
『ねじ式』とは、つげ義春原作の短編漫画。1968年刊行の『月刊漫画ガロ』6月増刊号『つげ義春特集』に掲載された。同作品は、とある海岸でメメクラゲに左腕を噛まれた少年が、医者を求めて漁村を彷徨い不思議な体験をする短編漫画である。何度も単行本化されており、つげの代表作の1つに数えられている。また、1998年に浅野忠信主演の実写映画版が公開された。つげは、『ねじ式』発表までは叙情的な作風の漫画家だったが、同作品以降はシュールで前衛的な作品を多く執筆している。
『ねじ式』の概要
『ねじ式(ねじしき)』とは、つげ義春原作の短編漫画。『月刊漫画ガロ』1968年6月増刊号『つげ義春特集』に掲載された。過去に何度も単行本化されており、青林堂版『つげ義春作品集』全1巻、小学館文庫版全1巻、筑摩書房版つげ義春全集6『ねじ式・夜が掴む』、青林工藝社版『ねじ式 つげ義春作品集』全1巻、嶋中書店版つげ義春自選集全1巻、嶋中書店版つげ義春傑作選全1巻などが発売された。小学館文庫版が、電子書籍化されている。また、『ねじ式』以外の収録作品は、各版によって相違がある。
『ねじ式』のメディアミックスには、1989年にリリースされたゲーム版『名作浪漫文庫 ねじ式』がある。また、1998年に石井輝男監督による実写映画版が公開された。『ねじ式』の実写映画版は、浅野忠信が主人公のツベを演じている。『ねじ式』だけでは長編映画として十分な尺が得られないため、同じつげ義春原作の短編漫画『別離』、『もっきり屋の少女』、『やなぎ屋主人』のストーリーを組み合わせて1本の映画として制作された。ちなみに、石井輝男は、1993年につげ義春原作の漫画『ゲンセンカン主人』を映画化している。さらに、つげの実弟で漫画家のつげ忠雄の作品『無頼平野』も監督した。
『ねじ式』は、とある海岸で海水浴中に謎の生物メメクラゲに左腕を噛まれて重傷を負った少年が、医者を求めて漁村を彷徨いながら奇妙で不思議な体験をする不条理短編漫画である。『ねじ式』の作品としての大きな特徴は、前衛的でシュールなストーリー展開と、それを増幅させる効果を持ったアバンギャルドな作画である。セリフ回しも独特であり、発表直後から漫画界のみならず広い範囲で大反響を巻き起こした。読者をはじめ、同業の漫画家や識者の間で考察が行われた。また、多くのパロディ漫画が描かれたり、印象的なシーンやセリフが他の漫画やメディアに用いられるなど各方面に多大な影響を与えたことで有名である。
『ねじ式』のあらすじ・ストーリー
『ねじ式』漫画版
重傷を負って彷徨う少年
『ねじ式』の主人公の少年はとある漁村の海で泳いでいた際に、メメクラゲに左腕を噛まれた。その結果、少年の静脈は切断された状態となり、右手で常に繋ぎ止めていないとたちまち血が溢れてくるのだった。死を意識した少年は、不慣れな漁村で懸命に医者を捜すのだが、出会う人々が皆一様に要領を得ない返答をするため次第に焦り出した。
少年は漁村を離れて、隣村で医者を見つけるべく線路の上を歩き出した。すると、線路の向こうから蒸気機関車がやって来る。少年は、狐のお面を被った子供の運転する機関車へと乗り込んだが、隣村とは逆方向に走っていることに気づいた。狐のお面を被った男子に諭された少年は、外の風鈴の音を聞きながら目を閉じる。ところが、機関車は元の漁村に辿り着いてしまった。
左腕の血管がねじ式になった少年
時間を無駄にした少年は、仕方なく「テッテ的」に漁村を歩いたが、どこに行っても目医者しか見つからないのだった。ほどなくして、少年は金太郎飴を売っている老婆に出会った。老婆は、自分の持ち不動産である「金太郎飴ビル」に入居している産婦人科女医を紹介してくれた。少年は、金太郎飴の製法でビルを建てた老婆におッ母さんの影を見て問いただすが、老婆は深い訳があると真相を語らなかった。少年も深く問い詰めることをせず、2人は金太郎飴をポキンと折って挨拶を交わして別れたのである。
産婦人科女医は、少年の手術をしてほしいという申し出を、ここは婦人科で男の来る場所ではないという理由で断った。少年は、後ろから女医を襲って裸にする。少年と女医はそのまま布団の中に入った。2人がまぐわっている間に、女医は手術を行う。手術は無事に成功し、少年の静脈はねじのような形状になった。女医は、少年に「〇✕方式」を応用した手法であることと、ねじを締めると血が止まることを告げた。少年がモーターボートに乗り込み、左腕をかざしながら漁村を去ったシーンで『ねじ式』の物語は完結したのだった。
『ねじ式』映画版
ツベと国子の別離
売れない漫画家のツベは、恋人の国子(くにこ)と同棲していたが、家賃が払えずアパートを追い出された。ツベは、知己であるレタリング作家の木本(きもと)を頼って「大平荘」というアパートで同居生活を始める。ツベと国子の仲は日増しにギクシャクし、彼は国子が旧友の小次郎(こじろう)と浮気しているのではないかと考え出した。国子が浮気をしていたのは事実だったが、相手は小次郎ではなく元パート先の本屋の客である。そして、国子はある日ツベに妊娠したことを打ち明けた。悲観したツベは、睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ったのだった。
つべとコバヤシチヨジ
ツベの自殺は失敗に終わった。彼が目を覚ますと病院にいた。木本と大平荘の家主が、彼を病院へと運んだのだ。お金の持ち合わせがないツベは、短期間で病院を抜け出して当てのない旅へ出る。とある村で釣りをしていたツベは、コバヤシチヨジという少女と出会った。チヨジは「もっきり屋」という居酒屋に勤めており、ツベは成り行きでそこへ連れてこられた。チヨジは、幼い頃に売られてきたと話し、ツベに自分の身体を買わないかと持ちかける。彼は断ってひたすら酒を飲むが、酔い潰れてしまった。奥の部屋で寝ていたツベが起きると、チヨジが常連客ちに乳房を揉まれている場面を見てします。客が帰った後、ツベはチヨジに別れを告げてもっきり屋を出て行った。
ツベと「やなぎ屋」の娘
ツベは、その後ヌードスタジオの女と会話をした。そして、その場を後にすると勢いで海へと向かったが、終電を逃してしまう。親切な駅員が、彼に「やなぎ屋」という食堂兼民宿を紹介した。やなぎ屋は、年老いた母親とその娘が営んでいる。娘は独身だった。ツベは、娘のことを性に奔放な女性だと妄想していた。ツベが床へ入ると、娘が部屋に入ってくる。2人は激しく交わった。既成事実を作った娘がツベにそのことを話すと、彼は責任を取って結婚し、店を一緒にやろうかと返答する。しかしながら、彼は次の日にやなぎ屋から姿を消したのだった。
それから1年後、娘のことを思い出したツベは再度「やなぎ屋」を訪れる。ところが、娘はツベのことを忘れてしまっていた。店を出たツベは、虚無感に襲われてしまい、海岸へと向かった。拾ったハマグリを持って焚き火をして夜を明かすのだった。
ツベと女医
あくる日、ツベは海で泳いでいた。すると、クラゲに左腕を噛まれてしまう。失血死しないように血管を摘まんで病院を捜すツベだったが、一向に見つからない。彷徨うツベは、老婆が営む金太郎飴の店に辿り着いた。金太郎飴店の上階には産婦人科があるのだが、女医は男ならば診察しないと断る。そして、ツベと女医は何故か性行為に及んだ。その最中に女医は、ツベの左腕を手術をした。ツベの左腕には、ねじが付いていた。女医は、ねじを回さないようにと注意したが、ツベが言うことを聞かずにねじを締めると彼の左腕は痺れるようになったのだった。
『ねじ式』の登場人物・キャラクター
『ねじ式』漫画版
少年

『ねじ式』の主人公。名前や年齢は不明で、同作品は少年の「ぼく」という1人称ナレーションにて作品が展開される。たまたま海水浴に来ていたとある漁村の海でメメクラゲに嚙まれてしまい、左腕の太い静脈を切断されてしまった。出血多量で死亡する前に医者を捜すのだが、その道中で多くの不思議な出来事に巻き込まれていく。最終的には女医の手術を受けて一命を取り留めるが、静脈がねじのようになったことでねじを締めると左腕の血流が止まり痺れる身体となる。
ロイド眼鏡の男

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目次 - Contents
- 『ねじ式』の概要
- 『ねじ式』のあらすじ・ストーリー
- 『ねじ式』漫画版
- 重傷を負って彷徨う少年
- 左腕の血管がねじ式になった少年
- 『ねじ式』映画版
- ツベと国子の別離
- つべとコバヤシチヨジ
- ツベと「やなぎ屋」の娘
- ツベと女医
- 『ねじ式』の登場人物・キャラクター
- 『ねじ式』漫画版
- 少年
- ロイド眼鏡の男
- 狐のお面を被った少年
- 老婆
- 女医
- 『ねじ式』映画版
- ツべ(演:浅野忠信)
- 国子(くにこ/演:藤谷美紀)
- 看護婦(演:藤森夕子)
- 木本(きもと/演:金山一彦)
- もっきり屋の少女/コバヤシチヨジ(演:つぐみ)
- やなぎ屋の娘(演:藤田むつみ)
- ヌードの女(演:青葉みか)
- 女医(演:水木薫)
- 村の飲み客(演:杉作J太郎、海原由樹)
- 娘の母(演:三輪禮子)
- ロイド眼鏡の男(演:原マスミ)
- 村長(演:高野慎三)
- セパード/小次郎(こじろう)(演:広崎哲也)
- 医師(演:三木秀則)
- 金太郎飴売り(演:清川虹子)
- 駅員(演:砂塚秀夫)
- 家主(演:丹波哲郎)
- 『ねじ式』の用語
- メメクラゲ
- 金太郎飴ビル(きんたろうあめビル)
- 〇✕方式(まるばつほうしき)
- 『ねじ式』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 少年「まさかこんな所にメメクラゲがいるとは思わなかった」
- ロイド眼鏡の男「きみはこう言いたいのでしょう。イシャはどこだ!」
- 少年「いやこの場合テッテ的というのが正しい文法だ」
- 少年「なるほどポキン金太郎」/老婆「ポキン金太郎」
- 『ねじ式』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- つげ義春の作風を一変させたシュールな作品『ねじ式』
- 少年の顔が描き直されたバージョンが存在する『ねじ式』
- 「メメクラゲ」や「眠科」など誤字・誤植が存在する『ねじ式』
- 実は多くの元ネタがあることで知られる『ねじ式』
- 後の漫画作品に多大な影響を与えた『ねじ式』