Chic(シック)の徹底解説まとめ

Chic(シック)とは、1977年にデビューしたアメリカのディスコ・ファンクバンドである。中心メンバーはナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズ。『おしゃれフリーク」』や『グッド・タイムス」』等のビルボードNo.1を発表し、1970年代後半のディスコ・ブームを牽引した。80年代はナイルとバーナードはプロデューサーとして活躍。マドンナやデヴィッド・ボウイ、ダイアナ・ロスなどのアーティストを大ヒットさせた。現在もナイル・ロジャースを中心に活動するダンスミュージック界のレジェンドである。

『グッド・タイムス』がその後に与えた影響

写真上「シュガーヒル・ギャング」写真下「クイーン」

『おしゃれフリーク』がシックの最大のヒット曲であるが、最も他のアーティストに影響を与えた曲は『グッド・タイムス』といえる。
その最たるものが70年代オールドスクールのラッパー集団「シュガーヒル・ギャング」である。当時のラッパーは、ディスコに行くほど経済的にも余裕のない若者達が主流で、活動の場はもっぱらストリートだった。彼らは思い思いのレコードをスクラッチし、それに乗せてラップを奏でていた。当然無断使用であるが、このシュガーヒル・ギャングが『グッド・タイムス』をサンプリングに使った曲が『Rapper's Delight』であり、ラップ史上初の全米チャートTOP40にランクインしてしまう。当然、著作権問題が発生し、訴訟問題に発展していくが、最終的にはシックの二人が共作者にクレジットされるということで解決に至った。
そして、当時シックのレコーディング・スタジオによく遊びに来ていたのが、クイーンのベーシストで無類のR&B好きだったジョン・ディーコンだった。
シックの影響を受けたジョンが、リハーサルでグッド・タイムスのようなベースラインを弾くと、フレディー・マーキュリーが興味を示した。フレディーは親交のあったマイケル・ジャクソンから「君たちには踊れる曲が必要だよ」とアドバイスされていた。しかしR&Bやダンス・ミュージックに興味がなかったギターのブライアン・メイやドラムのロジャー・テイラーは難色をしめしたが曲は完成した。
クイーンはリリースを渋りライブでだけの演奏をしていたところ、ロサンゼルスのコンサートを見に来ていたマイケル・ジャクソンが、バックステージでフレディ・マーキュリーに「あの曲はシングル・リリースすべき」と進言し、レコーディングに動いた。
最終的にアルバム『ザ・ゲーム』に収録されたこの曲は「Another One Bite The Dust 地獄へ道づれ」としてシングルカットされ、たちまち全米ナンバーワンを獲得し、クイーン最大のヒット曲となった。アルバム『ザ・ゲーム』もクイーンにとって初の全米ナンバーワンとなった。

『アップサイド・ダウン』のシック・バージョンをモータウンが却下

1980年発表のダイアナ・ロスの大ヒットアルバム『DIANA』のジャケット

1980年、ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズの2人は、ソウルの女王ダイアナ・ロスをプロデュースし話題となった。ダイアナ本人からの希望だったそうである。そしてアルバム『ダイアナ』は完成し、シングル「アップサイド・ダウン」は大ヒットする。
そんなダイアナ・ロスのキャリア最大のヒット曲となった『アップサイド・ダウン』だが、実はリリースまでには紆余曲折があった。
なんと最初に出来上がったバージョンは、ダイアナの所属するモータウンから却下されたのである。理由は、シック色が強すぎて、彼女の歌が前面に出ていないということであった。「女王」であるダイアナが、若手バンドに過ぎないシックの後ろに隠れる訳にいかないというのが理由であった。
結局、モータウンは所属プロデューサーのラス・テラーナに手直しを指示。彼はほぼ一人でダイアナが望む形に仕上げた。ショックを受けたシックの2人は、自分たちのクレジットを外すように申し入れたそうだが、最終的には「Produced by Bernard Edwards and Nile Rodgers」としてリリースされた。
結果『アップサイド・ダウン』はモータウンのもくろみ通り、ビルボード全米ナンバーワンに輝くのだが、ここで一つの疑問がおこる。ミックスの手直しが入ったはずの『アップサイド・ダウン』が、十分にシックサウンド全開なのである。却下されたバージョンはいったいどういうものだったのか、長らくファンの間で謎として語られていた。
しかしリリースから23年後の2003年、アルバム『ダイアナ』がリマスター&リミックスされて デラックス・エディションとして発表され、ボーナストラックとして全8曲のオリジナル・シック・ミックスが収録されたのである。
遂に日の目を見ることになったオリジナルバージョンだが、確かにモータウンのシングルバージョンの方がダイアナのボーカルが粒立っている。
オリジナルシックバージョンでは、シックの演奏にダイアナが乗っかっているだけという感は否めず、ダイアナのボーカルは、まるでワンテイクで撮ったかのような流れの自然さはあるものの、練り上げられた感じはなく、ボーカルの音圧も低い。
肝心のシックの演奏はというと、シングルバージョンよりも「しっかりと鳴っている」感はあるものの、演奏そのものは大きく違っていない。つまりモータウン側としては「Chic featuring Diana Ross」のように仕上がったアルバムを「Diana Ross featuring Chic」に手直しをしただけであった。あくまでも主役はダイアナ・ロスであるわけで、プロデューサーとしては本来なら主役の個性を引き立てなくてはならない。モータウンとしては至極当然のことをしただけともいえる。
ナイルとバーナードにとっても初めての大物アーティストのプロデュースであり、2人がプロデューサーとしてダイアナの個性を際立たせるようなプロフェッショナルな仕事をしたかと言うと、この当時はまだまだだったと言える。

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