クワイエット・プレイス(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『クライエット・プレイス』とは2018年にアメリカで製作されたサスペンス・ホラー映画である。盲目であるが鋭敏な聴覚を使って人を殺すという異星人に襲われた世界。喋ることは勿論、ほんの少しの音を発しただけで即死に繋がるという過酷な状況下を生き抜く家族のサバイバルストーリーだ。異星人の恐怖を描くホラー的要素を主軸にしながらも、親が子を思いやる家族愛を描く温かいヒューマンドラマでもある。昔のサイレント映画をヒントに作られた今作であるが、今までに全く見たことがない新しい映画の扉を開いた。

釣りの帰り道で出会った老人

釣りに出かけた帰り道、リーとマーカスは見知らぬ老人に出くわす。しかしもちろんお互いに会話を交わすわけにはいかない。ふと気付くと老人の足元には老女の死体が転がっていた。多分クリーチャーに襲われた老人の妻であろう。老人は苦しさに顔を歪め、今にも泣き出しそうだ。リーは口元に指をあて、声を出さぬように訴えるが、老人は思い切り大きな声をあげてしまう。すぐさまクリーチャーがやってきて、老人はあっという間に殺されてしまった。老人とその妻は過酷な環境の中、夫婦で助け合って暮らしてきたのだろう。しかしその妻も殺されてしまい、生きる希望を亡くした老人は自殺を図ったと思われる。この状況がいかに非情な世界であるかを痛感するシーンだ。

足に刺さるクギ

イブリンの足に刺さったクギ

イヴリンが持っていた袋が階段のクギに引っ掛かり、それを無理に引っ張ったためクギの先端が立ち上がってしまった。イヴリンはそれに気付かずそのままにしてしまったのだが、後に家にクリーチャーが襲ってきた時、誤ってこのクギを踏んでしまう。さすがのイヴリンも思わず声を上げてしまったのだが、その後は目覚まし時計を使って見事クリーチャーから逃れることに成功する。イヴリンの痛みと恐怖がまるで自分のことのように感じられる、臨場感満載のホラーシーンだ。

リー「お前を愛している」

死ぬ間際リーガンに「お前を愛してる」と手話で伝えるリー

ボーが殺された一件で、リーとリーガンはお互いにギクシャクとした思いを抱えていた。それを見かねたマーカスは、父から姉に「愛してる」と伝えてほしいとアドバイスをする。その後クリーチャーに襲われたリーは、トラックの中に隠れている子ども達の身を守るため自分が犠牲になろうと決意する。そしてリーガンに向かって手話で「お前を愛している。ずっと変わらずに愛している」と伝えて、大声を張り上げた。その声に反応したクリーチャーはトラックを襲うのをやめ、あっという間にリーを殺してしまった。しっかりと我が子に愛を伝え、己を犠牲にしても子どもを守った親の強さに思わず涙してしまうシーンである。

『クワイエット・プレイス』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

音を出さないためのアボット家の工夫

足音がしないように道筋に砂を敷き詰めるリー

アボット一家は靴音を出さないために裸足で過ごし、なおかつ道筋すべてに細かな砂を敷いておいた。また火を使う料理は地下に調理器具を埋めて、音が漏れないように料理している。そして食器音がしないように、葉っぱのお皿を使い、手づかみで食べた。顔を洗う時はタオルの上で行い、水のしたたり音にさえ気を遣った。ボードゲームをする時も下にタオルを敷き、やわらかいものをコマにする。生活のあらゆるシーンで、音を出さないための創意工夫が随所に見られる。

貯蔵庫でのホラーシーン

穀物に溺れそうになるマーカス

マーカスが貯蔵庫に落ちてしまい、リーガンがそれを助けようと奮闘するシーンは息の詰まるような緊張感を観客に与える。穀物に溺れそうになるお互いを、お互いが助け合うという姉弟愛もひしひしと伝わってくる名シーンだ。このシーンを考えたのは脚本を担当したスコット・ベックとブライアン・ウッズである。2人はアイオワ州の出身で、農場の近くで暮らしていた経験が、この息詰まる名シーンに繋がったようだ。

リーとイヴリンを演じたのは本物の夫婦

リー(右)とイヴリン(左)のダンスシーン

監督とリー役を務めたジョン・クラシンスキーと、イヴリン役のエミリー・ブラントは実生活でも夫婦なのである。本物の夫婦であるせいか、2人がダンスを踊るシーンは妙になまめかしくリアル感を醸し出している。ちょうどこの映画の脚本が完成した頃エミリーは妊娠しており、出産シーンが真に迫っていたのも、既に経験済みであったからであろう。この夫婦の名演技が、このホラー映画の完成度をより一層高めている。

聾者ミリセント・シモンズの起用

補聴器から聞こえる音に感動するリーガンの気持ちを表現したミリセントの見事な演技

リーガン役を見事に演じたミリセント・シモンズは、実際に耳に障害を持つ少女である。彼女を起用したことについてクラシンスキー監督は「私は耳が聞こえる女優さんに聾者の役を演じてもらいたくないのです。理由はいくつかありますが、最大の理由は、聾者の女優は私の聾者に関する知識と彼/彼女が置かれる状況に対する理解を十数倍深めてくれるからです。」と語った。敢えて聾者を起用し耳の障害の理解を深めることで、よりリアルな映像を作り出そうとするクラシンスキー監督の意図が読み取れる。監督の期待に応えるように、ミリセントは撮影現場で他の俳優陣に対して手話のレクチャーを行ったという。耳に障害を持った1人の少女がこの映画の成功に大きく貢献したようだ。

クラシンスキー監督の政治風刺

リーを演じたクラシンスキー監督

この映画は表向きは背筋の凍るようなホラーだが、伏線として親子の愛情の物語も内包している。またクラシンスキー監督はそれだけでなく、この作品にアメリカの政治に対する風刺というメッセージを込めているそうだ。監督は「今そこにある危機を解決しようとするどころか、それから目を背けたり、逆に便乗したりする人々が存在すること」を伝えたかったと語っている。確かに経済、環境、人種問題などアメリカは多種多様な問題を抱えている。様々な危機を抱えた状態で本当の危機が訪れた時、現代社会は一気に崩壊してしまうのではないかというリアル感がこの映画から伝わってきた。今作でのアボット家の在り方が、もしかして現代社会を救うヒントになるかもしれない。

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