イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
第二次世界大戦中に、ドイツのエニグマ暗号の解読に挑んだアラン・チューリングの実話を、グレアム・ムーア脚本、モルテン・ティルドゥム監督により2014年に映画化した、歴史ミステリー映画。解読不能と言われたエニグマ暗号を、万能マシン「クリストファー」によって解読し、イギリスを勝利に導いたものの、同性愛者であることから不遇の人生を送ったアラン・チューリングをベネディクト・カンバーバッチが熱演している。
イギリス海軍中佐。解読不能と言われるエニグマ暗号を解読するため、国中の数学者や言語学者などを集める。チューリングに対しては初対面の時から良い印象はなく、クリストファー開発についても疑問を抱いていた。エニグマ解読後もチューリングたちとミンギスの話し合いにより、デニストンにその成功が伝えられることはなかった。
スチュアート・ミンギス(演:マーク・ストロング)
イギリス軍人。第二次世界大戦中はMI6 (秘密情報部) の長官を務めた。チューリングの才能については高く買っており、個人のオフィスが欲しいと言うチューリングを説得したり、チャーチル宛ての手紙を届けたりした。エニグマ解読後はチューリングたちに相談を受け、阻止する攻撃について嘘の情報源を用意し、解読したことを内密にして裏で動いていた。
ロバート・ノック刑事(演:ロリー・キニア)
1951年にチューリング宅に泥棒が入った際、捜査を担当した刑事。チューリングが「何も盗まれていない」と言い早々に自分たちを追い払おうとしたことを不自然に思い、チューリングの経歴を調べ始める。軍歴が全く残っていないことからスパイであると疑い、上司に頼み尋問の機会を得るが、そこでエニグマ解読という思いもよらない事実を聞くことになる。
時代背景
この物語は、チューリングの少年時代、第二次世界大戦が始まった1939年から終戦まで、終戦から6年後にチューリング宅で起きた盗難事件の、3つの時代の出来事が交錯して描かれている。どの時代にも共通しているのは、同性愛者が犯罪者として扱われていること。イギリスでは、1885年から1967年までに、約49000人の同性愛者の男性が、わいせつ罪で有罪となっているのだ。同性愛者であったチューリングは、少年時代から自分を偽り、生きていくしかなかった。さらに戦時中、政府の最高機密計画に関わったことから、2つの大きな秘密を抱えて生きることとなる。
チューリングが自殺した後も、エニグマ解読の計画は戦後50年以上も政府の機密扱いであった。エリザベス女王がチューリングに死後恩赦を与え、その偉業を讃えたのは2013年になってからである。エニグマの解読は戦争終結を2年以上早め、1400万人以上の命を救ったとも言われている。そしてチューリングの作ったマシンは、今のコンピュータの基礎となっている。
見どころ
本作は、第二次世界大戦時に戦地で銃を持って戦うのではなく、ペンを持って暗号と戦った者たちがいるという事実を後世に伝える映画であり、同性愛者が長い間犯罪者として裁かれ、人生を虐げられてきたことを世間に知らしめる映画でもある。
だが、作品を通して伝わってくるのは、アラン・チューリングという一人の人間の苦悩に満ちた人生である。そして彼が人生を通して成し遂げたことが、いま私たちの生活の礎になっているにも関わらず、そのことが50年近くも国家機密扱いとされ、知られることがなかったという事実に驚愕させられる。
脚本を手掛けたグレアム・ムーアは、16歳の時、変わり者で居場所がないと感じ自殺を図った。そんな彼の経験が、戦争の歴史や同性愛者の歴史、そしてコンピュータの歴史を明らかにしながら、あくまでも一人の人間の波乱に満ちた人生をドラマティックに描いたこの作品に繋がったのかもしれない。
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のエピソード・逸話
本作の素晴らしい演技で、アカデミー主演男優賞に初ノミネートされたベネディクト・カンバーバッチ。彼は「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の撮影中にこの脚本と出会った。脚本を読み「この物語を伝えなくてはならない」と感じたベネディクトは、この役が決まると伝記や資料を読むだけでなく、チューリングの親戚や元同僚に会い内面について話を聞いた。
チューリングの本質や背景を理解し、それを物語に昇華させたベネディクトの演技は、多くの観客の心を掴み、ベネディクトの名を世界中に広めた。そしてベネディクトは、映画が公開された後もチューリングに関する本を読み、話を聞いてリサーチを続けているという。
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
「時として誰も想像しないような人物が、想像できない偉業を成し遂げる」
このセリフは作中に3度登場する。1度目は、チューリングの少年時代の回想シーン。成績優秀で変わり者だったチューリングはいじめを受けていた。しかし彼には唯一の味方であり理解者がいた。それが後にマシンの名前となる初恋の相手、クリストファーだった。クリストファーはいじめられたチューリングを助け出し、この言葉をかける。2度目は、ジョーンが親の反対から仕事を断った際、チューリングが自宅へ説得に行くシーン。「なぜそこまで私のために?」と尋ねるジョーンに、チューリングはかつて自分を目覚めさせてくれたこの言葉を送る。
3度目は、同性愛者として罪に問われたチューリングを、ジョーンが心配して家へ訪れるシーン。ホルモン治療を受け、精神的にも肉体的にもどん底にあるチューリングに、ジョーンが再びこの言葉を送る。ジョーンにとっては自分を目覚めさせてくれたチューリングの言葉だっただろうが、チューリングにはクリストファーが再びこの言葉を送ってくれたように思えたのかもしれない。
「あなたが普通じゃないから、世界はこんなにすばらしい」
このセリフもホルモン治療中のチューリングにジョーンが送った言葉だ。何百人、何千人という人を見殺しにし、その記憶はこびりついて離れないのに、事実としては抹消された。同性愛者であることは罪とされ、偽りの自分として生き、ホルモン治療で手は震え、クロスワードパズルも解けない。立派に生きているジョーンを見て「きみはすべて手に入れたね。仕事も、夫も、普通の暮らしも」とチューリングは呟く。
そんな彼にジョーンは語り掛ける。「今朝私は、消滅したかもしれない街の電車に乗った。あなたが救った街よ。死んでいたかもしれない男から切符を買った。あなたが救った人よ。仕事に必要な科学研究の資料を読んだわ。あなたがその基礎を築いたのよ。あなたが普通を望んでも、私は絶対にお断り。あなたが普通じゃないから、世界はこんなに素晴らしい。」
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目次 - Contents
- 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の概要
- 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のあらすじ・ストーリー
- 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の登場人物・キャラクター
- アラン・チューリング(演:ベネディクト・カンバーバッチ)
- ジョーン・クラーク(演:キーラ・ナイトレイ)
- ヒュー・アレグザンダー(演:マシュー・グード)
- ジョン・ケアンクロス(演:アレン・リーチ)
- ピーター・ヒルトン(演:マシュー・ビアード)
- デニストン中佐(演:チャールズ・ダンス)
- スチュアート・ミンギス(演:マーク・ストロング)
- ロバート・ノック刑事(演:ロリー・キニア)
- 時代背景
- 見どころ
- 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のエピソード・逸話
- 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 「時として誰も想像しないような人物が、想像できない偉業を成し遂げる」
- 「あなたが普通じゃないから、世界はこんなにすばらしい」
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