この世界の片隅に(漫画・アニメ・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『この世界の片隅に』は、こうの史代の漫画作品、及びそれを原作として制作されたドラマ、アニメ映画のことである。漫画作品は双葉社の『漫画アクション』にて2007年から2009年にわたり連載された。
ドラマは2011年に日本テレビ系列にて放送され、映画は2016年の11月より全国公開。

『大和』…1941年に竣工された旧日本海軍の超弩級艦戦艦。当時では世界最大級の規模であった。
沖縄に出撃途中、米軍による攻撃のために撃沈したが、この情報は、当時は発表されなかった。

映画の名シーン・名場面

すずの絵によって表現されるシーン

主人公、すずは絵を描くのが好きな女性である。
そのため作中においても、印象的なシーンのいくつかが、彼女が描いた絵によって表現されている。

たとえば哲に代り、波の絵を描くシーン。
ここでは、すずの想像力がいかんなく発揮され、ただの波が、とても可愛らしく、色鮮やかな波のうさぎとして描かれている。

それから時限爆弾によって晴美を亡くしてしまうシーン。
その瞬間の出来事と言うのは、すずが描いている途中のような、動きのある絵によって再現されている。
波のうさぎの絵とは異なり、白と黒、ただそれだけで再現されているこの絵は、無言の迫力で、すずの感じた怒り、悲しみ、苦しみ、そして失われてしまった晴美の尊い命の重み、温もりを見る者の胸に突きつけてくる。

周作との関係が描かれるシーン

すずと周作の関係は結婚から始まったものである。
そのため最初はどこがぎこちない、よそよそしい雰囲気が漂っていた。

しかし素直なすず、そしてやさしい周作の相性はよく、その雰囲気は少しずつ変化していく。
防空壕の中で思わず口づけを交わしたり、駅構内で派手に喧嘩を繰り広げ駅員にたしなめられるシーンなどが登場する。
そうしたシーンの積み重ねによって、このふたりの関係が少しずつ深まっていくこと、そしてふたりが本当の夫婦として成長していく様子を感じることができる。

すずたちの日常

女性たちにとって、配給所に向かうことは、大切な日課のひとつだった。

従来の戦争映画では脇に追いやられがちであった日常のシーンこそが、この映画における最大の魅力である。
戦争中であっても、人はお腹が空く。それを満たすためには食料を手に入れ、それを調理する必要がある。
そんな当たり前の日常が丁寧に描かれ、作中には頻繁に登場する。

またその中で繰り広げられる人間の悲喜こもごものやり取りも、この映画の名場面だと言える。
すずと晴美が砂糖を食べていた蟻を突き止め一安心と思ったら、その砂糖壺を水瓶の中に落としてしまうシーン。
手間をかけて作り上げた楠公飯の味に、家族全員でまいったと言うような表情を浮かべるシーン。
配給のやり取りについて揉める女性たちに困惑してしまうすずのシーンなどが、その一例としては挙げられる。

戦争中でありながらも、生活の中に溢れる喜怒哀楽が丁寧に描かれている。
その喜怒哀楽の中心に生きている人の姿が描かれている。
そして生きている人たちが営む日常が描かれている。

それこそが、今作の最大の魅力であり、名シーンだと言える。

少ない材料でも、知恵と工夫を施して、そして楽しみながら、すずは料理を作っていく。

映画の名言・名セリフ

「何でも使うて、暮らし続けにゃならんのですけぇ、うちらは。」

すずの台詞。
戦時中は決して物資に恵まれていたわけではなく、しかもそれは日に日に少なくなっていくような時代だった。
ただその中にあっても当時の人は、とりわけ家を任されていた女性たちは、様々な知恵と工夫を施しながら家事を行っていた。
そんな全ての女性たちの思いが、すずによって語られた台詞だと言える。

「警報もうあきたー」

食事中に晴美が発した台詞。
不謹慎な台詞だと思われるかもしれない。
しかし、幼子に『飽きた』と思わせるほど、空襲警報が鳴り響いていた時代であると言うことを明確に表現している台詞である。
空襲警報と言う、現代に生きる人にとっては『非日常』であるものが、当時の人たちにとっては『日常』であったことも、この台詞は表現している。

「この世界にそうそう居場所は無くなりゃあせんよ」

リンが発した台詞。
なおすずとりんの関係は、漫画と映画では微妙に異なっている。
そのため、このセリフがリンの口から発せられるタイミングも、漫画と映画では異なっている。

戦争と言う巨大な脅威にさらされながらも、それでも人は、自分の居場所を求めている。
そして、自分の居場所、あるいは大切な人の居場所を守るために、日々を懸命に生きている。
そんなことを感じさせる台詞である。
またこの台詞を口にしたのが、口減らしのために売られ、遊郭街へと流れ着いたリンと言うのも、意味が深いと言える。

「ずうっとこの世界で普通で……まともで居ってくれ」

哲が発した台詞。
結婚したすずと再会した彼は、海軍に入隊していた。
そのため、すずたちよりもなお、戦争を身近に感じていたはずである。

そんな彼にとって、結婚をして、平凡な暮らしを懸命に送っているすずの姿と言うものは、特別なものに映ったのかもしれない。
そしてその特別さが、軍人の彼にとっては、救いのようなものに感じられたのかもしれない。
そんなことを感じさせる台詞である。

制作までの流れ

監督の片渕須直。

映画製作の始まりは2010年、監督の片渕須直が企画。
それと同時に自らの監督作品である『マイマイ新子と千年の魔法』のDVDを原作者のこうのに送ると言う形でスタートしている。
こうのは、片渕によるアニメーション作品のファンであったことから、この提案をとても喜んで受け入れた。

その後、片渕は何度も広島に足を運び、綿密な時代考証を重ね、原作の世界観をアニメ映画に再現すべく努力を重ねていく。
その片渕の熱意に、周囲の期待も高まっていくのだが、資金調達のめどは立たないままであった。

それを解決したのが、目的に賛同する不特定多数の人から資金を募るクラウドファンディングである。
2015年3月9日から、スタッフの確保などを目的に、2000万円を目的としてクラウドファンディングを開始する。
するとわずか8日後にはその目標をクリアし、最終的に5月末までに3912万余りの資金を調達することに成功した。

支援者数は国内クラウドファンディング史上最多人数で、金額も国内映画史上においては最高金額である。
なおクラウドファンディングに協力した人の名前は、本編終了後にエンドロールで流されている。

mii1118q7
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@mii1118q7

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