この世界の片隅に(漫画・アニメ・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『この世界の片隅に』は、こうの史代の漫画作品、及びそれを原作として制作されたドラマ、アニメ映画のことである。漫画作品は双葉社の『漫画アクション』にて2007年から2009年にわたり連載された。
ドラマは2011年に日本テレビ系列にて放送され、映画は2016年の11月より全国公開。

声優に関して

すずを担当したのん。

径子を担当した尾身美詞。

すずのおっちょこちょいで明るい部分、決して誰からも憎まれることがないキャラクターと、その一方、繊細で内向的なキャラクターを演じることができる役者を考えていた時、
『あまちゃん』を見た片渕は、のんにオーディションへの参加を依頼した。
後日、のんからも『私がすずさんをやりたい』と言う手紙が送られてきた。

収録にあたっては、まずは周作役の細谷、円太郎役の牛山などが参加して6月下旬に行われた。
その後、すみ役の藩、晴美役の稲葉、哲役の小野などが参加したのが7月である。

すず役に決まったのが7月下旬であることから、のんの収録はそこからスタートしている。
監督にひとつずつ、確認を求めながらの収録であったため、のんの収録は複数回に分けて行われた。

なおサン役の新谷は広島出身であったことから、事前にすべての役の広島弁ガイド音声を収録している。
また新谷以外にも、細谷も広島県出身であることから、違和感のない広島弁を披露している。

ちなみに径子役を演じた女優の尾身は、爆発的人気を得たアイドル、キャンディーズの藤村美樹の娘である。

封切に関して

当初は全国63スクリーンでの封切だったが、全国映画動員ランキングで初登場10位にランクインと言う快挙を成し遂げる。
公開2週目には初週の興行収入、動員を上回り、3週目、4週目にも同様の動きを見せた。

年が変わり2017年1月4日に発表されたデータでは、観客動員数は75万人を超え、興行収入は10億円の大台に達している。
また累計公開映画関数は当初の3倍以上の200館にものぼっており、海外でも公開が予定されている。

なお海外での公開にあたり、監督の渡航費などを募るためのクラウドファンディングが行われた。
しかし開始1日経たずして、目標の1000万円を大きく超える約1500万円に到達した。
これを受け、新規の支援を控えてもらう旨のお願いがされた。

評価に関して

楽曲担当のコトリンゴ。

戦争を描いた作品でありながら、しかしその悲惨さを前面に押し出すのではなく、あくまでもその中でも懸命に、日々の生活を営むすずをはじめとした人間たちの姿を描いた今作には、公開当初から絶賛の声が相次いでいる。

一般の人のそうした声は勿論のこと、芸能人などの著名人によるこうした評価が、数多くのSNSで拡散されたことも、本作に対する関心を更に高めることにつながっている。

第90回キネマ旬報ベスト・テンでは、作品が第1位に選出されている。
アニメ映画が第1位に選ばれるのは、宮崎駿監督による『千と千尋の神隠し』以来のことである。
また監督の片渕も日本映画監督賞に選出されている。
アニメ映画のメガホンをとった監督が選出されるのは、史上初の快挙である。
これ以外にも、作品、監督、主役を演じたのん、更には音楽を担当したコトリンゴなどに、実に数多くの賞が与えられている。

著名人のコメント

『劇場を出て何時間もしてから涙がボロボロこぼれてきてしまいます。』
スガシカオ(シンガーソングライター)

『みんな、一秒もむだにするまいとスクリーンを観つめていた。「なんでもない日」、「なんでもない人」、「なんでもない場所」が、ほんとうに大切に描かれていた。』
糸井重里(コピーライター)

『地上からの視点で描き続けて、貫いているところ。
主人公のキャラクター、生き方にのんさんの声がとても合っていた。たましいが伝わり感じられる素晴らしいお仕事だと思いました。長く心に残る作品となりました。』
茂木健一郎(脳科学者)

『通算4回目の「この世界の片隅に」を鑑賞して、あと何回劇場で観れるんだろうと思った。
劇場で性別も年齢も全然違う人たちと一緒に笑ったり泣いたりするって、改めて考えるとすごい体験だ。僕らのライブもそういう体験になれていますように。』
歌広場淳(ゴールデンボンバー・ミュージシャン)

『戦争を描いているのに、「うわっ悲しいな、戦争って怖いな」という印象をあんまり押しつけてこないんですよね。』
山里亮太(南海キャンディーズ・お笑い芸人)

『「この世界の片隅に」の可愛さと強さと優しさよ。』
海野つなみ(漫画家・代表作は『逃げるは恥だが役に立つ』)

『あの時代の生活のディティール描写がすごい。
原作者と監督はだいたい僕と近い世代のようだけど、よくあそこまで調べて作れたな…と脱帽。』
会田誠(美術家)

『基本、アニメは苦手だけど、全くもって気にならずどっぷり。
大戦の中の日常が押し付けがましくないぶん、グッとくるなぁ。』
大久保佳代子(タレント)

『戦争という題材でありながら女性の優しさ、強さ、可愛らしさ、友情を描いた映画でもあるんじゃないかな。泣くポイントがいっぱいあるけど泣くのがもったいない最高の映画。』
田島貴男(オリジナル・ラブ・ミュージシャン)

『かねてから悲しみだけで戦争の悲惨さを伝えるのには限界があると思っていました。
この映画を見て、笑ってほのぼのして、、、戦争は悲惨だ。』
伊集院光(タレント)

『息を呑む傑作――。
『君の名は。』に比するアニメ表現の豊さ。『火垂るの墓』に比する哀しさ。『あまちゃん』に比する愛おしさ。主人公すずさんの声を当てた女優のんさん主演の大傑作として消えることなく千年先もこの世界の片隅に燦然と輝き残るだろう。』
水道橋博士(浅草ギット・漫才師)

『第二次世界大戦下の広島から呉に嫁ぐヒロイン・すずの日常生活を軸に、
貧しくもたくましく生きる市井の人々の姿を淡々とだけどリアルに描く、今までにないタイプの戦争映画ですね。
これは文句なしの傑作だ!』
大槻ゲンヂ(筋肉少女帯)

出典: konosekai.jp

原作漫画とアニメ映画の違い

原作漫画の表紙。

リンとのエピソード

こうのによる原作漫画、そのほとんどのエピソードを再現することに成功している本作品であるが、省略されているエピソードもある。

それがリンとのエピソードである。
映画では迷子になったすずが遊郭街に足を踏み入れてしまい、そこで働いていたリンと絵を通じて意気投合すると言うエピソードのみに留まっている。

しかし原作では、実は周作とリンが過去に関係を持っていたこと、すずもそれを知り、そのことに対して複雑な感情を抱いていることが描かれている。
一夜の宿と風呂を求めて北條家にやって来た哲と会話をする際、すずは周作に対して、腹が立って仕方ないと言う思いを吐露している。
この言葉をすずがどんな思いで口にしたのかと言うのは、リンと周作のエピソードの有無の違いから、原作漫画とアニメ映画ではずいぶんと趣が異なっている。

リンと周作との関係は、すずにとっては知らなくても良い、知らない方が幸せな、知る必要のないものである。
原作漫画は、それを知ってしまったことで、周作に対して純粋な愛情を向けることができないすずの姿が描かれている。

しかしアニメ映画においては、そのエピソードが丸ごとカットされている。
よって、すずは知らなくて良いことを知らないままでいられたために、周作に対して純粋な愛情を向け続けることができたと言える。

周作とのエピソード

なおアニメ映画においては、広島に帰ると言って聞かないすずと、勝手にせいと言い放つ周作のシーン、その直後、空襲から彼女を守るために彼女を抱きしめる周作、そしてそんな周作の体に腕を伸ばすすずのシーンが描かれている。

しかしすずが周作を抱きしめ返すシーンは、原作漫画にはないシーンである。
原作漫画では、このシーンで周作がリンの消息を口にする。
よってふたりのわだかまりが消えないままであると言う印象が強いシーンとして描かれている。

リンは口減らしのために子守として売られ、そこから逃げ出した挙句、遊女として生きることになったと言う背景がある。
これは幸せとは言い難い背景である。

そんな彼女の存在に心を乱された原作漫画のすずの姿とは対照的に、アニメ映画のすずにとって、リンは迷子になった自分を助けてくれ、そして絵を描くことで意気投合したひとりの女性に過ぎない。
更にその存在に心を乱されることなく、周作に対しての愛を持ち続けることができたのだから、アニメ映画においては、すずは、リンが手に入れることができなかった幸せを手にした女性として描かれていると言っても過言ではない。

エピソードに違いがうまれた理由

本来はこのエピソードも含め150分プログラムでの制作が予定されていた。
しかしそのために必要な資金4億円の調達は困難だったため、120分プログラムへの変更が決定された。
その中で片渕とプロデューサーが話し合った結果、リンのエピソードが丸ごとカットされてしまったと言う経緯がある。

原作漫画とドラマ版の違い

ドラマ版の映像。
放送は既に終了している。
日付は当時のもの。

単発ドラマとして2011年8月5日に放送された。
すずは北川景子、周作は小出恵介、リンは優香、啓は速水もこみち、そして径子はりょうが演じた。

すずが子供時代には、男の子に馬乗りになって遊んでいたと言う、活発な印象を与える人物であるように描かれていたり、径子の離婚理由が、夫の女遊びに愛想を尽かしたためと言うものであったり、原作漫画とは異なる点も多い。
ただしアニメ映画とは異なり、周作とリンのエピソードに関しては、こちらでは描かれている。
脚本を担当したのは、『ラブジェネレーション』などのヒット作を手掛けた浅野妙子である。

DVDとして販売されているほか、動画配信サイトhuluでも視聴できる。ただし配信については予告なく終了する可能性がある。

mii1118q7
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@mii1118q7

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