この世界の片隅にの名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『この世界の片隅に』とは、こうの史代による日本の漫画、及びそれを原作としたドラマ・アニメ映画である。第二次世界大戦の広島・呉を舞台に、北條周作の元に嫁いだ主人公・浦野すずの日常生活を淡々と時にコミカルに、時に残酷に描く。戦争を題材に生活が苦しいながらも工夫をこらし、乗り切る姿や前向きなセリフには老若男女問わず多くの人の心を動かし、勇気づけられるものが多い。

径子はのんびりしてどんくさいすずに腹が立ち、たびたび辛く当たった。初対面の際には、すずを「冴えん」と一蹴し、何をするにも手際の悪いすずに家事を任せなかったり、モンペをもっていないすずに「ないなら作れ」と怒鳴ったりもした。晴美を不慮の事故で失った時もすずを人殺しとののしったりもした。すずは若くして北條家に嫁ぎ、ハゲができるほどのストレスを抱えながらも、持ち前ののんびりとした性格で乗り切ってきた。しかし、晴美のことや自身の不幸も重なって、すずは広島へ帰る決断をする。
呉を発つ8月6日の朝、径子はスミが手土産にもってきた純綿をモンペに直し、すずにわたす。そして、晴美が死んだときに「人殺し」なんて言って悪かったと径子は謝った。径子は好きな人と結婚し先立たれ、一緒に経営していた店も疎開で壊された。そして、息子は夫方の跡取りに取られ、晴美は死んでしまった。だけど径子は自分の選んだ道だから後悔はないという。それにくらべてすずは言われるがまま北條家へ嫁ぎ、周りの言うように流されて、さぞつまらない人生だろうと径子は嘆く。だから北條家が嫌になったら好きにすればいいと思っていた。径子はすずの髪をくしでとく。「すずの身の回りの世話や家事くらいどうもない、失くしたものをあれこれ考えなくて済むし、気が紛れていい」、「すずさんがイヤんならん限りすずさんの居場所はここじゃ。下らん気兼ねなぞせんと自分で決め」そんな径子のやさしい言葉にすずは胸を撃たれる。口は悪くて辛くあたってきた径子だったが、すずのことを少なからず気にかけてくれていたことに気づいた。そして、呉や北條家は知らず知らずのうちにすずにとってかけがえのない居場所になっていたことに気づかされた。
この径子の言葉に心を動かされたすずは呉にとどまることにした。すずは居場所がないと思っていたが、居場所はたしかに北條家にあったと気づかされた大切なシーン。間もなくして広島に原爆が投下される。

黒村晴美(くろむら はるみ)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

時限爆雷に巻き込まれる晴美とすず

晴美が助かったもしもの世界

工場で負傷し入院中の北條円太郎のお見舞いに訪れたすずと晴美は、その帰り道に空襲に巻き込まれる。幸い防空壕を見つけ、入れてもらったすずと晴美はひとまず難を逃れた。空襲後、家や道が滅茶苦茶に破壊されているのを横目に、海沿いの道を歩いていた2人だったが、防波堤がぽっかりあいてまるで蟻地獄のような大穴が開いている場所にさしかかった。その場所からは停泊中の戦艦などが浮かんでいるのが見える。船が好きな晴美は興奮してぽっかり空いた防波堤のほうへ近づく。その大穴には時限式の爆弾があった。それに感づきとっさに晴美の手を引くすずだったが間に合わず爆発してしまう。すずは右腕を失い、晴美は助からなかった。すずは自分の不甲斐なさを悔やみ、自分を責めた。晴美の死がその後のすずに強く影響し、その死を乗り越えて成長するきっかけとなる。

浦野すみ(うらの すみ)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

原爆症で床に伏せるスミ

シミができたスミ(右)の手を握るすず(左)

原爆が落とされ、広島の街は焼け野原になった。すずが里帰りを果たし、病床に伏せたスミを見舞った。スミはすずに語る。8月6日はお祭りで母親はその準備に出掛けたきり行方知れずだった。父親も間もなくして死んでしまった。スミは生き残ったものの原爆症にかかり、体に不調をきたしている。「すずちゃん、うちなおるかえ?」といって原爆症でシミができた腕をすずに見せる。すずは「治るよ。治らんとおかしいよ」といってその手を優しく握る。おそらくスミは死ぬまで原爆症に苦しめられるだろう。すずの、けっして離れないように、寄り添い続ける気持ちが伝わってくる名シーン。

水原哲(みずはら てつ)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

すずに宿題の海の絵を描いてもらう水原

ぶっきらぼうに立ち去る水原(左)とその後ろ姿を眺めるすず(右)

すずは絵が上手で学校でも賞を取るくらいに評判だった。ある日、写生の授業も、すずは学校の校舎の絵を描いて先生に褒められた。写生をしたものから帰っていいとのお達しを受けたすずはまっすぐ家に帰り、炊きつけとなる落ち葉を集めに回った。同じクラスでガキ大将の水原と出会う。水原は海を眺めてたたずんでいた。水原の両親は海苔をとっていたが今は日がな一日飲んだくれているという。家には帰りたくないからスケッチブックも真っ白だった。兄も海兵にとられて死んだ。水原は波が兎がはねているようだと言って、正月の転覆事故もこんな波の日だったと語る。水原はそんな海が嫌いだったが、すずに鉛筆を手渡し「代わりにこのつまらん海でも描いてくれ」と頼む。すずは見事に波を白兎に見立てた海の絵を描いてみせた。水原はすずが絵を描いている間に代わりに水原はその絵をみるなり「全くよけいなことをする。絵を描いたら家に帰らなければいけないじゃないか。こんな絵じゃ海を嫌いになれないじゃないか」とぶっきらぼうにその場をあとにした。水原は普段は乱暴で女子やすずからも怖れ嫌われていたが、水原の新たな一面を垣間見たシーン。水原の不器用さと憎めない感じがよく表れている。

「すずがここで家を守るんも わしが青葉で国を守るんも 同じだけ当たり前の営みじゃ」

すず(右)にほほを寄せる水原(左)

すずは北條家に嫁入りし、水原は水兵になり重巡洋艦青葉の乗組員になっていた。立派な青年になった水原は柔和で人当たりがよく、子供のころのぶっきらぼうさはない。入湯上陸のため、すずをたよって水原は北條家に来た。すずが家事をする姿や日常風景を眺めては、水原は「お前は本当に普通だ」といって笑う。水原は風呂やごはんを食べるにも幸せそうに笑っていた。戦場で水原は、仲間が戦場で次々と倒れていく悲惨な光景を目の当たりにしていた。そんな水原にとって、すずとのつかの間の時間は、普通という幸せをかみしめていた。周作は水原を隣の納屋で寝てもらうことにし、もう会えないかもしれないからとすずとゆっくり話す場を与えた。
水原は海上でであった鷺に似た鳥の羽をすずにお土産としてわたした。すずはそれを羽ペンにして、手帳に鷺の絵を描く。
水原はすずのほほにキスし抱き寄せる。すずは「ずっとこういう日を待っていた気がする」と水原に胸の内を打ち明ける。水原が自分を好いてくれているのに、今は周作に腹が立って仕方がなかった。周作は本当は白木リンとの結婚を望んでいた。だが、周りに反対され周作はすずを選んだ。その本心はまだリンにあるのではないかともやもやしていた。すずは水原と一緒になりたかった、でも心の中で周作の存在が大きくなっている。本当にごめんと水原に謝る。周作が好きだからこそこんなにも腹がたつのだ。「当たり前のことで怒って、当たり前のことで謝る。すずは本当に普通のひとだ」と水原は言う。水原家が貧乏だったから兄は海軍学校へ入ったのも当たり前だし、軍人として命をとして戦い死んだのも当たり前のことだ。しかし水原は水兵になってからというもの「当たり前」から外れていた。悪くもないのに理不尽に叩かれ、手柄もないのにへいこらされる。そんなのは人間じゃなくて藁や神様の当たり前なのではないか、と水原は日々考えていた。
「すずがここで家を守るんも わしが青葉で国を守るんも 同じだけ当たり前の営みじゃ。そう思ってずっとこの世界で普通で…まともでおってくれ」と水原はすずに言った。そして、自分が死んでも英霊として拝まず、笑顔で思い出してくれ、それができないようなら忘れてくれと遺言を託すように言うのだった。
今生の別れを悟り、遺言を託す水原とその遺言を守り強く生きようとするすずの姿が印象的な名シーン。

白木リン(しらきリン)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「誰でもこの世界でそうそう居場所は無うならせんのよ」

遊郭の前で語らうすず(左)とリン(右)

白木リンは幼い頃は居場所のない浮浪者だった。広島の江波のおばあちゃんの家ですずは、リンと出会っておりスイカを振る舞っている。そんなリンも流れ流れて遊女として働き、どうにか生きている。大人になって偶然すずと再会し、お互い幼い頃に出会っていることは気づいていないが、仲良くなった。ある時、すずはいまいち体調がすぐれなかった時があった。それは、妊娠の兆候だと家族からもてはやされて病院に言ったものの、ただの栄養失調と環境の変化からくるストレスによるものだった。子供をつくろうと躍起になるすずをみて、リンは不思議そうに言う。自分の母親はお産のたびに歯が減って、しまいに死んでしまった。それでも子供ができることはうれしいのかと問う。すずは出来のいい跡取りを残すのが嫁の義務だと意気込む。リンはその「嫁の義務」が果たされなかったらどうなるんだ、とさらに問う。実家に帰され両親にはあきれられ、出征中だが兄が戻ってきたら怒られるだろう。妹と共に挺身隊にはいることになるとは思うが、よく考えてみればそんなに思い悩むほどのことではない気もしてきた。
なにはともあれ、子供は生活の支えになるし困ったら売れる、とリンは言う。女の方が値段が高いから、仮に男の跡取りが生まれなくても何とかなる、世の中うまくできているなぁとのたまう。リン自らがそうであったように、子供でも売られても何とかそれなりに生きている。
「誰でもこの世界でそうそう居場所は無うならせんのよ」とすずを励ます。この言葉が後にすずの心の支えになり、北條家や周作とのつながりをより強くした。

「人が死んだら記憶も消えて無うなる。秘密はなかったことになる」

桜の木の上で語らうすず(左)とリン(右)

昭和20年4月。北條家は花見へ出かける。そこでリンと再会したすずは2人きりで桜の木の上で話すことがあった。以前、リンが働いている遊郭で赤毛の遊女のテルと顔見知りになったことがあった。テルは恋仲になった兵士と川に飛び込み心中を図ったが、失敗して風邪を患い病床に臥せっていた。テルが好きだと言う南国の絵を雪上に書いたり、蔵にあった見知らぬリンドウの茶碗をあげたりもした。リンにそのことを話すと、テルはすでに肺炎で死んだという。テルの形見の口紅をリンはすずの唇にさす。
「人が死んだら記憶も消えて無うなる。秘密はなかったことになる」それはそれで贅沢なことかもしれないよ、自分専用の茶碗くらいに、とリンは笑顔で去っていった。後に、リンが働いていた遊郭は空襲で破壊され、リンも帰らぬ人となってしまう。
リンはかつての周作との関係を墓場まで持っていくつもりだった。もし、うちあけてしまったらすずも傷つくだろうし、夫婦仲にも影響するかもしれない。リン自身も心苦しいだろう。だから、自分が死んでその秘密が永遠にあばかれないのであるならそれはそれで贅沢なことかもしれない。そんなリンの優しさが隠れているセリフである。

刈谷(かりや)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

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