ギレルモ・デル・トロのピノッキオ(アニメ映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』とは、ギレルモ・デル・トロが監督を務め、Netflixで公開したミュージカル・ファンタジー・ストップモーションアニメ映画。タイトルの通り『ピノッキオの冒険』を原作としている。デル・トロならではのキャラクター造形と具体的な時代背景を追加したユニークなストーリーが評価され、第80回ゴールデングローブ賞ではストリーミング作品として初めてアニメ映画賞を受賞、第95回アカデミー賞では長編アニメ映画賞を受賞している。

CV:トム・ケニー

イタリア王国をファシズムで支配した、実在する独裁者。「人形は好きだ」と言ってピノッキオのステージを見に行くが、ピノッキオがヴォルペ伯爵を困らせるために軍やムッソリーニを侮辱する歌を歌ったため、部下に命じてピノッキオを射殺する。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ピノッキオ「父親も絶望することがあるんだよ。一時の感情に任せて色々言ってしまうことも。でもやがて気づくんだ、本気じゃないってことを」

ピノッキオは少年兵の訓練施設で、町の市長の息子、キャンドルウィックと出会う。キャンドルウィックは戦争を喜ぶ勇ましい少年として振舞おうとするが、本心では殺し合いを恐れている。しかし彼の父親は息子が「理想的なファシストで誰より勇敢な兵士」であることを求めているし、そうでなければ価値がないと思っている。そんなキャンドルウィックの葛藤を目の当たりにしたピノッキオは、「父親も絶望することがあるんだよ。一時の感情に任せて色々言ってしまうことも。でもやがて気づくんだ、本気じゃないってことを」と言ってキャンドルウィックを励まそうとする。この言葉をきっかけにふたりの間には友情が芽生える。
実はこの台詞はピノッキオが考えたものではなく、もとはクリケットがピノッキオにかけた言葉だ。学校に行くという約束を破った挙句、詐欺師と契約してしまったピノッキオに冷静ではいられなくなったゼペットは、ピノッキオを手酷く拒絶し、罵倒してしまう。ショックを受けるピノッキオを、クリケットは「父親も絶望することがあるんだよ。一時の感情に任せて色々言ってしまうことも。でもやがて気づくんだ、本気じゃないってことを」と言って慰め、「ゼペットは本当はピノッキオを愛している」と伝えようとする。
かつてクリケットからもらった言葉をキャンドルウィックへと渡す姿は、ピノッキオの大きな成長を感じさせる。

ゼペット「命は素晴らしい贈り物だ」

冒険がおわり、ピノッキオとゼペットは家に帰る。親子は幸せに暮らしていたが、ゼペットは徐々に体が弱っていって車椅子に乗るようになり、やがて命を落とす。「命は素晴らしい贈り物だ」は、劇中でゼペットが話す最後の言葉だ。
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』では戦争を中心に、人の死が多く描かれ、ピノッキオも何度も死ぬ。最後にはピノッキオは永遠の命を失うことで、「本当の男の子」になり、近しい人の死を見守ることになる。ゼペットのこの台詞は「いつか終わりがくるからこそ人は良く生きようとするし、だからこそ人生は素晴らしい」という、本作のテーマを表しているのだ。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ファシズム時代のイタリアという異色の設定

ゼペットの家のセットを覗き込むギレルモ・デル・トロ。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』は、ファシズム時代のイタリアという具体的な時代設定がされている。これは、人々が「権力者の操り人形」であることを求められる時代に「自由奔放に振舞う子ども」を主人公とすることで、自己の発見や自分で自分の行動を選択することを描くためだ。
デル・トロは原作である『ピノッキオの冒険』に「大人に従う子どもこそ理想的な『いい子』」という思想を感じ取っており、そこを突破するために「ファシズム時代のイタリア」という舞台と「好奇心旺盛で自由なピノッキオ」という主人公を作り上げた。

マッキノン&サンダース・ストップモーション・パペット・ファームの人形たち

ピノッキオ、ゼペット、セバスチャン・J・クリケット、ヴォルペ伯爵、スパッツァトゥーラの人形は、ギレルモ・デル・トロが「世界一の工房」と称する「マッキノン&サンダース・ストップモーション・パペット・ファーム」が制作している。撮影には指先でつままなければ持てないほど小さな人形から、両手を広げても抱えて切れないほど大きな人形まで、ひとりのキャラクターに対してあらゆるサイズの人形が使われている。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の主題歌・挿入歌

挿入歌:グレゴリー・マン「Ciao Papa」

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