Shall we ダンス?(Shall We Dance?)のネタバレ解説・考察まとめ

『Shall we ダンス?』とは、周防正行監督・脚本による1996年製作の日本映画。社交ダンス教室を舞台としたハートフルコメディ。日本アカデミー賞独占をはじめとして数々の映画賞に輝き、海外においても19ヵ国で公開され高い評価を得た。平凡な中年サラリーマンの男性が、電車のホームから見かけた社交ダンス教室の美女に魅せられダンスを習い始め、ダンスをきっかけに見失っていた自分自身や生きる情熱を取り戻していく姿を描く。

『Shall we ダンス?』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ダンサー・青木の登場シーンは大爆笑シーン

正平が岸川ダンス教室に入門してから数日後、憧れのダンサーであるトニー・バーンズになりきった青木が長髪のカツラを着けて若い女性ダンサーと教室で踊っている。そこへグループレッスンを受けに来た正平が入って来てニコニコとその様子を見ている。正平は青木がカツラを着けているため同僚だと気付いていないのだが、青木が正平に気付いて仰天する。動揺した青木はぎこちなく踊りながら横でレッスンしていた豊子にぶつかってしまい彼女に怒鳴られ、挙句にカツラをむしり取られてしまう。そこで正平は彼が青木だと初めて気付くのだった。

正平と青木は同じ会社の社員で顔見知りだが、お互いに社交ダンスを習っていることを知らない。青木の場合、冒頭の会社でのシーンで変な動きをして歩く姿がダンスを習っていることへの伏線となっている。本作の主人公である正平と性格や動きなどが全く対照的に描かれるダンサー・青木の登場シーンは大いに笑える名シーンだ。

「教室はダンスホールじゃありません!不純な気持ちでダンスを踊って欲しくないんです!」

徐々にダンス教室に馴染んでいった正平は、ある日、たま子先生がお休みで代わりに舞から直接グループレッスンを受けた。その帰り道、駅のホームまで行くが、急に思い立ったように教室の前まで戻り舞を待ち伏せする。そして出て来た舞に声を掛け彼女を食事に誘おうとする。だが、彼女からあっさり断られ正平はショックを隠せない。そこへ釘を刺すように強い口調で言った舞の言葉。

正平は、舞目当てで岸川ダンス教室に入門したため、たま子先生のレッスン中もよく舞のことを見ていた。舞も時々正平の視線を気にしていて、彼が自分目当てであることに気付いていた。それで安易な食事の誘いが舞には不真面目だと思われてしまい、正平への怒りが爆発してしまった。普通ならそこで落ち込みダンスを辞めそうなものだが、正平はこの後ますますダンスに打ち込み始める。正平の顔つきがガラッと変わるきっかけとなるシーンであり、本編中最も重要なシーンとなっている。

「なるほど…知らぬは本人だけか…」

ダンスに打ち込み始め、メキメキ上手くなってきた正平に、会社のトイレで青木が「そんなに姿勢が良いとすぐにバレちゃいますよ」と声を掛ける。青木は「駅で傘を振っているゴルフ好きの人と一緒で、知らず知らず駅でステップを踏んでいるかもしれない」と正平に忠告すると、笑いながら否定する正平。「知らぬは本人だけなんてことがあるんですよ、それだけハマっているってことです」と正平に言いながらトイレを出て行く青木が相変わらず変なステップで廊下を歩き出す。その姿を見て呟いた正平の言葉。

正平と青木が会社の中でダンスの話をするのは誰もいないトイレの中。本編中3回ほどトイレのシーンがあるがその最初のシーンであり、正平に忠告しておきながら青木自身にダンスのクセがバリバリに出てしまうという大爆笑ブラックジョークが冴える、印象深い名シーンとなっている。

「杉山さん!ダンスはステップじゃないわ!音楽を体で感じて楽しく踊ればそれでいいの!」

青木に誘われ初めて行ったダンスホールで、正平はそこでアルバイトをしているというたま子先生に声を掛けられる。「相手を探しましょうか?」というたま子先生に正平は「ステップを確認したいからたま子先生と踊りたい」と言う。彼の真面目さに呆れるも一緒に踊り出すと曲が『Shall We Dance?』に変わる。たま子先生はダンスを始めたきっかけが映画『王様と私』を観て感動したからだと言い、そのステップを真似して正平を相手に楽しそうに踊り出す。そのシーンに被るたま子先生のオフのセリフ。

『Shall We Dance?』の曲が流れ、映画『王様と私』の思い出話をするたま子先生が、教室のたま子先生とはまるで別人のように若々しい姿で正平と踊る。
映画『王様と私』のユル・ブリンナーとデボラ・カーのダンスを彷彿とさせるシーンであり、製作者の『王様と私』へのオマージュともいえる名シーンとなっている。

ダンスコンテストでのアクシデント

東関東アマチュアスポーツダンス大会の当日、正平は人の声も聞こえないぐらいに緊張していた。豊子と青木のペアは、ルンバとパソドブレを気合の入った激しい踊りで突破する。そしていよいよ豊子と正平のペアでワルツが始まる。
ワルツを踊っている最中、正平に向かって「お父さん頑張って」という声が聞こえたと言う豊子に、正平はそんなはずはないと思いながらも会場を見回し動揺する。ワルツを勝ち抜きラストはクイックステップ。滑り出しは上々、ステップも順調だった。だが今度は正平の耳に娘・千景の応援する声がハッキリと聞こえた。踊りながらも思わず会場を見回す正平。そして来るはずの無い妻と娘の顔を発見した途端、他のペアと衝突。バランスを崩した正平は、豊子のスカートを踏んでスカートが脱げてしまう大失態を犯してしまう。

正平も豊子も本編中で最高の華麗なダンスを見せた。それだけに、その最中に起きた二人のアクシデントは、劇中の観客だけでなく映画を観ている者にも衝撃的な名シーンとなった。

「淋しい思いをさせて悪かった…」

コンテストの後、もうダンスをやめると妻に告げてダンス教室にも行かなくなり、再び会社と家を往復する平凡な日々が続く正平。そんな正平に妻の昌子は「毎日つまらなそうに過ごしているあなたの姿を見るのがつらい」と言い、正平にまたダンスを続けて欲しい、私にもダンスを教えて欲しいと懇願する。だが正平は頑なに「もうダンスはやめたんだ!」と拒否する。そこへギクシャクした両親の姿を見兼ねた千景が正平に「どうして踊ってあげないの?」と両親の手を取って庭へ連れて行く。「お父さんのダンス素敵だった。踊って!」と娘に言われた正平はそこで初めて妻とダンスを踊る。ステップを教わりながら正平の胸で涙する昌子に正平が呟いたセリフ。

真面目なサラリーマンの正平が、ちょっとした下心で始めたダンスによって家族の信頼を失いそうになった。最初は浮気を疑っていた妻と娘だったが、正平が真面目にダンスに取り組んだ姿は、彼女らの眼には美しいものとして映っていたのだ。家族の絆を取り戻した杉山家の感動の名シーンである。

「Shall we dance?」

舞のさよならダンスパーティーの当日、会場では舞も青木も豊子も正平が来ることを信じて待っていたが、パーティーはもう終わりに近付いていた。正平はパチンコ店で時間を潰し、家に帰るつもりで電車に乗り、いつものように岸川ダンス教室を見上げると、窓に「Shall we ダンス?杉山さん」というメッセージが貼られているのを目撃する。舞のラストダンスは舞が相手を決める事になり、会場では来場者を照らしたスポットライトが相手を探し出すように回り始める。すると、入り口に駆けつけて来た男にスポットライトが止まった。サラリーマンスーツ姿の正平だった。舞は笑顔で正平のもとへ歩いて行き彼に尋ねたセリフ。

舞と踊ることを夢見てダンスを始めたごく普通のサラリーマン・正平の夢が叶ったこのラストシーンは、世の中のサラリーマンたちに贈る最高の夢のラストシーンとなった。

『Shall we ダンス?』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

本作をきっかけに社交ダンスブームが到来

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