パタリロ!(魔夜峰央)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『パタリロ!』とは1978年より魔夜峰央が『花とゆめ』で連載していた漫画、およびそれを原作としたアニメ作品である。架空の島国・マリネラを舞台に、その国王のパタリロが英国秘密情報部の凄腕エージェントであるバンコランやその愛人で殺し屋のマライヒ、側近のタマネギ部隊などとともに巻き起こす騒動を描く。同性愛を題材にした耽美的な世界観を持つギャグ漫画で、少女漫画界屈指の長寿作品である。

パタリロはどんな病気でも治す能力を持つロビーという青年と出会う。
パタリロはロビーの能力を利用し、各国の大物の病気を治して大金を稼ぐビジネスを思いつく。

次々に病人を治療する一方、自身は消耗していくロビー。実は、ロビーはなにかのはずみで自分の生命を与えることができるようになっただけだったのである。

その事実が判明したのは、バンコランからの依頼でアジアの戦争をやめさせるために活動する枢機卿の治療を行う直前だった。これ以上治療を行えば、ロビーは死んでしまう。治療を中止しようとするパタリロだが、枢機卿が死ねば戦争が続き、何千何万という人命が失われるとバンコランに説得される。

意を決したパタリロは、これが最後だとロビーを枢機卿の治療に向かわせる。
全力で治療にあたるロビー。やがてロビーの命と引き換えに枢機卿は回復した。

パタリロはなぐさめようとするバンコランをふり払い、一人きりになって泣く。
「その日パタリロは生まれてはじめて心の底から泣きました」というナレーションが涙を誘う、作中屈指のシリアス回。

マライヒ「こんなことを思ったらその罪で地獄に堕とされるかもしれないけど…でもうれしい!」

バンコランの叔父、キーン・バンコランはニューヨークのダイヤモンド街を牛耳り、パタリロと対立する。幼少の頃、キーンに父と愛犬のフンギーを殺されたと疑い続けてきたバンコランは、パタリロの味方につく。

バンコランのためにキーンのことを探ろうとしたマライヒは、キーンに捕らえられて犯される。
これを知ったバンコランは怒り狂い、嫉妬に苦しむ姿を見せる。
普段はクールなバンコランのそんな姿を初めて見たマライヒは驚き「こんなことを思ったらその罪で地獄に堕とされるかもしれないけど…でもうれしい!」と思うのだった。

名うてのプレイボーイであるバンコランは、マライヒと出会ったあとも浮気が絶えず、これまでマライヒはバンコランの愛を疑うことが度々あった。そんなマライヒも、そしてバンコランも真の愛に気づいた場面。

バンコラン「帰ろう…帰ろう…家へ…」

叔父であるキーン・バンコランとの長い戦いを終えたバンコラン。父と幼い頃の唯一の友だちだった愛犬フンギーを殺し、最愛のマライヒを犯したキーンへの復讐を果たした。
そして、幼い頃は慕っていた叔父との長年のしがらみに終止符を打ったのだった。

帰路に着くバンコランとマライヒ。バンコランの目には、これまで見せたことのない涙が光っていた。驚くマライヒにバンコランは「帰ろう…帰ろう…家へ…」と告げる。

父を殺され、母とは決別し、家族の愛に恵まれてこなかったバンコランにとっては、疑惑の相手とはいえキーンは唯一の肉親といえる存在でもあった。その相手との決着をつけなければならなかったバンコランの複雑な悲しみが胸を打つシーンである。

『パタリロ!』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

多様性の先駆け

本作の連載が開始された1970年代、少女漫画界は耽美的な少年愛が流行しており、本作でもその要素が盛り込まれている。本作は特に登場人物のほとんどが男性で、その大半が同性愛者という特異な設定から独特の世界観を持っていた。

作中では男性同士のラブシーンも多く、アニメでもそれは映像化され、アニメ放送がゴールデンタイムに行われていた時代にもかかわらず普通に放送されていた。
そのため、これを問題視する人も多く「『パタリロ!』のアニメを観てはいけない」、「『パタリロ!』を読んではいけない」、また代表的なギャグである「『クックロビン音頭』を踊ってはいけない」とされる家庭も多かった。

とはいえ、今でいう「性の多様性」に好意的な理解があるわけではなく、差別的な表現が多々みられる。

多くのスピンオフ作品が存在

本作の主要キャラクターが別の設定で登場する『家政夫パタリロ!』、『パタリロ西遊記!』、『パタリロ源氏物語!』、『パパ!?パタリロ!』、『スーパーキャット』などのスピンオフ作品が数多く存在する。

『家政夫パタリロ!』はパタリロが借金返済のために働く家政夫・越後屋波多利郎(えちごやぱたりろう)として設定されたシリーズ。「家政夫パタリロ!」、「奥様はパタリロ!」、「ビストロ温泉パタリロ!」、「出もどり家政夫パタリロ!」、「仁義なき家政夫パタリロ!」の5作が発表された。単行本は各1巻。

『パタリロ西遊記!』は『西遊記』を『パタリロ!』の主要キャラクターで描く作品。単行本は全9巻(本編8巻、外伝1巻)。アニメ化もされた。

『パタリロ源氏物語!』は『源氏物語』を『パタリロ!』の主要キャラクターで描く作品。単行本は全5巻。

『パパ!?パタリロ!』
突然見知らぬ場所で弟だとされる赤ん坊の世話をすることになったパタリロの奮闘を描く作品。単行本は全1巻。

『スーパーキャット』
スーパーキャットが主人公で、助手のベカチューとともに事件を解決していく。パタリロは登場しない。単行本は全1巻。

少女漫画界では異例の長寿連載

1978年の連載開始以来、掲載誌を変更しながら連載を継続している少女漫画界のギャグ漫画としては1位となる長寿作品で、コミックスの刊行は100巻をこえている。
掲載誌は『花とゆめ』、『別冊花とゆめ』、『花とゆめPLANET増刊号』、『MELODY』、『花LaLa online』、『マンガPark』と変遷している。

封印されたエピソード「マリネラの吸血鬼」

単行本第4巻の第15刷まで作品番号12番として収録されていた「マリネラの吸血鬼」というエピソードは、第16刷以降は他の作品に差し替えられた。
これについて公式な説明がなかったため、長い間「差別的な表現がある」「ナチスをネタにしている」ことが原因だと憶測されていた。

原作者の魔夜峰央はのちに「アガサ・クリスティの短編『ラジオ』を下敷きにしているため、著作権侵害で訴えられる可能性があったので欠番にした」と述べており、先述の差別表現やナチスの表現は憶測でしかなかったことが判明した。

なお、このエピソードは、アニメでは差別用語をカットしたり、ストーリー展開を一部改変した状態で放送されている。

その後、本作の文庫化にあたり、クリスティー社の承諾を得て再録されることが決定。差別用語やナチスの表現を修正したうえで文庫版第50巻に収録された。

2010年代になって突然の実写化

本作は1982年にフジテレビでアニメ化され、テレビシリーズ終了後の1983年には長編エピソード「スターダスト」を原作とした劇場用アニメ作品が製作・公開された。

その後、長らくメディアミックス展開されることはなかったが、2016年に加藤諒主演により舞台化。この好評を受けて2018年には第2弾『舞台「パタリロ!」★スターダスト計画★』、2021年には第3弾『舞台「パタリロ!」~霧のロンドンエアポート~』、2022年には第4弾『舞台「パタリロ!」~ファントム~』が上演された。

さらに、2018年には『劇場版パタリロ!』のタイトルで、舞台版と同じメインキャスト、スタッフにより実写映画化された。

『劇場版パタリロ!』は当初、2018年秋に公開予定だったが、バンコラン役の青木玄徳が不祥事を起こしたため公開延期となり、公開が危ぶまれたが、2019年6月から全国順次公開された。

『パタリロ!』の主題歌・挿入歌

OP(オープニング):藤本房子『パタリロ!』

全話のオープニングテーマ。21話より『ぼくパタリロ!』と改題されている。

ED(エンディング):竹田えり『美しさは罪』

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