく描いていて、見ているこちらが赤面しそうです。
だから「青年」はキケンなのです。
いつもの「少年」というカムフラージュも「豚の仮面」もないのですから。
もはや開き直ったとしか、考えられません。
誤解のないように言っておきますが、これは大変に結構なことです。
「子供たちのために作る」などという大義名分・建前を離れ、自らの欲望の赴くまま、リピドーに導かれて描くことは映画の基本です。
映画とはつまり、欲望の形式なのですから。
ただ問題なのは、その欲望の行き着く先が何処なのか――それだけです。
試写に同行した某VFXスーパーバイザーのS君(私の相棒)は、これはいつもの「老人の繰言」でなく
「老人の睦言」だと喝破しましたが、僕もその意見に全然同意いたします。
青年の姿を借りて演じられた、これは老人のエロスの世界です。
当然の如く「死の影」も見え隠れしています。
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