パリ、テキサス(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『パリ、テキサス』とは1984年に製作された西ドイツとフランスの合作映画である。監督はヴィム・ヴェンダース。1984年の第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した。テキサスを放浪していた男、トラヴィス。記憶も曖昧なまま彷徨い続けていたトラヴィスの妻子との別れや再会を描いた傑作のロードムービー。カラカラに心の乾いた男が家族との再会によって蘇っていく過程の描かれ方が絶妙である。息子や妻との再会は彼にとってテキサスの中のパリスに辿り着いたかのようであった。

『パリ、テキサス』の概要

『パリ、テキサス』とはヴィム・ヴェンダースが監督を務め、1984年に公開された西ドイツとフランスの合作映画である。原作はアメリカの俳優兼劇作家であるサム・シェパードのエッセイ『モーテル・クロニクルズ』。ヴェンダースは『モーテル・クロニクルズ』から着想を得たことがきっかけとなり、脚本をサム・シェパードとL・M・キット・カーソンに依頼した。またヴェンダースは音楽家のライ・クーダーと本作で初めて手を組み、その後の作品『エンド・オブ・バイオレンス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』においても、ライ・クーダーが音楽を手掛けている。そして1984年に行われた第37回カンヌ国際映画祭にて『パリ、テキサス』はパルム・ドールを受賞。さらに1984年第38回英国アカデミー賞にてヴィム・ヴェンダースは監督賞を受賞した。

4年前に家族の前から姿を消した男、トラヴィス・ヘンダースン。彼がテキサスで倒れ病院に運び込まれたことで、突然弟のウォルト・ヘンダースンとの再会の時が訪れる。しかしトラヴィスの記憶は曖昧であり、何も話したがらなかった。一方の彼を発見したウォルトはというと妻のアン・ヘンダースン、そしてトラヴィスの息子であるハンター・ヘンダースンと共に3人で暮らしていた。ハンターは7歳の少年だ。失踪から数年が経ち、突然帰ってきた実の父。トラヴィスとウォルト、2人の父の間でぎこちない時間が流れていたものの、トラヴィスとハンターの間には徐々に本当の親子の絆のようなものが蘇っていく。こうしてトラヴィスはハンターを連れ、行方不明の妻ジェーン・ヘンダースンを探す旅に出るのであった。

本作の魅力は家族との時間を経るごとに変化していくトラヴィスにある。ウォルトと再会したことで逃げられなくなったトラヴィスだが、ハンターと二人きりで過ごした親子の時間、そしてジェーンとの再会と、段階を経てトラヴィスの内面の変化が繊細に描かれている。彼は立派な大人でありハンターのように目に見える成長は少ない。その中で一つ一つの再会が非常に丁寧に描かれており、不器用なトラヴィスの大きすぎた愛が生んだ悲劇には、ハッピーエンドを迎えるラブストリーには無い人の愛情の深さを感じることができる。また音楽による登場人物の心理描写も巧みであり、音楽と映画が合わさって非常に高い評価を得た作品である。様々な弦楽器とピアノという最小限の構成によって作られることで、作品全体の統一性や調和が強まる。ライ・クーダーによる哀愁感漂う音楽は登場人物の心情や映画の世界観を見事に表現した。

『パリ、テキサス』のあらすじ・ストーリー

ウォルトのトラヴィスを想う強さによって実現した親子の再会

一人でテキサス州パリスへ向かうトラヴィス

妻子の前から突然姿を消したトラヴィス・ヘンダースン。その後には妻のジェーン・ヘンダースンも息子のハンター・ヘンダースンを残して行方をくらませていた。こうしてトラヴィスの失踪から4年後に彼の弟であるウォルト・ヘンダースンはテキサスの砂漠で倒れた兄の知らせを受け、トラヴィスの保護に向かうこととなる。しかし再会後も隙を見つけてはウォルトの前から逃げようとするトラヴィス。事情を話そうとしないトラヴィスに手を焼きながらも、ウォルトは彼に話しかけ続けた。そんなウォルトに根負けしたトラヴィスは次第に口を開くようになる。そしてようやくのことで話した内容は「パリへ行こう。」というものであった。しかし飛行機で向かいたいウォルトに対し、飛行機の恐怖に耐えられず降りて車で走ることに拘るトラヴィス。結局トラヴィスに従いウォルトは飛行機を断念する。こうして結局車で数日かけてウォルトの自宅があるロサンゼルスへと向かうこととなった2人。帰路の間に兄弟は様々な話しをした。この車中の時間でトラヴィスは失踪中の記憶が曖昧であることが判明する。

こうして数日にわたり車を走らせ、ウォルトの住むロサンゼルスの自宅に到着。トラヴィスはそこでウォルトの妻であるアン・ヘンダースンと、ハンターに再会する。トラヴィスとジェーンの失踪後、ハンターを育てていたのはウォルト夫妻であった。間もなく8歳になるというハンター。彼はトラヴィスが実の父親であると知りながらも、なかなか心を開けずにいた。そこでウォルトとアンは5年前にトラヴィス一家を訪れた時に撮った8mmフィルムのホームムービーの映写をハンターとトラヴィスと一緒に鑑賞することを提案する。ここでもウォルトやアンの助けを得て、トラヴィスとハンターの距離は縮まっていった。

ウォルトとアンにとってハンターは我が子同然に愛し、育てた義理の息子である。しかしアンはトラヴィスが戻ってきたことで、ハンターがトラヴィスの元へ行ってしまうことを悟っていた。トラヴィスが帰ってきたことへの喜びと、ハンターが離れていく寂しさがアンを襲う。一方のウォルトもアンと同じ思いを抱いていた。だが彼らは妻子を置いて失踪したトラヴィスを責め立てるのではなく再会の時が来るまでハンターを育て、そしてそのまま手放し本当の親子の再会を祝う。ウォルト夫妻のハンターとトラヴィスを想う強さによって叶った再会の瞬間であった。その後アンはトラヴィスへジェーンに関する重要な情報を伝える。それはヒューストンにいるジェーンから月に一度、ハンター宛に送金がされているということ。ジェーンが送金の為に銀行を訪れた時を狙い、トラヴィスは彼女を見つけ出そうとする。彼はその情報に賭け、ハンターと共に家を出発した。

ハンターの後押しがあり叶ったジェーンとの再会

ハンターと2人の時間。親子でドライブをし、ジェーンを捜す旅をする。彼らの空白の時間が埋まることはない。けれどハンターはウォルトの家に残るよりも、ヒューストンにいるジェーンのところへ向かおうとするトラヴィスを選んだ。この選択がトラヴィスになんとしてもジェーンと再会を果たそうとする決意と、ハンターを無事にジェーンの元へ連れて行こうとする責任を抱かせることとなる。送金のため銀行を訪れたジェーンに真っ先に気づいたのはハンターであった。彼女の顔をよく見ていないにも関わらず、彼は感覚で反応していた。すぐさま居眠りをしていたトラヴィスを起こし、2人はジェーンの乗る車を追いかける。長い距離を走り停車した場所は大通りから外れた路地裏。彼女の入っていった場所はテレフォンクラブであった。

トラヴィスは客を装いジェーンと再会する。マジックミラー越しトラヴィスにはジェーンの姿が見えているが、彼女からは見えない。鏡に写る自身の姿が映っているだけだ。1度目は彼女がいたことを確認するだけで、トラヴィスはその場を後にする。その後彼は2度目の来店までの間に、酒に酔った勢いてジェーンとの間に起きたことをハンターに話し、そして酒の抜けた状態になると今度はハンターの為にボイスメッセージを残すことをしていた。この時既にトラヴィスの中で決意が固まっていたのである。トラヴィスは失っていた記憶をだいぶ取り戻していたようだ。けれどその全てを思い出すことを恐れていた。やはりジェーンとの再会はトラヴィスを大きく揺さぶる。2度目の来店でトラヴィスは、ジェーンに正体を明かすこととなる。彼はジェーンを前にしながら、淡々と彼女と過ごした日々を話し始めた。最初は気付かずに聴いていたジェーンであるが、表情は徐々に変わっていく。トラヴィスとジェーンの間に起きた惨事を彼の声で思い出していくジェーン。
トラヴィスは出稼ぎから戻るなり物に当たり散らすようになり、暴言を吐き、そして飲んだくれるようにまでなっていた。そしてジェーンも妊娠を機に人が変わり、終いにはトラヴィスの元から逃げ出そうとするようにまでなっていたのである。しかし2人が互いを傷つけあった過去を取り消すことはできない。トラヴィスはジェーンのことを心の底から愛していた。仕事で出稼ぎに出なければならないトラヴィスであったが、生活の為であったとしてもひと時も彼女と離れたくないというほどにその想いは強かった。ある時からそこにトラヴィスの妄想が混ざり、彼らの関係は悪化していくこととなる。トラヴィスは自身が出稼ぎに出ている間に、ジェーンが浮気をしているのではないかという不信感を募らせていった。確かな証拠は無い。しかし2人の年齢差を気にしていたことが根底にあり、トラヴィスは若くて美しいジェーンに自身が釣り合っているのかと以前から不安を感じていたのだ。大きくなっていく妄想にトラヴィスは苦しみ、やがて愛するジェーンが本当にトラヴィス愛しているのかを試すようになっていた。しかしその後にはジェーンまでもが精神を病み、互いに傷つけあうようになっていく。トラヴィスはそれでもジェーンを愛していた。けれどその時のトラヴィスは既に正常な愛し方を忘れていた。トラヴィスはこれらの過去を掘り返すのではなく、当時伝えることのなかった胸の内を受話器越しに吐露していくこととなる。出稼ぎの為に愛するジェーンと離れなければならないことがトラヴィスにとって耐え難いものであったこと。離れている時間が増えたことで妄想に取り憑かれ、ジェーンの浮気を疑い彼女にあたるようになっていたことなど、ここにきて彼女はトラヴィスが変わってしまった原因を知ることとなる。トラヴィスの稼ぎは多くはなく、2人の間に年齢差もあることから常に不安を抱えていたトラヴィス。失踪から4年の歳月を経て、ようやく彼は自身のことを開示することができたのであった。そして彼の話しの最後にジェーンへ伝えられたものは、ハンターと一緒に宿泊しているホテルのルームナンバー。その後ジェーンは教えられたホテルの部屋へ向かい、無事ハンターとの再会を喜ぶ。しかしそこにトラヴィスの姿はなく、彼はジェーンとハンターの前から姿を消し再び放浪の旅に出るのであった。

『パリ、テキサス』の登場人物・キャラクター

トラヴィス一家

トラヴィス・ヘンダースン(演:ハリー・ディーン・スタントン)

冒頭ではスーツにキャップ帽という奇妙な服装で荒野を彷徨っていた。妻や息子、仲の良かった弟夫婦の前からも姿を消したトラヴィス。主な登場人物の中の年長でありながら、子どものように見える場面が多々ある。失踪してからの朧げであった記憶がウォルトとの再会を機に徐々に思い出していく。しかし彼は全部を思い出すことを恐れてもいた。失踪に至るまでの記憶を思い出した時、彼はその痛みに耐え切れるのか。記憶に蓋をするほど辛いものと向き合う怖さがトラヴィスの身に起きたことを通して描かれている。

ジェーン・ヘンダースン(演:ナスターシャ・キンスキー)

出典: www.thecinema.jp

トラヴィスの年の離れた妻であり、現在はテレフォンクラブで働いている。トラヴィスのいなくなった後ハンターをウォルトとアンに託し、彼女も同様に行方をくらましていた。トラヴィスと異なる部分は、失踪後も毎月ハンター宛に送金していたこと。トラヴィスは本当に全てを放棄して彷徨っていたのであった。ジェーンは母としての強さを備えていた。

ハンター・ヘンダースン(演:ハンター・カーソン)

出典: www.thecinema.jp

もうすぐ8歳になるブロンドヘアの少年。髪の色は母から譲り受けたものである。まだ幼い頃に両親と離れ離れになったハンターは、ジェーンとトラヴィスがどんな人物であったかは覚えていない。確認する術として8ミリフィルムの映像が貴重なものとなっていた。

3歳のハンター・ヘンダースン(演:ジャスティン・ホッグ)

8ミリフィルムの映像に映っている3歳のハンター。クルクルの癖っ毛ヘアであり、その時一緒に映っていたジェーンもまた同じようにクルクルに巻いている。自分の足で立てるようになっており、トラヴィス、ジェーン、ウォルト、アンに囲まれ幸せの中にいた。

ウォルト夫妻

ウォルト・ヘンダースン(演:ディーン・ストックウェル)

出典: www.thecinema.jp

右の人物。

yoshica004
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@yoshica004

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