素山恋雪（鬼滅の刃）とは【徹底解説・考察まとめ】

素山恋雪のプロフィール・人物像

素山恋雪（そやま こゆき）とは、大正時代を舞台にした吾峠呼世晴の漫画作品『鬼滅の刃』の登場人物で、人食いの怪物・鬼である猗窩座（あかざ）が、狛治（はくじ）という名の人間だった頃の婚約者である。
今でいう東京が江戸と呼ばれていた時代の生まれで、花のような輝きを秘めた瞳を持つ可憐な少女。享年十六歳。

生来体が弱く、長らく病に伏せっていた。さらに看病疲れに加えて娘の将来を悲観した母親が自殺し、自身の未来になんら希望の持てない日々を送る。そんな中、武術道場の主である父・慶蔵（けいぞう）が、町で大人相手にケンカを繰り広げていた狛治という少年を強引に叩きのめして弟子にする。彼から根気強く看病されたことで、日常生活を送れる程度まで体調が改善。狛治の優しさに触れ、誰もが絶望視していた自分の未来を彼だけは当たり前のように信じてくれていたことに感激し、次第に思いを寄せていく。
狛治は慶蔵からもその人柄と武術家としての才能を認められ、娘の気持ちも汲んだ彼から二人の縁談の話が持ち上がる。改めて狛治に想いを告げ、夫婦となる約束を交わすも、慶蔵の道場の土地を狙っていた侍たちによって父ともども毒殺される。

出掛けていたために難を逃れ、怒りと絶望に我を失った狛治は、犯人である侍たちを一人残らず殴殺。さらに鬼の頭領である鬼舞辻無惨（きぶつじ むざん）にむりやり血を流し込まれて鬼にされ、それまでの記憶を失い、果てしない殺戮に手を染める。恋雪は霊魂となってまで「猗窩座」と名を変えた狛治を見守り、凶行を止めようと訴え続けた。
鬼の血の力は恋雪の声などたやすく掻き消すほどに強いものだったが、鬼狩りの組織・鬼殺隊との戦いで猗窩座が生死の境にまで追い詰められた際、ついにこれを届けることに成功。死を受け入れ、鬼となって以降の所業を、恋雪や慶蔵を守れなかったことを悔いるあまりに泣きじゃくる狛治を抱き締め、地獄に落ち行く彼に同行した。

父・慶蔵も合わせた素山親子のエピソードは、その秀逸な完成度と「読むのがつらい」とまで言われた悲劇性で読者から高く評価され、人気キャラクター・煉獄杏寿郎（れんごく きょうじゅろう）を殺めたことで読者から目の敵にされていた猗窩座は一転して同情される存在となった。
反響が大きかったためか、作者としても思うところがあったのか、『鬼滅の刃』のキャラクターたちが現代で平和な学園生活を送る『キメツ学園』では、恋雪と狛治は幸せそのものの学生夫婦として登場している。本編では「侍（の家系）ではない」とされており、名字を名乗れる身分だったかも不明だが、『キメツ学園』においては“素山”という名字がつけられている。

素山恋雪の道具・思い出

雪華模様の簪（せっかもようのかんざし）

恋雪が愛用していた、雪の結晶を模した簪。江戸時代、西洋の顕微鏡を手に入れた土井利位（どい としつら）という大名が雪の結晶の美しさを知り、これを書にまとめた『雪華図説』という本を出版している。ここから雪の結晶を模した「雪華模様」が人気を博し、着物や小物の柄として多く採用されていった。このことから、恋雪は『雪華図説』が出版された1832年以降、江戸が東京へと地名を変えた1868年までの間の人物だと推測される。

狛治は鬼となり記憶を失っても「一生守る」とまで誓った恋雪への想いまでは失わなかったのか、雪の結晶を模した結界を展開する術「破壊殺・羅針」を得手としている。

花火

父・慶蔵が道場主を務める素流道場の近くで毎年打ち上げられていた花火。近隣では有名で多くの者が楽しみにしており、恋雪にとっても同じだったが、病に臥せった身では見物に行くこともできないと完全に諦めていた。しかし狛治は「来年も再来年も花火は上がるから、今日行けなくてもその時見に行けばいい」と当たり前のように語り、“恋雪は一年後には死んでいるかもしれない”という素山一家の間に蔓延していた絶望を払拭。狛治に希望を捨てるつもりが更々ないことを知って恋雪は感激し、彼に対して思いを寄せていく大きなきっかけとなった。
恋雪の体調が改善した後、狛治と一緒に花火見物に出掛けている。その場で「本当に俺でいいんですか」と問われた際、「私は狛治さんがいいんです」と逆に告白しており、二人にとって忘れられない思い出となった。

狛治は鬼となり記憶を失っても心のどこかにこの思い出を残していたのか、使用する技の多くに花火に関する名前が使われている。

素山恋雪の来歴・活躍

病に伏せる日々

素山慶蔵の娘として生まれる。生来病弱で、伏せることの多い日々を送っていた。
その看病疲れに加えて、娘の将来を悲観したこともあり、母親は自殺。この頃には慶蔵も言葉には出さなかったものの「恋雪は恐らく長くは生きられないだろう」との諦観を抱くようになり、恋雪自身も半ば己の運命を受け入れていた。
慶蔵は素流という武術の達人で、これを教える道場を開いていたが、その土地を狙う隣接する剣術道場の侍たちとの間に揉め事を抱えていた。このため道場に門下生は一人もおらず、慶蔵は恋雪の看病の片手間に様々な仕事を請け負っては生活費を稼いでいた。

狛治との出会い

十三歳になった頃、慶蔵が狛治という少年を連れてくる。狛治は江戸生まれで、病弱な父の薬代を稼ぐために盗みを繰り返していた。しかし肝心の父に「息子を罪人にしてまで生きていたくない」と自殺された上に江戸払いの罰を受け、自暴自棄になって町で大人相手に派手なケンカを繰り広げていたところ、駆けつけた慶蔵に殴り倒されてむりやり道場に連行されたのだった。
慶蔵は狛治が本来は善性の人物であることを見抜き、彼に恋雪の看病を任せる。慶蔵からさんざん殴られて顔を腫らせていた狛治に驚くものの、恋雪もまたすぐに彼の性根が善良なものであることを察し、身の回りの世話をしてくれる彼と打ち解けていく。

それでも恋雪の体調はなかなか改善しなかったものの、家族の誰もが諦めていた“恋雪の未来”を狛治だけは当たり前のように信じ、近隣で打ち上げられる花火について「今年見られなかったとしても、来年も再来年も花火は上がるのだから、その時見ればいい」との言葉を彼女にかけている。自分が長くないと思い込んでいた恋雪にとって、狛治のこの言葉は驚きであると同時に果てしない希望を感じさせるものだった。
その後恋雪の体調は徐々に改善していくが、「狛治と一緒に花火を見たい、そのために健康になりたい」との想いがそこには強く作用していた。

体質が改善し、狛治と婚約する

恋雪の看病を続ける一方、狛治は正式に慶蔵の弟子となり、素流の技を身に着けていく。揉め事を起こしていた剣術道場の跡取り息子は密かに恋雪に想いを寄せており、狛治の存在に焦りを覚え、誰もいない隙を狙って強引に彼女を連れ出すという暴挙に出る。結果恋雪は喘息の発作で倒れ、驚いた跡取り息子がこれを放置して逃げ帰ったことで、危うく命を落としかける。これに怒った慶蔵と狛治が剣術道場に抗議し、これまでの因縁を清算する意味も含めて他流試合が行われる。狛治は一人で剣術道場の侍たちを蹴散らし、その技の見事さで当時の道場主を感嘆させ、以後は手出ししないことを約束させる。

十六歳になる頃には、恋雪の体調もかなり良くなり、無理をしなければ普通に生活できる程度になっていた。恋雪がずっと看病してくれていた狛治に想いを寄せていることに気付いた慶蔵は、一番弟子で人柄もよく知る彼を婿として迎え入れ、道場を継いでもらうことを決める。罪人だった狛治は、自分が誰かに好いてもらえているという事実をすぐには理解できず、困惑しながらもこれを承諾。恋雪と狛治は婚約者となる。
その後かつて約束した花火見物に狛治と二人で出掛けた際、「本当に自分なんかでいいのか」と戸惑う彼に改めて告白。狛治はようやくにして恋雪の想いと、自分もまた彼女をどうしようもなく愛おしく思っていることを実感し、「誰よりも強くなって、一生あなたを守り続ける」と誓う。

恋雪にとっても、狛治にとっても、この時が幸せの絶頂期だった。