人魚シリーズ(人魚の森・人魚の傷・夜叉の瞳)のネタバレ解説・考察まとめ
『人魚シリーズ』とは、高橋留美子が1984年から『週刊少年サンデー』で不定期連載していた、人魚の肉を巡る不老不死をテーマにした漫画作品の総称、およびそれを原作としたOVA、テレビアニメ、小説、ラジオドラマ作品である。人魚の肉を食べたことにより不老不死の体になった漁師の湧太。約500年間、普通の人間に戻るための方法を探し旅をしていた彼は、人魚に育てられた少女・真魚と出会う。人魚伝説の永遠の命・若さに翻弄されていく人間の愚かさや、強欲にとらわれた人々の悲哀が描かれたシリアスな作品である。
『人魚シリーズ』の概要
『人魚シリーズ』とは、高橋留美子による人魚の肉を巡る不老不死をテーマにした短編漫画作品及び、それを原作としたアニメ、ラジオドラマ、小説などの総称である。
小学館から『人魚の森』、『人魚の傷』、『夜叉の瞳』の3冊が刊行されている。
1984年より『週刊少年サンデー』や、『週刊少年サンデー増刊号』で不定期掲載されていた。
世間一般には、『うる星やつら』や 『らんま1/2』などのギャグ作品や、『めぞん一刻』などのラブコメのイメージで知られる高橋留美子作品のなかでは、かなりシリアスな作品である。
1989年に野口五郎主演でラジオドラマ化され、1994年には金春智子による小説版が2巻刊行されている。1991年からは3度にわたりアニメ化されている。
第20回星雲賞コミック部門受賞作品である。
好奇心で人魚の肉を食べた漁師の湧太(ゆうた)と、同じく人魚の肉を食べさせられ不老不死になった少女・真魚(まな)が永遠に続く「死ねない」旅を共にする中で、永遠の命の人魚伝説に翻弄された人たちに出会う。
人魚の肉を食べたものの不老不死になるどころか、浅ましい化け物の姿「なりそこない」になる者や、双子の妹に人魚の生き血を飲まされた復讐心を抱え何十年も生きてきた姉、人魚の灰の力で生き返ったために魂もない悪鬼に変わり果てた女や、海辺の街で母親から持たされた謎の粉薬を飲む少年。
彼らは欲望に振り回され、人生を狂わせていく。
この物語は「永遠に行き続けることの苦悩」や「不老不死を求める人間の愚かさ」などがテーマとなっている。この作品に出てくる人魚は醜悪な化け物として描かれており、バッドエンドやしこりが残るような終わり方が多い。
『人魚シリーズ』のあらすじ・ストーリー
人魚は笑わない
今から500年前の戦国時代。漁師の湧太は、浜に流れ着いた人魚を見つけて、興味本位で仲間と共にこれを食べてしまう。すると仲間たちは次々に死んでしまい、湧太だけが生き残り、同時に不老不死の存在となっていた。
人魚の肉は人間にとっては猛毒であり、食べた者は命を落とすか、「なりそこない」と呼ばれる自我も人としての姿も失った怪物に成り果てるかが常である。しかし数百年に1人程度の割合で、人魚の毒に耐性のある人間が生まれることがあり、湧太はたまたまその素質を持ち合わせていたのだった。
望まぬ不死を得た湧太は、親しい者たちにことごとく先立たれ、孤独に苛まれるようになる。自分を元の人間に戻す術を、普通に老いて死ぬことのできる体を求めて、湧太は長い旅に出る。
時は流れて現代。死を求めて旅を続けていた湧太は、「人魚の里」と呼ばれる村を訪れる。そこで出会った少女・真魚(まな)は、村に住む人魚たちに騙されて人魚の肉を食わされ、自分でも知らないまま不老不死の存在となっていた。
人魚は若さを保つために、人魚の肉を食べて不老不死となった人間を食べなければならず、真魚はそのために幼い頃に連れ去られてきたのだった。危ういところで湧太は真魚を助け出し、彼女と共に村を脱出する。
しかし、真魚を取り返そうと追ってきた人魚から、湧太は衝撃的な話を聞かされる。人魚の里に住む人魚たちは、湧太と同様に人魚の肉を食べた者の成れの果てで、不老不死の呪縛から逃れる術などないというのだ。彼女たちの醜悪な姿と精神性こそが、“不老不死に疲れ果てた者たちの行く末”であることを物語っていた。
衝撃を受ける湧太だったが、あまりに長く生きたため、絶望で歩みを止めてしまうほどの情動は彼の中に残っていなかった。真魚の奪還を諦めた人魚たちが里に戻っていく一方、湧太は真魚という同行者を得て、新たな旅へと赴いていく。
闘魚の里
時は戦国、湧太が人間に戻る術を求めて故郷を旅立ち、まだ間もない頃のこと。旅の中で鱗(りん)という少女と出会い、親しくなった湧太は、海賊の頭領をしている彼女の父親が、病で命尽きようとしていることを知る。父親を助けるために人魚の肉を探し求める鱗に協力する湧太だったが、鱗たちとは敵対関係にある海賊・逆髪衆の妨害を受ける。
人魚の肉を奪われた上に槍で刺されて海に沈むも、自身の不死性を発揮して陸に戻り、逆髪衆に連れ去られた鱗を救出する湧太。ようやく見つけた人魚の肉は逆髪衆の海賊たちに食べられてしまうも、わずかな例外を除き人間にとって猛毒であるそれを口にした者たちは次々に倒れ、あるいはなりそこないと化していく。実は逆髪衆の頭領の妻である砂(いさご)もまた人魚であり、逆髪衆の海賊たちを不老不死にした上で食べることで、自分の腹の中にいる子供の滋養にしようと企んでいたのだった。
ギリギリで自我を保った逆髪衆の頭領は、砂の裏切りに激昂して彼女に襲い掛かる。これをかわして海に飛び込むと、砂は人魚としての姿を露わにしていずこかへと去っていく。
なりそこないとなった逆髪衆の海賊たちや、それを利用しようとした砂のような怪物と、今の自分は大して変わらない存在なのだ。そう痛感させられた湧太は、思い通わせた鱗と別れ、再び人間に戻る術を求めて旅立つのだった。
人魚の森
旅の途中で事故に遭った真魚は、診察した椎名(しいな)という医師の手配で神無木(かんなぎ)家という場所に運び込まれる。そこには佐和(さわ)という老女と登和(とわ)という少女が暮らしていたが、実はこの2人は双子だった。
若い頃に永遠の美貌を欲した佐和は、不治の病に侵されていた登和を騙して人魚の血を飲ませ、自身が不老不死となるための実験台にしていた。登和は不老の存在となるも右腕だけが“なりそこない”と化し、これを見た佐和は自身が不死を得ることを断念。以後、登和は座敷牢に囚われたまま長い時を生きてきたのだ。
登和は自分を騙して利用した佐和への復讐を目論み、人魚の肉を食わせることで彼女から“人としての死”を奪おうとしていた。かつて婚約者だった椎名に命じて真魚を運び込ませたのも、人魚の肉を手に入れるのが目的だった。
真魚を探してやってきた湧太をも利用して、ついに人魚の肉を手に入れた登和だったが、それを食べさせる直前に佐和は息を引き取る。復讐を遂げられなかったことに絶望した登和は、神無木家に伝わる人魚関連の品を全て燃やすよう湧太たちに依頼し、自身も炎の中に身を投じる。
夢の終わり
ある時、真魚は大眼(おおまなこ)というなりそこないと出会う。大眼はなりそこないであるにも関わらず自我を保っており、自分と同じ不老不死の存在である真魚を気に入って彼女を連れ去る。
しかし、大眼は時折り理性を失い、完全な怪物と化すことがあった。これを知った湧太は、大眼を討伐しようとするマタギの老人と共に、真魚を取り返すために大眼の住み家へと乗り込む。
愛する真魚を奪われ、マタギの老人に追い詰められ、完全に怪物と化して暴れる大眼。湧太によってトドメを刺された大眼は、最後に真魚の名を呼び、ただ彼女に側にいてほしいと願う。真魚はこれに応じ、息絶えようとしている大眼の傍らで、「ここにいる」と語り掛けるのだった。
約束の明日
真魚と共に旅を続けていた湧太は、木暮苗(こぐれ なえ)という女性の墓参りをする。苗は60年前に湧太と恋仲だった女性で、彼と駆け落ちすることまで考えていたが、これを拒絶された後に死亡したという。しかしそこで再会した草吉(そうきち)という苗のかつての従者から、「苗は60年前の姿のままで生きている」と告げられる。
実際に苗は湧太と別れた頃の若々しい姿で彼らの前に現れるが、当時のことをまるで覚えておらず、それどころか次々に人を襲う殺人鬼となっていた。実は彼女は湧太との関係に嫉妬した婚約者の英二郎(えいじろう)に殺されており、60年の時を経て人魚の灰によってそれを蘇らせたのが今の姿だった。性格の豹変もその副作用なのだ。
湧太や真魚との交流の中で、苗は生前の記憶を徐々に取り戻し、それを辿るように駆け落ちのために落ち合う予定だった谷へと向かう。しかし人魚の灰によって蘇ったものは、その力が尽きると共に元の死体に戻るのが定めだった。それを知って谷に先回りした湧太の腕の中で、苗は「あなたがここに来てくれない怖い夢を見た」と語りながら、2度目の死を迎えるのだった。
人魚の傷
奇妙な死体が上がったという噂を聞いて、とある街を訪れた湧太と真魚は、2年前に電車で顔を合わせた母子と再会。この息子の方がまったく外見が成長していないことから、人魚の肉を食べた人間なのではないかと訝しむ。
果たしてそれは当たっており、彼は子供の頃に人魚の肉を食べて不老不死となった真人(まさと)という人物で、800年もの時を生きていた。子供の姿のまま成長できない真人は、社会の中で生きていくために大人の庇護を必要としており、そのために人間の女性を騙して人魚の肉を食べさせては母親役を務めさせることを繰り返していた。
今の母親役である美沙(みさ)は、人魚の肉の力が切れかかっており、真人が次の母親役を作り出すことを止めようとしていた。この時真人は雪枝(ゆきえ)という家政婦の女性を次の母親役として目を付けていたが、人魚の肉を食わせたところなりそこないとなってしまい、すでに不老不死の存在として完成している真魚に標的を変える。
しかし真魚を取り返そうとする湧太と、その湧太を必死に守ろうとする真魚の姿を見て、偽りの形ではあっても今までで一番長く“母子”の関係を続けてきた美沙のことを思う。もう少し彼女と生きていこうと考え直す真人だったが、雪枝によって致命傷を負わされ、人魚の肉の効力も尽きた美沙はすでに事切れていた。涙と共に街を後にした真人もまた、凄惨な交通事故に遭って生死不明となる。
舎利姫
江戸時代。1人で旅を続けていた湧太は、法師に殺されそうになっていたなつめという少女を助ける。なつめは彼女が“おとう”と呼ぶ男と見世物小屋をしており、そこで「人魚の肉」と称するものを売って生活していた。その際、なつめが自分の腕を切り、これが見る見る内に治る様を見せつけるのが繁盛の秘訣である。
そのなつめは、実はすでに死んでおり、法師が人魚の生き胆を使って疑似的に蘇生させたに過ぎない存在だった。法師からそれを説明された湧太は、元の死体に戻してやるのが本当の幸せだという彼の話に納得し、そのための準備が整うまでなつめを見張る役を任される。
しかし無邪気ななつめを見守る内に、死なせることが忍びなくなった湧太は、一緒に旅に出ようと彼女を誘う。なつめはこれを喜ぶも、湧太の正体を知ったおとうが「商いに使える」と彼を襲う。守る者のいなくなったなつめの前には準備を整えた法師が現れ、彼女から人魚の生き胆を抜き取ってしまう。
死体へと戻っていく娘を救う方法がないことを悟ったおとうは、彼女を抱えたまま崖に身を投じる。なつめの体から人魚の生き胆の効力が完全に失われる最後の瞬間まで、湧太は彼女の傍らで見守り続けるのだった。
夜叉の瞳
明治時代、湧太は鬼柳(きりゅう)という名家で働いていた。そこの長男である新吾(しんご)は生来嗜虐的な性癖を持ち、それを庇ってくれる姉の晶子に強く依存するようになる。その晶子が結婚することになった際、新吾は彼女の婚約者を毒殺。自分が甘やかしてきたせいだと後悔した晶子は、人魚の肉を使って新吾と共に心中して果てた。
時流れて現代、真魚と共に旅を続ける中で「鬼柳家に正体不明の若い娘と、何度殺しても蘇ってくる男が現れた」という話を聞いた湧太は、かつての職場を訪れる。蘇ってくる男というのは、人魚の肉に適合して不老不死を得た新吾で、正体不明の若い娘は中途半端に不老不死を得て仮死状態のままとなっている晶子のことだった。
かつて晶子に潰された右目に、彼女自身の目を移植した新吾は、そこに残る“晶子から見た自分が彼女自身を襲う姿”に悩まされていた。新吾は仮死状態の晶子を殺せばこの幻影も帰ると考えていたが、その前にかつて憧れていた晶子の変わり果てた姿に絶望した湧太が彼女の首を切り落とす。
こうして晶子は完全な死を迎えるも、なお自分の右目の中の幻影が消えないことに絶望した新吾は、自らの首を落として自身に決着をつけるのだった。
最後の顔
旅の最中、湧太と真魚は七生(ななお)という少年と出会う。七生は「知らない男に連れ去られそうになり、車から飛び降りた」らしく、体のあちこちに怪我をしていたが、母親からもらったという薬を飲むと、それが見る見る内に回復する。
実はこれは人魚の肉を粉末にしたもので、七生が“母親”だと認識しているのは彼の祖母にあたる女性だった。彼女はかつて夫と離婚した際に親権を奪われ、悲嘆のあまり息子と無理心中しようと人魚の肉を食べて不老不死の存在になっていた。息子は途中で肉を吐き出したために普通の人間として育ち、大人になって子を成した。これを知り、自分の孫に当たる赤ん坊を拉致すると、以降は自分の子供ということにして育てていたのである。七生に人魚の肉の粉末を飲ませているのも、そうやって体を慣れさせていずれ不老不死の存在にするためだった。
これを知った湧太と真魚は、不老不死になったところで七生が不幸になるだけだとして、彼女の計画を阻止。自分の思い描く理想の家族のために息子を犠牲にするなど母親のやることではないと諭された彼女は、七生を自分の息子の下へと返し、自身は焼身自殺を図る。
本当の父親と暮らすことになった七生と別れの挨拶をすませると、湧太と真魚は再びあてのない旅へと赴くのだった。
『人魚シリーズ』の登場人物・キャラクター
主要人物
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目次 - Contents
- 『人魚シリーズ』の概要
- 『人魚シリーズ』のあらすじ・ストーリー
- 人魚は笑わない
- 闘魚の里
- 人魚の森
- 夢の終わり
- 約束の明日
- 人魚の傷
- 舎利姫
- 夜叉の瞳
- 最後の顔
- 『人魚シリーズ』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 湧太(ゆうた)
- 真魚(まな)
- 人魚は笑わない
- おばば
- 鮎(あゆ)
- 鰍(かじか)
- 闘魚の里
- 鱗(りん)
- 砂(いさご)
- 鱗の父
- 逆髪衆の頭(さかがみしゅうのかしら)
- 人魚の森
- 神無木登和(かんなぎとわ)
- 神無木佐和(かんなぎ さわ)
- 椎名(しいな)
- 夢の終わり
- 大眼(おおまなこ)
- 約束の明日
- 苗(なえ)
- 英二郎(えいじろう)
- 草吉(そうきち)
- 人魚の傷
- 真人(まさと)
- 美沙(みさ)
- 雪枝(ゆきえ)
- 舎利姫
- なつめ
- おとう
- 法師(ほうし)
- 夜叉の瞳
- 鬼柳新吾(きりゅう しんご)
- 鬼柳晶子(きりゅう あきこ)
- 鬼柳未亡人(きりゅうみぼうじん)
- 杉子(すぎこ)
- 最後の顔
- 七生(ななお)
- 七生の母親
- 七生の祖母
- 七生の父親
- 『人魚シリーズ』の用語
- 人魚
- 人魚の肉
- なりそこない
- 『人魚シリーズ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 湧太「あきるまで生きてみるってのも、悪くはねえよなあ」
- 湧太「生きることも死ぬことも一緒にしてやれなかった」
- 真魚「ずっとずっと、ずーっと探すぞ」
- 真魚「ここにいる ゆっくり眠れ」
- 真魚「湧太が生きてるんだって思ったら嬉しくって涙が出た」
- 真人「おれたちみたいのがいちいち人を好きになってちゃ、たまらねえじゃねえか…」
- 『人魚シリーズ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- R指定表現
- 「人魚シリーズ」の呼称について
- 『人魚シリーズ』の主題歌・挿入歌
- 人魚の森(OVA)
- 挿入歌:広谷順子「時の漂白」
- ED(エンディング):深津絵里「森を抜けて-Born to love you-」
- 人魚の傷(OVA)
- 挿入歌:新居昭乃「永遠の涙」
- ED(エンディング):持田真樹「Beads of Tears」
- テレビアニメ『高橋留美子劇場 人魚の森』
- OP(オープニング):石川知亜紀「Like an Angel」
- ED(エンディング):kayoko「水たまり」