この世界の片隅にの名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『この世界の片隅に』とは、こうの史代による日本の漫画、及びそれを原作としたドラマ・アニメ映画である。第二次世界大戦の広島・呉を舞台に、北條周作の元に嫁いだ主人公・浦野すずの日常生活を淡々と時にコミカルに、時に残酷に描く。戦争を題材に生活が苦しいながらも工夫をこらし、乗り切る姿や前向きなセリフには老若男女問わず多くの人の心を動かし、勇気づけられるものが多い。

北條周作(ほうじょう しゅうさく)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「過ぎた事 選ばんかった道 みな 覚めた夢と変わりやせんな」

すずを選んで正解だったと語る周作(左)とそれを聞くすず(右)

ある日、周作は半休をとり、すずと街を歩くことがあった。その帰り道に相生橋ですずと周作は過去を振り返る。「過ぎた事 選ばんかった道 みな 覚めた夢と変わりやせんな」と周作はすずにつぶやいた。人生は選択の連続であり、すずもまた例に漏れず選択や決断をしてきた。もし水原と結婚していたら、もし晴美が死んでいなかったら、とそんな「あったかもしれないこと」は夢と変わらない。すずはその選択を後悔しているふしがあったが、いろいろな辛いことを乗り越えた今、受け入れることができるようになった。周作もまた白木リンと結婚する未来もあったかもしれない。自らの選択もすずの選択もまちがってはいなかったのだと周作が励ましているような名セリフである。

文官から武官に異動させられ戦地へ送られることになった周作

すずが心配でたまらない周作(左)と淡々と家事をするすず(右)

日本の戦況が苦しくなり、軍港の呉への空襲も増えていた。ある夜、周作はせっせと家事をするすずの頭をなでながら「すずさんはこまい(ちいさい)のう」という。内地勤務だった周作も3か月後に軍事訓練に出ることが決まった。家長である円太郎もまた任務により一時家を空けなければならない。こんなに小さいすずが男手のいないこの家を守れるのだろうかと、心配でたまらない様子である。すずは周作とのしばしの別れに、少し弱音を吐いたが、思い直し、大好きな周作の大切な居場所である北條家を守ると誓う。夫婦の愛の深さを感じる名シーンの1つである。

敵機の機銃掃射に撃たれそうになるすずを助ける周作

側溝の中でじっと敵機が通り過ぎるのを待つ周作(上)とすず(下)

昭和20年7月。軍港がある呉は連日、空襲に襲われた。すずの手はまだ癒えておらず、包帯がまかれている。空襲警報の最中、庭から白サギが飛び去って行く。すずは広島のほうへ飛び立っていく白サギを追いかけ、広島の方へ逃げるように鳥に促す。その時、敵機の戦闘機がすずの前方から現れて、すずめがけて機銃掃射をあびせてきた。運よく通りかかった周作に助けられ、すずは難を逃れる。なお機銃掃射の音は鳴りやまず、周作はすずを庇い覆いかぶさって、側溝の中でじっと耐え忍ぶ。すずは周作に広島へ帰りたいと打ち明ける。周作は晴美のことや右手のこと、連日の空襲のことを気にしているのだと察した。すずは内心その通りだったが、違うと否定する。周作は理由を問うもすずは押し黙った。周作はすずを気遣い、寄り添い、支えあおうとする。そうやって2人で解決できると思っている周作の口ぶりが腹立たしかった。
周作はすずとの生活が心底楽しかったと言う。「すずさんにとって自分はずっとアカの他人のままで北條家は他人の家のままなのか」と、すずに問う。すずはその問いに耳をふさぎ、広島へ帰るの一点張りだった。すずはいっそ機銃掃射で自分を打ち殺してほしかった。そしてこの期におよんで周作を手放せない自分に腹が立つ。すずは少し前に、空襲により行方知れずの白木リンの情報収集を周作に依頼していた。すずが呉に戻ってこないつもりなら教えないと周作は怒る。白木リンと周作は恋仲であったにもかかわらず、家族に反対されて縁談がかなわなかった相手だ。戦闘機が旋回する中、すずの頭の中は周作にまだ白木リンとの間に愛があるのかどうかばかり気になっていた。周作とすずの心のすれ違いに心を揺さぶられるシーン。

戦災孤児を連れて呉へ帰るすずと周作

呉の街を歩く北條夫婦と少女

原爆が落とされた広島に赴いたすずと周作は戦災孤児と出会う。すずと周作は身寄りのない戦災孤児を家に連れて帰ることにした。呉につくと周作が周囲の山々を戦災孤児に紹介する。戦災孤児は周作の背中でぐっすり眠り、かたわらにはすずさんが並んで歩いている。呉の山々を背景に、すず達を見守り祝福しているようにも見える名シーンである。

北條サン(ほうじょう サン)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「みんなが笑ろうてくらせればええのにね」

憲兵にスパイ容疑をかけられたすずとそれを笑う北條家の人々

径子が嫁ぎ先と離縁し、晴美を連れて呉の実家に戻ってきた。径子は夫と死別し、長男は跡取りのため夫方の親族に引き取られた。サンはそんなさみしい思いをしている径子を哀れに思う。「みんなが笑ろうてくらせればええのにね」とすずに語った。
ある日、すずが裏山の畑で軍艦や呉の海岸をスケッチしていると、背後から憲兵が近寄ってきた。すずは呉の海岸線をスケッチしたことによりスパイ行為とみなされ、憲兵から厳重注意を受けてしまう。到底すずがそのような思惑でスケッチするわけもなく、すずの性格を知る北條家の面々は笑いに包まれた。
戦争が終わり、嵐に見舞われた夜。道は崩れて家は雨漏り、北條家やその親族もボロボロになった。そんな中「神風がくるのが遅すぎだ、迷惑な神風だ」と親族で笑いが起こる。大変な災難に見舞われたがなんだかんだで皆無事にこうして笑いあえる。みんなが笑って暮らせる一時が尊く大切なものであると気づかされるシーン。

北條円太郎(ほうじょう えんたろう)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「せっかくの白い飯が見えん」

ランプの黒幕を外す円太郎

戦争が終わり、人々は次第に元の平和な生活を取り戻そうとしていた。戦中の夜は、敵機に家の位置がばれないようにランプに黒い幕を覆って家の光が漏れにくいようにしていた。戦中ではあまり食べられなかった白飯が夕食に並ぶ。「何をしとるんじゃ。これではせっかくの白い飯が見えん」と言って黒い幕を外す。それは、暗い戦争の時代が終わり、明るい未来が到来したことを表すような名シーンだ。

黒村径子(くろむら けいこ)の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「すずさんがイヤんならん限りすずさんの居場所はここじゃ」

径子(右)に髪をといでもらうすず(左)

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