攻殻機動隊 SAC_2045(アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『攻殻機動隊 SAC_2045』とは、Netflixで配信されているSFアニメシリーズ。『攻殻機動隊』シリーズでは史上初となるフル3DCG作品である。各メンバーが卓越したスキルを有する内務省元公安9課の「少佐」こと草薙素子はアメリカで傭兵となっていた。AIの急速進化の反動で世界的に持続可能性を追及した産業戦争’サスティナブル・ウォー’が勃発する中、驚異的な身体能力を持つ新人類’ポスト・ヒューマン’が出現。少佐たち元9課のメンバーは、新人類の謎に迫るうち、部隊再編を余儀なくされていく。

電脳化

電脳化とは、脳にマイクロチップなどを埋め込むことで、人間の脳とコンピューターネットワークを直接接続するバイオネットワーク技術。無線通信や情報の視覚化、バーコードデータの読み取りのようなコンピューター技術が視覚を通じて行える。他人の電脳をハッキングすることで、電脳化した他人を意のままに操ることも可能となる。

義体化

義体化とは、本作における架空のサイボーグ技術の事。少佐のように脳と脊髄を除いた体の器官全てを人工器官に置換する全身義体化のほか、体の一部だけを義体化することも可能となっている。

全世界同時デフォルト

全世界同時デフォルトとは、アメリカが極秘裏に用いたAIが原因となって巻き起こされた架空の世界的な金融恐慌。仮装通貨や証券を含めたありとあらゆる通貨・資産の価値が暴落し、AIの急速的進化の反動で生じていた産業紛争の国際的発展に拍車をかけた。

サスティナブル・ウォー

サスティナブル・ウォーとは、AIによる急速的な進化により世界が急激な技術革新を迎えつつある中、その反動として生じた持続可能な開発をめぐる架空の産業紛争。世界同時デフォルトが契機となり、後進国で生じていたこの戦争の火の粉はアメリカを含めた先進国にまで及ぶこととなった。

ポスト・ヒューマン

ポスト・ヒューマンとは、驚異的な知能と身体能力を経た架空の存在。電脳化・義体化を経た人間に重度の肉体的・精神的ストレスが加わり、謎の変異を遂げることで発生するとされる。

『攻殻機動隊 SAC_2045』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ポスト・ヒューマンとの邂逅

スミスから極秘任務の依頼を受けた少佐率いる傭兵部隊「ゴースト」は、実業家パトリック・ヒュージの捕獲任務のため、ビバリーヒルズの豪邸に潜入する。そこでヒュージと対峙する少佐たちであったが、ヒュージは彼女たちに抵抗の姿勢を見せた。少佐たちが強行手段に出るも、ヒュージは民間人とは思えない動きを見せる。彼は少佐たちの格闘技も銃弾もまるで最初から動きが読めているかのように綺麗に躱していったのだ。彼に苦戦しながらもなんとか彼を追い詰めようとする少佐たちであったが、彼が地下からパワードスーツをまとった姿で現れたことで、更に苦戦を強いられることになる。現場に現れたトグサとタチコマたちの助力もあって何とか彼の動きを封じ込めたが、その後電脳をハッキングしようとした際、逆にハッキングしようとした少佐の方が電脳を浸食されそうになるなど、恐るべき性能を見せつけていた。

彼の正体は、後に驚異的な身体能力と知能を有する「ポスト・ヒューマン」であることが明かされている。これ以降、ハーツ、矢口、シマムラ、ミズカネという恐るべき強敵との戦闘が少佐たちには待ち受けているが、ヒュージとの戦闘が少佐たちにとっては初のポスト・ヒューマン戦となった。その恐るべき能力と、少佐が得意とする電脳ハッキングも通用しないというこれまでの『攻殻機動隊』シリーズには登場しなかった厄介な性質を把握する上では、重要な場面となった。

電脳を閉じてポスト・ヒューマンと格闘する少佐

東京復興を謳いながら不正を働く政治家や事業化を次々と撲殺していた元プロボクサーのポスト・ヒューマン矢口サンジを追ううちに、彼の次の狙いは帝都総理の義父であると踏んだ少佐たち。総理の義父の保護に向かうが、一足遅く義父は撲殺されてしまった。その後、決意を新たにした帝都総理は、自分が囮となって矢口確保に一役買う計画を実行に移した。彼の思惑通り首相官邸前に矢口が現れたことから、待機していた少佐は彼の捕獲に向かう。元プロボクサーである矢口を前にして、銃や電脳ハッキングを利用しての捕獲が有効かに思えたが、ヒュージ戦で銃や電脳ハッキングでは有効打とならないと踏んでいた少佐は、あえて矢口にタイマン戦を申し出る。ボクサーとしての血が騒いだのか、これに応じた矢口を何とか殴打して倒した少佐は、何とか捕獲を成功させたのであった。

『攻殻機動隊』シリーズでは時に「電脳の魔女」などという異名を有していた少佐であったが、銃も電脳も用いず、こうして素手で敵と戦うシーンは本場面をおいて他にない。ポスト・ヒューマン相手では銃や電脳戦が事実上不可能ということもあったのだろうが、「彼のボクサーとしての血に賭けてみたの」という少佐の発言からすると、相手がボクサーであることを踏まえてもなお近接戦で打ち勝てるというだけの自負が少佐にはあったものといえる。他シリーズでは見られない少佐のタイマンのシーンということもあって、重要なアクションシーンであった。

バトーはプリンの大の恩人

バトーに憧れて、9課へ配属されたのだという江崎プリン。彼女がバトーに寄せる特別な感情の裏には、彼女が幼少自体に経験した壮絶な過去が隠されていた。ポスト・ヒューマンに追われるロシア人の電脳から入手した「1A84」というコードからアメリカが世界同時デフォルトを引き起こしたAIの開発元である事が知れ渡り、MITを首席で卒業していたプリンがアメリカの工作員ではないかとの疑いをかけられることになる。そんな彼女は、ミズカネと同じように覚醒し、大統領を補佐するSPの一人を撃ち殺したことで、残ったSPに射殺されてしまった。

少佐の命令を受けてプリンの身辺調査を進めていたタチコマたちは、彼女の下宿先アパートで厳重に封印されていた冷蔵庫のワンスペースをこじ開け、その中からプリンに関する膨大な記憶データを入手する。その中には、20年ほど前に起きた江崎一家殺人事件の当事者としての記憶データも残されていた。データを再生すると、家族が殺されていく凄惨な光景と共に、一人現場から生き延びた彼女を優しく介抱するバトーの姿が映し出される。彼女の身辺を洗っていくと、その後から彼女はバトーの存在を誇りに思うようになり、将来は9課に所属して彼と同じ現場で働きたいと猛勉強を積んでMITに入学。その後首席で卒業して9課に配属されていたのだった。こうした事情を把握した上で、思考戦車であるタチコマは、彼女の身辺調査に問題がなく、米国の回し者であることの理由が見つからない事、彼女が不憫であることを考え併せて、彼女を完全義体で復活させることを決定したのだった。

当初新生9課に配属された謎の整備士として注目され、バトーには煙たがられていた彼女であったが、真相を知ったバトーは「もっと早くに気づいてやればよかった」と後悔する様子を見せている。彼女の過去や9課に入った背景を辿っていくと、バトーとは特別な縁で結ばれた人物であることが分かる。

『攻殻機動隊 SAC_2045』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

「郷愁」という概念

本作の最終回のサブタイトルにもなっていた「ダブルシンク」というネーミングであるが、これは小説『1984年』からの引用である。そもそも、ポスト・ヒューマンであるシマムラタカシは中学生の頃に『1984年』の小説に触れ、その影響を受けていることが明らかにされていた。こうした点からすれば、彼の真の目的が同作に掲載されていた「二重思考(ダブルシンク)」の自分なりのアレンジであったことと辻褄が合う。

一方、『1984年』においては、「二重思考(ダブルシンク)」について、「相反し合う二つの意見を同時に持ち、それが矛盾し合うのを承知しながら双方ともに信奉すること」と定義されていた。また、それを実践するためのプロセスとしては、まずは対立が生み出す矛盾のことを完全に忘れなければならず、その次に矛盾について忘れたことも忘れなければならず、さらに忘れたことを忘れたことをも忘れなければならないという無限のループをたどる必要がある。

本作中では、SPに射殺されたプリンを彼女の記憶のバックアップを用いてタチコマたちが蘇らせるシーンがあった。そして、タチコマたちは、プリンを生き返らせたという事実を知っていることを問題視し、それに関する記憶データを削除していた。こうした本作の描写は、まさしく『1984年』における「二重思考(ダブルシンク)」に対応するものであることが見て取れる。プリンが命を落としたという事実と、プリンが生きているという事実は相矛盾するものであるが、タチコマたちは後者について忘却することで、この二つの事実が抱える矛盾そのものを忘却しているのである。つまり、彼らの中では、プリンが命を落としたという事実と、プリンが生きているという事実の両方が併存可能な状態となっていた。

『1984年』において、「二重思考(ダブルシンク)」がキーワードとして挙がった理由は、これが独裁やプロパガンダを正当化し、矛盾を解消するための鍵だったためであり、体制側が国民を支配する上で、都合の良いツールとして機能していることが示唆されている。一方、本作ではシマムラがこの考え方を一人の人間が電脳世界と現実世界の両方を同時に生きるという矛盾状態の解消に利用した。彼が作り出したノスタルジックな電脳世界を維持しながら、現実世界でこれまで同様に体制側の支配を受けながら暮らしていくという形で、彼はパラダイムシフトを実現したのであった。

『1984年』においても本作においても、「自由」が課題として取り上げられており、前者においては、「戦争は平和である 自由は屈従である 無知は力である」と繰り返し述べられていた。プロパガンダによる体制側に都合のいい支配構造を受け入れながらも、その中で自由を享受することが認められていたのが前者の世界観である。一方、本作においては、シマムラと言う体制側から支配された現実世界において人々の思考を解き放つプロセスが形成され、国民の「自由」の獲得へとつながった。現実世界ではカプセルを用いた体制による支配を受忍し、「自由」を制限されながらも、電脳世界では自らが臨んだ幸せな世界を実現でき、その中で自由を享受できるという矛盾が矛盾でなくなった構造が構築されていた。さらに各個人が生きる電脳世界は相互に矛盾しており、それはプリンの少佐に向けた「核ミサイルはある人にとっては発射され、ある人にとっては回避されました。」という発言内容にも現れている。このように相互に矛盾した電脳世界の中を矛盾していることを忘却したまま、各々がそれらの共存する世界を生きるという構造が実現していた。以上のような人間の自由と支配についての世界観が、本作の中核に位置づけられている。

『1984年』に現れるシマムラの二重思考(ダブルシンク)構想

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