パリ、テキサス(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『パリ、テキサス』とは1984年に製作された西ドイツとフランスの合作映画である。監督はヴィム・ヴェンダース。1984年の第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。テキサスを放浪していた男、トラヴィス。記憶も曖昧なまま彷徨い続けていたトラヴィスの妻子との別れや再会を描いた傑作のロードムービー。カラカラに心の乾いた男が家族との再会によって蘇っていく過程の描かれ方が絶妙である。息子や妻との再会は彼にとってテキサスの中のパリスに辿り着いたかのようであった。

テキサス州パリス

アメリカ合衆国テキサス州の北東部に位置する人口約2.47万人(2022年)の都市。そのパリスの土地をトラヴィスが購入し写真を持ち歩いていることから、作中度々「パリ」や「テキサス」の名前を耳にする。またトラヴィスがその土地を購入した理由は、トラヴィスの出発地点がその場所だったためである。彼の父と母がその地で愛し合い、彼が生を受けた場所がテキサス州のパリなのだ。

テレフォンクラブ

男性が料金を支払い個室に入り、女性からかかってくる電話を楽しむ店。交渉次第では店の外でのデートなども可能であることをトラヴィスは知っていた為、ジェーンがそのようなことをしているのではないかと迫るシーンが描かれている。

のぞき部屋

風俗店の一形態。マジックミラーを使い客側からはミラーの反対側が見えるが、もう一方からは客側が見えないようになっている。この仕組みにより客はこちらの様子が分からない相手を自由に見ることができる。個室に設置された受話器越しにコミュニケーションをとることが可能。

『パリ、テキサス』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

兄弟の再会後再び逃げ出したトラヴィスを引き止めるため線路で待ち伏せをしていたウォルト

出典: tv.apple.com

病院からトラヴィスが倒れたと連絡を受け、駆けつけたウォルト。しかしトラヴィスは何も話すことはなく、ウォルトがそばを離れた隙に再び逃げだす。トラヴィスの脱走に気付いたウォルトはすぐさまトラヴィスを追いかけ、徒歩のトラヴィスに対し車で先回りをして待ち伏せをしていた。そこにトラヴィスが観念したかのようにして立ち止まったシーンである。

冒頭で徘徊していたトラヴィスのいた場所は、テキサス州パリスの砂漠のようにカラカラになった荒野。この場所は彼の心の中を表したものであり、トラヴィスはその荒野で倒れた。そのまま彼は病院に運ばれることとなる。この頃の彼の記憶は非常に曖昧であった。こうして病院から連絡をもらったウォルトがトラヴィスを迎えに行くこととなる。しかし再会後もだんまりを決め込んでいたトラヴィスはウォルトの隙を見つけては、また逃げだそうとする。ウォルトほどの兄思いの弟でなければ、諦めてもおかしくない兄の奇行は続く。荒野の中の線路はどこまでも続いている。ウォルトの元から逃げ出そうとした際、トラヴィスは線路の上に立っていた。見つけたウォルトはトラヴィスが歩く線路の先で待ち伏せ、トラヴィスが近くまできたところで「どこへ行きたい?何がある?何もないだろ。」と話しかける。2人の立つ線路の先には何もない。あるのはどこまでも続いているように見える荒野だけであった。トラヴィスの歩く真っ直ぐな線路の横から現れたウォルト。そのまま線路を進んでいればトラヴィスの心はカラカラに乾ききり、いつまでも曖昧な記憶の中を彷徨っていたであろう。ウォルトによる行き先の変化がトラヴィスに新しい選択肢を与えることとなった。

トラヴィスとハンターの深まっていく親子の絆

出典: blog.goo.ne.jp

ジェーンを捜しにヒューストンへ車で出発したトラヴィスとハンター。お互いに知らないことばかりではあるものの再会した頃のようにギクシャクした様子はなく、ドライブの旅の間に2人は本当の親子に戻りつつあった。その際、偶然同じ赤いトップスを着ていたトラヴィスとハンター。ハンターは勢いでトラヴィスに着いてきてから、長時間の車の移動により疲れが出ていたのであろう。隣で運転するトラヴィスに支えられながら居眠りをするハンターと、彼の体を運転しながら腕で支えようとするトラヴィス。2人で同じ赤色の服を着てドライブをする光景は親子そのものであった。放浪の旅で倒れ、ウォルトと再会したばかりの頃のトラヴィスはもういない。息子のハンターと2人で過ごす時間はトラヴィスに父としての意識をはっきりと目覚めさせるものとなった。

マジックミラーを挟み受話器越しに過去の告白をするトラヴィスとジェーン

出典: moviewalker.jp

ヒューストンにあるテレフォンクラブにて、そこで働くジェーンと再会したトラヴィス。個室に設置されたマジックミラー越しに対面してはいるが相手の姿が見えるのはトラヴィスだけであり、彼は客に扮してジェーンと受話器を使って会話をする。想いを伝えたい相手は目の前にいるのだが、マジックミラーと受話器による距離が生まれていた。しかしその距離が彼の精神の保護をし、その為に記憶に蓋をするほど辛い過去を淡々と語ることを可能にする。トラヴィスとジェーンの関係は既に破綻していたが、今でも愛はあった。その為トラヴィスはジェーンとハンターを会わせるという目的だけを果たし、3人でやり直すのではなくまた一人でどこかへ行くことをを決める。しかしこの決断もジェーンやハンターへの愛があってのものであった。家族を養う力と、ジェーンとハンターの2人分になった愛の両方を同時に今のトラヴィスは守ることはできない。過去の傷が完全に癒えていないトラヴィスはジェーンとハンターを愛してはいるが、2人を幸せにしたいがための決断をとる。その決断はトラヴィスにとって家族3人が一緒にいることではなかった。

『パリ、テキサス』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

サム・シェパードからのヒントを基に作られたエンディング

ヴェンダースによると撮影が行われた期間はわずか4〜5週間。撮影はストーリーの進行順に行われていった。何故なら脚本が未完成の状態で撮影が開始したからである。書いていないところは実際に演じている役者たちを観察することで、後から書いていこうと考えられていた。しかし脚本を担当したサム・シェパードは他作品の製作のため、本作の製作に携わったのは途中までとなる。そこでシェパードは作品の終わり方に関するヒントをヴェンダースに残したという。そのヒントを頼りにヴェンダースと、脚本を担当したもう一人のL・M・キット・カーソンのアイデアによって、のぞき部屋のアイデアやエンディングが決められていった。

エンドクレジットに添えられている「ロッテ・H・アイスナーへ」

エンドクレジットには「ロッテ・H・アイスナーへ」と献辞が添えられている。アイスナーはドイツの映画評論家、歴史家、著述家、詩人でありヴェンダースは彼女を尊敬していた。2人は1950年代後半から付き合いがあり、彼女はヴェンダースにとって友人であり指導者でもあった。しかし本作が公開される直前の1983年にアイスナーは87歳で他界。本作の公開は1984年となり、ヴェンダースにとって亡くなったアイスナーに捧げられた作品となっていた。

ジョイ・ストックウェルへの敬意を表すアナウンス

空港にてトラヴィスが出発寸前の飛行機から降りたいと言い、飛行機に乗ることを諦めたウォルト。その後ウォルトが事情をアンに公衆電話で伝えるシーンがある。その時、背後で館内アナウンスが流れ始めるのだが、内容は「ジョイ・ストックウェル様、オースティン便がもうすぐ到着いたします。」というもの。このアナウンスはウォルト役を務めるディーン・ストックウェルの当時の妻、ジョイ・ストックウェルへの敬意を表したものである。

『パリ、テキサス』の主題歌・挿入歌

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@yoshica004

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