下弦の月(矢沢あい)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『下弦の月』とは、矢沢あいが『リボン』で連載していた日本の漫画およびそれを原作とした映画作品。自分の居場所を失った女子高生の望月美月は、ある日街でギターを弾いているイギリス人のアダム・ラングと出会う。互いに惹かれ合い、古い洋館で暮らし始める2人。しかし美月は交通事故に遭い、恋人のアダムのこと以外すべての記憶を失ってしまう。ダークかつミステリアスで先の読めない展開が魅力的な作品であり、矢沢作品の中でも異色の傑作といわれる。実写映画では美月役を栗山千明、アダム役をHYDEが務め、話題となった。

『下弦の月』の概要

『下弦の月』とは、兵庫県尼崎出身の漫画家、矢沢あいが『リボン』で連載していた日本の漫画およびそれを原作とした映画作品である。漫画は全15話で構成され単行本は全3巻が刊行されている。その他に2004年9月に愛蔵版『下弦の月 Last Quarter』が刊行され、同年には『下弦の月〜ラスト・クォーター』のタイトルで映画化された。映画では美月役を栗山千明、アダム役をHYDEが務めている。その後、2013年3月に文庫版が共に上下巻で刊行された。
作風はダークかつミステリアス。先の読めない展開が本作の魅力であり、矢沢作品の中でも異色の傑作といわれている。

家族の仲が悪かったり恋人の裏切りで、居場所が無くなった女子高校生の望月美月。ある日彼女は、青い瞳のイギリス人アダム・ラングと運命的な出会いをする。惹かれ合う2人は古い洋館で一緒に暮らすようになる。アダムという居場所を見つけた美月は日本を去るアダムについていく決心をするが、交通事故に遭ってしまう。
意識不明になった美月は、もうろうとする意識の中で1人の少女と出会う。

『下弦の月』のあらすじ・ストーリー

出会い

夜の空に下弦の月が光るある夜の同じ時間に、2人の人間が交通事故に遭った。
2人は夢の中で不思議な出会いをする。
自分の居場所を探していた女子高生の美月(みずき)は、路上でアダムと出会う。お互いに惹かれ合い、ある洋館で生活するようになった2人。アダムが美月のことを昔に死んだ恋人と重ねていることを知りながら、アダムという自分の居場所を見つけた美月はアダムについていくため家出をして待ち合わせ場所に向かう途中で交通事故に遭ってしまう。偶然居合わせた元彼氏・知己(ともき)の目の前で起こった事故である。
夢の中で不思議な出会いをした中のもう1人の人物、小学生の白石蛍(しらいしほたる)は、飼い猫「ルル」が家からいなくなり探している時に交通事故に遭ってしまう。美月と蛍、2人が再び会うのは、以前アダムと美月が暮らしていた洋館、今は廃墟でだれも住んでいない。美月は、記憶が無く自分の名前もわからずなぜか洋館から出られない状態である。しかし、恋人がいることと彼の名前がアダムということだけは覚えていた。蛍が廃墟に入ったことを心配して一緒に来ていた同級生に美月の姿が見えていないことがわかり、蛍は美月が幽霊であることを知った。自分の名前がわからない美月に、恋人の名前がアダムだからという理由で、蛍は美月を「イヴ」と名前をつける。イヴの情報が何もない蛍たちは昔、洋館に住んでいた家族を調べていく。

捜索

調べていくと20年ほど前、洋館には上條一家が住んでいたことがわかり、ピアニストを目指してロンドンに留学した娘のさやかがいたことを知る。イヴに確認したところ、イヴのネックレスに「S.K.」の文字が入っており、イヴは上條さやかだと思ったが、そのあとに上條さやかの写真を入手したが上条さやかとイヴの容姿は違っていた。
蛍たちは、よく見る夢の内容を思い出し新聞記事で蛍と同じ時に交通事故に遭った人がいないかを調べて望月美月が同じ時に交通事故に遭ったことを知る。事故以来美月は入院している病院でずっと眠っており、病室にはイヴが着ている洋服や指輪があった。しかし蛍たちが病室で会った美月の恋人と名乗る男性は、アダムではなく安西知己という高校生だった。何が何だかわからない蛍たちだが、イヴを唯一見ることが見ることができる蛍は美月をイヴだと確信し、美月が交通事故に遭う前に行方不明だった間にアダムと出会ったのだろうと推測する。だがそれに反してイヴは上條さやかとしての記憶を少しずつ思い出していくのである。
イヴがピアノで弾くアダムの曲から、蛍たちはアダムが19年も前に薬物の使用により亡くなったバンドのヴォーカルであることと、上條さやかがアダムの、昔死んだ恋人であったことを知る。
同じ時代を生きていない美月がアダムと出会っているのか?美月の記憶の中に上條さやかの記憶が混ざっているのか?イヴにアダムが死んでいることを教えれば、イヴの中から上條さやかが出て行き、病院で眠っている美月が目を覚ますのではないのか?そう考えた正輝達は、蛍の反対を押しのけイヴにアダムが死んでいたことを伝えるが、それを聞いたイヴはショックで絶望してしまう。イヴは洋館からいなくなり、正輝は病院で美月の容態が悪化したことを知る。

結末

蛍は、イヴが美月と上條さやかの記憶をどちらも自分の記憶と言っていたことや
蛍自身が今まで感じていた違和感に気づく。イヴはアダムに会いたくて、最後にアダムを見た交通事故に遭った横断歩道に来るが、アダムに会うことができず絶望する。生きてと叫ぶ蛍の声も虚しくイヴは完全に消えてしまうのである。
美月はまた白い柵が延々と続く世界にいた。
美月は、アダムに会えないのは、交通事故当時、知己の声がしてその声に振り向いたからではないか、蛍たちが望んでることは自分が生きることではなかったのか、とこれ以上自分が傷つかないよう閉じこもっていた自分を責める。その時、また居場所を失った美月の白い柵の向こうにアダムが現れ、美月に愛していると告げ去っていった。
病院で目を覚ました美月は、洋館やアダムや蛍たちの記憶がなくなっていた。
蛍たちはイヴと過ごした不思議な日々を思い出し寂しく思いながらも元の日常に戻っていく。またロンドンに行った正輝はアダムのお墓参りに行った。
上條さやかが死んだことで、自分の命を粗末に扱って白い柵の時の牢に閉じ込められたアダム。19年という月の周期に19年前の美月と出会ったときと全く同じ月。その2週間の間だけ、アダムは現世で過ごすことができた。そして、上條さやかの生まれ変わりの美月と出会った。美月は現世でも昔と同じように自分を愛してくれたが、アダムは美月が不幸であることを知り美月を未来のない時の牢に連れて行こうとしたのである。アダムは現世で美月のことを愛している存在を知って、美月に2度と会えないことをわかっていながら愛していると美月に告げて魂を解放したのである。

『下弦の月』の登場人物・キャラクター

望月美月(もちづきみづき)/イブ(演:栗山千明)

笹原女子高校3年生(初登場時は2年生)の女子高生。1981年3月2日生まれ。交際していた知己と喧嘩別れし、アダムと出会い恋に落ちたことで、家出をしてアダムと洋館で同棲をはじめた。2週間後にアダムと待ち合わせ中に交通事故に遭い、意識不明になる。19年前から廃墟となっている洋館で蛍と再会した時はアダムのこと以外、自分の名前すら記憶がなく、蛍達が「イブ」と名前をつけてくれた。蛍以外の人には姿は見えなく、洋館の外にも出れない。父は望月恒(もちづき ひろし)。小5のときに実母を自殺で亡くしている。恒の浮気と実母の死で恒を憎んでいる。 アダムとの約束を果たせなかったことを悔やみ、アダムとの再会を願っているが、正輝からアダムが亡くなっていたという事実を聞き、悲しみとショックにおそわれる。それでもアダムに会いたくて白い柵越しでアダムと再会するが、願いは果たされなかった。元の世界に戻り、そのあと意識を取り戻したが事故に遭うまでの2週間のことは覚えていなかった。家族や知己たちとの関係は修復でき、退院後は平穏な日常生活を送る。

白石蛍(しらいしほたる/演:黒川智花)

小さな身体でおかっぱ頭が特徴のおっとりとした雰囲気をもつ日翔学園5年3組の女子小学生。ピアノが得意で飼い猫のルルを探している時に交通事故に遭い、病院で意識不明の中、夢で望月美月と出会う。退院した後でまた猫を探していた所、洋館でルルに似た猫を見つけて、美月(イブ)に会う。イヴの姿、声は蛍にしかわからないためイブの言葉は蛍が通訳して沙絵、正輝、哲に伝えている。アダムを探しているうちに美月(イブ)に関することについて仲間で調べているうちにイブが望月美月だとわかるがイブの姿は望月美月であるにもかかわらず上條さやかとしての記憶で話す様子に変だと感じる。

香山沙絵(かやまさえ)

三つ編みでメガネをかけた日翔学園5年3組の女子小学生。蛍の親友、真面目でしっかり者。剣道を習っている。蛍とは3年生のときに出会い、いじめられて泣いている蛍を助けたことで遊ぶようになった 。イブとの初対面のとき姿が見えなくて怖くて逃げ出したが、蛍の言うことを信じてたまたま洋館の外で会った正輝と哲とともに洋館に戻り、姿は見えないがイブが居ることを認める。自身が気に入っているノートにイブの言葉を通訳してくれる蛍から聞いてそれをノートに書いてまとめている。厳しくてなんでも否定する母親のことは嫌いだが、優しい父親のことは好き。

三浦正輝(みうらまさき/演:落合扶樹)

日翔学園5年1組の男子小学生。冷静で落ち着いた雰囲気の美少年で、蛍が憧れている男子。性格は冷静沈着・頭脳明晰。イブの存在を認識し蛍たちとアダムを探すことに協力する。両親は離婚しており高級なマンションの最上階で父親と2人暮らしで家事は家政婦がやってくれている。父親は俳優の三浦正人。母親は元アイドルの美人女優だが、過去に離婚・再婚をしてからは会っていない。イブに関わりがありそうな人たちの情報から蛍たちとアダムの行方をつかもうとする。そしてEVIL EYEの復刻版アルバムCDの情報をつかみ、アダムの恋人が上條さやかだということと、アダムが亡くなっているという事実にたどり着く。

杉崎哲(すぎさきてつ)

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