弁護人(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『弁護人』とは、2013年に韓国で公開された映画で、監督はヤン・ウソク。主人公は韓国の元大統領の盧武鉉(ノ・ムヒョン)がモデルで、物語の大筋は彼の半生を描いている。高卒で司法試験に合格して弁護士になったソン・ウソクは、知人が共産党主義者の疑いで取り調べを受けていると知る。拷問に近い取り調べの実情に驚愕したウソクは彼らの弁護人として法廷に立つことを決め、無罪を勝ち取ろうと奔走する。この物語は、金儲けのために働いていた一人の弁護士が人々のために劇的に変化していく様を、事実に基づいて描いた作品である。

『弁護人』の概要

『弁護人』とは、2013年に韓国、2016年に日本で公開された映画である。監督と脚本はヤン・ウソクが担当し、主演はソン・ガンホ。その脇をアイドルグループ「ZE:A」のイム・シワン、『太陽を抱く月』のキム・ヨンエなどが固める。本作は第35回青龍映画賞最優秀作品賞や第35回青龍映画賞主演男優賞などを受賞。韓国での観客動員数は国民の約5分の1である1,137万人、最終的な興行収入は828億ウォンである。

主人公のソン・ウソクは韓国の第16代大統領である故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)をモデルとしており、本作の大筋はノ・ムヒョンが歩んできた半生を忠実に描いている。また、作品内でパク・ジヌが裁判にかけられる事件は実際に1981年にあった「釜林(プリム)事件」をモチーフにしている。釜林事件は軍事政権下の韓国で起こった冤罪事件であり、本作が当時の様子を事実に基づいて描いたことでも話題になった。

貧困に苦しみながらも高卒で司法試験に合格したソン・ウソクは、金になる案件を中心にして弁護士としてのキャリアを重ねていた。しかし、昔世話になった馴染みの定食屋の息子であるパク・ジヌが共産党主義者だというあらぬ疑いにより裁判にかけられることを知る。拘置所でジヌに面会したウソクは、取り調べが拷問に近いものであるという実情を知り、ジヌの弁護人として法廷で戦うことを決める。しかし軍事政権下の韓国での公権力は手ごわく、なかなか無罪を勝ち取ることができずにいた。

この物語は、一人の弁護士だったノ・ムヒョンという政治家がどのように政治の世界に足を踏み入れることになったのか、韓国という国が軍事政権下でどのようなことを行っていたのかを事実に基づき忠実かつドラマチックに描いた作品となっている。

『弁護人』のあらすじ・ストーリー

弁護士ソン・ウソク

弁護士としてのキャリアをスタートさせたウソク

高卒で裁判官となったソン・ウソクは、韓国釜山で弁護士に転身し、不動産登記を専門にする事務所を構えようとしていた。先輩弁護士のキム・サンピルの力を借りて弁護士としてのスタートをきったウソクは、他の弁護士にやっかまれながらも事務所を繁盛させていく。また、サンピルの紹介で優秀な事務員だというパク・ドンホを事務長として雇い、さらに手狭になった自宅を引き払って高級団地に引っ越すことを決める。ウソクが新居として決めた部屋は、貧しかったウソクが7年前の司法試験の勉強中に日雇いの仕事で携わっていた団地だった。丁度その頃ウソクの長男が産まれ、あまりに貧しかったウソクは立ち寄った食堂で食い逃げをしてしまう。しかしそのことを糧に勉強しなおしたウソクは、見事高卒で司法試験に合格する。そうして「いつか絶対にこの部屋に住む」と決めていた部屋に引っ越すことができたのだ。

引っ越しを終えたウソク一家は、かつてウソクが食い逃げをした定食屋にやってくる。ウソクは妻に「この店に借金がある」と打ち明け、店主のパク・スネとその息子のジヌに謝罪する。ウソクのことを覚えていた二人は立派な姿になったウソクに驚き、「これからも食べに来て」と歓迎する。さらに事務所の規模を拡大することを決めたウソクは、より金になる税金専門の弁護士となる。

ウソクは同窓会帰りに、同級生数人とスネの定食屋に来ていた。店のテレビでは、学生の反国家運動を批判するニュースが流れている。それを観た同級生の一人で釜山新報という新聞を出版する会社の記者であるイ・ユンテクは、「テレビや報道を信じるな」と言う。しかしウソクはそれに反論し、学生たちは「勉強がいやだからああやって騒いでる」と言ってユンテクと取っ組み合いの喧嘩になりスネとジヌに仲裁に入られることとなる。

ジヌの逮捕

ジヌに面会しに拘置所に出向いたウソク(中央)

1981年、韓国警察の警監であるチャ・ドンヨンは、釜山で国家保安の維持にあたることになる。国家保安の維持とは、共産党支持者の取り締まりのことをいう。ドンヨンは共産党を支持し北朝鮮とつながっていると疑われる人物、つまり「アカ」を厳しく詰問し、拷問に近い取り調べをする。さらにドンヨンは軍医のユン中尉を呼び寄せ、取り調べによってケガを負ったアカに応急措置を施すように命じる。

定食屋の息子であるジヌは釜山大学工学部に通う学生で、地元の女性陣に請われて書物の読み聞かせを行っていた。しかしそこにドンヨンが乱入し、ジヌを連行していってしまう。共産党支持者は「読書会」と称して共産主義関連の書物の研究会をするとして、こじつけでジヌがアカであるとされてしまったのだ。ジヌはドンヨンらにより、厳しい取り調べを受け心身ともに憔悴していく。

その頃ウソクの元には、ヘドン建設という韓国でも指折りの建設会社から顧問弁護士の依頼が来ていた。しかしジヌがアカの疑いをかけられ、一か月間帰って来ない上にいきなり裁判にかけられることをスネから聞かされたウソクは浮かない表情をしている。

ジヌの逮捕に疑問を抱いたウソクは、弁護士という立場を利用してスネと共に拘置所に向かう。なんとかジヌと面会を果たすが、ジヌはヨタヨタと足取りがおぼつかない様子で、表情もうつろである。「なんでも食べます。何でも話します。心から反省しています。もうしません」とうわごとのように早口で話すジヌの全身には、アザが残っている。それを見たスネは激高して「息子を返しなさい!」と叫ぶが、ジヌは再び連行されていってしまう。

アカの疑いをかけられた者への不当な取り調べの実態を目の当たりにしたウソクは、そういった事案の弁護を積極的に担当しているサンピルの元に出向く。そこでウソクは「私が弁護を。絶対に諦めません」とジヌの弁護を担当することを宣言する。

裁判開始

ジヌの弁護人として法廷に立つウソク

ついに、ジヌをはじめとしたアカの疑いをかけられた者たちの裁判が始まった。裁判では、被告であるジヌたちの自筆の陳述書が検察側の証拠として提出される。その陳述書には、ジヌたちが読書会を偽装して不当な会合を開いたことや反政府主義者を集めようとしたことなどが書かれていた。しかしそれは、取り調べによって無理やり書かされたものであることは明らかだった。ウソクは懸命に弁護するが、同じ弁護側の弁護士に、今回のような国家保安法事件は有罪無罪を争うのではなく量刑が争点である、と諭されてしまう。しかしウソクは、「ジヌは無罪です。私の仕事は無罪を勝ち取ること」だと反論する。

ウソクは次の公判に向けて調査を続ける中で、ジヌが取り調べを受けていたとされる対共分室を見つける。対共分室は衛生環境などがきわめて劣悪な環境で、それを見たウソクは愕然とする。そこにドンヨンがやってきて、不当な取り調べを責めるウソクに対し「韓国の民衆は今、北朝鮮と停戦中であることを忘れてしまっている」と強く語る。さらに、今の韓国の平和があるのは「俺たちのような人間が必死でアカを捕まえるからだ。よく考えろ、我々のありがたさを」と自分たちを正当化するように言うのだった。

公判の中で、ウソクはジヌたち被告が置かれていた劣悪な環境や、理不尽な取り調べの実態を裁判長に訴えかける。ウソクの弁護やジヌの涙を流しながらの証言を聞いた傍聴席の人々は、「泣くんじゃない!お前たちは悪くない」と涙する。さらにジヌたちを擁護してヒートアップする傍聴席の声を味方に、ウソクは強引な取り調べを先導したドンヨンを証人にするよう進言する。

ジヌたちの弁護に奮闘するウソクだったが、公権力から圧力をかけられたヘドン建設に顧問弁護士の依頼を取り下げられたり、自宅に不審な電話がくるなどして世間からの風当たりは強くなっていた。

次の公判には、ドンヨンが証人として出席した。ドンヨンとウソクの議論は白熱するが、平行線のまま話が進むことはなかった。しかしそんなウソクの元に、ユン中尉がやってきて裁判でジヌたちのために証言することを約束する。それを受けてウソクは、記者である同級生のユンテクの力を借りて最終公判に国内外の記者を集め、韓国の実情を世界に公開することにする。

最終公判

最終公判には、ウソクとユンテクの考え通りたくさんの記者が集まっていた。そこにユン中尉が証人として出廷し、ドンヨンによる違法な取り調べでケガを負ったジヌたちの様子を証言する。しかしとっさにユン中尉の証言を覆そうと動いたドンヨンにより、ユン中尉は無断外出で脱営中であるとでっちあげられ、ユン中尉の証言は証拠から削除されてしまう。

結果的に裁判は、ジヌたち被告人が2年で仮釈放されることが決定、被告側もそれに同意して終結した。スネは「あんたはよくやった。心から感謝してる」とウソクに言うが、ウソクはただただ無念な表情である。

この裁判から民主主義への関心を深めたウソクは、1987年に起きた対共分室での学生の拷問死の追悼集会をはじめ、民主主義を推進するデモに参加するようになる。ついにデモを先導したとして裁判にかけられるウソクだったが、その裁判には傍聴席を埋め尽くすほどのウソクの弁護人が出席していた。ウソクの裁判には、当時の釜山の弁護士142人のうち実に99人がウソクの弁護人として名乗りを上げていたのだ。それを見たウソクは、自分がやってきたことは正しかったと再確認し、微笑むのだった。

『弁護人』の登場人物・キャラクター

ソン・ウソクとその周辺の人物

ソン・ウソク(演:ソン・ガンホ)

日本語吹き替え:安原義人
高卒で弁護士資格を取得した、釜山の弁護士。はじめは不動産登記や税金関連を専門としていたが、馴染みの定食屋の息子であるジヌが共産主義者の疑いを受けて裁判にかけられることを知り、その弁護人として法廷に立つ。ジヌを無罪にすることは叶わなかったが、その裁判以降民主主義に関心を持つようになる。お調子者だが根は真面目で根性があり、一度やると決めたことは絶対に諦めない。司法試験を受ける前に日雇いで関わっていた高級団地にいつか住みたいと願い、努力し続けてきた。

ウソクの妻(演:イ・ハンナ)

ウソクの妻。ウソクとの間に2人の子供がいる。ウソクが弁護士として成功する前から、良きパートナーとしてウソクを支える。かつてウソクがスネの定食屋で食い逃げをしたと知った時は驚いていたが、ウソクにならってスネに敬意を表した。

パク・ドンホ(演:オ・ダルス)

kndrk
kndrk
@kndrk

Related Articles関連記事

パラサイト 半地下の家族(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

パラサイト 半地下の家族(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『パラサイト 半地下の家族』とは、2019年のスリラー、ブラックコメディー韓国映画。『殺人の追憶』『母なる証明』で知られるポン・ジュノ監督と主演ソン・ガンホが再度タッグを組み第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞。アカデミー賞では4部門で受賞と世界的に注目を集めた作品。韓国の貧しい地域の半地下のアパートで生活するキム一家は全員が失業中で貧困だが結束の固い家族。一方、豪邸で裕福な暮らしをするIT企業社長のパク一家。境遇の異なる二つの家族が思いもよらない衝撃の結末を迎える。

Read Article

タクシー運転手 約束は海を越えて(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

タクシー運転手 約束は海を越えて(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『タクシー運転手 約束は海を越えて』とは、1980年の光州事件時の実話を基にした、韓国発の社会派映画である。楽観的で明るい性格のマンソプ(ソン・ガンホ)はタクシードライバーをしながら、男手一つで娘を育て奮闘していた。ある日、同僚からの高額なお客の依頼を聞きつけ、生計に困っていた彼は、この機会を逃すまいと同僚からそのお客を奪取した。しかし、そのお客とは、ドイツ人記者、ピーター(トーマス・クレッチマン)であった。この二人の出会いが韓国の運命を大きく変えることとなる。

Read Article

目次 - Contents