
『ビフォア・サンセット』とは2004年公開のアメリカの恋愛映画である。監督はリチャード・リンクレイター。本作はビフォアシリーズ3部作の2作目にあたり『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)の続編となっている。前作から9年が経ち、再会したジェシーとセリーヌ。会話を通して9年前の恋心が互いの間に残っていることが明らかになっていく。しかしジェシーには妻と息子がおり、以前とは状況が変わっていた。大人のリアルな感情が描かれている切ないラブストーリーである。
『ビフォア・サンセット』の概要
『ビフォア・サンセット』は2004年に制作された恋愛映画である。監督を務めるのはリチャード・リンクレイター。ドイツで2004年2月10日の第54回ベルリン国際映画祭で一番に公開され、続いてアメリカで2004年7月2日、日本では2005年2月25日に公開されている。ビフォア3部作の2作目。1995年に公開された『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』の続編にあたる。後に続く続編は2013年公開の『ビフォア・ミッドナイト』である。主演を務めるのは前作に引き続きイーサン・ホークとジュリー・デルピー。本作でも2人は主演でありながら、リンクレイターと共同で脚本も手がけている。また他スタッフも前作のメンバーが再び集まって製作が進められた。繊細で自然な会話が高く評価され、第77回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされている。2人の会話によってストーリーが展開していく会話劇であり、音楽もほとんど無い状態で進行していく。時間の流れが哲学的に説かれているなど、大人の恋愛映画としてなだけでなく哲学的な映画としても高く評価されている。
9年前、ウィーンで一夜を共にしたアメリカ人の青年ジェシーとフランス人の大学生セリーヌ。約束した半年後の再会は果たされることのないまま9年が経過していた。その間に作家となったジェシーは自身の体験を基にした小説を出版。そして新作のサイン会のためにパリを訪れていた。そのサイン会の最中に2人は書店で偶然再会。ジェシーがニューヨーク行きの飛行機に乗るまでのわずか85分の間に、パリの街を散策しながら彼らは再び語り合った。近況や人生、恋愛、社会と話題は多岐にわたる。しかし今のジェシーは結婚しており、妻と4歳になる息子がいた。また夫婦の関係はうまくいっておらず、ジェシーは今の生活に満足できていないことをセリーヌに打ち明けた。やがてセリーヌも過去の恋愛の傷を抱えていることを打ち明ける。そうして会話を重ねていくうちに、9年前の恋が二人の中に深く残っており、この9年の間にどんな思いを抱いていたのかが明らかになっていく。互いの想いを確かめ合うようにして緊張感のある会話が続いてく。切なくもリアルな大人の感情の交流が描かれている。
『ビフォア・サンセット』のあらすじ・ストーリー
書店で訪れた突然の再会
9年前、ユーロトレインの車内で偶然出会ったアメリカ人の青年ジェシー・ウォレスとフランス人の女子大生セリーヌ。ウィーンで一夜を共にし、半年後に再会する約束をしたが、その約束が果たされることはなかった。その間に作家となったジェシーは9年前の2人の一夜を基にした小説を執筆。そしてサイン会のために彼は、パリのセーヌ川のそばにある「シェイクスピア・アンド・カンパニー」という書店を訪れていた。そこでは書店に集ったジャーナリストによる取材が行われていた。曖昧になっている結末への質問がジェシーに投げかけられる。しかし彼は明確な返答をすることなく、話題は次の新作へと移っていった。新作の内容がどのようなものであるかを説明するジェシーの頭には、セリーヌの姿が映っている。そうしている時にふと店内で見覚えのある姿を目にしたジェシー。立ったままじっと彼を見つめるその女性はセリーヌであった。
9年分を埋め合うように続いていくジェシーとセリーヌの会話
ジェシーはマネージャーにあとどのくらい時間があるか尋ねる。ジェシーのニューヨーク行きの飛行機が出発するまでに残されている時間は約85分。こうして2人の散歩が始まった。シェイクスピア・アンド・カンパニーはセリーヌの行きつけの書店であった。偶然立ち寄った際に、彼女はジェシーの写真を目にしていたと話す。また彼女は本を購入しており、既に2回読んでいた。ジェシーの本を入口にして、会話は広がっていく。セリーヌは9年前の再会が叶わなかった理由が、ブダペストに住む祖母の葬儀のためであったことを明かす。ジェシーとの約束を果たすためウィーンへ出発しようとした直前のことであった。一方のジェシーは数日彼女を待ち続けていたのであった。
セリーヌは現在、環境保護団体の国際ミドリ十字に勤務している。水質汚染から武装解除、環境に関する国際法など様々な問題を扱っていた。その中で彼女は綿工場から汚水を流すという水処理事業に参加。政治科学を学び政府で働いていたセリーヌであったが、環境問題を懸念しているだけでなく本当にやりたいことをやるために転職していた。
そうして会話をしているうちに2人はカフェ「ル・ピュール・カフェ」に到着。店内で休みながら会話を続けた。そこでセリーヌが96年から99年までNY大学にいたことをジェシーは知る。彼も98年からNYに住んでいたのだ。そばにいながらどちらも気付かないでいたことに、ジェシーは落胆せずにはいられなかった。そして以前と変わったことの1つがジェシーは結婚しており4歳の息子がいること。しかし申し分ない妻ではあるものの、彼女との関係にジェシーは満たされてはいなかった。彼女は小学校の教員である。一方のセリーヌは結婚はしていないが戦場を撮る報道写真家の恋人がいた。
ジェシーの本心を受け入れられなくなっていたセリーヌ
それまでセーヌ川沿いを歩いていた2人は遊覧船に乗る。セリーヌの恋愛観を聞いたジェシーは本を書き始めた理由を彼女に打ち明ける。それはセリーヌと過ごした時間のすべてを保存するためのものなのであった。そしてサイン会を開催すればセリーヌが気付くかもしれないということまで考えられていたことが発覚。しかしジェシーの冗談と捉えたセリーヌは、彼の行動を否定した。それでも彼のセリーヌを思う気持ちは本物であり、過去に電話番号を交換しなかったことを今でも悔やんでいた。また祖母の葬儀の日にちがズレていたらなどと、彼は結婚する前の話を持ち出す。式場に向かう車の中でジェシーが窓から外を見ていた時、13番通りとブロードウェイの角でセリーヌらしき女性を見かけていたというジェシー。その話を聞いたセリーヌはNYの11番通りに住んでいたことを明かす。2人はお互いに気付かないまま近くにいたのであった。そしてジェシーは遊覧船での会話の最後に、誰と結婚するかは重要でないと言う。本当の自分を殺してでも理想の自分を実現するために、立派な教師であり、いい母親、頭もよくてきれいな女性である今の妻と結婚したことを明かした。
2人の乗っていた遊覧船が到着した場所では、あらかじめ呼んでいたジェシーの送迎係であるフィリップの車が停まっていた。ジェシーとしてはセリーヌのことも家まで送ろうと考えていたのだが、車の前で別れようとするセリーヌ。そんな彼女をジェシーは慌てて引き止める。彼はセリーヌとの時間を欲しがっていた。こうして2人は車に乗り再び話し出す。彼らはそこでこれまでに溜め込んでいた本心を曝け出した。しかし車を降りた時にセリーヌは、ジェシーの話したことが本当であるのか確認をしてしまう。これはセリーヌの癖であり、そうやって訊けば彼が冗談で終わらせるのはお決まりのパターンになっていた。到着した場所はセリーヌの家。そこでセリーヌはずっとジェシーにリクエストされていた自作の歌を歌う。その歌にはジェシーへの想いが込められていた。しかしそのことに勘付いたジェシーに対して、セリーヌはその事実を隠してしまう。セリーヌの歌を聴き終えてもソファに座ったまま帰ろうとしないジェシー。立ち上がる気配のない彼にセリーヌが痺れを切らしたところで映画は終わる。次の約束はされぬまま、その後の様子は視聴者に委ねられた。
『ビフォア・サンセット』の登場人物・キャラクター
主要人物
ジェシー・ウォレス(演:イーサン・ホーク)

出典: cinemore.jp
左の男性。
吹替:宮本充
9年前にユーロトレインでセリーヌと出会ったアメリカ人の男性。その時に交わした半年後に再会する約束は果たされず、それから彼女との思い出を残すために作家になったジェシー。彼の執筆した書籍には、ウィーンでの2人の実話に基づく内容が書かれていた。彼はサイン会を開催すればセリーヌが来るかもしれないということまで見越していたよう。既に結婚しており妻と息子がいても、心の中には9年前のセリーヌが存在し続けていたのであった。
セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)

出典: cinemore.jp
吹替:岡本麻弥
9年前にユーロトレインでジェシーとであったフランス人の女性。彼女は当時大学生であった。今では環境保護団体の国際ミドリ十字に勤務し、積極的に保護活動に取り組んでいた。9年前に約束していた場所に向かったのはジェシーだけであった。セリーヌが約束を果たせなかったことには理由があり、祖母の葬儀と重なってしまったためであった。その話を聞いたジェシーは頭では理解していても、その日に彼女が来てくれればと思わずにはいられなかった。セリーヌもそれから様々な男性と付き合ったが、ジェシーへの想いを超える人物に出会えずにいた。
その他
書店員(演:ヴァーノン・ドブチェフ)

右の男性。
吹替:長克巳
ジェシーのサイン会をまとめていた白い髭を蓄えている男性。セリーヌと再会し、何時までに空港に向かえば良いかを尋ねた際、彼は7時半にはここを出るようにと促していた。外はまだ明るかったが2人の会話から、サイン会の終了した時刻が夕方の6時頃であることが窺える。サイン会の終了後ジェシーはすぐにセリーヌと書店を出発するが、書店員は集まった人にシャンパンやスナックを勧め、その場をまとめ続けていた。
中庭の女性(演:マリー・ピレ)
吹替:田村聖子
セリーヌが暮らすアパートの中庭に集まっていた女性。パーマをかけてふんわりとした髪型をしている。中庭で開かれていたパーティーにお手製のパスタを運んでいたところで、アパートに帰ってきたセリーヌたちとすれ違う。すれ違い様に親しげに話しており、顔馴染みである様子が描かれている。ジェシーにハンサムねと声をかけ、一緒に食事をしたがっていた。やんわり断った後には残念そうな様子を見せるのであった。
バーベキューをする男(演:アルバート・デルピー)
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目次 - Contents
- 『ビフォア・サンセット』の概要
- 『ビフォア・サンセット』のあらすじ・ストーリー
- 書店で訪れた突然の再会
- 9年分を埋め合うように続いていくジェシーとセリーヌの会話
- ジェシーの本心を受け入れられなくなっていたセリーヌ
- 『ビフォア・サンセット』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- ジェシー・ウォレス(演:イーサン・ホーク)
- セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)
- その他
- 書店員(演:ヴァーノン・ドブチェフ)
- 中庭の女性(演:マリー・ピレ)
- バーベキューをする男(演:アルバート・デルピー)
- ジャーナリスト(演:ルイーズ・レモワン・トレス)
- ジャーナリスト(演:ロドルフ・ポリー)
- フィリップ(演:ディアボロ)
- 船の係員(演:デニス・エブラール)
- 『ビフォア・サンセット』の用語
- ウイリアム・シェイクスピア(1564〜1616年)
- ネオコン
- SUV車
- 『ビフォア・サンセット』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ジェシー・ウォーレン「時間はまやかしだ。これは常に起きてることで、ある瞬間が別の瞬間も含んでて同時に存在してる。」
- ジェシー・ウォーレン「僕はあの本を書くことで君と過ごした時間のすべてを保存したかった。あの出会いをいつでも思い出せるように。あれは本物の出会いだった。」
- セリーヌ「 恋する気持ちをあの一晩で使い果たしもう何も残ってない。あの夜が私の感情を奪い、あなたが私の心を持ち去ってしまった。」
- 『ビフォア・サンセット』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 冒頭でジェシーが話していた内容を想起させる映画のラスト
- リアリティの追求にこだわって制作されている映画
- 脚本の執筆を機に仕事への向き合い方が変わったジュリー・デルピー
- 『ビフォア・サンセット』の主題歌
- 主題歌:ニーナ・シモン「Just In Time」