渡る世間は鬼ばかり(渡鬼)のネタバレ解説・考察まとめ

『渡る世間は鬼ばかり』とは、1990年10月から放送を開始したテレビドラマシリーズで略称は「渡鬼」。橋田寿賀子が脚本、石井ふく子がプロデュースを担当した。岡倉大吉・節子夫婦と、5人の娘たちそれぞれが持つ家族の暮らしを描いている。次女・五月の嫁ぎ先の中華料理店「幸楽」は全シリーズに登場しており、本作の代名詞となった。日本の放送界では異例の長寿番組であり、登場人物がシリーズを重ねるごとにリアルに年を取っている。その世代、時代ごとの問題に直面していく登場人物たちが共感を呼んだ。

第11回~第20回

夜遅く岡倉へやってきた五月と愛に、節子や大吉は困惑していた。五月が事情を話して愛を預かってもらうよう打診するが、大吉は小島家、幸楽がめちゃくちゃになるのを心配して渋る。しかし節子は「出来の悪い従妹に足を引っ張られる愛が可哀そうだ」と激怒し、愛を預かるだけではなく、塾の送り迎えまで自分がやると息巻くのだった。五月が家に帰ると、やはりキミは激怒しており、勇も五月のことを殴る。「明日にでも愛を連れ帰りなさい」というキミだが、五月はそれでも折れない。そして、翌日からはキミや久子、勇までもが五月と口を利かなくなってしまい、眞も、いつも一緒だった姉がいなくなってしまったことで元気をなくしてしまっていたのだった。そして、凍りきった幸楽に節子がやってくる。節子は、愛を預かることで挨拶にやってきたのだった。節子が啖呵を切ったことで久子の怒りは更に加熱するが、勇や健治は内心、節子の凛とした態度に感服する。また、キミは思いのほか冷静だったが、五月が長く愛と離れるのは無理だと分かっていたようだった。
遂に、大吉の調理師試験が翌日に迫っていた。心配した弥生、文子と望、眞が顔を出した上に、葉子や長子も早く帰宅し、預けられた愛も合わさってその晩は華やかな夕食になる。大吉は、節子や弥生の心配上機嫌でお酒を飲むのだった。そして翌日、ギリギリの時間に起きて朝食も食べずに出かけてしまった大吉だったが、岡倉家ではやっと大吉の受験勉強が終わると、家族が胸を撫でおろすのだった。帰ってきた大吉の顔は明るく、遂に合格まで漕ぎつけたかもしれないと思う節子や娘たちだったが、節子からしたら複雑な気持ちだった。大吉が資格を取ってしまったら、次は自分の店を持ちたいと言い出すのを分かっていたからだ。それに、節子にはまだ愛を受験させるという責任が残されていたのだ。
野田家では、遂に良が単身赴任を決める。弥生からも転勤を勧められ、武志やあかりからも「父親の責任で家にいるなら余計なお世話、いなくても別に困らないし家は変わらない」と言われていたのだ。一人で福島へ行くのが寂しいと感じる良だったが、それを分かっており、家事を少しもしたことがない良を心配していた弥生は、最初だけでも付いていきたいと思う。しかし、ハナの介護をする弥生には無理な話であり、鼻から諦めていた。ハナは、家族の足を自分が引っ張っていると思い、「せめてこの腕一本、満足に動かせたら」と悲しむのだった。そんな様子を見た武志は、自分が祖母の面倒や家事をするから2、3日いわきへ行ってこいと言い出す。弥生はそんな息子の言葉に甘え、土日を使って良と一緒にいわきへ行くことにした。いわきに着いた弥生夫婦が良の借家に行くと、そこは大きく立派な平屋だった。前任の工場長が住んでいた家だという。引っ越しの手伝いで工場の社員が2人来ており、どちらもハツラツとした好青年だったことで、弥生は心底安心するのだった。片づけを終えて夫婦で町の散策をすることになった良は、どこはかとなく侘しさを感じる。豊島海岸の展望台を眺めながら、都落ちしたという事実が重くのしかかっていたのだった。とはいえ弥生は、久しい夫婦水入らずで幸せに浸っていた。そして弥生がいわきに滞在できる最後の夜、弥生は良と2人きりの夕食を楽しもうとしていた。しかし、良は引っ越しを手伝った2人の若者を呼ぼうと言い出す。弥生は寂しさを感じながら翌日の早朝、酒に酔って寝ている良を横目に、東京へ帰ってしまうのだった。
幸楽では、相変わらず緊迫した生活が続いており、そんな中で五月は耐え抜いていた。家族の中でも唯一健治だけが五月の肩を持っていたが、そのせいで久子と健治の仲までこじれ始めていた。岡倉家でも節子がムキになっていたため、状況は悪くなる一方だった。しかし、一番心が沈んでいたのが眞と愛であったことに、まだ五月や幸楽の大人たちは気付いていなかった。愛は体調を崩して学校を早退し、こっそりと幸楽を覗きに来てしまうのだった。唯一、そんな愛を目撃した周平がキミや五月、久子に物申すが、久子やキミには「あんたには関係ない」と一蹴されてしまう。そんな時、突然キミが胸を押さえて倒れる。その場ではすぐに起き上がるキミだったが、医者が言うには胆嚢に石が詰まっているようだった。家族は手術を進めるが、キミは断固としてそれを拒否する。久子は、嫁の犯行が原因だと五月を責め、五月はどうしたら良いのか分からないのだった。時を同じくして、幸楽に愛の通う小学校から電話がかかる。そこで初めて、五月は愛の早退を知るのだった。五月は岡倉家へ電話して様子を聞き、大吉と長子は愛の精神面を心配するのだった。しかし節子は意地になっており、なんとしてでも岡倉で面倒を見ると言うのだった。そして、幸楽の家族が心配していたことが実際に起こってしまう。キミが再度傷みながら倒れてしまったのだ。それでも落ち着いたキミは病院に行かないと言い張るが、五月は長子に電話をかけ、長子の勤める病院にキミの診断を頼むのだった。勇に引っ張られるようにしながら病院へ行き、英作から手術を進められるキミだったが、それでも手術している暇なんてないと意固地になるのだった。そんな時、眞と、眞からキミの状況を聞かされた愛がキミの見舞いにやって来る。愛は「私立の女子中は受験しないからおばあちゃんと一緒に小島家で暮らしたい、おばあちゃんには早く元気になってもらいたいから手術してほしい」と言い出すのだった。キミは、愛の言葉で手術を決心する。そして小島家へ帰る愛だったが、五月はそれが愛の望みなら、と私立中学の受験を諦める。しかし、愛に熱を注いでいた節子はそれを悔しがり、断固として反対するのだった。しかし、愛本人が小島家へ帰ることを望んでいたというのもあり、節子は「孫なんてつまらない!」といじけながらも諦めることになる。一方、愛と眞は毎日のようにキミの見舞いに行っていた。久子や加奈は「やっぱり、親が意地張っても子供に力が無かったら無駄!」と上機嫌だったが、実の娘や娘孫も全く見舞いには来ず、愛と眞だけが献身的に見舞っていたことで、キミの考え方が変わり始めていた。手術当日、店を休んで見舞いに来た久子、邦子や勇夫婦の前でキミは、「愛をどうしても私立の女子中に行かせてあげたいんだよ」と言い出したのだ。久子は、そんなキミの態度にすっかり臍を曲げてしまう。そして術後も一切キミの元には顔を出さず、そのことで尚更キミの決意は固まるのだった。
そんな中、遂に文子が抱えていた問題の種が芽吹いてしまう。亨が事業を始めるにあたって、マンションを売ると言い出したのだ。マンションは、文子と亨が共働きでローンを返しており、文子は相談も無く勝手にマンション売却を決めてきた亨が許せなかった。そして、望を連れて岡倉家へ帰ってきてしまうのだった。愛がいなくなってしまったことで、どうしようもなく空しい気持ちを抱えていた節子は、文子が望を連れて帰ってきたことに内心喜びを感じていた。そしてすぐ、亨が岡倉家へやってきた。文子は、亨が折れるまで帰らないと言い張っていたが、亨は文子に会いに来たのではないと言い出す。「サラリーマンを辞め、自然食品事業のためにマンションを売る」「年子と一緒に同居をする」「それがどうしても理解できないのなら、離婚も致し方ない」という自分の考えを曲げるつもりはないようだった。亨が帰っていった後、節子は亨の行動が身勝手だと怒るが、大吉は亨のロマンを汲み取るのは妻である文子の責任だと言い、文子を追い出してしまう。文子は岡倉家を出てしまうが、亨の元へと帰る気はなく、とはいえ行ける場所も少なかった。まず、弥生の家へ行く。暫らく泊めてくれと頼む文子だったが、弥生は断固としてそれを許さなかった。ハナの手前、ましてや良が単身赴任で不在の時に、勝手なことはできないと考えていたのだ。仕方なくホテルで何泊かする文子だったが、何気ない主婦の生活がどうしようもなく懐かしく思い、とうとう覚悟を決めて亨の元へと帰る。そして、亨のロマンについていくことを決めるのだった。
その日、岡倉家の面々は朝からそわそわしていた。調理師試験の合格発表日だったのだ。大吉は今日が発表日であることは家族に伝えておらず、家族はあえて知らんぷりすることにしていた。しかし、大吉の努力を見てきた岡倉家の娘たちは、花などを用意し、大吉の帰りを待つ。しかし、待てど暮らせど大吉は帰ってこない。娘たちは、岡倉で暮らす葉子と長子を残して帰ってしまう。その時、大吉はおたふくにいた。結果は、不合格だった。家族が大吉の帰りを待っているなど露ほども知らない大吉は、常連の客たちとの慰め会でベロベロに酔うのだった。帰ってきた大吉に、葉子と長子は姉妹全員のプレゼントを渡す。大吉が酔って上機嫌だったことで、合格したと信じ込んでいたのだ。しかし、大吉は娘たちの気持ちに感激する。相変わらず複雑な心境の節子だったが、それでもこっそりと合格祝いを用意していた。節子のプレゼントである板前用の高下駄を履き、これは半年後にある試験を再度受け、自分のお店を出した時に使うと息巻く大吉であった。
そして、遂に文子が年子の家へ引っ越す時がやってきた。前回の同居とは異なり、専業主婦としてやってきた文子は気合十分だった。年子も前回の同居で学習していた。亨一家と自分は、一緒に暮らしていても干渉はせず、生活は別にしようと言い出したのだ。年子は趣味で人形作りに没頭しており、亨の家庭に干渉している暇もなかったのだ。節子は同居を最後まで反対していたが、文子は、今の年子とならうまくやっていけると確信し、前途洋々の気分だったのだ。
季節は夏休み、幸楽ではキミの全快祝いが開かれた。しかし、キミが五月や愛を可愛がることで面白くない久子は、子供たちとレストランへ行ってしまい、全快祝いへは出席しないのだった。しかし、勇夫婦や幸楽の従業員、キミの手術を担当した英作の同期である佐久祐二、それに英作と長子も参加し、賑やかな夜になったのだった。
キミの全快祝いの帰り、長子は英作から海に誘われた。英作との時間に心地よさを感じていた長子は、英作とのデートへ行くことにしたのだった。しかし、デート当日、2人にはそれぞれに突然の問題が降りかかってしまう。英作の家には、母親であり大阪で本間医院を切り盛りしている本間常子がやってきていた。常子は、産婦人科医院である本間医院を英作に継がせたいと思っていた。しかし、脳外科医である英作には産婦人科医になるつもりはなく、常子は渋々、英作の妹で医学生の由紀に継がせようと決めていたのだ。その代わり、英作には努めている大学病院の院長の娘と結婚をさせ、出世コースに乗せようとしていた。長子とのデート当日、常子は英作と院長の娘との顔合わせをセッティングしていたのだった。必死に抵抗する英作だったが、早くに夫を亡くし、女手一つ、2人の子供を医大にあげた常子は強く、家を出られないでいる英作だった。一方、約束の時間に間に合うように家を出る長子だったが、家の前で寝ている遊を見つける。遊は孝男一家と福島へ行っているはずで、長子や節子、大吉は困惑する。遊は、どうやら孝男一家には内緒で東京まで来てしまったらしい。長子はすぐに、デートには行けないと英作に電話をかけようとするが、英作はすでに顔合わせに引きずり出されており、結局その日は会話することも叶わない英作と長子なのであった。福島には電話しないでほしいと頼む遊だったが、大人の立場としては連絡しないわけにもいかず、翌日すぐに、孝男が迎えに岡倉へやってきた。そこで、遊が養護施設へ入れられることを知った長子は、孝男に激怒する。昌之の会社が借金まみれだったことで、限定相続をしたうえでも遊は丸裸にされており、孝男にも面倒が見れなくなったのだ。それでも気丈に振舞う遊を見て、長子は夏休みの間だけでも岡倉家で遊を預かりたいと言うが、節子に止められ、遊は孝男と福島へ帰ってしまう。しかし意地でも遊を施設に入れたくない長子は、遊と2人で暮らす為にアパートを借りることを決意する。しかしそんなお金は無く、弥生や文子、五月に泣きつくのだった。しかし弥生や文子は、節子や大吉に無断でそんなことはできないと断り、心配をして岡倉家へ集まる。長子は五月と一緒に帰り、4人の姉妹と節子から叱られる。しかし、大吉だけは長子と遊の気持ちを理解し、夏休みだけ遊を預かり、その間に冷静に考えることを許すのだった。そして、大吉に連れられて遊が岡倉家へやってきた。遊は、朝から掃除機かけや料理など、健気に働く子だった。長子や節子、大吉は、何の苦労も知らなかった昔の遊との違いに唖然とし、福島でこきつかわれていた遊に心を痛めるのだった。
幸楽では、久子と健治が大喧嘩していた。キミの全快祝いに出席しなかった久子を健治が殴ったのが事の始まりだった。挙句の果てに、健治が五月を庇うのは、五月とデキているからだと言い出す久子に、遂に健治の我慢は爆発する。そして、荷造りを始めてしまうのだった。キミは、久子と健治が何とか上手くいくようにと、久子家族をグアムへ行かせてやることにするが、それが原因で今度は眞がいじけてしまうのだった。五月は、愛が私立中学の受験をさせてもらっているのだから、うちは海外旅行なんて行けないと眞を嗜めるが、眞からしたら、どうしても納得がいかないのだった。そして夏休みの半ば、久子と加奈、登はグアムへ発ってしまう。最後までいじけていた眞だったが、思わぬ楽しみを見つける。幸楽の手伝いだ。加奈と登はグアム、愛は受験勉強で、親たちはお店があり、常に眞はのけ者だった。不憫に思ったキミが、子供が出入り禁止のお店で手伝うことを許したのだ。昔から親や祖母の仕事を見てきた眞は、勇や健治に言わせれば「久子より役に立つ」のだった。
そして、久子たちが帰ってきた。そして、幸楽のひと時の平穏は幕を閉じてしまう。登は、幸楽を手伝う眞を羨ましがり始める。久子は登を庇い始めてしまい、勇は久子が復帰するということで、眞も登もどちらも手伝わせないと決めるのだった。しかしこれは、眞にとって相当ショックなことであり、眞はその日帰ってこないのだった。心配した五月は岡倉家へ電話をかけるが、節子は眞のことを知らないと言われ、小島家の一同は動揺していた。愛は、眞から唯一の楽しみを取り上げた久子を責め、眞のことを庇わない勇や五月、キミにも泣いて啖呵を切る。そんな愛にキミは「生意気だ!」と怒るが、五月は愛を叱れずにいた。しかし、実は眞はやはり岡倉家へ来ていた。眞の話を聞いて、それは理不尽だと激高した節子は、五月からの電話にも知らないふりをしていたのだ。それでは五月が可哀そうだと、大吉が電話をかけたことで勇や五月はひとまず安心するが、キミの怒りの矛先は岡倉家へ向くのだった。そして翌日、節子は眞を送りに幸楽へやってきた。節子は、勇に対して「今回のことをあなたがどう思っているかで、眞だけではなく五月の進退も考えます」と言い出した。それだけ節子は、眞のことで憤慨していたのだ。キミと久子は節子には関係ない、と怒るが、勇や健治、周平は眞の肩を持ち、眞は残りの夏休み期間、店の手伝いを続けられることになったのだ。
遊が来た岡倉家は、日に日に明るくなっていた。大吉は毎晩のようにお土産を買って帰り、最初は反対していた節子も、いつも一緒に料理をしたりして過ごす遊に情が移っていたのだ。しかし、夏休みも終わりが近づき、遊は福島へ帰ることになってしまう。節子は、長子に手をひかれた遊をなんとか気丈に送り出すが、遊の布団を干そうと部屋へ行くと、布団は既に干してあり、遂に節子は泣き崩れてしまう。また。机の上には遊から、節子宛の手紙が置いてあり、そこには夏休み期間中の、節子への感謝がつづられていた。節子は、手紙を読むなり家を飛び出す。そして、福島行の新幹線が走るプラットフォームで長子と遊を見つけると、遊を抱きしめるのだった。その日、葉子が家へ帰るとそこにはまだ遊がいた。節子は、遊を引き取って岡倉家の子として育てることにしたのだ。葉子は反対するが、長子は勿論、節子は自分の生きがいができたと浮足立っていた。大吉も、息を切らして帰って来るなり、「寿司を持って帰ってきたから遊ちゃんを起こせ!」と言い出す始末だった。そんな大吉を見ていると、葉子もこれ以上の文句は言う気にならないのだった。

第21回~第30回

そして、3年ぶりにハワイの珠子が来日してきた。5姉妹が集まって出迎えるのが恒例だったが、今回はそうもいかなかった。幸楽では、岡倉へ行くために眞が店の手伝いを登に譲ろうとするが、喜ぶ登に反して久子とキミは激怒する。あれだけ大騒ぎしたなら責任を持って手伝わせろと言われ、そうなると五月一人で出るわけにはいかなかった。弥生は、家を出ようとしたタイミングで良が一時帰省してきてしまう。単身赴任から一時休暇で帰ってきたのにでかけるという弥生に、良はいじけてしまい、そんな良を置いてでかけることは弥生にはできなかった。文子も、年子との同居を始めたばかりで好き勝手はできないといい、結局嫁にいった3人の娘は珠子を出迎えることができなかったのだった。せっかく珠子が来たのだからとそれぞれの娘に連絡しようとする大吉だったが、珠子はそれを制止する。今回の帰国は大吉と葉子に用事があっただけだからと言う珠子だったが、そんな言葉に節子は、嫌な予感がしていた。節子が珠子に嫌な予感を感じた時は、必ずと言ってよいほど当たるのだ。それは、今回も例外ではなかった。珠子は、もう一度葉子をハワイに連れて行きたいと言い出したのだ。葉子がハワイの大学で通っていた頃の同級生を、結婚相手として勧めたいのだ。そして葉子も、どうやら乗り気なようだった。節子は勿論猛反対するが、大吉は快く許してしまう。しかし節子にとっては、娘の好き勝手はそれなりに慣れていた。実は節子の嫌な予感は、大吉に対する用事の方だったのだ。珠子は、大吉の夢を応援したいという気持ちを伝えるが、節子は無責任なことを言わないでくれと、恐らく初めて、珠子に反抗をする。しかし珠子は、翌日の晩に葉子を連れておたふくへ行き、大吉に「自分が小料理屋用の店を買ってやる」と言い出す。そしてすぐに珠子は、目星をつけていた店に手付金を打ってしまう。手付を打ってからそのことを聞かされた節子は、大吉に対して怒らなかった。そして翌日、珠子はハワイへ帰っていき、それから節子はお洒落をして出かけて行った。遊には「少し出かけてくる」と言っていたが、その晩、節子は帰ってこなかった。翌日、遊が東京の小学校へ登校する初日で、本来は節子が連れて行く手筈になっていたが、その日も節子が帰ってくることはなく、葉子や長子はようやく「節子が家出した」ことに気づくのだった。とにかく遊の初登校には大吉が付いていくことになったが、大吉には節子がいなくなった理由が分からず、家出ではないと言い張っていた。とはいえ葉子や長子は事の重大さを感じ、他の姉妹たちに連絡をする。節子がそれぞれの家へ行っているのではないかと考えたのだ。それぞれが無理をして、日中、岡倉家へ弥生、文子、五月が集まった。何か節子が家出をする心当たりがないのかと大吉を問い詰めるが、大吉には本当に心当たりがなかったのだった。しかし、珠子に店を買ってもらったという話を聞いた娘たちは、それを節子に黙って決めたことを知り、それが原因だという結論に至った。娘たちは、3人ともが女として節子の肩を持ち、弥生に至っては「母さんが別れたかったら別れてもいいじゃない」とまで言い出す始末だった。そして娘たちは、大吉に呆れ切って帰ってしまうのだった。
その頃、節子は高級温泉旅館の一室にいた。ストレス発散で羽を拡げたかったのだ。しかし、1人では観光する気にもならず、やるせなさを感じていた。温泉に入るか、仲居に愚痴を吐くかで1日を過ごしていたのだった。そんな中、毎晩のように下の階のカラオケスナックの騒音で眠れなかった節子は、遂に文句を言いに行った。そこで、社員旅行の若者集団に声を掛けられ、一緒にお酒を飲むことになった。子供世代の青年たちと歌を歌ってお酒を飲むのは新鮮で、思いのほか楽しい時間を過ごす節子だった。その頃、大吉は寝付くことができず、1人不安な酒を煽っていた。そんな時、岡倉家へ1本の電話が入る。それは、節子が病院に運ばれたという知らせだった。大吉はすぐにタクシーで病院に向かうが、節子の症状は急性アルコール中毒だった。すっかり元気になった節子と大吉は2人、旅館の部屋で本音を話す。大吉は、珠子に手付以外のお金は払わないように頼み、店はできるようになってから考えると言った。そしてその晩、大吉と節子は旅館で1泊をし、夫婦の時間を過ごすのだった。
そして、葉子がハワイに行く日が近づいてきた。節子は、葉子の引っ越し準備で忙しない日々を過ごしていた。そして葉子は、出発前の最後の挨拶に姉妹の家を周る。姉妹たちは、それぞれ葉子のハワイ行きに思うところがあるようだった。五月は、自分が親不孝をしてきたことで、葉子には節子の傍にいてほしいと思っていた。洋次と別れて葉子が帰国した時一番喜んでいたのは、節子だと言うことを分かっていたのだ。弥生は、葉子がやりたいことをやるのが親孝行だと、葉子のことを応援していた。文子は、自分が専業主婦になった喜びと空しさを両方感じつつ、それでも葉子には自立した女性を貫いてほしいと言った。葉子は、それらのことを考え、悩み、それでも全てを抱えてハワイへ行くことに決めたのだった。そして、日本での最後の仕事、レストランの照明を全力でこなした。しかし、その仕事が終わった最終日、葉子は思いがけない再会を果たす。照明の最終チェックをしにきたレストランのオーナーの横には、過去の恋人、山口太郎がいたのだ。オーナーと太郎は高校の同級生で、レストランの一部出資もしている仲だった。その晩、昔よく2人で来たレストランで待ち合わせをして話す太郎と葉子だったが、そこで、それぞれ離婚していたことを知る。そして、葉子の中で、太郎への想いが再燃しようとしていたのだった。そして、葉子の歓送会がおたふくで行われた。節子や大吉、長子、勇夫婦が首を長くして葉子を待つが、顔を出した葉子の口から出てきたのは「ハワイに行くのを遅らせる」という言葉だった。節子は呆れるやら安堵するやらであったが、葉子の言葉の裏に太郎の存在があることを、知る由もなかったのだった。
遊が岡倉の家族になった矢先、葉子のハワイ行きも不意になったことで、節子は至極上機嫌だった。しかしそんな中、葉子や長子にはそれぞれ、人生の転機が近づいていた。葉子は、太郎に紹介された照明の仕事を請け負っていた。勿論そんなことを知れば、節子は猛反対する。それを分かっていた葉子は、太郎と会っていることを伝えていなかった。しかし大吉だけは、葉子の変化に違和感を感じていたのだった。長子は、英作から幸楽に呼び出されていた。英作の誕生日会を幸楽で行いたいというのだ。指定された日時に幸楽へ行く長子だったが、そこへやってきた英作の傍らには、母親の常子、妹の由紀がいた。更には、英作の婚約者である院長の娘、河野典子まで来ると言うのだ。そこで、常子は典子の事を「英作の婚約者」と紹介する。長子は、英作に芽生え始めていた感情を打ち消すことに決めたのだった。
英作の誕生日会が終わり、岡倉家への夜道、長子は英作の同期である祐二と歩いていた。佑二は、長子に対して「婚約者ができた英作なんて諦めろ」と言い出す。佑二もまた、長子に惹かれていたのだ。そして深夜、岡倉へ英作から電話がかかってくる。英作は、高級レストランではなく幸楽で誕生日会を開くことで典子に愛想を尽かしてほしかった、長子と母親を顔合わせさせるのも目的だった、そして行く行くは長子と結婚したいということを伝える。長子は勿論の事、電話後の長子の異変を見た節子や大吉もひどく動揺するのだった。
そして娘たちがそれぞれの人生を歩む中、岡倉家に新たな事件が起きる。事の発端は、長子の勤める病院だった。病院の中庭で長子が昼食を取っていると、長子の方を見ながらスケッチをする青年を見つける。長子が声をかけると、どうやら青年は長子の似顔絵を描いているようだった。英作や看護師によれば、その青年は頭を打って手術をした患者で、記憶喪失なのだという。お金も無く、自分の名前も思いだせないその青年は、怪我自体は大したことが無いらしく、退院の日が近づいていた。しかし、現状その青年には行く場所が無く、そんな青年を英作は酷く心配していたのだった。そこで、長子は一旦その青年を岡倉で預かることにする。長子は、青年の絵に一目惚れしていたのだ。その青年は、8階の8号室に入院していたことから「八号さん」と呼ばれていた。勿論、大の男性が滞在することに節子や長子は気味悪がり猛反対するが、大吉は息子が出来たようだと喜ぶ。八号はなぜかお酒に詳しく、大吉の飲み相手にもなれたのだ。そして八号の岡倉家での生活が始まったが、早々に八号は、外で働きたいと言い出す。大吉は、一日家にいるよりストレスが発散できて良いと言い、幸楽へ八号を雇ってもらうように頼むのだった。人手が足りなかった幸楽では、キミが八号を快く受け入れる。八号は器用で、幸楽でも役に立った。それに、子供あしらいも上手かったことから、眞や愛にも懐かれていた。真摯な態度で幸楽の従業員、そして岡倉家の家族にも受け入れられ始めていたのだ。しかし唯一、五月と葉子だけは八号への疑念をぬぐい切れずにいた。八号は大吉の遠い親類と名乗って幸楽で勤めるよう言われていたが、キミや久子に涼しい顔で嘘をつける八号に、五月は信用を置けずにいたのだ。ある晩、もはや恒例の様に大吉と八号は晩酌を始める。その日は珍しく、節子や葉子、長子も席を囲んで八号の身の振り方についての話し合いが始まるのだった。節子や大吉、長子は、八号の描く絵を高く評価しており、もしかすると画家なのではないかと思っていた。しかし、そんな予想を葉子が一蹴する。「温かみはあるけど、個性がない」「この絵は素人に毛が生えたようなものだ」と言うのだ。八号は、そんな葉子の言葉にショックを受けてしまうのだった。
そんなある日、八号が公園でスケッチしていると、そこへ愛が通りかかる。愛は、八号が赤の他人だからこそ、家族にも言えない悩みを打ち明けた。愛の中で、私立の女子中に受験をすることが大きな負荷になっていたのだ。小学校では仲の良かった友達が離れていき、母の五月の期待もまた、プレッシャーになっていた。わざとテストに失敗しようかと考えていることを八号に明かす愛だったが、八号はそれを強く諫める。わざと失敗することが母親に対する一番の裏切りだということを、分かっていたのだ。
そして、岡倉へ中年の男がやってくる。その男は大木忠信と名乗り、八号の父親だというのだ。忠信は会社の社長をしており、八号、本名大木忠則はその一人息子だったのだ。忠則は強盗に襲われて怪我をし、行方不明になっていた。父親来訪の知らせに駆け付けた大吉から、忠則が毎夜晩酌をしていたことを聞かされた忠信は、心底驚く。忠信は酒を飲まない男で、息子が酒を飲めることも知らなかったのだ。そんな時、忠則が帰ってくる。父親の顔を見るなり逃げようとする忠則を、大吉は制止する。大吉は、忠則の記憶喪失が嘘であることを何とはなしに見抜いていたのだ。そこで、忠則は初めて心の内をぽつりぽつりと語り始めた。忠則は、画家になるのが夢だった。しかし、自分に才能が無いことは分かっており、それでも社長の息子と言うことで悪く言われることがない環境に、嫌気が指していたのだ。そして忠則は、病院で目覚めた時に新しい人生を歩もうと思い、記憶喪失だと偽ったのだった。忠則は大吉や節子に頭を付けて謝罪するが、岡倉に来たことで家族の温かさを知り、葉子のおかげで夢をすっぱりと断ち切れたことの感謝も伝えた。そして、父親の会社を継ぐ決心をして岡倉を後にするのだった。そして後日、大吉の勤めるおたふくに忠信がやってきた。息子の一見を経て、忠信は酒を嗜むようになっていた。しかし、一転会社をやっていくことに気力を沸かしていた息子からは「飲んでいる場合ではないだろう!」とどやされ、面白くないと溢していた。そして、息子と違って娘は優しい、娘がいる大吉が羨ましいと泣き出してしまうのだった。複雑な心境になりながら家へ帰る大吉だったが、あれだけ羨ましがられていた娘が問題を持ち込んでいた。「亨と別れる!」と大号泣する文子が待っていたのだ。大吉は「娘のどこが良いのだ」とため息をつくのだった。
文子は、今度という今度は亨と別れる決心をしていたようだ。というのも、亨は文子に無断で会社を辞めてしまっていた。「商売を始めるなら当たり前だろう」と呆れる大吉だったが、亨が自然食品の事業をするにあたって文子が出した条件は「会社は絶対に辞めないこと」だったのだ。文子は相談もなしに我儘勝手に事を進めてきた亨につくづく愛想が尽きたと言う。大吉は「事前に言ったらお前はそうやって止めるだろう、男は小心だからそういうのがたまらないんだよ」と叱咤し、文子はうちに置けないと言うが、節子は「ズルいだけじゃないですか、今度という今度は私が文子を守ってやります!」と文子の肩を持つのだった。その頃、亨は年子に文子の身勝手を溢していた。そして食事の世話などを年子に頼むが、年子も以前とは違っていた。人形作りという趣味に忙しい年子は「せっかく子離れできたんだもん、大事にしなきゃ」「不自由するのが嫌だったら文子さんを連れ戻したら良い」と、相手にもしないのだった。3日後に自然食品の店のオープンを控える亨にとって、これは大きな誤算なのだった。そんな亨とは裏腹、文子は岡倉家で怠惰な生活を過ごしていた。姑との同居による緊張が一気に緩んでいたのだ。しかし、離婚を決意していた文子には早く職場を見つけなければならないという焦りもあった。ダメ元で幸楽で働けないか頼みに行くが、五月にはけんもほろろに断られてしまう。現実の厳しさを知った文子は、その足で弥生の所へ行く。弥生に職場が見つからない不安や、遊と望を比べられることでの岡倉家の居づらさなどを溢す文子だったが、弥生は「離婚なんて生活力のある女しかできないのよ」と相手にもしない。しかし、文子は暫らく弥生の家に置いてもらおうとたくらんでおり、考えもあった。弥生に、いわきの良の所へ行ってこいと言い出したのだ。その間、ハナの面倒や介護をすると提案し、弥生はこれを良い機会と承諾したのだった。そして、弥生は早々に気持ちを高ぶらせながら出て行った。ハナも、そんな弥生を見て心から喜んでいたのだった。しかし、弥生の期待は裏切られることになる。サプライズで良の借家へ行くと、良は工場の若者と酒盛りをしていた。勿論そんなことは弥生も想定内だったが、弥生は良の変化を見る。テーブルにお酒と一緒に並べられた料理の数々が、良によって作られたものだと知るのだ。東京にいたころの良からはあり得ないようなことだった。更に翌日、弥生が目を覚ますと既に良は起きており、ランニングへ行っていた。弥生は、良がめちゃくちゃな生活をしているとばかり思っており、自分がすることなど何もないことを知ると、空しいような、切ないような気持ちになるのだった。一方野田家、文子はハナの優しさに心を癒されていた。普段からの弥生への感謝を笑顔で語るハナを見て、同じ姑でどうしてこうも違うものかと思うのだ。そんな中、突然弥生が帰ってきてしまう。長逗留するとばかり思っていただけに、たった1日で帰ってきてしまう弥生に「もう暫らく泊めてほしい」と頼む文子だったが、弥生も理由なく文子を置くわけにはいかず、文子は致し方なく岡倉へ戻るしかなかったのだった。
幸楽では、新たな影を落し始めていた。眞が愛の同級生である6年生と大喧嘩したのだ。傷だらけで帰ってきた眞を心配する五月だったが、眞はサッカーをしていて転んだと言う。しかし実は、愛が受験勉強をしていることで男の子からいじめを受けており、それを眞が止めたのだった。それは加奈や登も目撃しており、愛のいじめを知った健治は、誰よりも愛や五月のことを心配する。しかしそれがきっかけで、久子と健治の夫婦仲にも亀裂が入ってしまうのだ。ある時、健治は幸楽の営業後、こっそりと五月をバーへと呼び出す。愛が学校でいじめを受けていることを、母親にだけは伝えておかなければならないと思ったのだ。その晩、普段外に出ない健治が深夜になっても帰らないことで、久子は大騒ぎする。そして五月もいないことを知り、健治と五月の仲を疑い始めてしまう。そして「現場を押さえてやる!」と外へ健治を探しに行き、バーから帰る途中の健治と五月を見つけてしまうのだった。そして、家へ帰った健治と五月は家族から問い詰められる。愛のことで話していたと謝る五月だったが、そこに愛が起きてきて「受験を辞める」と言い出す。なんとか受験させたい五月と泥酔して愛の肩を持つ勇は盛大に喧嘩をするが、勇の肩を持つ久子やキミに対しても勇は暴言を吐いてしまう。挙句の果てにキミに対して「黙ってろよクソババア!」「俺と五月が黙ってるからそうやって、てめえは大きな顔で踏ん反り替えってられるんだろ!」と言い出したことでキミはショックを受けてしまう。勇と五月の夫婦喧嘩は無かったことになるが、翌日、すっかり落ち込んでしまったキミと何も覚えていない勇は、どちらも働く元気は残っていないようで、臨時休業をすることになってしまうのだった。五月は遂に愛の受験を諦め、臨時休業を使ってその旨を岡倉へ伝えに行く。節子はがっかりするが、五月の中ではすっきりしているようだった。
文子は、未だ仕事探しに明け暮れていた。そんな文子の様子を見た五月は、やはり幸楽で使ってもらうようにキミに頼もうかとも考えるが、それだけは絶対に止めてほしいと節子に制止される。そんな中、文子はとにかく亨に離婚届を渡そうと、自然食品の店へと赴く。そこで文子が目にしたのは、自然食品に興味を示す客と、そんな客に何の説明もできない新人のバイトだった。営業で外回りをしていた亨が店へ戻ると、そこには店を手伝って客あしらいをする文子の姿があった。文子は「このお店には私がいないと駄目だ」と感じ、離婚は暫らくお預けで店を手伝うことにした。節子は猛反対をしており、文子は望を連れて一旦高橋へ帰ることにするのだった。
野田家では、くすぶっていた問題が遂に膨らんで看過できないものになってしまっていた。突然東京へと帰ってきた良が「あかりがテレビにでていた」と言うのだ。その番組は深夜にやっていたもので、若い女性が水着で出るものだったと言う。更に、あかりの通う短大へ電話をすると、あかりは暫らく出席していないというのだ。その日、夜分遅くに帰ってきたあかりは、自分が女優志望でプロダクションに入ったことを話す。「私はお母さんみたいなつまらない女にはなりたくないの!」というあかりを殴る良だったが、翌日、あかりは荷物をまとめて家を出てしまう。詳しいことまでは言わなかったが、どうやらプロダクションが用意した部屋に住むことにしたようだ。弥生に泣きつかれて呼び出された節子と大吉も心配するが、良は「もう娘とは思わん、帰ってきても家にはいれるな!」と怒鳴り、親子の関係は完全に決裂してしまうのだった。ハナは、落ち込んだ弥生をなんとかしたいと思うが、自分がいては外へ働きに出ることもできないから、自分が大阪へ帰ると言い出す。しかし、ハナだけが救いだった弥生は、「私を1人にしないでください」と泣きながら懇願するのだった。
幸楽では、またもや屋台骨を揺るがす問題が忍び寄っていた。健治が、小島家では同じ他人の五月を庇っていることで久子は面白くない日常を過ごしていた。そんな中、幸楽の電話が鳴る。どうやら健治に対する連絡の様で、電話に出た久子は保険の勧誘だと言うが、勇は久子の不自然さを怪訝に思っていた。そして、結果的にその嫌な予感は当たってしまうのだった。健治に対する連絡は、スキー場の中華レストランから健治を引き抜きたいという話だった。今の3倍給料を出すと言われており、久子は喜んで受けようと言い出した。給料に惹かれただけではなく、久子はこれ以上健治と五月が一緒に働くことに嫌気が指していたのだ。健治は、勇への憧れ、幸楽への恩義があることから他所の店には行きたくないと言うが、久子の決意は固いようだった。そして、久子から健治を辞めさせたいと切り出されたキミは「好きにしたら良いじゃないか」と言いながらも、家族から裏切られたような気持ちになるのだった。そして、健治には単身赴任させると言う久子に、うちには置けないと言うのだった。しかし翌日、店に出てきた健治の口からは誰もが想像もしていない言葉が出てきた。「久子と別れることになっても、私を幸楽で雇ってくれませんか?」と言うのだ。健治は、幸楽で憧れた勇と働きながら、安価で美味しい中華料理を作りたかったのだった。久子はそんな健治にふてくされるが、キミは健治の意思を汲み取り「久子と健治さんが別れても健治さんにはうちにいてもらう」と宣言する。「五月に焼きもちを焼く前に自分を見直せ」とキミに突き放され、久子は一転、健治に優しくし始めるのだった。しかし、今度は邦子の人生に転機が訪れる。邦子の旦那である浩介の兄が無くなったのだ。浩介の兄は、千葉で実家の材木屋を継いでおり、邦子は浩介の兄が亡くなった以上、少しの期間材木屋を手伝わなければならないかもしれないと不安に感じていた。この後、そんな不安がまだまだ生易しいものだったと知ることになる、邦子なのであった。

第31回~第40回

岡倉家に、緊迫したことによる静寂が訪れていた。賑やかな岡倉家では珍しい状況だったが、過去にも1度だけこのような空気になったことがある。2回目の、調理師試験の日にちが近づいてきたのだ。ただでさえ娘の心配が後を絶たない節子は、ため息をつくのだった。節子の心配の中でも一番は弥生のことだった。弥生はあかりの一件で憔悴しきっており、長子は英作の伝手で、弥生が働ける看護師の席を用意してきた。外で働くことが今の弥生にとって一番良いことと考えたのだ。しかし、弥生はこの状況で、他人へ慈愛の精神を向けることに自信を無くしており、けんもほろろに断ってしまう。しかし弥生自身、立ち直ろうとは思っていた。そして、友人の紹介でフランス料理レストランのマネージャーの仕事を見つけてきた。節子や息子の武志は、向いていないと反対する。しかし、弥生は自分の存在意義を見失っていたため、自分らしくない仕事をしたいと考えていたのだ。頑固な嫌いがある弥生は、早々に仕事を始めてしまったのだった。しかしそんな中、福島から良が一時帰省してきてしまう。何も知らなかった良にとって、弥生が外で働いているのは寝耳に水であった。ハナは弥生を庇うが、良は「ホテルに泊まる!」と家を出ていってしまうのだった。
そんな中、幸楽に邦子と浩介がやってきた。邦子は大号泣しており、千葉で何かあったのは火を見るより明らかであった。浩介の母は、後継ぎの長男が亡くなったことで、浩介夫婦に材木屋を継ぐよう頭を下げた。長男の嫁はまだ若く、子供を連れて家を出てしまったというのだ。千葉の材木屋は経営が難航しており、いくら姑から「かまどの灰までお前たちの物になる」と言われたところで、邦子は猛反対をするのだった。キミはそんな邦子を庇い浩介を非難するが、勇が黙っていなかった。勇は「五月も一緒だ」「そんな嫁の我儘を母ちゃんが許すはずがない」と言い出し、キミも口をつぐんでしまう。更には久子も、邦子が千葉へ行くこととに賛成しだす。邦子が幸楽の隣で経営していたクニ化粧品を引き継ごうとしていたのだった。
そして、遂に大吉の調理師試験前日になった。幸楽の厨房では、勇が何やらこそこそしている。大吉のテスト日を覚えていた勇は、大吉の為にシュウマイや餃子をこしらえていたのだ。勇は愛と眞を呼び出すと、キミに内緒で岡倉へ行ってくるように言う。料理を持って愛たちが岡倉け訪れると、大吉は大喜びだった。娘ではなく婿が試験日を覚えていてくれたことが、何よりも嬉しかったのだ。また、文子はすっぽん、弥生は高級ヒレ肉を持って、忙しい中岡倉へやってきており、娘たちの気持ちに大吉の心は温まっていた。大吉は、葉子と長子が帰ってきたらお酒を飲もうと言い出す。しかし、前回のテスト前日は深酒をしてしまっており、娘たちは対策済みだった。大吉が寝るまで帰らないことに決めていたのだ。葉子は、時間を潰すために太郎と食事をしていた。しかし帰り際、レストランの出入り口で太郎の母親、政子と出くわしてしまう。焦って帰る葉子だったが、このことが後に、大吉や節子を巻き込む大問題へと発展していくのだった。しかしその日、大吉は娘の気遣いあって早く寝ることができ、翌日は二日酔いも無くテストへ行くのだった。大吉のテストが終わってその晩、岡倉に英作がやってくる。長子から大吉が試験を受けることを聞き及んでいた英作は、大吉のテスト終了祝いをしにきたのだ。大吉は大喜びし、夜が更けるまで酒を飲みかわすのだった。しかし英作は脳外科医であり、翌日の仕事を心配する長子はしびれを切らしてとうとう追い返してしまうのだった。
幸楽では、早々に邦子が帰ってきてしまう。材木屋や家事、従業員の食事も命じられた上に、姑からは「ドジ」「グズ」と罵られ、耐えられなくなってしまったのだ。しかし勇は「五月と一緒じゃないか」と高笑いをし、キミは何も言えずに邦子を追い返すしかなかったのだった。
そして、英作と飲んだことで大吉が二日酔いに苦しむ中、岡倉へ珍客が訪れる。太郎の母、山口政子だった。葉子は「会いたくない」と早々に引っ込んでしまい、大吉も二日酔いで使い物にならなかったため、節子は1人で政子の相手をすることになる。政子は、これからはまた仲良くしてほしいという旨のことを伝え、節子には何が何だか分からないのだった。しかし、政子から太郎が離婚した、葉子と太郎が一緒にいるのを目撃したということを聞かされ、節子は嫌な予感が生まれ、頭を抱えるのだった。政子が帰り、話を聞かされた大吉と節子は葉子を問いただすが、葉子は「ハワイに行かなかったのは太郎とは関係ない」「仕事に夢中だから結婚願望はない」と言い張る。実際葉子は、政子に見つかったことで太郎からプロポーズされるが、それをけんもほろろに断るのだった。
文子は、自然食品の店「あさば」の運営に熱を注いでいた。しかしその反面、亨は不景気にしり込みし、保守的になっていた。文子は、年子に300万の融資を頼む。一流新聞に公告を出して、あさばの㏚をしたかったのだ。亨には内緒であり、そもそもダメ元での願いだった。しかし、年子は快く300万の融資を許可する。年子は「お店のことは亨より文子さんの方がよく考えてるし、経営の才能もある」「私は文子さんの味方よ」と言うのだ。更に年子は「文子さんはお店を頑張って、望には私が、寂しくないように、それでも甘やかさないようにうまく付き合っていきますから」と文子にエールを送るのだった。
一方弥生は、レストランでいつものように働いていた。すると突然、良が来店する。良は一切口を利かないが、食事中、活き活きと働く弥生を見る目はどこか寂しそうだった。仕事が終わった弥生が家へ帰ると、良は既に布団に潜っていた。しかし、起きていることが分かっていた弥生は、良の背中に本音を語りだす。母親として自信を無くし、単身赴任の良には妻として何もしてあげられない、自分をもっと大事にしたいと言う弥生に、良は「立派なものだ」という。ようやく夫に理解してもらえたと思う弥生だったが、夫婦の考え方の違いは大きく、この食い違いは誰にも止められない。良は「君は1人の女性として立派に生きていける、いつ出て行っても構わない」と離婚を切り出すのだった。
その晩、長子は英作とお酒を飲んでいた。長子を誘った英作はその日、長子にプロポーズをしようと決めていた。しかし小心者の英作はなかなか本題を切り出せず、遂には酔い潰れてしまう。英作をタクシーに乗せた長子が家に帰ると、節子が眉をひそめて待っていた。英作とでかけたことを聞いていた節子は、長子と英作の関係を気にしていたのだ。長子は英作のことを「気を許せる最高のボーイフレンド」と言うが、それでも結婚は考えていないようだった。大事な人だからこそ、結婚することで好きという気持ちを失いたくなかったのだ。一方英作は、家に母親の常子が待ち構えていた。院長の娘と英作の結婚を控え、英作の気を引き締めにきていたのだ。しかし酔っていた英作は、つい「岡倉長子と結婚したい」と言ってしまうのだった。
文子が突然岡倉家にやってきた。大吉が新聞であさばの広告を見つけ、亨に電話をした直後のことだった。文子は、広告を出したことを亨には言っておらず、大吉から広告について聞いた亨に説教をされたという。文子は、この件で年子と仲良くなれたと喜ぶが「300万で嫁が従順になるなら安いものだ、私があんたにいくら使ったと思ってる!」と、節子は気に入らないようだった。しかしその直後、節子は文子にかまけていられなくなる。常子がやってきたのだ。英作の母親が突然訪問してきたことで、節子や長子は怪訝に思う。更に、そのタイミングで英作から電話がかかってくる。今から岡倉へ行ってもいいかと聞く英作だったが、常子が岡倉に来ていることは知らないようだった。長子から常子の訪問を伝えられた英作は、その場でプロポーズをしてしまう。長子は、想像もしていなかったプロポーズに度肝を抜かれてしまうのだった。しかし常子の待つ客間に行くと、今度は「英作との付き合いは迷惑だ」と言われてしまう。とはいえ、長子には本来その気がなかった。結婚をすることで英作への純粋な好意が薄れてしまうのを嫌っていた。そして、常子の前で長子は「私は本間先生の事、結婚の相手と思ったことは1度もありません」と言い切る。密かに英作を息子の様に感じていた大吉は残念がるが、常子は上機嫌で帰っていくのだった。しかし一方、英作は幸楽で五月に長子の相談をしていた。英作にとって幸楽は、学生の頃から自分を知る第2の家族だったのだ。五月は英作を応援し、「用事がある」と長子を呼び出す。長子は常子の訪問で疲れ切っていたが、五月から呼び出されることなど滅多にないことで、仕方なく幸楽へ出向く。すると、幸楽の一同がお祝いムードで待ち構えていた。キミや勇も、昔からよく知る英作が長子にプロポーズをしたと聞いて、大喜びしていたのだ。長子は幸楽では何も言うわけにいかず、英作を公園に連れ出す。そして改めて、プロポーズを断るのだった。しかし英作は「君がどう思おうと、僕の気持ちは僕の気持ちだ」と、意にも介さない。あっけらかんとする長子だったが、英作の真摯さに胸を打たれるのだった。
良から離婚話を切り出されたことで心を痛めていた弥生だが、ある日追い打ちをかけるような事件が起きる。その日、野田家に良から電話がかかってくるが、良の声は慌ただしく、すぐにテレビを付けろと言い出すのだ。テレビをつけた弥生の目に飛び込んできたのは、全裸でピローシーンを撮られるあかりの姿だった。翌日の早朝、番組を辿ってあかりの所属事務所を調べ上げた良が東京へ帰ってきて、弥生と2人、あかりに会いに行くことになった。プロダクション前のカフェに現れたあかりは、思いの他元気だった。女優になりたいという熱はまだまだ冷めやらないようで、良は絶望して帰ってしまう。弥生には、家族が崩壊していく音が聞こえながらも、どうすることもできなかったのだ。
岡倉家の5姉妹はそれぞれの問題を抱えていたが、そんな中でも時間は流れ、クリスマスシーズン、大吉の発表日がやってきた。自信があるのか、朝から上機嫌の大吉だったが、一度落ちていることもあり、知らんぷりを決め込むことにしていた。それでもやはり結果は気になるようで、節子や葉子、長子は心待ちにしており、五月や文子も心配をしてひっきりなしに電話をかけてくるが、大吉はなかなか帰ってこない。しかし夜分遅く、ほろ酔いで帰ってきた大吉は当然怒り出してしまう。大吉は、調理師試験の発表日を誰も覚えていないことに、寂しさを感じていたのだ。大吉は、合格していたのだ。しかし、そのタイミングで五月から電話がかかってきたことや、弥生が合格祝いを買って岡倉へ置いていったことを知ると、大吉は機嫌を直す。更に英作がやってきて、今度は合格の祝いだと花を預けていくのだった。大吉は英作の心持ちに感動し、その晩は英作の持ってきた花を前に、美味しいお酒を飲むのだった。大吉の喜びように笑顔になる節子だったが、大吉が本物の調理師になったことで、新たな問題が生まれてしまうことになるのだった。
12月23日、大吉の調理師試験合格祝いとクリスマスパーティーを兼ねて岡倉で夕食会が開かれることになった。大吉は自分の手でご馳走を作ると意気込んでいた。五月も楽しみにしていたが、またもやキミの横やりが入ってしまう。仕方なく、五月や勇、愛と眞は諦めるしかなかったのだ。しかしそんな中、久子が「家族でスキーに行くから健治を23日から26日まで休ませろ」と言い出した。クニ化粧品を引き継いでジュエリーまで売り始めたことで、久子は羽振りが良くなっていたのだ。健治は「五月や勇が働くのに自分が休めるはずがない」と断固として拒否するが、「子供が可哀そう」と泣き出す久子を見て、キミは旅行を許してしまう。勇は身勝手だと怒り始めるが、キミは23日を休むことに決める。そうして、勇一家は岡倉のクリスマスパーティーに行けることになったのだった。そして23日、岡倉では久しぶりに5姉妹が肩を並べる。しかしこの日、思わぬ客が訪れる。英作と、政子だった。英作は院長が企画したクリスマス会をすっぽかして、政子は太郎から調理師試験のことを聞き及び、それぞれ大吉のお祝いに来たのだ。長子は英作を心配するが、それ以上に、政子の来訪が岡倉家に降りかかる大問題の口切りとなるのだった。
正月早々、幸楽には邦子が泣いて帰ってきた。千葉の姑は亡くなった長男の嫁に慰謝料を払い続けており、孫にクリスマスプレゼントまで送っていたこともあり、我慢できなくなっていたのだ。今度こそ離婚して幸楽に帰ると言いだす邦子だったが、クニ化粧品は久子が賃貸契約書を交わしており、邦子の帰る場所は無くなってしまっていた。勇からも相変わらず五月と比べられ、キミは助けたくてもどうすることもできないのだった。
そして岡倉家には、正月のお祝いで家族が集まることになっていた。邦子の騒動が好転し、珍しくあっさりと現れる勇夫婦だったが、その分文子と弥生が出そびれていた。高橋家では、夫婦で岡倉家に行くことを年子は快く許していたが、新年早々年子の古い友人がやってきていた。文子は、年子や友人の夕食の用意を始める。文子は広告代のことで年子に恩義を感じており、嫁としてできることをしたいと思っていたのだ。うんざりする亨だったが、年子は文子の姿勢を喜び、嫁姑の仲は更に深まる。結局、岡倉へは亨と望の2人で行くことになったのだった。弥生は、ハナの面倒で家を出れる筈がなかった。それでも良が帰ってきたら出れるかもしれない、と淡い期待を持つ弥生だったが、良はいわきで工場の部下たちとどんちゃん騒ぎをしているのだった。
弥生と文子こそ来れずじまいだったが、岡倉家では新年のお祝いで集まった親族たちが楽しい昼食を取っていた。しかし、そこに常子から電話がかかってくる。常子は、英作はそこに行っているか、と聞くが、長子には心当たりのないことだった。英作はその日、常子と一緒に院長宅へ行く予定だったが、忽然と姿を消してしまったのだ。しかし、電話を切った直後、英作が岡倉家に現れる。実は、大吉が新年会の招待客として呼んでいたのだ。大吉は自分の友人で長子とは関係ないと言うが、節子と長子は、こんなことが常子の耳に入ったら大変だと、冷や汗をかくのだった。更に、政子まで現れる。新年の挨拶に来たという政子だったが、政子は大吉に話があるようだった。政子は、山口商事の自社ビルの一角が書かれた図面を取り出した。大吉に、ここで買い物客を相手に小料理屋をやってくれないかと言い出したのだ。大吉に独立してもらいたくない節子は猛反対し、葉子も「そんなことをされても私は太郎さんとは交際しません!」と怒るが、大吉はやる気を持ち始めていた。そんな中、再度常子から電話がかかってくる。長子は、正直に英作がいることを教え、英作にもすぐ帰るように言う。家に帰った英作は、常子から大目玉を食らうのだった。
長子は、常子から呼び出された。常子からしたら、英作と院長令嬢の結婚を控えて、長子の存在が不安因子になるのは自然なことだった。しかし長子は、改めて英作と交際する気がないことを伝え、それから職場の病院でも英作と口を利かなくなる。長子から徹底的に避けられるようになったことで、さすがの英作も心が折れ始めていたのだった。
幸楽では、久子が暴走し始めていた。ある時、幸楽にピアノが届く。キミや勇には心当たりがないものだったが、これは久子が加奈の英才教育のために買ったものだったのだ。久子はクニ化粧品でのジュエリー販売が成功し、どんどん身勝手になっていた。勇や健治は、愛や眞が可哀そうだし、ピアノの騒音が酷いから返せと言うが、久子は相手にもせず、キミも「久子の甲斐性だから」と肩を持ち始める。しかしその晩、健治は家を出て帰ってこなかった。翌日、幸楽に顔を出した健治は「久子と別居したい」と言い出す。更には「それで別れることになっても幸楽で使ってほしい」といつか言っていたことを改めて頼む。久子やキミは文句を言うが、勇は「健治君がそれで良いなら」と幸楽に務めることを許す。今の幸楽に健治が必要なのを分かっていたのだ。
その頃、野田家に来客があった。その男は区役所の福祉課職員で、ハナから手紙をもらったというのだ。ハナは、自分のせいで家族の溝が深まっていると感じ、有料老人ホームに入りたいと考えていたのだ。しかし、弥生にとっては、あかりがいなくなり、良や武志からも距離を置かれていたことで、ハナだけが救いだった。泣いて止めるように頼む弥生だったが、ハナは「弥生さんに落ち度はない、でも、私はここを出ていきたいのや」と、家を出る決心は固いようだった。弥生は電話で良に泣きつき、翌日良が帰ってきた。しかし良は「働きに出たり、勝手なことをしている君の責任だ!」と弥生を責める。ハナはそんな良を「弥生さんがどんな気持ちで働いてるのか、あんたは全く分かっていない!」と責めつつも、自身のことを「厄介者」と言い、弥生にはハナの一大決心を止めるすべが思いつかないのだった。
ハナの意志を汲み取り、良が帰ってからレストランへ出勤する弥生だったが、そこに長子と裕二がやってきた。長子は英作と交際するものと思っていた弥生は意外に感じたが、英作は避けられていることで長子に近づくことができず、裕二は今こそ長子を口説くチャンスと考えていたのだった。時を同じくして、英作はおたふくに来ていた。岡倉に電話を掛けても長子は不在で、それでも長子と一度話したいとおたふくで待っているのだった。英作は、正月に岡倉へ行ってしまったことで常子を怒らせ、院長令嬢との結納を早められていたのだ。大吉は、そんな英作を不憫に思い、長子を諦めろと言う。しかし、英作の長子への愛は後戻りができないほどに深まっていたのだった。しかし、その頃長子は、遂に裕二からプロポーズをされる。長子は何とか誤魔化し、裕二に送られて岡倉に帰るが、玄関口で英作とバッティングする。英作は仕事の終わった大吉に付いてきてしまっていたのだ。同期であり友人の裕二が長子といるのを見たことで、英作はついに心が折れてしまう。そして、院長令嬢との結婚を決めるのだった。
そして幸楽では、遂に健治が家を出てしまった。小心者の健治にそんなことできるはずがない、と高を括っていたキミは、なんとか止めようと健治を説得するが、久子は頭に血が昇っており、「勝手に出ていけば良い!」と言い出してしまうのだった。更には「離婚するまでは生活費を払え、私は生活費のために働いているんじゃない」とまで言うが、健治は「別れるために出ていくんじゃない、昔の夫婦に戻るために別居するんだ」とそれを許可するのだった。しかし翌日から、久子の肩を持つキミからは冷たい目を向けられ、久子から悪く吹聴された加奈や登は父親を完全に無視するようになり、健治にとって辛い毎日が始まるのだった。
岡倉に、病院から連絡が入る。大吉が勤めるおたふくの女将、咲枝が入院をしたというのだ。急いで病院に行く大吉と節子だったが、咲枝は思いのほか元気だった。咲枝は足が悪く、少し転んだだけだったのだ。しかし大腿骨骨折で、いつおたふくに復帰できるか分からない状況だった。とはいえ大吉は調理師試験も取っており、自分が咲枝不在のおたふくを守ると息巻き、咲枝もそんな大吉に感謝をするのだった。病室には、咲枝の長男である文太が来ていた。文太は、大吉を病室の外へ呼び出し、相談を持ち掛ける。怪訝に思う大吉に、文太は「今年で72歳の母親には、これ以上おたふくをやっていくのは無理だ」「おたふくは畳むつもりだ」と言い出す。しかしそのことを咲枝は知らないということで、大吉はその日からおたふくを開けようと決めるのだった。しかし、仕込みをしようとおたふくに行くと、文太が来ていた。おたふくを居抜きで買いたいと言っている男も来ており、無断で食器などをベタベタと触り出す。大吉は「お咲さんがいない間は私がこの店を守る」と怒鳴るが、文太や男は全く気にしていない様子だった。翌日も早朝から河岸に行く大吉だったが、おたふくへ行くと食器は外に出され、勝手口は封鎖されており、店の入り口には「閉店します」という張り紙が出されていた。文太が強行手段に出たのだ。この状況で店を開けることは出来そうにも無く、咲枝に謝るために病院へ行く大吉だったが、逆に咲枝から謝られてしまう。咲枝は、おたふくを閉めることを知っていたのだ。咲枝は、こうなった流れを語りだす。文太が新しく会社を立ち上げるが、経営が上手くいかず、おたふくを売らないと借金が重なって間に合わなくなってしまうのだった。咲枝は「ダメな母親なのは分かっているけれど、子供には弱いのよね」と言いつつも、大吉に申し訳ないと頭を下げ続けるのだった。咲枝が決める事だから、と病院を後にする大吉だったが、心の中では咲枝を不憫に思い、自分のやりがいだった店が無くなることに空しい想いをするのだった。
岡倉家では、失業した大吉を慰めるため、長子が姉妹を呼び出す。大吉が作った料理を娘や孫が楽しく食べれば、大吉も元気を出すと思っていたのだ。しかし、大吉は「気分が悪い」と部屋からも出てこない。さすがに心配になった節子や娘たちが大吉の部屋に行くが、大吉はすっかり気力を無くし、病人のように寝込んでしまっていた。いつもは大吉がお酒を飲んで騒ぐのを鬱陶しがる家族だったが、この日ばかりは岡倉家が暗い雰囲気に包まれるのだった。

第41回~最終話

岡倉家では、大吉の気力が無くなってしまったことで家族全員が暗い顔になっていた。今まで、これほど長期的に大吉が落ち込むことは無く、家族もいよいよ心配をしていた。そして、葉子が密かに妙案を思いつく。その日、弥生がレストランで働いていると、そこへ葉子が食事をしに来た。葉子の傍らには太郎がいたが、どうやら大吉のことで相談があるようだった。葉子は、政子の自社ビルに小料理屋を出す計画を思いだし、もしもまだ他の当てがないのなら頼んでみようと思っていたのだ。葉子は、大吉が政子のビルで店を出すことにより、親の一存で太郎との結婚が決まるのを危惧していた。しかし太郎は「僕はそんなことで結婚を脅迫するような男に見えるか?」とそれを拒否し、葉子は安心するのだった。そして翌日、政子が岡倉家へやってくる。大吉は寝込んでいたので節子が応対するが、政子の要件は勿論、小料理屋出店の話だった。節子は、大吉にリスクを冒して独立することを猛反対しており、ましてや政子に頼ることは葉子の為にも許せなかった。しかし大吉は大喜びし、無気力で寝込んでいたのが嘘のようだった。まだ小学生の遊がいる岡倉家で、家を担保に入れてお店を出すなんてできるはずも無く、珠子にお店を買ってもらうことで節子と大喧嘩した過去もあったことから、これが恐らく最後の出店のチャンスだったのだ。珠子が店を買うと言い出した時は、節子に無断だったこともあり娘たちは節子の肩を持った。しかし、今回は大吉の熱意が伝わり、娘たちは岡倉家へ集まって節子を説得する。しかしそれでも節子は断固として譲らず「やりたいなら勝手にやれば良い、私は一切関与いたしません!」と言い出してしまう。五月は「お店なんて夫婦で頑張らなきゃ店なんてできないのよ!」と大吉夫婦を諫めるが、大吉も頭に血が昇り、遂には「岡倉家には経済的にも精神的にも迷惑を掛けない」という一筆まで書いてしまうのだった。
節子の憤慨はさておき、大吉の小料理屋出店の計画は順調に進んでいった。内見をした大吉は一目で場所を気に入り、内装や照明を葉子が手掛けることもあり、大吉と葉子、政子と太郎の4人は日に日に仲良くなっていった。後学の為と、毎晩4人で様々な高級料理屋に通い、政子と大吉は至る所へ器を探しに行き、節子は完全に蚊帳の外だった。そして、大吉と節子の仲は加速して離れて行ってしまう。
節分の日、長子は裕二から実家での節分会に誘われていた。佑二の実家は小料理屋だったのだ。佑二は、遂に英作と院長令嬢の結納が直前に迫っていることを聞き及び、本気で長子と交際しようとしていた。長子も、芽生え始めていた英作への気持ちを打ち切る為、裕二からの誘いに乗ることにした。そしてその晩以降、度々裕二と食事へ行くようになったのだった。
一方、節子は大吉と政子が仲良くしていることで、燻った毎日を過ごしていた。そして、節子と大吉の夫婦仲も壊れ始めていた。そんな中、節子は大吉に対抗するため、娘を集めて食事会を開くことにした。そして、弥生の勤めるフランス料理レストラン「ラ・メール」を予約するのだった。一世一代の贅沢で、5姉妹と遊との7人、楽しい時間を過ごそうとしていた。しかし、それは叶わない夢となる。当日、五月だけは家を出にくいだろうと幸楽へ赴く節子だったが、運悪く同じタイミングで邦子が泣きながら帰ってきてしまう。幸楽ではもはや日常茶飯事の光景ではあったが、嫁の五月はそんな時に家を空けられるはずも無かった。五月のことは諦めてラ・メールに向かう節子だったが、他の娘にもそれぞれ問題が起きていた。文子の方は、急遽店に年子が、女学生時代の同級生を連れてくることになっていた。嫁として、店を応援してくれる姑を無下にすることはできるはずもなく、ラ・メールに行くことなんて到底無理なようだった。葉子は、大吉や政子、太郎と小料理屋の打ち合わせをしていた。その打ち合わせも終わり、ラ・メールに向かおうとする葉子だったが、太郎に引き留められ、今日が政子の誕生日であることを聞かされる。大吉が世話になっている手前、無視をするわけにもいかず、政子の誕生日祝いに食事へ行くことになってしまったのだった。長子は、裕二から強引にディナーショーに誘われており、まさか他の姉妹たちがラ・メールに行けないことなど露程も知らない長子は、裕二に付いていくのだった。ラ・メールには、次々と娘たちから欠席の連絡が入り、節子はショックを受ける。結局、働いている弥生しか揃わなかったのだ。しかし、そんな節子に悪運がとどめをさす。ラ・メールに武志から連絡が入ったのだ。どうやらあかりが行方不明になったようで、プロダクションの人間が青ざめた形相で探しに来たと言うのだ。そして、唯一節子の元にいた弥生すら、家へ帰ってしまう。遊と2人で高級フレンチを食べる節子だったが、その晩ははらわたが煮えくり返るような思いをすることになるのだった。
翌日、朝になっても節子は起きてこなかった。大吉と入れ替わるように、今度は節子が寝込んでしまったのだ。葉子と長子は、娘が誰一人食事に参加できなかったことを知り、事の重大性を認識する。あかりが行方不明になっていることを話しても、全く興味が無いようだった。本当に、娘や孫のことがどうでもよくなってしまったのだ。しかしその昼間、節子の身を案じた遊が小学校を早退してきており、節子の唯一の心の支えになるのだった。
あかりが行方不明になっていることで、寝る事すらままならない良と弥生だったが、遂にあかりが見つかる。良が仕事を終えて借家に帰ると、玄関前にあかりがいたのだ。あかりは異様に明るく良は怪訝に思うが、あかりの着替えなどが借家に届き、遂にあかりは身の上を語り始める。あかりは、女優になる決心が折れ、プロダクションから逃げるようにいわきへやってきたのだ。良の部下であり、良とよく夕食を食べる林田明と木谷真吾が来ると、あかりは怯えるように身を隠す。散々ヌードでテレビ出演したあかりは、誰とも会いたくなかったのだ。明と真吾が帰りあかりと2人きりになった良は、改めて心がずたぼろになったあかりを見る。プロダクションにアパート代などの借金も残っており、逃げるように姿を消すしかなかった。良は、プロダクションに行って借金を清算してくると言い、一度決別した父親からの温かい態度に、あかりは大号泣してしまうのだった。そして、暫らくいわきで心の療養をすることにしたのだった。良からあかりの無事を連絡された弥生とハナは、泣いて喜ぶ。そして、あかりを一旦良に任せることにしたのだった。翌日、プロダクションに借金を返す為に良が東京へやってきて、野田の家に帰ってくるが、良は泊ると言いながらも弥生には仕事を休むなと諭す。あかりが戻ってきたことで、夫婦のすれ違いも徐々に埋まり始めていたのだった。
幸楽では次々と問題が起きていた。健治がいなくなった山下家では、久子が夜遅くまで営業で家を空けており、加奈や登は放任されて生活していた。そんなある時、登のクラスの担任がやってきたことで、登が学校へ行っていないことが発覚する。愛は、登が久子から過分にもらった小遣いでゲームセンターに入り浸っているのも見ていた。健治は息子の事を心配するが、久子は健治には何も言ってほしくない、とムキになるのだった。
更に、愛宛ての封筒が届き、愛はそれを大人に隠そうとしだす。五月が問い詰めると、それは愛が元々目指していた私立女子中の補欠合格を知らせるものだった。愛には入学する気は無く、ただの力試しだった、早めに受験を諦めて塾も辞めたので、補欠とはいえ合格できるとは思わなかったと言うが、五月はなんとか愛を女子中学に入れさせてあげたかったのだ。五月は、キミや勇に隠れて岡倉家へ行き、100万円の金策を頼む。私立中学は入学金の納入期限が早く、翌日中には振り込まないとならなかったのだ。大吉はそれを快く許し、自分が明日までに振り込んでおく、と言うのだった。しかし、五月が家へ帰ると勇が機嫌悪く待っていた。五月は節子が体調を崩したと言って出掛けて行ったが、勇は五月の挙動を見て、嘘を見抜いていたのだ。そして、五月はキミや勇に本当のことを話す。勇は大喜びするが、案の定キミが横車を押してきた。キミは「久子の子供は父親が出て行ったことで、学校へ行く元気も無くなっているのに可哀そうだ」と言うが、五月は「なんで愛が我慢しなくちゃいけないんですか!それは久子さん自身の問題じゃないですか!」と抵抗する。しかし、これを押し通せば家庭が崩壊してしまうと分かっていた五月は、諦めることしかできないのだった。五月が大吉へ電話をかけ、やはり100万を振り込まなくても良いことを伝えるが、大吉はもう振り込んだし取り消せないと言うのだ。しかし実は大吉はまだ銀行へ行っていなかった。「やっぱり、幸楽のお母さんが認めるわけがない」と鼻で笑う節子だったが、なんと大吉はそれでも振り込みに行くと言い出した。節子は、呆れ返るしかなかったのだった。
そんな中、久子と健治は着々と離婚の一途を辿っていた。しかし、突然幸楽に久子が青ざめて走りこんでくる。その後ろには、怒り狂った女性がジュエリーを持って立っていた。その女性は、久子から買ったジュエリーが全て偽物だったというのだ。久子には心当たりが無いようだったが、ジュエリーを卸していた友人は、そんなものは知らない、久子が偽物とすり替えたのだろうと言い出す。久子は、儲けをほとんど使ってしまっていることで買い戻しすることもできないとキミに泣きつく。勿論偽物だったことは顧客全員に伝わるだろうし、それを全部買い戻すには200万は必要だった。勇は、幸楽の評判まで落ちると頭を抱えるが、それでもキミが尻拭いするのには反対で、幸楽からお金は出さないと言い切るのだった。キミも、幸楽の帳簿こそ握っていたものの、勇の反対を押し切ってまで幸楽のお金に手を出すことは出来ず、久子を見放すしかなかった。五月は寝室で、久子に200万出すよう、勇を説得する。愛が女子中に入学できる可能性がどんどん狭まっているのを危惧していたのだ。それでも勇は頑として譲らない勇の態度に五月は嫌気が指して夫婦喧嘩になってしまうが、翌日、小島家の食卓に健治がやってくる。健治は「幸楽を辞めたい」と言いに来たのだ。遂に久子に愛想を切らしたと思う勇やキミだったが、事実はそうではなかった。健治は、以前よりスカウトされていたスキー場の中華レストランが、支度金に200万円用立てると言ってくれていることを明かした。久子の借金を尻ぬぐいする為に幸楽を辞める選択肢を選んだのだ。1人で出ていくつもりだった健治だが、そのことを知った久子は泣きながら自分の不肖を謝り、子供とみんなで付いていくと言うのだった。健治夫婦が仲直りしたことで、加奈や登も元気に学校へ通うようになり、愛姉弟と加奈姉弟も仲良くなった。そして、健治の真摯さに感化された勇と五月は、幸楽のお金で200万円を用立てようとキミに言い出す。勇は、その代わりに愛も私立中学へ入れると宣言し、さすがのキミもそれを快く許すのだった。幸楽は困難を乗り越え、良い家族に生まれ変わろうとしていた。
岡倉では、愛と眞を呼び、愛の合格祝いも兼ねて雛祭りのお祝いをしていた。節子は、遊のおかげで久しぶりに雛人形を出せたと喜び、遊は誰よりも輝いた笑顔で雛人形を眺めるのだった。しかし、岡倉家と遊の楽しい思い出は、これが最後になってしまう。雛祭りのお祝いも終盤、岡倉家には遊の叔父、孝男がやってきた。すっかり孝男の存在を忘れていた節子と大吉、それに長子は声も出ない程驚くが、孝男は更に節子や長子を戦慄させることを言い出した。遊を迎えに来たと言うのだ。孝男は、遊の亡くなった母の姉、つまり遊の叔母が見つかったというのだ。遊の叔母、田村綾子は、九州の雲仙におり、老舗旅館「半水盧」の大女将だという。しかし節子や長子は、意地でも遊は渡すまいと心に決めるのだった。既にすっかり岡倉の家族になっていた遊だったが、節子と長子以外は、親族の立派な家があるのなら、そっちに行った方が幸せだと思ってしまう。そして、大吉と節子、長子は、一旦雲仙へ行ってみることにしたのだった。旅館は歴史が刻み込まれた立派庭があり、節子たちは本来の目的を一時忘れ、見とれるのだった。暫らくした後、部屋へ挨拶回りに来た大女将の綾子は、礼節を重んじた綺麗な女性だった。大吉は何を思ったか「遠山遊を知っていますか?」と聞いてしまう。慌てた節子や長子は「ただの知り合い」だと言い、綾子はぽつりぽつりと身の上を話し始めた。綾子は、遊の成長を人伝手に聞いていたが、遊は未だに福島にいるものと勘違いをしており、また福島の孝男は思うような生活ができていないということで、夫との相談の上、遊を引き取りたいと考えていたのだ。綾子は子供に恵まれず、遊に半水盧の跡を継いでほしいと思っていた。大吉は、綾子の人柄と立派な旅館を見て、遊は綾子に託した方が幸せなのかもしれないと感じていたが、同じように感じていたからこそ、節子と長子は逆に反発するのだった。
一方、大吉の小料理屋は完成間近だった。内装や照明の工事も終わり、店の名前も「おかくら」に決まった。そして、恐らく政子が長く画策していたことを、遂に口に出した。葉子に、太郎の嫁として山口家へ来てほしいと頼んだのだ。太郎は、そんな政子を慌てて制御するのだった。その晩、太郎と2人でバーに来た葉子は、太郎からニューヨーク行きを進言される。太郎は葉子が手掛けたおかくらの内装に惚れ込み、ニューヨークで勉強した方が良いと思っていたのだ。そして改めて、太郎は葉子にプロポーズをする。そして、結婚はニューヨーク留学を終えた後、結婚しても葉子には全力で仕事をさせたい、という気持ちを伝える。葉子は、結婚しても一生やりたい仕事をできるなら、と婚約を受け入れるのだった。翌日は政子が岡倉家にやってきて婚約の挨拶をするが、賛成する大吉とは裏腹、節子はどうしても気に入らないようだった。節子は、大吉のことを「お店を出してもらうことでへーこらする人」と罵り、娘が思い通りにならない分、一層遊への愛情が増すのだった。とはいえ、葉子と太郎、そして政子は円満な関係を築けており、幸先は良いようだった。
良は、毎日が華やいでいた。やはり、仕事が終わって帰る家に娘がいるのは、父親としては良いものだったのだ。しかし、ある日良が帰ると、あかりは荷物を持っていなくなっていた。弥生の電話であかりが東京に帰ったと知って、急いで東京の野田家へ帰る良だったが、あかりは東京で短大に行きなおすと言い出していた。良は、それを反対する。実は、あかりと部下の明を結婚させたいと考えていたのだ。しかし、あかりはそれに感づいていた。だからこそ、大学を卒業して武器を持った強い女性になりたいと考えていたのだった。そのようなことを理路整然と言われると、さすがの良も認めざるを得ないのだった。また単身赴任に戻ってしまうことで寂しくなる良だったが、それでも家庭が昔の様にまとまっていくのを感じ、良の顔はほころぶのだった。
岡倉家に、節子や長子が一番会いたくない客が来た。孝男と、雲仙の綾子、夫の治茂だった。しかし、そこで節子と長子は思わぬものを目にする。綾子を一目見た遊が「おばさん!」と泣きながら抱きついたのだ。節子たちは、綾子に会いに行ったことを遊には言っていなかったが、遊は雲仙に叔父や叔母がいることを知っていた。幼い時に会っているのを、覚えていたのだ。長子は、今まで否定していた血の繋がりを見せつけられ、酷く動揺していた。また、節子は綾子のことを「財産にかまけて遊を連れ去ろうとする女」と罵った。しかし綾子は「長子さんが遊を手放したくないのなら、私は遊を諦めます」と言い出す。綾子には、長子が遊と過ごした時間と愛情を理解していたのだ。だからこそ、長子は悩んでしまうのだった。そして、その決断を遊に委ねることにした。「今、遊ちゃんの本当の気持ちを言わなかったら、一生後悔する」と言った長子に、遊が答えた結論は雲仙に行くことだった。涙を流しながら「雲仙のおばさんね、死んだママに似てるの」と呟く遊に、長子は「安心して遊ちゃんのこと雲仙のおばさんにお願いできる」と、遊を手放すことを決めるのだった。節子は、遊を手放すのをどうしても嫌がった。しかし、長子から遊の言葉を聞くと、節子にも遊を止めることは出来なかった。遊が雲仙に行くまで1週間、節子は遊との最後の時間を過ごし始めるのだった。
幸楽に、邦子がやってきた。しかし、今度は泣いているわけでもなく、逃げ帰ってきたわけではないようだった。どうやら、材木屋が不渡りを出して、とうとう倒産してしまったようだった。キミは家業が潰れることを他人事だとは思えず、何とかお金を工面しようとするが、邦子は高笑いしてそれを制止して、「私たちは仙台に行くことになる」と言い出した。浩介が、知り合いの伝手で新潟のロボット工場で勤めることになったのだ。姑は、千葉に置いていくようだ。しかし翌日、幸楽へやってきた浩介は、やはり姑も連れていくと言い出した。激怒してそれを拒否する邦子だったが、現実問題、姑には行くところもなかった。キミも、勇に「邦子が姑と同居しないなら、俺と五月も母ちゃんと別居するからな!」と言われ、どうすることもできないのだった。
そして、遊が雲仙へ発つ日がやってきてしまった。大吉と長子に手を引かれ歩いていく遊を、笑顔で見送る節子だったが、遊の姿が見えなくなった瞬間に泣き崩れてしまう。節子にとっては、好き勝手をやっている大吉や娘たちとは比べ物にならないほど、遊が心の支えであり、心底愛していたのだ。そしてそれから、節子と長子の心は癒えないまま、時が過ぎて行った。節子は家にこもりがちになり、長子は身近でアプローチされていた裕二で、心の隙間を埋めようとしていた。そしてそんな中、裕二と長子が英作に呼び出される。英作が院長令嬢と結婚する前日のことだった。英作は、夜の公園で裕二に「岡倉君の前ではっきり答えてほしい、例の看護師とは別れたのか?お前の子がお腹にいるようじゃないか」と問いかける。佑二は手切れ金は払ったと言うが、英作はそれに怒り、揉み合いの喧嘩になった。長子は、英作を庇っていた。それが心の奥底に眠る、長子の本当の気持ちだったのだ。佑二が帰ってしまった後、英作は長子に謝る。過去から女性トラブルが絶えなかった裕二だったが、長子だけは特別な人だったかもしれないと思っていたのだ。それに、明日結婚する自分に、何を言う権利もないことも分かっていた。
そして翌日、小料理おかくらの開店祝いの日がやってきた。店に反対していた節子以外、岡倉家の5姉妹や親類も徐々に集まり始める。おかくらの入り口までやってきた長子だったが、突然現れた英作に手を引かれどこかへと連れ去られる。英作は、紋付き袴の格好だった。新婦典子や常子を前に、逃走してきてしまったのだ。おかくらのビルの屋上まで走ってきた英作と長子だったが、英作は息を切らしながら長子に結婚を申し込む。「無謀よ!」と嗜める長子だったが、英作は「それでも付いてきてほしい」と頭を下げる。長子は、遂に自分に正直になるのだった。そしてその日の夜遅く、英作が家へ帰ると常子や妹の由紀が鬼の形相で待ち構えていた。しかし、英作は改めて長子への気持ちを語る。一通り話し終わった英作に対して、常子の言葉は意外なものだった。「立派なものやないか、亡くなったお父ちゃんにそっくりや」と言い出したのだ。常子の亡き夫も若かりし頃、親の反対を押し切って常子と一緒になったのだそうだ。そして翌日、常子と英作が岡倉家へやってくる。長子をもらいに来たのだ。しかし、これは節子にとってとどめの一撃だった。大吉は反対していた小料理屋を始めて遂に開店してしまい、葉子は太郎と婚約してニューヨーク留学へ行ってしまう。心から愛していた遊もいなくなった。そして、長子も本間家の嫁になってしまう。節子は、また寝込んでしまうのだった。大吉は、何を言っても無駄なことが分かっていた。そして、知らんぷりをしておかくらでの仕込みに出掛けてしまう。1人になった節子は、嫁に行った娘たちに電話を掛け始める。特に用があるわけではなかったが、うちに来てほしいと頼んで回ったのだ。しかし、弥生も、五月も、文子も、それぞれの家で、それぞれの姑を、それぞれのやり方で付き合っていた。節子の気まぐれで家を出れる程、暇な家庭はなかったのだ。節子は、本当の孤独を感じた。そして、このまま死んでたまるかと、エネルギーが湧いてくるのだった。そして、節子はおかくらへ向かった。娘がみんな巣立った今、大吉と二人三脚で店をやっていく決心ができたのだ。
節子と大吉がおかくらの営業を終えて家に帰ると、節子からの電話が気になっていた弥生や五月、文子、それにいつまで経っても節子が帰ってこないことで心配していた葉子と長子が岡倉家で集合していた。しかし節子は、子離れをして夫婦の有難さに気づき、表情は明るく、娘たちは胸を撫でおろす。節子は、明日また大吉と一緒におたふくへ行き一緒に働くことが、どうしようもなく楽しみで、夜も眠れないのだった。

秋のスペシャル(1994年9月29日)

おたふくが開店してから、およそ半年が経った。大吉と節子はなんとかおたふくを軌道に乗せ、娘たちもそれぞれの人生を一生懸命に生きていた。そして、長子と英作の結婚も間近に迫っているのだった。そんなある日、大吉と節子が仕事を終え家に帰ると、ニューヨークにいるはずの葉子が帰ってきていた。どうやら、太郎や政子には無断での一時帰国であるようだった。葉子のニューヨーク留学費用においては政子が資金を出していた為、節子は「無断で帰って来るなんてとんでもない!」と怒る。しかし、葉子に説教している場合ではなかった。長子の結婚式に出るために帰ってきたという葉子だったが、当の長子が「結婚しないかもしれない」と言い出したのだ。節子と大吉はおろおろしながらも、また娘のトラブルに引っ張られるのかとため息をつくのだった。
幸楽でも、静かに影が忍び寄り始めた。五月は、本間家がある大阪での長子の結婚式に、家族で出席したいと考えていた。しかし、そんなことを言ってはまたキミの機嫌を損ねると、勇は難色を示す。久子は海外のメイクを勉強をすると言ってヨーロッパに行っており、五月は嫌気が指し始めていた。また、問題はそれだけではなかった。幸楽の厨房で勤める久子の夫、健治が、幸楽で高級志向の中華コースを出したいと言い出したのだ。キミは、大衆的な店である幸楽に高級志向なんてとんでもないと反対するが、休みすらないことで不満を抱えていた五月は健治の肩を持つ。そして、五月はキミに対して「お義母さん商売の仕方はもう古いの」と言ってしまう。怒ったキミは「五月も健治も、文句があるなら出ていけ!」と怒鳴るのだった。
岡倉家では、節子と大吉が長子を問いただしていた。勿論、長子が結婚を取り止めようとしていることについてだ。長子は、常子と馬が合わなくなっていた。英作は長子と一緒になる為に院長令嬢との結婚式をバックレており、勤めていた大学病院にはいられなくなった。そこで、大阪の本間医院を継ぐことになった英作の為に、長子は医療事務や介護士の資格を目指して勉強していた。長子は、英作と二人三脚で仕事をしたいと思っていたのだ。しかし、常子は長子に専業主婦をさせようとしており、勉強は無駄だから辞めろと言い出したのだ。本間医院で専業主婦をやるということは、つまり看護師や薬剤師、医師の食事の世話までやるということだったのだ。節子は「嫁に行ったら家事をするのは当たり前だ」と呆れ、大吉も「子供でもできれば働きたいなんてこと言ってられなくなるよ」と相手にしない。「そんなつまらない女になりたくない」と食い下がる長子だったが、節子は「だったら本間さんに迷惑をかけるから結婚を辞めなさい!」と見放してしまうのだった。
長子が結婚を辞めようとしていることなど露程も知らない葉子以外の姉妹は、それぞれ結婚式当日に向けて準備を進めていた。本間家の来客が異常に多いことから、姉妹はしっかり夫婦で参列しようと決まっていたのだ。しかし、それぞれに問題があった。野田家では、良が仕事の都合で大阪には行けないと言い出す。ハナは激怒するが、長く連れ添ってきた弥生は早々に諦めるのだった。高橋家では、野田家とは真逆の現象が起きていた。家族で大阪へ行きたいという亨に対して、文子は交通費がもったいないから1人で行くと言い出していたのだ。今やあさばの経営を監督している文子は、金勘定に厳しくなっていたのだった。
五月や健治がキミを怒らせてしまった翌日、朝食を囲む小島家の食卓は険悪だった。愛や眞は大阪に行けないことで文句を言い、五月は「やってられないわよ」とキミや勇を責める。仕方なく勇はキミに、長子の結婚式が行われる10月10日を休みにしようと切り出した。しかし10日は近所で開催されるお弁当の受注もしており、キミは「また嫁の尻に敷かれて!」と、怒りは更にヒートアップしてしまう。そして、「母ちゃんがいなければあんたたちも好きにできるだろ!」と部屋に籠ってしまう。勇は「放っておけ」と言うが、少し目を離したすきに、キミがどこかへ姿を消してしまった。五月だけは、キミの身を案じるのだった。その頃、キミは仙台にある邦子の家にやってきていた。突然の来訪に驚く邦子だったが、キミから「しばらくここに置いてくれ」と言われて快くそれを許す。邦子は、浩介の給料だけでは生活が厳しく、キミが家で家事をやってくれることで自分がパートに出れるのを期待していたのだ。そして、幸楽に邦子がやってくる。邦子は、キミを死ぬまで預かるからキミの生活費として月に20万出せと言い出したのだ。勇はそんなことは出来ないと怒り出すが、五月はキミにゆっくり療養してほしいと20万を出すのだった。そして、キミの仙台暮らしが始まった。しかし、キミの想像以上に、ここでの暮らしは過酷なものだった。邦子の息子、豊と忠はわんぱくで、帰ればいつも泥だらけ、大喧嘩をすれば障子を破り、キミの体力では付き合いようがなかったのだ。そしてキミは、幸楽での暮らしが懐かしく、かげがえのないものだと気づかされ始めるのだった。幸楽でも、キミがいなくなったことでさっそく影響が出始めていた。生活の中でキミに気を遣うということが無くなり、たがが外れて過去に類を見ないほどの夫婦喧嘩になってしまったのだ。しかし愛から「おばあちゃんがいると、お母さんもお父さんも気を遣って喧嘩しないんだね」と言われ、勇夫婦はキミの大切さに気付くのだった。
長子は、どんどん英作との結婚から遠ざかっていた。しかし、それは長子だけではなかった。葉子まで太郎とは結婚しないと言い出したのだ。葉子は、勝手に帰国したことで政子からお灸を据えられていた。政子だけは普通の姑とは違う、と信じていた葉子は「あんな母親のいる家には嫁げない」と言うのだった。節子や大吉は、呆れて物も言えないのだった。その晩、結婚を辞めると言い出した葉子と長子の仮姑、常子と政子がおたふくへやってきていた。たまたま3人の母親が三つ巴になったわけだが、常子も政子も色々と考える事があったようだ。しかし節子は「我が娘ながらおすすめできません、どうぞお止めになったほうがよろしいわ」と言い出し、3人の姑は意気投合するのだった。
そして、1週間もしないうちに、幸楽へキミが帰ってきた。キミは「母ちゃんのうちはここなの」と言い、勇夫婦もキミの帰宅を心から感謝していた。更に君は、長子の結婚式に家族で行ってきなさいと言いだす。キミの中で「お客さん以上に家族が大事」という感情が芽生え始めていたのだ。大喜びをした五月はその旨を伝えるために岡倉へ電話をかける。しかし、そこで節子から「長子の結婚式は流れそう」ということを聞かされ、憤慨するのだった。
そして、その頃長子は英作と会っていた。長子はこの時、英作に別れを告げるつもりだった。英作は「母親を大事にしたい、君と一緒にそういう家庭を作りたかった」と呟く。そして、それでも強制はできないと、その場を去ろうとした。途端、長子は「専業主婦、やってみようかな」と言っていた。やはり、長子にとって英作は大切な人だったのだ。それに、英作の親孝行に感動もしていた。
長子が岡倉へ帰ると、他の姉妹が勢揃いしていた。皆、長子が結婚を取り止めると聞いて飛んできたのだ。長子が口を開く間もなく、それぞれから説教、説得、宥めを浴びせられる。しかし、先に英作と会っていたことで長子の気持ちは固まっていた。「私、やっぱり本間先生が好きなの」と言った長子は、専業主婦として大阪で暮らすことを決断していた。そんな長子を見て葉子も、太郎のために決断するときが来ていたのだった。
おかくらにキミ、年子、政子、常子が来ていた。長子と英作が結婚する、前祝いの会だ。そこには長子と英作や、葉子と太郎、弥生夫婦や五月夫婦、文子夫婦も揃っての賑やかな会になっていた。大吉は、これから結婚する葉子や長子にも、これから困難な問題がいくつも立ちはだかるだろうと思っていた。しかし、その嫌気と同じほどに、親として娘から頼られるうちが華だとも感じていたのだった。

年末スペシャル(1995年12月28日)

岡倉家の大吉と節子は、豊かな気持ちを持って静かな暮らしを過ごしていた。娘たちが5人とも外へ出て、夫婦でおたふくを切り盛りしながら慎ましく生活する毎日に、節子はそれなりに満足していた。その日、岡倉家には久々に5姉妹が揃う約束があった。節子と大吉の、41年目の結婚記念日祝いをすることになっていたのだ。娘たちは、それぞれが料理を持ち寄ることにしていた。真っ先にやってきたのは、結婚して大阪に行った長子だった。長子は産み月で、大きいお腹を英作に支えられるようにしていた。しかし、節子には不思議なことがあった。長子の荷物が異様に多かったのだ。英作が持つキャリーバックを指差し「お産が済むまでうちにいる」と言い出した。節子は、声も出ない程驚く。どれだけ嫌なことがあろうと、長子が嫁いだ本間医院は産婦人科医院だったのだ。長子が岡倉家でお産をしてしまったら、常子の立つ瀬がない。それに節子は、おたふくで忙しい自分たちに、赤ん坊と産後の長子を世話するのは無理だ、と考えていた。しかし、大吉は岡倉でのお産をあっさり許してしまう。大吉の孫たちは、みんな大吉の現役時代に生まれており、可愛がる暇も無かった。長子の子供は、大吉が引退後、愛でる余裕ができた初めての孫だったのだ。
幸楽でも、五月と勇は岡倉の結婚記念日祝いに行くための準備をしていた。キミは、41年目の結婚記念日を娘たちに祝われる大吉夫妻を羨ましがり、いじけて五月に当たっていた。しかし、良くも悪くも幸楽に大きな波が襲い掛かる。邦子と子供のミカ、隆がやってきたのだ。邦子は、浩介と離婚して仙台から帰ってきたのだという。キミは、ただでさえ心細かったことで、大喜びしていた。しかし、これは五月とその家族にとっては由々しき問題だった。久子一家が暮らしていた部屋は眞と愛の勉強部屋になっていたが、邦子一家が住むことになってしまい、眞たちは追い出されたのだ。愛は仕方ないと眞を慰めるが、眞は身勝手な邦子とそれを庇うキミに、いじけてしまうのだった。
岡倉には、続々と娘たちが集まってきた。そして、銘々に身の上話を始める。葉子は、ニューヨーク留学を終えて日本に帰ってきたが、今度は一級建築士の資格を取りたいと言い出して、太郎との結婚を長引かせていた。あまりの身勝手さに呆れ返る節子だったが、葉子に連れ添ってやってきた太郎は「葉子には結婚した後もキャリアウーマンとして頑張ってほしい」と言い、長子は「葉子お姉ちゃんみたいな身勝手な人を好きになる男の人は、やっぱりどこか変わってるんだ」と溜息をつくのだった。長子は、英作と小競り合いを始めていた。英作は大学病院で出世するのが夢で、それでも一度本間医院に行ってしまったことで母親の期待を裏切れないでいた。長子は、「俺にはもっとやりたいことがあった」と事あるごとに口に出す英作に怒り「男には弱みをみせてほしくない!」と泣くのだった。弥生は、長子が一番幸せな結婚をしたと思っていた為、どこでも色々あるんだ、と苦笑いをするのだった。そして日も暮れて、それぞれの姉妹の家族たちも揃い始めた。忙しさにかまける良や勇、自分の世界を持った武志やあかりも来ることができて、岡倉家の親族が1人も欠ける事なく、大吉と節子は記念すべき夜を過ごしたのだった。
楽しい時間を過ごして幸楽に帰ってきた五月一家だったが、そこには現実が待っていた。幸楽には、邦子の問題が残っていたのだ。キミは「食事は五月が邦子一家の分も作るように」と言い出した。お金が無いなら幸楽で働かせろ、という勇だったが、キミは「実の妹になんて冷たいんだよ!」と怒り、勇の手にも負えないのだった。
結婚記念日の翌日から、大吉と節子はおかくらで通常営業だった。それでも、大吉は以前より上機嫌だった。勿論、長子の生む孫を心待ちにしていたのだ。仕込みをしながら鼻歌まで歌いだす始末に、節子は呆れながらも微笑ましく思うのだった。しかしそんな中、おたふくへ常子がやってくる。常子は、長子を迎えに来たと言い出した。常子の大阪弁での早口を、大吉は今まで苦手に思っていた。しかし今回ばかりは、大吉も引かなかった。「それは英作君と長子が決めることです、文句があるなら英作君にお言いになってください!」と怒鳴る大吉を前にして、常子は顔を真っ赤にして帰っていくのだった。大吉は玄関に塩をまきながら「長子は絶対に帰さん!」と息巻くが、節子はこのままでは済まないだろう、と嫌な予感がしてならないのだった。
大吉は、日に何度もおかくらから家に電話をかけていた。長子のことが気がかりで、どうしようもなかったのだ。ある日、いつものように大吉が電話をかけるが、電話先で長子が突然苦しみだす。陣痛が来たのだった。大吉は、顔面蒼白になって帰ろうとする。しかし節子は、ただの陣痛だと気にも留めない。5人の娘を生んで、弥生や五月、文子の出産にも立ち会ってきた節子は、すっかり慣れていたのだ。大吉は怒って勝手に帰ってしまうが、おかくらでバイトを始めていたあかりや節子は呆れ返り、普通にお店を開けるのだった。長子は自力で病院に行っており、大吉や、大吉に呼び出された弥生と文子も駆けつける。しかし、そんな中で大吉が倒れてしまう。血圧が高かった大吉は、あたふたしすぎて気を失ってしまったのだ。お店を閉めてやってきた節子は、寝ている大吉を見ながらやれやれと溜息をつくのだった。そして長子の入った分娩室で産声があがる。今まで冷静だった節子が慌てて駆け込んでいき、弥生や文子は母親の有難さを痛感するのだった。そして、暫らくして大吉が目を覚ます。すでに赤ん坊は立ち合い禁止の新生児室に入っており、大吉はがっくりと肩を落とすのだった。
大吉は、長子の赤ん坊が岡倉家へやってくるのを心待ちにしていた。そして長子の退院日、玩具や洋服、ベビーカーを用意して始終ソワソワしているのだった。挙句の果てに、「静子」と書いた習字まで用意していた。勝手に名前まで決めていたのだ。そして、長子の病院へ迎えに行く大吉と節子だったが、そこには英作と常子がやってきていた。常子は、あと2週間ほどは長子を岡倉家に任せるつもりになっていたようだが、本間家の孫の誕生を心から喜んでいた。大吉には、何を言う事もできないのだった。そして時が経ち、お七夜の日がやってきた。岡倉家には、英作と常子がやってきた。常子は、大吉の買ってきた玩具を「赤ん坊が情緒不安定になるからどけてくれ」と言い大吉は機嫌を損ねるのだった。更に、大吉が居間に飾った「静子」という額縁を外すと、「日向子」という新しいものをかけなおす。赤ん坊は本間家の孫であり、大吉にはそれを覆すことも叶わないのだった。そして、岡倉の親族が集まってのお七夜が終わり、大吉と節子、長子は静かにお酒を飲みかわす。長子は大阪へ帰った後の大吉を心配するが、大吉と節子は元より、夫婦だけで生きていく決心ができていた。日向子のことで、大吉の心は沈んでいたが、それでも娘たちは、それぞれの幸せに向かって必死に進んでおり、それを夫婦で応援しようと、しみじみと考えるのだった。

第3シリーズ(1996年4月4日~1997年3月27日)

第1回~第10回

長子が出産してから、半年の月日が経った。大吉は、9年ぶりにできた日向子が大阪に行ってしまったことで、寂しい毎日を過ごしていた。一方節子は、とっくに子離れ、孫離れをしており、大吉と2人で小料理おかくらを切り盛りすることに精を出していた。娘たちもそれぞれの家庭で懸命に生きており、一見平和そのものだったが、やはりそれぞれの家庭では問題が起き始めていたのだった。
幸楽では、邦子が浩介と離婚をして子供たちと帰ってきたことで、五月が苦労をしていた。しかし、五月は邦子の子供、隆とミカに愛着が湧いていたので、それなりに楽しい生活をしていた。とはいえ、大人の事情がささやかな生活に水を差す。キミは、邦子の意向で私立中学入学を目指す隆を応援しており、隣で遊びほうけている眞を「悪影響だ」と貶すのだった。また、邦子は仕事が長続きせず、邦子一家の皺寄せは勇夫婦に来ていたのだ。そして、幸楽の店舗の方では、慢性的な人手不足に一家は悩まされていた。勇は「邦子を働かせるか、新しく人を雇うか」と言っていたが、キミは「邦子は無理させたくない、人を雇うのはお金が勿体ない」とどちらにも否定的だった。それでも、やはりキミの体力は落ちており、その分五月が苦労をしていた。そんな中、年恰好が20歳前後の少女が、幸楽で無銭飲食をする。少女は、勇が出した求人の張り紙を見て「無線飲食分は働いて返す、これからずっと働いても良い」と言い出した。キミや五月、勇は、怪訝に思うのだった。そしてお店の営業後、少女は改めて「これからも働きたい」と言い出す。しかし、少女は家出をしており、身元保証人の不明瞭な人は雇えない、とキミは猛反対するのだった。しかし、唯一五月だけは少女を放っとけないでいた。五月は、帰っていく少女を追いかけ「また明日来なさい」と言う。そしてその晩、キミや勇に相談を持ち掛けた。勿論キミの気持ちは変わらずに反対されるが、五月は「高校2年生の時に家出をして、そのまま幸楽の亡き幸吉に拾ってもらった自分を、少女と重ねている」と話し、遂にはキミと勇を説得してしまうのだった。翌日、改めてきた少女が幸楽で勤め始めることになった。少女は「鈴木明子」と名乗り、五月はそれが本名かも分からなかったが、「名前なんて符号みたいなもんで、関係ないわね」と言い、五月を筆頭に幸楽の面々は明子の事を「あこ」と呼ぶことになったのだった。
大吉や節子がおかくらで仕込みをしていると、そこへ弥生とあかりがやってきた。あかりが短大を無事に卒業し、その挨拶で来たのだ。しかし、世間は就職難の真っただ中で、あかりも遂に就職先が決まらなかった。弥生や節子は、やりたいことを急いで見つけるか、あぶれる前に結婚してしまうかとあかりを説得するが、あかりはおかくらでバイトをしながらのんびりするようで、大吉もそれに賛成するのだった。そんな中、今度は高橋政子がやってくる。葉子にとっては未来の姑、おたふくにとってはオーナーの女性であった。政子は、どうやら葉子のことで話があるようだった。しかし、運悪くそこへ葉子がやってくる。葉子は、政子の顔を見るなり帰ろうとし、政子はそれを制止した。政子は「葉子さん、体調はもう良いの?」と言い出した。その日、山口商事の重要な客人がシンガポールから来日しており、葉子は政子から、太郎と一緒に昼食会に参加するよう命じられていた。葉子は、その昼食会をすっぽかしたのだ。政子は、葉子に仮病の理由を問い質す。葉子の言い分は、一級建築士の試験日が近づいており集中したかった、そして太郎と結婚した後も自立した女性でいたいから、是が非でも一級建築士になりたいというものだった。政子や節子は、世代間の考え方の違いに呆れ返るのだった。
幸楽では、ミカが寂しい思いをしていた。邦子はどこへ行っているのか、一日中家にはおらず、兄の隆や従妹の愛は勉強に追われ、ミカの相手を出来ないでいたのだ。結局は眞が面倒を見る羽目になるのだったが、弟も妹もいない眞はミカを鬱陶しがるのだった。しかし、眞や愛が邦子に文句を言うと、その分隆や加奈が叱られることになり、眞は加奈を不憫に思い始めるのだった。
文子は、あさまが軌道に乗って、年子とも仲良くすることができていた。しかし、静かに文子夫婦には不幸が忍び寄っていた。文子夫婦が仕事を終えて家へ帰ると、台所から黒煙が立ち上っていた。どうやら、鍋が火にかかったまま焦げているようだった。更に風呂場では、風呂桶から熱湯が溢れかえっていた。その時家には年子しかおらず、誰がどう考えても年子が忘れているとしか思えない状況だった。しかし、当の年子は全く心当たりがないようで、亨と文子は怪訝に思うのだった。
幸楽では、あこを巻き込んでの問題が起きていた。キミの部屋から5万円が無くなり、キミは真っ先にあこを疑ったのだ。あこは「この店でやり直そうとしているんだよ!」と激怒し、キミもそれに負けじと「出て行ってくれよ!」と怒鳴るのだった。しかしそんな中、邦子がお金の無心をしにやってくる。更に、自分がキミの部屋から5万円を持って行ったことを白状したのだ。キミは泣きながら怒り、五月はおろおろするしか無かったのだった。
大吉と節子がいつものようにおかくらで働いていると、大阪から英作がやってきた。大吉夫妻は喜んで迎えるが、英作は「相談があるので今晩泊めてもらっていいですか?」と言い出し、あまり元気が無いようだった。おかくらを閉めて家に帰り、英作は悩みを打ち明けた。長子が常子との同居で心をすり減らしており、英作は大阪の家を出ることを考えていたのだ。大吉と節子は「それが長子の責任」と反対するが、英作が東京へ出てきたかった理由はそれだけでは無かった。英作は、東京の大学病院で勤めたがっていたのだ。節子は、長子が唯一の原因ではないと分かり、一転英作の上京を賛成する。しかし、大吉はそれでも断固として反対した。大吉は、残される常子の気持ちを案じていたのだった。
英作は、大吉の言葉で上京を諦め、長子夫婦の心配は終わったかのように思えた。しかし、本当の嵐はその翌日に口を切るのだった。早朝、岡倉家のインターホンが鳴る。玄関先に立っていたのは、大きな荷物を抱えた長子だった。長子は「お義母さんからあんたみたいな嫁はいらないと言われたから、帰ってきた」「日向子は本間家の子だから置いていけと言われた」とだけ言い残して寝てしまう。節子と大吉は、突然の娘の出戻りに開いた口が塞がらないのだった。そしてその昼、改めて英作がやって来る。節子は「迎えに来てくれたの」と安堵するが、英作は「自分も家を出てきました」と言いだす。実は、長子が家を出てきたことは英作の上京話が事の発端だった。英作は東京で仕事をする為に常子に話を切り出すが、常子は勿論猛反対し、怒りの矛先は長子に及んだ。常子から「旦那を陰で牛耳って本間家を潰そうとする嫁はいらんから出ていけ!」と言われ、長子は帰ってきたのだ。しかし英作の決心は固く、東京での家探しをすると言い、長子も英作に付いていくようだった。節子と大吉は、何とかこの問題を丸く収めたいと頭を抱えるが、常子から長子の荷物を送りつけられ、この問題が長引くことは決定的だった。
高橋家では、また問題が起きていた。年子が万引きをしたということで、店から連絡が入ったのだ。年子は「財布を持って行った、万引きなんかするはずない」と言い張るが、年子の財布は家にあった。更に、亨が好きなものを買ってきた、と言う年子だったが、カバンに入っていたのはドーナツなど、いずれも亨が子供の頃好きだったものばかりだった。文子は、明らかな年子の異変に気づきつつも、その現実を認められないでいた。まともな時もあり、何より認めた瞬間、自分たちの生活が一気に壊れてしまうのを分かっていたのだった。
そして、岡倉家では節子と大吉が、長子のことで揉めていた。節子は長子夫婦を岡倉家に置きたいと言い、大吉は常子の手前、それはできないと言っていたのだ。しかしそんな中、岡倉家に常子がやってくる。常子の腕の中には、泣き疲れて寝ている日向子が抱えられていた。常子は「仕事しながら日向子の面倒まで見てたら身持たへん!」と、日向子を長子に預けに来たのだった。長子は今まで、気丈に振舞いつつも日向子と会えないことで辛い毎日を過ごしており、泣いて喜ぶ。常子は、英作が本間医院を継ぐことも諦めたようだった。常子の決断は、大吉の方針も変えさせた。英作夫婦を岡倉家に置くことに決めたのだ。常子の手前、今まで反対してきたことだったが、常子の許可が下りた今となっては、目に入れても痛くない日向子と一緒に暮らせるのは、大吉にとって何より嬉しいことだったのだ。そして、英作夫婦が岡倉家で新しい生活を始めた。英作は大学病院で勤め、長子は英文科を卒業したことを活かし、翻訳の仕事を始めていた。長子は実家ということで、本間家での苦労を取り返すかのようにのんびりするが、英作にとっては気を遣う毎日だった。
良が単身赴任をするいわきに、あかりが遊びにきていた。とはいえ、良が任されている工場は閉鎖を間近に迎えており、いわきでの生活も残り僅かになっていた。そんな中、良は夕食を食べながら「会社を辞めようと思う」と言い出した。あかりは、良が何故そんなことを言うのか理解できず、とにかく反対するしかなかったのだった。しかし、良にも仕事を辞めたいと思う明確な理由があった。良が次の出向先に指示されたのは、子会社での倉庫管理のポストだった。良は入社以来、物を作る現場の仕事で身をすり減らしており、次の職場はやりがいを感じられない場所だったのだ。更に、良はいわきでやりたいことも見つけていた。いわきは福島県の中でも自然が多く、特に良が住む借家の周りには畑や果樹園が多くあった。その中の一つに、年を取ったことで梨園を手放したいと言っている老夫婦がおり、良はその梨園をやっていきたいと思っていたのだ。あかりは、女優になる夢が折れて精神的に参っていた頃、いわきの自然に心を洗われた過去もあり、良の夢を応援したいと思い始めるのだった。
その頃、英作と長子の間に亀裂が入り始めていた。長子は、実家に帰ったことで自由気ままになり、更には翻訳の仕事に面白さを見出したことで身勝手が過ぎていた。そんな長子に英作は嫌気が差しており、親戚の中でも学生時代から付き合いのあった幸楽に入り浸っては、泥酔するまで酒に溺れるのだった。しかし、婿が幸楽で飲み潰れることに節子は苛立つ。五月の肩身が狭くなるのを分かっていたのだ。
一方幸楽では、邦子の暴走がミカの心に影を落し始めていた。邦子はスナックで働き始め、夜遅くに酔って帰ってくるようになった。まだ小学生のミカは寂しがり、勇一家に甘えるようになったが、邦子は勇や五月に文句を言われるのを嫌い、ミカを毎夜のように叱りつけるのだった。ある日、ミカが夜遅くになっても帰ってこなかった。五月から連絡を受けて邦子も帰ってくるが、水商売のことで勇と喧嘩を始めてしまい、家族は最悪の雰囲気になっていた。そして、ミカは一人で帰ってくるが「ほうぼうを歩いていた」と言い張る。勿論それが嘘であるとは大人にも察しがついていたが、ミカはなぜか、意地でも本当のことを言わなかったのだ。その晩、寝床に入ろうとする五月は、ミカから呼び止められ。そしてミカは、五月にだけ本当のことを話した。ミカは、父親である浩介と会っていた。下校途中のミカに、浩介が会いに来たのだった。そして、また会う約束もしたことを聞き、五月は心が締め付けられるような気持ちになるのだった。
岡倉家では、節子が憤慨していた。五月から、英作が酔って「他人の家は居ずらい」「家で満足に夕食もとれない」「これならもう大阪に帰りたい」と言っていたことを伝えられたのだ。節子や大吉は、英作から「私は帰りの時間が分からないので、気にしないで寝てください」と言われており、それを真に受けていた。節子からしたら、怒るのも仕方のないことだったのだ。そしてその日から大吉と節子は、英作が帰ってくるまで、朝まででも待つことに決めた。節子からしたらそれは意地のようだったが、大吉はそれが嬉しいことでもあった。また、大吉は日向子の世話も楽しみにしていた。散歩やミルクをあげることまで、大吉は日向子の面倒を見たがり、それを良いことに長子はどんどん増長していくのだった。そしてある日、遂に英作と長子は大喧嘩してしまう。どうやら、長子の怒りの発端は常子の行動にあるようだった。長子は英作の背広から、英作宛の手紙を見つけた。それは常子から送られてきたもので、「岡倉家が嫌だったらいつでも帰ってこい」という旨の内容が綴られていた。長子は、病院宛てにこそこそと手紙が送られていたこと、自分に内緒で英作が焚きつけられていたことに怒り狂い、英作が陰で常子に文句を言っているのだろう、と言っていたのだ。
野田家では、また嵐が吹き荒れようとし始めていた。東京の野田家でも、いわきでも、色々なことが静かに起こり始めたのだ。まず、弥生の元にあかりの縁談話がやってきた。相手は弁護士で、弥生はお見合いさせることに決めていた。そして、いわきに長逗留しているあかりを呼び出そうとしているのだった。しかし、いわきにいるあかりにも、人生の転機が訪れていた。良の夢を応援するあかりだったが、梨園を見学している中で、近隣で同じく梨園を営む秋葉和夫と知り合う。和夫は秋葉家の2男で兄と姉がいたが、両方が東京で家庭を持ってしまい、母親と2人で梨園を切り盛りしていた。和夫の誠実さ、そして自然を育てる家業に、あかりは惹かれ始めているのだった。
親に頼らず自分の人生を歩んでいた葉子だったが、ある日栄養失調で倒れてしまう。葉子は一級建築士の試験勉強に必死で、食事もろくに取っていなかったというのだ。病院から連絡を受けて駆け付けた大吉夫婦だったが、節子は「葉子に一級建築士の試験は無理ですよ!」と葉子の身を案じて、試験勉強を辞めさせようと心に決める。しかし、太郎と結婚しても女性として自立したいと願う葉子の意志は、固いようだった。
本社に用事があった良が、久々に東京の野田家に帰ってきた。そして遂に、良は会社を辞め、梨園を始める意向を弥生に伝える。勿論、弥生は猛反対する。ハナは、息子のロマンを理解しつつも、それを通したら夫婦が壊れてしまうことを分かっており、良を嗜めるのだった。しかし、唯一あかりだけは良に賛成していた。あかりはおかくらのバイトを辞め、良が工場を整理するまでいわきにいることを決心し、弥生の反対を振り切ってとうとう引っ越してしまうのだった。
そして、幸楽では事が起きてしまう。ミカが新品のカバンを持っていたことで、邦子はミカが万引きをしたのだと思い、ミカを問い詰めていた。五月は「私が買った」と言い、邦子やキミ、勇、そして普段から甘やかされない眞からも責められてしまう。しかし、実はそのカバンは五月が買ったものではなかった。浩介が隠れてミカと会い、プレゼントしたものだろうということに、五月は気が付いていたのだ。咄嗟にミカを庇った五月だが、家族中から叱られて肩身の狭い思いをすることになってしまうのだった。
ある日、長子が日向子を連れておかくらへやってきた。翻訳の仕事で人と会わなくてはならなくなり、日向子を暫らく預かってほしいと言いに来たのだ。節子は怒って追い返そうとするが、日向子が可愛い大吉はそれを快く許し、日向子をおぶりながら仕込みをするのだった。しかし、それが仇になってしまう。おかくらへ常子がやってきてしまったのだ。長子がいないおかくらで、大吉が日向子をおぶっていることに、常子は勿論怒ってしまう。そして、仕事が終わった長子がおかくらへ帰ってくるが、常子の尋問が待っていた。常子は「英作も日向子も、長子さんに大事にしてもらってない」と説教をして、翻訳の仕事を辞めるか別れるか、決めるように言うのだった。
高橋家には、年子のことでまた問題が起きていた。ある日あさまに銀行員がやってきた。銀行員によると「300万の定期を解約すると言って証書を渡したのに、まだお金を持ってこない」と年子から連絡があったと言う。しかし、銀行では誰も証書を預かっていなかったのだ。そして、家に証書があるかどうか確認してほしいと、文子に頼みに来たのだった。そしてその晩、亨に相談する文子だったが、亨はあまり重く受け止めていないようだった。しかし、望のことをよく「亨」と呼んだり、日に日に状況は悪くなっていくのだった。
そんな中、幸楽には悪い一報が届いていた。あこが倒れたと言うのだ。慌てて病院へ行く五月と勇だったが、医者の口から聞かされたのは「流産」という重い一言だった。五月やキミは、「あこがそんなふしだらな子だとは思わなかった」と、ショックを受けるのだった。そして翌日、幸楽へ若い青年がやってきた。どうやらあこを探しているようだった。五月は、あこのお腹にいた子供の父親がこの青年だということを見抜き、あこが入院する病院へ連れていく。早乙女圭吾と名乗る青年は、やはりあこの恋人だった。圭吾はプロの漫画家を目指す夢追い人で、そんな夢に惹かれてあこは圭吾の面倒を見ていたのだ。しかし、圭吾は会社を経営する家の一人息子なようで、漫画家になるために家出をしてきていた。あこと圭吾の関係は、公にはできないものだったのだ。五月はあこを全面的に支持することを決めた。キミは、あこが幸楽に復帰するのを強く反対したが、五月から「邦子さんが幸楽で働いてくれるなら、すぐにでもあこを辞めさせますよ」と言われ、ぐうの音も出ないのだった。
弥生の不安や悩みは、日に日に膨れ上がっていた。悩みの種は勿論、梨園をやると言い出した良と、それを支持するあかりのことだ。節子や他の妹は良の身勝手に呆れるが、良はどんどん話を進めていた。退職金に加えて、東京の家を売ることも視野に入れていたのだ。弥生は、離婚を考えるところまで来ていた。しかし、そんなことを露ほども知らない良とあかりは、いわきで楽しい生活を送っていた。和夫や、良が目を付けていた梨園のオーナー、川田草平に梨作りを教わり、毎夜のように自然の食品で作った料理で、舌鼓を打っていた。夫婦の距離は、離れていく一方なのだった。
長子夫婦も、ぎくしゃくとした関係が続いていた。気の弱い英作は、いつしか岡倉家へ帰るのが苦痛になっており、しょっちゅう幸楽に入り浸るようになっていたのだ。常子や節子は、岡倉家を出て夫婦で生活することを進めていたが、大吉は長子の肩を持っていた。幸楽でも、勇は英作の身を案じて別居を進めるが、五月は長子の事を思ってしまい、英作と岡倉家が上手くやってくれることを願うのだった。
幸楽では、陰で生まれ始めていた嵐の種が吹き荒れようとしていた。深夜、飲みに来た英作を送り出す五月だったが、道の暗がりで邦子が、知らない男と抱き合っているのを見つけてしまったのだ。邦子はスナックでの仕事を始めており、生活リズムは家族と正反対になっていた。キミや勇も心配していたが、その心配が遂に現実のものになってしまったのだ。五月は、自分が見た光景が見間違えであることを願い、キミや勇に伝えることができなかったのだった。しかし、翌日から邦子の態度がみるみる変わっていった。隆やミカが登校する時間、今まで起きても来なかった邦子が、エプロンをして出てきていたのだ。キミや勇には何が何やら理解できなかったが、五月には思うところがあり、どうしようもない不安に襲われるのだった。
勇は、心配事を抱えていた。勿論邦子家族のこともそうだったが、愛も心配の一つだった。あかりは私立の女子中でバレーボール部に入り、部活に熱中していた。勇は、毎晩遅く帰ってくるあかりを心配するが、五月は愛のことを心から信用しており、勇を嗜めるのだった。更に、隆も心配の種になっていた。隆が、何日も進学塾を休んでいることを知ったのだ。眞に聞いても知らないようで、勇や五月は、どうすれば良いのか分からず、邦子やキミにも言えないでいたのだった。しかし勇は、少なくとも母親の邦子にだけは伝えなければいけないと判断し、その夜、遂に隆のことを打ち明けた。やはり邦子は隆を叱りつけるが、そこで隆は心の内を吐露した。隆は受験勉強が原因でいじめを受けており、父親がいないことでも精神が不安定になっていた。邦子は、隆の進学に心血を注いでいたこともあり、ショックを受けてしまう。そしてこの出来事をきっかけに、邦子の内に芽生え始めていた気持ちが固まり始めていることに、未だ家族は気付かないのだった。
5月29日、五月の誕生日がやってきた。岡倉家では節子だけが覚えており、朝一でお祝いの電話をする。幸楽では、眞や愛も五月の誕生日など、ころっと忘れているようだった。毎年欠かさずプレゼントを買っていた子供たちも、それぞれが自分の世界を持ち始めていたのだ。しかしこの年、もう一人だけ五月の誕生日を覚えている人間がいた。ミカだ。小さいバースデーケーキを抱えて五月の誕生日を祝うミカを、五月は泣いて抱きしめる。それを目の前で見た眞や愛は、ショックで自分たちを責めるのだった。しかし、この日の出来事は、実は次なる大事件への導火線だった。五月はミカに、自分の誕生日を教えた覚えなど無いのだ。五月には、誰がミカに自身の誕生日を教えたか、察しがついていた。そしてそれは、口が裂けても言えない事実だった。しかし、ケーキを買ったお金の出所を不審に思った邦子はミカを問い詰め、遂にミカが父親と会っていたことを知ってしまう。そしてその日の夜中、五月はキミと邦子に呼び出される。五月がミカと父親のことを隠していたのが、露見してしまったのだ。キミは怒っていたが、邦子は思いのほか冷静だった。それが、幸楽に襲い掛かる嵐の前兆であることに、五月は気付き始めていたのだった。ミカは父親である浩介と次に会う日も決めていたが、邦子はそれを快く許した。それを知った隆も父親と会いたがり、兄妹で会いに行くことになる。
小料理屋おかくらには、怪訝な話が立て続けに入ってくる。その日、まずは眞がやってきて、1万円を貸してくれと言い出したのだ。節子は理由を聞くが、眞は夏休みに幸楽でバイトして返す、の一点張りで、理由を話そうとしない。しかし大吉は、眞はお金を借りてろくなことに使う子ではないと言い切り、快く貸してしまうのだった。次に、文子がやってきた。そして節子にとっては、眞のことよりも文子が持ってきた話題の方が心配の種になった。文子は、政子の会社、山口商事が倒産しそうだと聞きつけてきたのだ。大吉は噂話だと笑い飛ばすが、節子は太郎と葉子のことが心配になり、葉子のマンションへと赴くのだった。しかし、葉子は山口商事の傾きを知っており、その上で一級建築士の勉強に勤しんでいた。忙しいから、と早々に追い出されてしまう節子だったが、心配は尽きないのだった。
幸楽では、五月が大きな不安を抱えていた。昼間に文子から連絡が入り、眞が大吉から1万円を借りたことを知ったのだ。しかし時を同じくして、五月の心配を余所に、眞は楽しい時間を過ごしていた。その日、幸楽には五月の知り合いとして圭吾が遊びに来ており、手品を披露する圭吾に早速、眞とミカは懐いていたのだ。1万円のことで不安を抱えていた五月にとって、1日で眞を懐かせてしまった圭吾を心強く思うのだった。
文子は、また年子のことで頭を抱えていた。その日、年子は古い友人に会いに行くと言って家を出ていた。しかし帰ってきたとき、傍らには警察官がいたのだ。年子が会いに行くと言っていた友人は、10年も前に亡くなっており、現在の住人に通報されていた。その友人から遊びに来るように手紙をもらったという年子だったが、勿論その手紙も、何十年も前のものだった。文子の不安は、確信に変わっていた。そして、亨に相談する文子だったが、亨は年子の異変を、どうしても受け入れられないようだった。
五月の不安は、未だ続いていた。眞が大吉から借りたという1万円が、どうしても気がかりだったのだ。しかしその心配は、無駄に終わった。眞は、高いブラウスを買って五月の誕生日として渡してきたのだ。又、キミや愛もプレゼントを用意してきており、五月は自身の幸せを噛みしめるのだった。しかし、小島家に満ちた幸せな雰囲気は長持ちしなかった。その日、隆とミカが浩介と会う約束をしていた日だったが、帰ってきた2人は泣いていたのだ。隆によれば、待ち合わせのレストランで何時間待っても、浩介は現れなかったという。翌日、浩介から隆とミカ宛に、手紙が届いた。そこには、もう二度と会えないという旨の事が書かれていたのだった。

第11回~第20回

五月は、隆とミカ宛に届いた浩介からの手紙を怪訝に思っていた。今更もう会えないと言い出すくらいなら、なぜミカと会ったのかと思っていたのだ。しかし、その理由はすぐに分かることになる。裏で、邦子が手を回していたのだ。邦子は、もう二度と子供たちに近づかないよう、浩介に釘を刺していた。更に邦子は「素敵な父親が出来たら、子供たちも浩介のことを忘れられるわよ」と言い出し、キミや五月を不安にさせるのだった。
長子と英作夫婦は、徐々に良い傾向へ向かっていた。これは偏に、節子の決断が功をなしたことによる。節子は、もう一切長子夫婦の面倒は見ないと宣言したのだ。長子は、翻訳の仕事を大切にしつつも、英作のことを大切にするようになっていった。節子夫妻と英作の間で板挟みになることで、長子自身も疲れ始めていたのだ。勿論、翻訳の仕事をしている分長子の家事は粗末な面があったが、英作は長子の気持ちを嬉しく思い、離れつつあった夫婦の愛情も、また深まり始めていたのだ。節子もほっと一息ついていたが、唯一、日向子の面倒も見れなくなり、英作にも構えなくなった大吉だけは、あまり面白くないようだった。
文子が抱えている問題は、遂に悪い方向へ加速を迎え始めていた。その日、仕事を終えて家に帰った文子は、年子から物を投げつけられ追い出されてしまうのだ。年子は「あなたは誰!?警察を呼ぶわよ!!」と怒鳴っていた。そして文子は、亨を説得して年子を病院へ連れて行こうと、心に決めるのだった。
東京に、良とあかりがやってきた。梨園の件で弥生を説得しようと、まっすぐ弥生の勤めるレストラン、ラ・メールへ行く2人だったが、満席で忙しいとけんもほろろに追い返されてしまう。そしてその晩、良とあかりは家で弥生の帰りを待つが、やはり2人と帰ってきた弥生は、早々に喧嘩をしてしまう。良も弥生も、お互いの意見を頑として貫いて譲ろうともしなかったのだ。それに、良夫婦の間には、別の揉め事も生まれていた。大学受験を控えた武志が、大学に行きたくないと言い出したのだ。そんなことはとんでもないと猛反対する弥生だったが、サラリーマンの空しさを身をもって味わっていた良は、武志に好きなことをさせたいと思い始めていたのだ。このことでも夫婦の考え方の違いは埋まらず、解決の目途は立たないのだった。
長子夫婦は相変わらずうまく行っていたが、また問題が起きてしまう。その日英作は仕事が休みで、長子の代わりに英作が掃除をしていた。英作は女房孝行だと言い、特に不満は持っていなかった。しかし、そこへ常子がやってくる。常子は、仕事が休みの日に息子がこき使われていると嘆き、英作を連れて外へ食事に出てしまう。しかし、それがきっかけで長子の人生は大きく揺れ動くのだった。戻ってきた常子は、英作夫婦が住むマンションを見繕い、勝手に手付を打ってきてしまったのだ。常子の強引な姿勢に憤慨する長子と大吉だったが、節子は「長子は本間家の嫁だから私たちは何も言えない」と常子の肩を持つのだった。
時を同じくして、邦子が小島家へ男を連れてくる。男は立石一茂と名乗り、その日邦子や隆、ミカを連れて遊園地へ行っていたという。邦子は、一茂を結婚を申し込まれている男性と紹介し、キミや勇を驚かせるのだった。しかし、五月にはさほどの驚きも無かった。いつかの深夜、五月が目撃した邦子を抱く男性は、確かに一茂だったからだ。ミカは一茂に懐いているようだったが、隆はすぐには受け入れられないようだった。邦子が一茂に抱く感情を、子供なりに感づいていたのだ。五月も、どうしても不安を拭えないでいた。そしてその不安は翌日の朝、早々に当たってしまうのだ。勇が一茂について邦子を問いただすと、一茂が既婚者であることが発覚したのだ。一茂は、自分の体が原因で今の妻との間に子供が出来ず、夫婦の間も冷め切っているようだった。しかし子供好きな一茂は、子供のいる家庭への憧れを捨てきれずにおり、邦子との結婚を考えていたのだ。キミは、不倫へ走ろうとする娘が許せず、気を落してしまうのだった。
いわきでは、遂に良が現実的な決断を決める。梨園を諦め、会社から指示された子会社へ出向することにしたのだ。武志はまだ高校生でこれからお金がかかるという時に、身勝手なことは出来ないと観念したのだった。しかし、あかりはどうしても諦めがつかないようだった。良と一緒に東京へ帰れば、弥生が見つけてきた縁談が待っていることはまず間違いなかった。あかりがいわきを出たくないことには、少なからず和夫の存在があったのだった。
文子には、遂に事が起こってしまう。文子の携帯に望から電話が掛かってきて、すぐに帰ってきてと泣きじゃくるのだ。慌てて家に戻った文子の目に映ったのは、紐で縛り上げられた望の姿だった。望によれば、年子からお金を盗んだと叱られ、お仕置きとして縛られたと言う。文子にとっては、もう看過できる事態では無かった。相談された亨は、それでも気のせいだと言い張るが、この日、亨は遂に目の前で、文子が年子から「誰よこの女!」と責められているのを目の当たりにし、年子を病院へ連れていくことを決断するのだった。亨は翌日、年子の好きな歌舞伎を見に行くと嘘を付き、英作が勤める病院へと赴いた。医者の診断は、案の定アルツハイマーだというものだった。アルツハイマーに明確な治療法は無く、亨夫婦は今後の事を考えないわけにはいかないのだった。
英作夫婦の引っ越し日当日、常子が岡倉家へやってきた。引っ越し業者まで手配していた常子だったが、長子は業者を追い返して、常子に「今やっている翻訳の仕事が終わるまで引っ越しはしません」と啖呵を切る。何でもかんでも勝手に決めてしまう常子に、長子は嫌気が差していたのだ。常子は怒って帰ってしまい、仕事を終えて帰宅した英作もおろおろするが、長子は後悔などしていない様子だった。今自分の意志をはっきりしておかないと、一生常子の好き勝手にされてしまうと思っていたからだ。長子と常子、どちらの肩を持つこともできない英作は、行き場所を無くし、また酔いつぶれて幸楽へ行くことになるのだった。翌日、英作がいなくなったことで、常子が岡倉家へ怒鳴り込んでくるが、大吉の怒りも爆発し、常子と大吉は一触即発の大喧嘩をしてしまうのだった。時を同じくして、英作は幸楽の近所にあるカフェにいた。嫁姑問題について、勇に相談していたのだ。同じような嫁姑問題を味わってきた勇は、最終的には嫁の肩を持つのが正解だとアドバイスし、英作はそのまま岡倉家へ帰ることを決めた。英作夫婦は別れさせると息巻いていた大吉だったが、平謝りをする英作、そして英作とは別れないと言い切る長子の姿勢に、何も言えなくなるのだった。
長子は常子や英作との喧嘩を経て引っ越しの決意を固め、大吉は心底落ち込んでしまう。しかし、静かに落ち込み続けることすら、大吉には適わなかった。葉子が受ける、一級建築士の試験日が近づいていたのだ。更に、山口商事の倒産話も大吉にとっては悩みの種だった。経営が傾いている山口商事では、どうやら小料理おかくらの入ったビルも維持費が滞っているようだったのだ。
遂に、長子と英作が岡倉家を出て行った。英作夫婦がお互いを理解した上での引っ越しだった。英作夫婦が新居へ行くと、既に常子がやってきており掃除をしていた。常子は、最終的には思い通りになったことで上機嫌だったが、早速嫁姑の問題が起きてしまう。長子が常子に対して「お金は出さなくていいから口も出してほしくない」と言い出したのだ。常子は怒り狂い「もう二度と来ない!」と大阪へ帰ってしまう。長子からしたら当たり前の主張をしたわけだが、常子にとっては嫁の行き過ぎた暴言だったのだった。一方、節子や大吉、弥生も長子を心配し、英作夫婦の新居へ赴く。その頃には常子が帰った後で、長子は至極上機嫌なのだった。
いわきでは、あかりの人生のターニングポイントが刻一刻と迫っていた。あかりは一日中和夫の梨園に入り浸り、仕事を手伝っていた。良は既に梨園を諦めていたが、あかりは梨作りをやりたいという夢を捨てきれずにいたのだ。良が東京へ帰っても自分はここに残りたいと言うあかりだったが、和夫は猛反対する。都会育ちのあかりに梨作りは無理だと考えていたからだ。しかし、あかりの決意はどうにも揺らぐことはないようだった。
幸楽では、眞がいじけてしまっていた。隆とミカが夏休み、邦子や一茂とハワイに行くことになったからだ。そんな中、ミカが一茂を引き連れて眞の元を訪れる。一茂は、眞もハワイへ連れていくと快く約束し、眞は大喜びするのだった。しかし、直後に五月が邦子から呼び出される。邦子は「眞ちゃんはハワイに連れていけない」と言い出した。邦子は、このハワイ旅行で子供たちと一茂との仲を深め、本当の家族になるきっかけを作ろうとしており、眞に付いてこられては邪魔だったのだ。五月は、ハワイ行きが無くなったことをおおはしゃぎする眞に伝えることが出来ず、頭を抱えるのだった。そして五月は、圭吾を頼ることにした。圭吾はそれを快く引き受け、幸楽へやってくる。圭吾は眞に「お父さんとお母さんは毎日一生懸命働いてるのに、親も行ったことのないところへ行くなんて、僕ならタダでも抵抗あるなあ」と言い、それは眞の心に響いているようだった。そしてその晩、眞は五月にハワイ行きを諦めると言い出した。「夏休みはお店で働く方がよっぽど楽しい」という眞を五月は誇らしく思うのだった。
文子夫婦は、アルツハイマーを患った年子のことで頭を抱えていた。そんな中、年子が病院に運ばれたという連絡が入る。年子は転んで方々を擦りむいているようで、足首を捻挫していた。あさばの運営で忙しい文子夫婦にとって、年子を自宅で看病するのには無理があったのだ。しかし、回復の見込みが無いアルツハイマー患者の年子は入院をすることもできず、皺寄せは全て文子にくるのだった。
一方あかりは、遂に自分の胸の内を和夫の母親、満枝に打ち明けていた。和夫は断固として反対していた為、満枝しか頼れる人間がいなかったのだ。また、翌日には弥生が迎えに来ると言っており、あかりは焦っていた。満枝はそんなあかりの固い意志を汲み取り、自分たち秋葉の家に、あかりを使用人として置くことを決めるのだった。そして翌日、弥生がいわきへやってきた。弥生は、あかりがいわきへ残るのを猛反対するが、良はあかりの肩を持つ。弥生は狼狽し大吉夫婦をいわきまで呼びつけるが、大吉夫婦もまた、あかりのやりたいことがいわきにあるなら好きなようにすれば良いと考えていた。とにかく、弥生と大吉夫婦は秋葉家へ赴き、話を聞くことにする。そこで弥生は、あかりの滞在を断るように満枝に頼み込むが、満枝は「今東京へ帰っても、あかりさんはずっと後悔が残るのではないでしょうか」と諭し、弥生は遂に諦めるのだった。
あかりの事が一段落つき、胸を撫で下ろして家へ帰る大吉夫婦だったが、岡倉家には弥生以外の4姉妹が揃っていた。何の連絡も無く店を休んで行方知れずになった大吉と節子を心配していたのだ。娘たちから「連絡くらいして!」と怒られる大吉夫妻だったが、節子は自分たちを心底心配していた娘たちの気持ちに感動し、夜遅くまでお酒を飲み、酔いしれるのだった。しかし、このことで不幸に見舞われる娘もいた。長子だ。長子が家に帰ると、しかめ面の常子が待っていた。常子は、夕飯の支度もせずに里帰りをした長子に激怒するが、またもや長子はそれに反論を始める。そして常子は、こんどこそ英作と長子を別れさせると息巻くのだった。しかし翌日、一晩頭を冷やした常子は長子夫婦のやり方に根負けし、長子と和解するのだった。

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