
『ビフォア・サンセット』とは2004年公開のアメリカの恋愛映画である。監督はリチャード・リンクレイター。本作はビフォアシリーズ3部作の2作目にあたり『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)の続編となっている。前作から9年が経ち、再会したジェシーとセリーヌ。会話を通して9年前の恋心が互いの間に残っていることが明らかになっていく。しかしジェシーには妻と息子がおり、以前とは状況が変わっていた。大人のリアルな感情が描かれている切ないラブストーリーである。
2人はタクシーの中で本心を曝け出した。セリーヌは運転手がいることも忘れ、声を荒げながらまくし立てる。彼女は9年の間で様々な男性と恋をした。しかし誰ともジェシーと同じくらいに運命を感じる恋をすることができずにいたのである。その時、彼女はジェシーに「恋する気持ちをあの一晩で使い果たしもう何も残ってない。あの夜が私の感情を奪い、あなたが私の心を持ち去ってしまった。」と9年前の想いを口にした。それまで気持ちを抑えていた彼女の告白に驚きを隠せないジェシー。しかし彼女がそうして抑えていた理由の一つには、彼が結婚していたことが含まれている。過去の純粋で希望に満ちていた頃にはもう戻れない。今のドライになった自身と、ジェシーが既婚者となった現実を受け入れなければならないセリーヌ。過去を悔やんでいたのはジェシーだけでなく、彼女も同じであった。
『ビフォア・サンセット』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
冒頭でジェシーが話していた内容を想起させる映画のラスト
ニーナ・シモンの「ジャスト・イン・タイム」を流しながら、彼女のモノマネや音楽に合わせて軽く踊り始めたセリーヌ。ジェシーは飛行機の搭乗時間が迫っているにも関わらず、ソファに深く座りじっとセリーヌを見つめていた。
本作のラストは2人がジェシーの部屋に行き、そこで彼女がジャズシンガーであるニーナ・シモンの「ジャスト・イン・タイム」を流し踊りながらエンディングを迎えていく。ジェシーは踊る彼女をソファーに座って満足そうに見つめていた。このシチュエーションは映画の冒頭で行われていたサイン会で、次回作のあらすじを質問されたジェシーの答えと重なる内容となっている。その時のジェシーの答えをまとめると、理想と現実のギャップに絶望していた男性がいたというところから始まり、その男性は仕事もあり妻がいながらも満足のできない生活を送っていたという。それはまさにジェシー自身のこと。その男がテーブルについた次の瞬間、5歳になる娘がテーブルの上に飛び乗ってポップソングに合わせて踊る。そこで彼が俯くと彼は16歳に戻っていた。この現象は娘の踊りで思い出した幻想ではなく、両者の瞬間はどちらも存在しているのだとジェシーは続けた。本作でジェシーは時間はまやかしであることを主張している。物語の冒頭ですでに未来を表すものが示されており、彼は映画のラストにいながら冒頭部分も合わさり一つに重なったところで映画は終わる。2人の次の約束は果たされず、その結末が曖昧になっていることが重要視されているのと同時に、時間に関してはジェシーの話していたことの答えが用意されている。恋愛映画だけに収まらない哲学的なテーマを持つ作品となっている。
リアリティの追求にこだわって制作されている映画
1995年に公開された前作『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から9年後に再会する2人が描かれている本作。映画は実際に9年後の2004年に公開され、9年の歳月を経た2人によって再会のストーリーが描かれていく。前作から雰囲気が変わり、本作では長い時間を歩んできた2人による大人のラブストーリーとなっている。また映画の長さもリアリティを追求するリンクレイターのこだわりが見える。サイン会の後、ジェシーの自由に行動できる時間は約85分であった。飛行機の搭乗時間が迫っていたのである。映画はその限られた時間を過ごした2人のストーリーであるため、上映時間もそこに近づけて81分になっている。そういった時間の点でもリアリティの追求が見られる作品となっている。
脚本の執筆を機に仕事への向き合い方が変わったジュリー・デルピー
1作目の脚本は自身も手がけていのだが、名前をクレジットに載せる許可が下りなかったジュリー。彼女は2作目の脚本を書く際、初稿から脚本家組合に登録することで自身の権利を守っていた。しかし2作目の脚本を手がけている間に、彼女のエージェントは円満にであるが、ジュリーの元を離れることとなる。エージェントは彼女が本作の脚本を書くことを時間の無駄と捉えていたようだ。そうしてエージェントが去り、自分が一体何がしたいのかを考えるきっかけになっていたことを明かしている。エージェントが持ってくる仕事を待っている女優になりたいのか。そこで仕事が向こうからくるのを待っているだけなんてできないと、自身のなりたい姿と向き合っていったことがその後に活躍へと続くものとなった。
『ビフォア・サンセット』の主題歌
主題歌:ニーナ・シモン「Just In Time」
1956年に初めて上映されたブロードウェイミュージカル『ベルズ・アー・リンギング』のために制作された楽曲。ニーナ・シモンはアフリカ系アメリカ人のジャズ歌手である。他にもピアニストや公民権活動家、市民運動家としても活動をしている女性。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」では29位、「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」においては21位を獲得するほどの実力を持つシンガーだ。
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目次 - Contents
- 『ビフォア・サンセット』の概要
- 『ビフォア・サンセット』のあらすじ・ストーリー
- 書店で訪れた突然の再会
- 9年分を埋め合うように続いていくジェシーとセリーヌの会話
- ジェシーの本心を受け入れられなくなっていたセリーヌ
- 『ビフォア・サンセット』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- ジェシー・ウォレス(演:イーサン・ホーク)
- セリーヌ(演:ジュリー・デルピー)
- その他
- 書店員(演:ヴァーノン・ドブチェフ)
- 中庭の女性(演:マリー・ピレ)
- バーベキューをする男(演:アルバート・デルピー)
- ジャーナリスト(演:ルイーズ・レモワン・トレス)
- ジャーナリスト(演:ロドルフ・ポリー)
- フィリップ(演:ディアボロ)
- 船の係員(演:デニス・エブラール)
- 『ビフォア・サンセット』の用語
- ウイリアム・シェイクスピア(1564〜1616年)
- ネオコン
- SUV車
- 『ビフォア・サンセット』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ジェシー・ウォーレン「時間はまやかしだ。これは常に起きてることで、ある瞬間が別の瞬間も含んでて同時に存在してる。」
- ジェシー・ウォーレン「僕はあの本を書くことで君と過ごした時間のすべてを保存したかった。あの出会いをいつでも思い出せるように。あれは本物の出会いだった。」
- セリーヌ「 恋する気持ちをあの一晩で使い果たしもう何も残ってない。あの夜が私の感情を奪い、あなたが私の心を持ち去ってしまった。」
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- リアリティの追求にこだわって制作されている映画
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- 主題歌:ニーナ・シモン「Just In Time」