
『ビフォア・ミッドナイト』とは、2013年に公開されたアメリカの恋愛映画である。監督はリチャード・リンクレイター。主演を務めるのは前作に引き続きイーサン・ホークとジュリー・デルピー。2人は本作でもリンクレイターと共に脚本を手がけている。本作はビフォアシリーズ3部作の完結編であり、出会ってから18年が経過したジェシーとセリーヌの結婚後の様子が描かれている。非日常の時間であっても、出会った当時とはまるで異なる夫婦の会話。ロマンティックさを求める時は過ぎ去り、見つめなければならない現実があった。
『ビフォア・ミッドナイト』の概要
『ビフォア・ミッドナイト』とはリチャード・リンクレイターが監督を務めるアメリカの恋愛映画である。アメリカでの公開は2013年1月20日。日本では2014年1月18日に公開されている。ビフォアシリーズの1作目の『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)、2作目『ビフォア・サンセット』(2004年)の続編となっている。シリーズは本作で完結。主演を務めるのは1作目から出演しているジェシー役のイーサン・ホークとセリーヌ役のジュリー・デルピー。また2人は本作でも主演だけでなく、リンクレイターと共同で脚本も手がけている。
そして興行収入は全世界で2000万ドルを突破。さらにハリウッド映画賞、ボストン・オンライン映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、サンディエゴ映画批評家協会賞、インディアナ映画批評家協会賞、ユタ映画批評家協会賞、インターネット映画批評家協会賞と様々な賞を受賞している。
物語はウィーンで一夜を共にした男女が9年後に再会し、その後結婚した彼らの非日常を楽しむ姿が描かれている。40代になったジェシー・ウォレスと妻のセリーヌは双子の娘と、ジェシーの前妻との息子であるハンクと共に、ギリシャの海辺でバカンスを過ごしていた。滞在先の別荘では老作家のパトリックや、その友人たちと共に、人生や愛、文学、新時代のテクノロジーなどについて深く語り合っていた。しかしジェシーは息子のハンクと離れて暮らす寂しさや罪悪感から、シカゴへの引っ越しを提案する。その話を聞いたセリーヌは猛反対。彼女はパリで仕事を持っていたためである。ハンクの話をきっかけに2人の関係に亀裂が入っていた。その後、2人は友人夫婦からプレゼントされたホテルに向かう道中では昔のように会話を重ね、久しぶりに2人の時間を楽しんだ。しかしホテルに着いた後に再び激しい口論に発展。運命を感じる大恋愛を経て結ばれた2人が、夫婦生活を送ることで現実的な難しい問題を抱えていく。情熱的な恋愛の先に待つ、夫婦間の溝が生まれながらも2人の関係が続く愛の複雑さが描かれている。
『ビフォア・ミッドナイト』のあらすじ・ストーリー
破局の始まり
ウィーンで一晩を過ごしてから18年が経過。アメリカ人作家のジェシー・ウォレスと環境保護活動に取り組むフランス人のセリーヌは結婚し、双子の娘を授かっていた。ジェシーは41歳になったという。そして一家はジェシーの前妻との息子、ハンクと共に南ギリシャでバカンスを過ごしたところ。ジェシーの運転する車に一家は乗り、ハンクをカラマタ空港まで送り届けた帰りであった。ハンクと別れたジェシーは、息子を前妻の元へ送り返すことにもう耐えられないと訴える。14歳の彼には父親が必要であるとジェシーは理解していた。しかし前妻との関係が上手くいっていないのだ。息子があっという間に大人になってしまうことを、ジェシーは危惧していた。ハンクが大人になるまでの時間は二度と取り戻せない。そこでジェシーはセリーヌにハンクの暮らすシカゴへの引っ越しを提案。だがそれはセリーヌにパリでの環境保護の仕事を手放すことを遠回しに促しているようなものであった。自身の不幸をセリーヌのせいにしているのだと、彼女は彼のこのような発言に遠回しの脅しを度々感じている。彼女はこの時を破局の始まりと表現した。
老作家パトリックの別荘で過ごす時間
ハンクを送り一家は再び別荘へ戻る。6週間滞在している別荘で彼らは著名な老作家のパトリックやその家族、友人たちと共に過ごしていた。ジェシーはパトリック、ステファノスの3人で集まり、ジェシーが執筆したセリーヌとの実話に基づく小説の話をしていた。シリーズは3冊出版されており、本に関する感想を述べ合う。一方セリーヌはというと女性同士で集まり、食事の準備中。その間にも男性たちはジェシーの次回作のアイデアで議論し、盛り上がる。そこにはステファノスの甥であるアキレアスから名前を借りた登場人物もいた。感覚がテーマであるという次回作を気に入ったパトリックは、ジェシーにゲラを送るよう促した。別荘に滞在した全員が集まる食事の席では、パトリックがセリーヌをこれほど面白いパートナーは他にいないと賞賛した。パトリックにとって最愛の友であるナタリアとセリーヌを出会わせることができたことを彼は喜ぶ。ジェシーにとっては非常に喜ばしいことであった。そこでも様々な話題が飛び交う。アキレアスとアナの恋のエピソード、新時代のテクノロジーの発展、自己の概念、ジェシーとセリーヌの恋、男女の違い、永遠に続く愛は存在するのか、亡くなった夫の記憶が遠のいていく寂しさなど、話題は尽きなかった。そしてジェシーとセリーヌはステファノスと妻のアリアドニから、2人でのホテルの宿泊をプレゼントされる。躊躇しながらも娘たちを別荘に残し久々な2人の時間が始まった。
過去の不満や怒りが爆発した2人の旅行
途中観光名所を巡りながらも、2人は会話をしながらホテルへ向かう。昔を思い出す散歩をしながらただただ話をする光景であるが、話題はロマンチックとはかけ離れたものであった。セリーヌと元恋人の関係を引き出しては誤解をしているジェシー、そして彼の96歳の祖母の訃報から74年寄り添った夫婦に驚きを隠せないセリーヌ。彼女にはそれだけの長い年月を共に生きることが考えられないようである。彼女は一緒にいることを耐えられるかとジェシーに尋ねた。さらにジェシーは、もしあと56年一緒にいるとしたらセリーヌの何を変えたいかとジェシーに質問する。そこで変えてほしいことがあるとすれば、ジェシーを変えようとするのをやめてほしいと彼は答えた。2人の会話の裏には言葉とは別の意図が込められているという。真剣に質問するセリーヌと、ふざけた様子で彼女を呆れさせるジェシーであったが、ジェシーにも思うところがあり、お互いを知るために、まずは自分自身を知ることが大切であると彼は促した。
ホテルの到着後、娘に会いたいと言うセリーヌとまったく気にしていない様子のジェシー。そのまま2人でベッドに横たわった直後、ロンドンにいるハンクからの電話が鳴った。ジェシーたちの家に自由研究を忘れてきたという内容であるが、ジェシーに電話を替わることなく彼女は切ってしまったのだ。彼女の行動にジェシーは納得がいかない。再び険悪な雰囲気になり、ハンクのこと、育児や仕事、ジェシーの著作物への不満、さらにジェシーはバカンスにも来たくなかったと言い出す。プレゼントされたホテルの文句も一通りぶちまけた。感情的なセリーヌをジェシーは理性的に抑えようとするがまったくもって意味が無い。セリーヌは部屋を出ては戻り、また出ては戻り、そうして過去の不倫疑惑の話が出たのを最後に彼女が戻ることはなかった。一人部屋に残され冷静になったジェシーは、テラスに一人でいるセリーヌへ見知らぬ人物のフリをして接触した。まるで初めて出会ったようにして彼女に話しかけ続ける。彼はタイムマシンを使い、未来から来たと言い出す。82歳のセリーヌに頼まれたという手紙をジェシーは読んで聞かせた。それでも様子の変わらないセリーヌに痺れを切らしたジェシーは本心を打ち明けた。彼女は逡巡した後に、芝居めいた様子でジェシーの話に乗っていくのであった。
『ビフォア・ミッドナイト』の登場人物・キャラクター
ウォレス家
ジェシー・ウォレス(演:イーサン・ホーク)

出典: www.niwaka.com
吹替:宮本充
アメリカ人作家。世界的に有名になった41歳のジェシー。セリーヌとの実話を基に書いた小説は3巻まで出版されている。彼は招待されたパトリックの別荘で次回作の構想を練り、ステファノスやパトリックと議論を重ねていた。次回作を期待している人物の中には、パトリックも含まれている。仕事は好調な一方で、セリーヌとの関係は表面的には良くとも水面下では不穏な空気が生まれていた。
セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)

出典: www.webdice.jp
左の女性。
吹替:岡本麻弥
ジェシーの妻であるフランス人の女性。
子育てをしながら環境保護の仕事を続けている。作家活動を続け、ジェシーが仕事に没頭している間にも彼女は育児や家事に追われ続けていた。そうした過去の溜まりに溜まった不満や怒りが、ハンクと過ごしたがるジェシーの態度によって爆発していく。また彼女は言葉にされていないジェシーの思いを予測しては、罪の意識に苛まれていた。ジェシーの不満が自分のせいであるという思い込みの力は非常に強く、彼と話すたびに些細なことで責められていると感じている。
ハンク(演:シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック)
吹替:山村響
もうじき14歳になるジェシーと前妻の息子。ギリシャの別荘で過ごした夏を、人生最高の夏だとジェシーに伝えている。ハンクの親権を母親が持っているため、ジェシーは時々しかハンクと会うことができていない。またお酒ばかり飲み親として失格な母親と2人きりで生活させていることをジェシーは案じていた。ハンクは母親がジェシーを嫌っていることを理解している。両親が一緒にいると母親が不機嫌になるため、自身の習っているピアノの演奏会には来なくていいと母親の様子を気にかけていた。またハンクの成長をそばで見られないことをジェシーは悔やんでいる。しかしハンクはハンクで父親離れして成長しようとしているとセリーヌは言う。彼が自分の置かれた環境で成長していることは確かであった。
エラ(演:ジェニファー・プライア)

出典: ameblo.jp
黄色いワンピースを着ている左の少女。
吹替:朝井彩加
ジェシーとセリーヌの双子の娘の1人。黄色いワンピースを着ている女の子。ハンクを空港まで送り届けた後の別荘へ戻るまでの間、車の後部座席の真ん中に座って寝ていた。エラたちよりもハンクにスポットが当たりながらストーリーが進行しているため、彼女たちの会話は少ない。
ニナ(演:シャーロット・プライア)

出典: yansue.exblog.jp
ピンクのワンピースを着ている手前の少女。
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目次 - Contents
- 『ビフォア・ミッドナイト』の概要
- 『ビフォア・ミッドナイト』のあらすじ・ストーリー
- 破局の始まり
- 老作家パトリックの別荘で過ごす時間
- 過去の不満や怒りが爆発した2人の旅行
- 『ビフォア・ミッドナイト』の登場人物・キャラクター
- ウォレス家
- ジェシー・ウォレス(演:イーサン・ホーク)
- セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)
- ハンク(演:シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック)
- エラ(演:ジェニファー・プライア)
- ニナ(演:シャーロット・プライア)
- 別荘に集まった人々
- パトリック(演:ウォルター・ラサリー)
- ナタリア(演:ゼニア・カロゲロプールー)
- アキレアス(演:ヤニ・パパドプロ)
- アナ(演:アリアン・ラベド)
- アリアドニ(演:アティーナ・レイチェル・トサンガリ)
- ステファノス(演:パノス・コロニス)
- その他
- ソフィア(演:セラフェイム・ラディ)
- ホテル受付(演:ヨタ・アギロポウラス)
- 『ビフォア・ミッドナイト』の用語
- アポロ神殿
- 聖オディリア聖堂
- ジャンゴ・ラインハルト(1910 - 1953年)
- 『ビフォア・ミッドナイト』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ナタリア「この世に姿を現し消えていく。誰かにとってとても大事な存在…なのに過ぎ去っていくのよ。」
- セリーヌ「2人の喧嘩に私は美しく弾ける活力を見る。誰にも何も奪わせない強さがある。2人の喧嘩は希望の証よ。」
- ジェシー・ウォレス「真実の愛を求めるならここにある。完璧ではないがこれこそ本物だ。」
- 『ビフォア・ミッドナイト』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 登場人物と俳優の実際の年齢が同じスピードで進んでいくシリーズ作品
- パトリック・リー・ファーマー卿がモデルと考えられている老作家パトリック
- アドリブの一切無い映画
- 『ビフォア・ミッドナイト』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:ハリス・アレクシウ「Gia ena tango」