バガボンド(井上雄彦)のネタバレ解説・考察まとめ

『バガボンド』とは、スラムダンクの作者でもある井上雄彦による名作。宮本武蔵を題材としているが、従来ある歴史ものの古臭さは全くなく、むしろスタイリッシュな作品である。村一番の嫌われ者'武蔵'が剣に生き、天下無双を目指し旅を出る。強者たちと出会い、次第に本当の強さとは何かを追い求めていく内容。人の暗部を鮮明に映し出す心理描写はまさに圧巻。また、作画が非常に美しいのも魅力の一つである。

又八を探して旅に出たお杉が死ぬ間際に又八に言った言葉。
武蔵を置いてお甲の元に転がり込み、吉岡一門に火をつけてお尋ね者になり、「佐々木小次郎」の名を語り、武蔵に会えば嫉妬の炎を燃やしてきた又八。これまで誇れるような生き方をできなかった又八を優しく包み込んだ。
その後、共に死のう、と身投げを決意するが怖くて足を踏み出せず、自身のことを「弱い」と泣き叫ぶ又八に「弱いものは己を弱いとは言わん おぬしはもう弱い者じゃない 強くあろうとする者 もう一歩を踏み出したよ」と励ましてなくなった。

武蔵「助けてくれ」

吉岡一門を相手にした後、放浪の果てに一つの村にとどまった武蔵。
その村で父親を亡くした伊織という子供と一緒に暮らしていたが、その村をイナゴの大群が襲う。
食糧難に悩まされ、村民と一緒に米を作っていたが、村に食料は尽き、餓死者が出ていた。
村が滅ぼうとした時、武蔵を召しかかえようとしていた大名の使いに武蔵は「助けてくれ」と助けを乞う。

これまで人に頼ることをしなかった武蔵が初めて人に頭を下げた印象的なセリフ。

稲作を行う武蔵

宮本武蔵は天下無双の答えを見つけるべく殺し合いに身を投じていた。だが単行本34巻から37巻までの間、不作の村に身を置いて畑を耕すため鍬を振った。
ダイナミックな殺し合いを好む読者にすれば、ここの稲作編はなんとも拍子抜けに感じるかもしれない。
村人と長く接することで起こる感情の変化。
自然に抗おうと天に向かって咆える武蔵。一方で自然と一体化していこうと内観する武蔵。
宮本武蔵という一人の人間を探求するには切っても切り離せない重要なストーリーだ。

伊織との出会い

先の戦いで右脚に深い傷を負った武蔵。
「俺はまだ強い」、そう自分に言い聞かせるように、武蔵は流浪の旅をしていた。
夕暮れ時、微かに匂う煮炊きの香り。そして刀を研ぐ音。
音の方向に歩を進めると、幼い子供が小屋の前で切れ味を確かめるように剣を研いでいた。武蔵は木の影から訝しげるようにその様子を見ている。
刀を持った子供はそのまま薄暗い小屋の中に入り、床で寝ている自分より何倍もある大きな人間にを刀を振りかざした。
武蔵は後ろから子供の腕をつかみそのまま空中に持ち上げた。
「誰を斬ろうと」
「お父を」
「重くてお墓に運べねえんだ。だから」
それが伊織との出会いだった。

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