この世界の片隅にの名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『この世界の片隅に』とは、こうの史代による日本の漫画、及びそれを原作としたドラマ・アニメ映画である。第二次世界大戦の広島・呉を舞台に、北條周作の元に嫁いだ主人公・浦野すずの日常生活を淡々と時にコミカルに、時に残酷に描く。戦争を題材に生活が苦しいながらも工夫をこらし、乗り切る姿や前向きなセリフには老若男女問わず多くの人の心を動かし、勇気づけられるものが多い。

『この世界の片隅に』の概要

『この世界の片隅に』とは、こうの史代による日本の漫画である。『漫画アクション』にて2007年1月号から 2009年1月号まで連載され、2008年から2009年にかけて上・中・下巻の単行本が発売された。2011年には日本テレビ系でテレビドラマ化し、2016年には片渕須直監督によりアニメ映画化された。2019年には『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』として、2016年では泣く泣くカットされたシーンや白木リンとのエピソードが掘り下げられている。また、2024年にはミュージカル化もされている。
本作は昭和19年、第二次世界大戦の只中の広島・呉が舞台となっている。広島市から海軍の街・呉に嫁いできた18歳の主人公「すず」と夫「北條周作(ほうじょうしゅうさく)」、北條家の人たちやご近所の人たちとの日常生活が描かれる。すずは慣れない家事や周作の姉である「北條径子(ほうじょうけいこ)」の嫌味にも耐え、工夫をこらして苦しい生活をのほほんと乗り切る。戦争を題材にした作品でありながら、戦闘描写は少なく、一貫して主人公すずの日常を淡々と時にコミカルに、時に残酷に描かれている。そのセリフや登場人物の行動・シーンには貧しいながらも苦難を乗り切ろうとする前向きな言葉や、心が温かくなるシーンも多い。

北條すず(ほうじょう すず)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

夢か現かわからない化け物との出会い

化け物が背負う籠の中で相談し合う周作(左)とすず(右)

すずがまだ年端もいかないころ、風邪をひいた兄の代わりに中島本町のふたばまで海苔をとどけるお遣いにでたことがあった。街で道に迷ってしまったすずは毛むくじゃらの大男に出会う。背中には大きな籠を背負い、大きな口に尖った牙をのぞかせている。すずは大男の肩に腰掛け、望遠鏡を借りて街を見物する。その際、はずみで大男が背負っていた大きな籠に入り込んでしまったすずは、同じ年位の学帽をかぶった少年と出会う。その少年は大男を人さらいだと教えてくれた。大男は「夜になるとえらいことになる」といって家路を急いでいるようだ。すずは機転を利かせて大男から貸してもらった望遠鏡のレンズに海苔をかぶせ、いくつか星形の小さな穴をあけた。それを大男にのぞかせると、大男の巨体はたちまち地面に突っ伏してしまう。大男は望遠鏡をのぞいて夜になったと錯覚してすぐに眠ってしまったのだ。少年は、こいつも腹を空かせて大変だろうからと眠っている大男の手にキャラメルを握らせる。そして、「ありがとうな。浦野すず」とすずに礼を言って立ち去っていった。少年は、すずの着物に「浦野すず」と刺繍されていたので名前を知れたのだった。その少年こそ、後にすずと結婚することになる「北條周作」である。自他ともに認めるすずのぼんやりした性格から、このエピソードは夢か現かはわからない。もし現実だったとしたらすずの機転がなければ2人とも無事ではすまなかった。すずの困難を乗り切る力、知恵と工夫はその後の日常生活に大いに役立つことになる。大男に出会わなければ2人は出会わなかったし、結ばれることはなかっただろう。2人を引き合わせるきっかけとなったエピソードである。

「ええ話かどうか分からんかったけど、口ん中にキャラメルの味、広がった気がしたんは、何でじゃったんじゃろ?」

縁談話に想いを巡らせるすず

突然、すずに縁談の話が舞い込んだ。相手は広島・呉にすむ北條周作という青年だ。わざわざ実父とともにすずの実家に挨拶にきたらしい。すずはこっそり遠目から周作の姿をみていたが、いいかどうかもよくわからなかった。「気にいらなかったら断ればいい」と近所のおばさんは言っていたが、これでは判断に困る。「ええ話かどうか分からんかったけど、口ん中にキャラメルの味、広がった気がしたんは、何でじゃったんじゃろ?」とすずは初めて抱く感情に戸惑う。周作をいいかどうかわからないが、すずになんとなく恋心が芽生えた瞬間である。

すずさんのお料理タイム

節約料理をつくるすず

戦況が厳しくなるにつれて、すずたち北條家の人たちの食事情も厳しくなってきた。物価は高騰し塩や砂糖 、何もかも値段がつりあがった。すずはご近所さんから聞いた野草を用いての料理や楠木正成公が考案したナンコウメシをつくり、家族に振る舞う。その調理風景は楽しげで、すずの表情もやわらかい。貧しい食事情でありながら、少しも悲観せずたくましく乗り切る姿がそこにあった。

左手で描いたような歪んだ世界

失った右手を眺めるすずと歪んだ世界

すずは不慮の事故で右手を失い、晴美を失った。そんな傷心のすずに追い打ちをかけるように、容赦なく空襲警報が鳴り響く。北條の家も焼夷弾により燃やされそうになったが、すずは捨て身でそれを消し止めた。そばにいながら晴美を守れなかったすずは苦しくて悔しくてたまらない。大切な思い出のつまった家まで燃やされてなるものかと必死だった。人々は口々に「よかった、よかった」と言う。すずにはその言葉が理解できなかった。まるで左手で描いた絵のように世界が歪んで見えた。晴美を死なせてしまった罪悪感や右手を失った不幸をすずは受け入れきれなかった。通りすがりの空襲で家を壊された人を見ても、家を壊してもらえて、出ていく口実ができてよかっただろうとすずは思ってしまう。すずは晴美の事や自分の不幸にいたたまれなくなって北條家を出ていきたくてたまらなかった。死んだ人が転がっていてもすずは平気で通り過ぎた。1つ下の妹であるすみが手を合わせているのに、自分は自身の不幸で頭がいっぱいになってしまっている。すずは歪んでいるのは自分自身だと自覚した。すずの心の葛藤が丁寧に描かれている。

「暴力にも屈せんとならんのかね。ああ、なんも考えん、ぼーっとしたうちのまま死にたかったな」

終戦を迎えてすずがこれまで堪えていた苦しみや怒りが一気に押し寄せる

広島や長崎に原爆が落とされて間もなく、日本は敗戦を迎える。すずや近所の人たちは玉音放送で日本が負けたことを知った。その時、すずはたまらず激高する。
「そんなん覚悟のうえじゃないんかね?最後のひとりまで戦うんじゃなかったんかね?いまここへまだ5人も居るのに! まだ左手も両足も残っとるのに!」と叫ぶ。耐えがたきを耐え、たまりにたまったすずの怒りが爆発した瞬間だった。さらにすずは裏山の畑のほうへかけていく。「飛び去っていく。うちらのこれまでが。それでいいと思ってきたものが。だから、我慢しようと思ってきたその理由が」とこれまで耐え忍んできたのは何だったのかと嘆いた。日本は戦争で他国を暴力で支配してきた。「だから暴力にも屈せんとならんのかね。ああ、なんも考えん、ぼーっとしたうちのまま死にたかったな」と涙をボロボロ流して叫ぶのだった。すずが一国民として、いかに戦争を担ったかを自覚させたシーンであり、心に訴えてくる名シーン。

「生きとろうが死んどろうがもう会えん人が居ってものがあってうちしか持っとらんそれの記憶がある。うちはその記憶の器としてこの世界に在り続けるしかないんですよね」

飛んでいく重巡洋艦青葉と白波の白兎

刈谷との買い出しの後、すずは刈谷と言葉を交わす。「生きとろうが死んどろうがもう会えん人が居ってものがあってうちしか持っとらんそれの記憶がある。うちはその記憶の器としてこの世界に在り続けるしかないんですよね」とすずは前向きな言葉を刈谷に送る。戦争が終わり、息子を亡くした刈谷はそれでも愕然としている。すずは、自分が不甲斐ないばかりに不慮の事故で晴美を無くしてしまったことを悔やんでいた。自分が死んだら笑顔で思い出してくれ、といっていた水原の遺言のとおり、水原のことも晴美のことも笑顔で思い出そう、そうすずは誓った。その死を乗り越え、思い出を抱きながら前向きに生きていこうとするすずの心情が表れている。

「周作さんありがとう この世界の片隅に うちを見つけてくれて」

相生橋の上で再会するすず(中)と周作(右)化け物(左)

戦争が終わり、すずは広島に住む妹のすみを見舞う。その後、原爆で変わり果てた広島の町をあるいた。行く先々ですずはいろいろな人に声をかけられる。皆、行方のわからなくなった誰かを探しているようだった。そんな折、周作と再会する。すずが少女時代に周作と初めて会った相生橋で、2人は語らう。そこですずは「周作さん、ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて。ほんでも離れんで、ずっとそばにおって下さい」と改めて周作にプロポーズするのだった。二人の絆がより強くなった名セリフである。

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