
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』とは1995年に公開されたアメリカの恋愛映画である。監督はリチャード・リンクレイター。公開当初のタイトルは『恋人までの距離』であった。その後2005年のDVD発売を機に『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』に変更されている。また本作は『ビフォア』3部作の1作目にあたり、長距離列車で出会った男女の一夜限りの恋模様を追ったロマンティックなラブストーリーが描かれている。ほとんどが会話によって進行していくため会話劇としても有名な作品。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の概要
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』とはアメリカの恋愛映画である。監督を務めるのはリチャード・リンクレイター。アメリカで1995年1月19日、日本では同年9月2日に公開されている。本作は1995年から2013年にかけて公開された『ビフォア』3部作の1作目にあたる。本作から9年後が描かれている続編が『ビフォア・サンセット』(2004年)、そこから更に9年後が描かれているのが『ビフォア・ミッドナイト』(2013年)だ。映画の公開当初の邦題は『恋人までの距離』であったが、続編の『ビフォア・サンセット』が公開された後のDVDが発売された2005年を機に『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』に変更されている。またリンクレイターは1995年に開催された第45回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞。他、IMDbなどの映画批評サイトでも高評価を獲得している。そして主演を務めるのはジェシー役のイーサン・ホークとセリーヌ役のジュリー・デルピー。2人は3部作の全てに登場しているだけでなく、シリーズを通して脚本も手がけた。映画のほとんどがジェシーとセリーヌの会話であるため、会話劇としても有名な作品である。
ブダペストからパリへ向かう長距離列車の中で偶然出会ったアメリカ人の青年ジェシーとフランス人の女子大学生セリーヌ。ジェシーがセリーヌを口説き、2人はウィーンで14時間だけ共に過ごすことになる。当てもなく街を歩きながら自身のことや家族、過去の恋愛、死生観など哲学的なことを含んだ多岐にわたる会話を重ね徐々に2人は惹かれ合っていった。ごく普通の散歩の中で広がる会話は、映画の外でも耳にしそうな現実味のあるセリフが続いていく。そうして互いに心を開き愛を育みながらも、朝には別れが2人を待っていた。本作は恋が芽生えた頃のときめきや、恋人になるまでの心の距離感、微細な変化を丁寧に描いている。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』のあらすじ・ストーリー
長距離列車で出会ったアメリカ人のジェシーとフランス人のセリーヌ
フランス人大学生のセリーヌは、ブダペストからパリへ向かう長距離列車に乗っていた。選んだ列車の隣の席では、ドイツ人夫婦が延々と喧嘩を続けている。うんざりしたセリーヌは席を移動。そうして新しく座った席の隣にいたのがアメリカ人の青年ジェシーであった。彼はヨーロッパ周遊券を使い、列車に乗って2週間ほど当てのない旅をしていたと話す。2人はすぐに意気投合。列車がジェシーの目的地であるウィーンに到着し、彼は一度席を立ったが再びセリーヌの前に戻ってきた。ジェシーはセリーヌと話をしていたいという名残惜しさから、一緒にウィーンの街を歩こうと彼女を誘う。期限は翌朝9時30分にジェシーが乗る飛行機の搭乗時間まで。セリーヌは二つ返事でジェシーの提案を快諾した。
14時間限定で作っていった2人のウィーンの思い出
2人はウィーンの街を歩きながら人生観や価値観、恋愛観、死生観など様々なテーマで会話を広げていく。そうした会話の中にジェシーは質問タイムも用意した。質問のルールは100%正直に答えること。初めてセリーヌがセクシーだと感じた男性が誰であるか、ジェシーは恋をしたことがあるのかなど交互に質問が続く。そこにはセリーヌのことを知りたいというジェシーの思いが隠れていた。質問が終わった2人はレコード店へ入る。視聴室で流した曲はラブソング。流れてくる歌詞に時々視線を合わせながら落ち着かない様子の2人がいた。
日の沈みかけた頃には観覧車に乗り、熱く口づけを交わす2人。やがて夜になり会話は家族や自身の抱える葛藤、出自に関することなどより深いものへと広がっていく。裕福な家で両親に愛されて育ったセリーヌに対し、ジェシーは自身を望まれない子であったと言う。彼の両親は離婚していたのだ。しかし彼は強く生き、彼女もまたそんなジェシーを肯定した。その後は手相占いを受け、教会へ行き、ドナウ川沿いでは詩人に遭遇する。ジェシーは占いや宗教的なものに対して否定的な発言が多い。また詩人に対しては、詩を褒めるセリーヌへのヤキモチから詩の評価を下げる発言をしてしまう。セリーヌが褒めたものに対する嫉妬を隠せないジェシー。しかし詩人が即興で書いた詩は、まるで2人の恋路を表しているようであった。
夜が深まっても散歩は続く。クラブでゲームをしている最中には、元恋人の話がテーマとなっていた。セリーヌは元恋人に芸術的創造性の邪魔であるとしてフラれている。それが原因で彼女は、女性が恋人を殺そうとする物語を書くほどの精神的ショックを受けていた。一方のジェシーはヨーロッパに来た本当の理由が、マドリードにいる恋人と夏を過ごすためであったことを打ち明ける。1年ぶりの再会であったが2人で夕食に行こうとしたところで、友人が6人ついてきたと話す。ジェシーは恋人が2人きりになるのを望んでいないのだと悟り、別れる決心をした。そうして旅をしていた時にセリーヌと出会ったのだ。そんなジェシーを、自身もフラれた立場にあるセリーヌは彼女なりに励ましていた。
その後に訪れた夜のカフェは賑わっていた。席につきセリーヌはパリの親友に電話をすると言い出す。電話に出るのはジェシー。彼女は列車でジェシーに話しかけられた時の胸の内や彼の好きなところをひたすら挙げ、最後には不安を打ち明けた。そして次はジェシーの番。彼は友人になりきったセリーヌに電話のジェスチャーを使い話しかける。セリーヌのことをボッティチェリの天使そのものであると言い、彼もセリーヌの好きなところを挙げていく。失恋からはすっかり立ち直った様子であった。
夢のような時間の終わりに交わした半年後の約束
カフェの後はレストランへと移動するが、別れの時は刻一刻と近づいていた。パリで暮らすセリーヌとアメリカに住むジェシーの距離は現実的な問題となって2人に伸し掛かる。しかもジェシーは遠距離恋愛で一度フラれており、ハードルは高い。そのため今後に期待も約束も無しで一夜限りの関係を楽しむ決断をし、最後にバーへと向かう2人。セリーヌはバーテンダーにバレないようグラスを2つ盗む役割を引き受けていた。そしてジェシーはというとバーテンダーに後払いで赤ワインを譲ってもらえないか交渉。バーテンダーは良心から快諾し、後にバーの住所宛に支払う約束を交わした。赤ワインと盗んだグラスを持って、深夜の公園の芝生に横たわる2人。永遠の別れか、いっそのこと結婚に踏み切るかの選択肢があるならば、ジェシーは結婚をとろうとしていた。一方のセリーヌは本当は列車を降りた時から寝てもいいと決めていたと言う。彼女は悩んだ末にジェシーとそのまま体を重ねた。
2人とも本心ではこのまま別れることを望んでいない。翌朝の列車に乗る直前になってジェシーの方から打ち明け、続いてセリーヌも本心を話した。そうして半年後の12月16日に同じ駅のホームで午後6時に再び会うことを約束。手紙や電話は必要ないとジェシーは言い切った。そのため彼らは連絡先を交換することもなく、半年後の約束だけをして別れる。2人の未来は不確かであるが、そこには切なさと希望があった。
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の登場人物・キャラクター
主要人物
ジェシー(演:イーサン・ホーク)

出典: to-jin.net
奥の男性。
吹替:宮本充
アメリカ人の青年。正式にはジェームズであると作中で自己紹介している。列車でセリーヌを口説き、一緒にウィーンで下車する。始めは2週間ほど当てもなく列車の旅をしていたと話すジェシーだが、本当は恋人に1年ぶりに会うためスペインのマドリードに向かった後であった。恋人のリサは彼と2人きりになることを望んでおらず、そうした彼女の様子からジェシーは別れることを決心する。セリーヌとは会話を重ね自然と惹かれていくが手相占いでは駄々をこね、教会では無神論者の話をし、即興で詩を読んでもらった際には嫉妬をするジェシー。セリーヌは時折呆れた様子を見せながらも、彼は憎めない魅力を持っていた。
セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)
奥の女性。
吹替:岡本麻弥
フランス人であるソルボンヌ大学の学生。ブダペストにある祖母の家に寄り、パリへ帰ろうとしていた長距離列車でジェシーと出会う。賢く聡明で、自分の人生観を既に持っている女性。時にジェシーを励まし導こうとする強さも兼ね備えている。列車に乗った際、隣の席の夫婦が喧嘩を始めたために席を移動したセリーヌだが、ジェシーの隣に座ったのは偶然ではなく彼女が選んで彼の横に座っていたことが明かされる。また列車で口説かれた時から、セリーヌも既にジェシーに対して好意を抱いていた。
その他
手相占い師(演:アーニ・マンゴールド)

出典: ameblo.jp
一番右の女性。
吹替:藤夏子
2人が遊園地から出てカフェで休んでいた際に目が合い、受けることになった手相占い。占い師は誰にでも分かることを言っていたと話す2人。彼らは真に受けていない様子であった。また占い師はセリーヌの手相は積極的に占うが、何故かそばにいるジェシーの手相はさらっと見ただけで判断し、セリーヌと同じように細かく占おうとはしなかった。そのことがジェシーにとって面白くなかったようだ。セリーヌが言うには占い師は何故かジェシーのことをほとんど無視しており、セリーヌの占いが終わると彼女は早々に立ち去っていった。
詩人(演:ドミニク・キャステル)

出典: ameblo.jp
吹替:田中正彦
手相占いを受けた後、ドナウ川沿いを2人が歩いていた際に話しかけてきた男性。与えられた言葉から即興で詩を作ることを得意としていた。そして詩を気に入ったらお金を払うという取引を詩人はジェシーとセリーヌに持ちかける。2人は取引に応じ「ミルクセーキ」の言葉を選び提示。「ミルクセーキ」から詩人は見事な詩を書き上げ、2人に読んで聞かせた。結果彼らは感動しお金を払う。しかしセリーヌが詩を褒めることが面白くないジェシー。詩人が実は前に作った詩に「ミルクセーキ」の言葉をはめ込んだだけかもしれないと、ジェシーは言い始めるのであった。
Related Articles関連記事

スクール・オブ・ロック(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『スクール・オブ・ロック』とは、リチャード・リンクレイター監督によるアメリカの映画。日本では2004年に公開。脚本は出演もしているネッド役のマイク・ホワイト手がける。バンドをクビになってしまい途方にくれていたギタリストのデューイが、一本の電話をきっかけに教師の友人ネッドになりすまして名門小学校の臨時教師となり、子どもたちと共にバンドバトルを目指すコメディである。
Read Article

ガタカ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『ガタカ』とは1997年にアメリカで製作されたSF映画。 遺伝的優劣によって人生が左右される近未来社会の中で、遺伝的問題を抱えた1人の青年が不屈のチャレンジ精神で人生を切り開き、夢を叶えようとする姿を描いている。遺伝子がすべてと言われる世界の中で、当り前である概念を打ち砕き、不可能を可能としようとする姿に周囲が心動かされていくヒューマンストーリーでもある。現実感のある設定と名言の詰まったセリフの数々は、見る者の心に訴えかけ、今もって語り継がれる作品となっている。
Read Article

いまを生きる(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
ニューイングランドの全寮制名門進学校「ウェルトン・アカデミー」を舞台にした1989年のアメリカ映画(日本公開は1990年)。 同校へ型破りな英語教師ジョン・キーティングが赴任してきた事をきっかけに、生徒たちが自主性に目覚め夢を持つようになる物語。 1989年アカデミー賞脚本賞、同年英国アカデミー賞作品賞・作曲賞など数々の賞を受賞。 ニューイングランドの初秋から冬にかけての風景も魅力的。
Read Article

デイブレイカー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『デイブレイカー』とは、オーストラリア出身のスピエリッグ兄弟の監督・脚本によるSFアクション・ホラー。人口の9割以上がヴァンパイアと化した近未来を舞台に、人間の減少により血液不足に陥った状況を解決するために代用血液の開発を進めていたヴァンパイアの男が、人間とヴァンパイアの双方を救う新たな道を探ろうとする。09年・オーストラリア・アメリカ製作。
Read Article

真実(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『真実』とは、2019年の日仏共同制作のヒューマンドラマ映画。2018年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督の作品。代表作は『万引き家族』『誰も知らない』など。主演には、フランスを代表する大女優カトリーヌ・ドウーヴを起用し、すべての撮影をフランスで行った監督の初の国際共同製作映画ということで、世界から注目を浴びる。『真実』の出版を機にベテラン女優ファビエンヌとその娘リュミールが心に秘めている真実、彼女たちを取り巻く人々の思いが暴かれてゆく。
Read Article

【タイタニック】今すぐ見るべき「名作映画」ランキングTOP30!【ゴッド・ファーザー など】
これだけ観ておけば話の種に困ることはない、名作だけに絞った映画ランキングを作りました!タイタニックやゴッド・ファーザーなど、映画好きなら全て観ておいて当たり前の作品ばかりです!もしまだ観たことがない映画があれば、この機会に是非鑑賞してみてください!
Read Article
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の概要
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』のあらすじ・ストーリー
- 長距離列車で出会ったアメリカ人のジェシーとフランス人のセリーヌ
- 14時間限定で作っていった2人のウィーンの思い出
- 夢のような時間の終わりに交わした半年後の約束
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- ジェシー(演:イーサン・ホーク)
- セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)
- その他
- 手相占い師(演:アーニ・マンゴールド)
- 詩人(演:ドミニク・キャステル)
- バーテンダー(演:ハイモン・マリア・バッテンガー)
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の用語
- ソルボンヌ大学
- ボッティチェリの天使
- ディラン・トマス(1914〜1953年)
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ジェシー「僕は日々の暮らしこそ詩的だと思うよ。」
- セリーヌ「人間は移ろいやすいのよ。束の間の存在ね。」
- セリーヌ「仕事のためだけに生きてきたけど52歳で気がついた。自分は誰にも何も与えず、むなしい人生だと…。」
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- リンクレイターの実体験を基に描かれたラブストーリー
- 外観と内観が別の場所で撮影されている教会
- 『ビフォア』3部作の脚本も手がけているイーサンとジュリー
- 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:Kathy McCarty「Living Life」