天穂のサクナヒメ(ゲーム)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『天穂のサクナヒメ』とは、同人ゲームサークル「えーでるわいす」が制作し、マーベラスから発売されたアクションRPG。PS4、Nintendo Switch、PC版が発売されている。戦神であり豊穣神でもある主人公・サクナヒメが鬼の蔓延る島「ヒノエ島」で稲作に従事しながら鬼を退治し、島の秘密を解き明かしていく物語。ゲームは稲作とアクションの2つのパートに分かれて進行する。稲作パートの本格的な作りこみから「農林水産省のHPが攻略wikiになる」と話題になった。

偽の天穂

偽のブランド米を試食するサクナヒメたち。田右衛門の隣に座っているのが事件を知らせてくれた瀬守神(せもりがみ)。

サクナヒメの米、「天穂」はあっという間に都中で大流行りとなった。そんなある日、ヒノエ島の峠を都の神が訪ねてくる。瀬守神(せもりがみ)という神で、タマ爺の古い知り合いだ。要件を尋ねると、都で天穂と競う米が出回っていると言う。
いつか田右衛門が、麓の世は長い戦と飢饉で荒れていると語ったが、それは頂の世でも同じことだった。戦こそないが、凶作が続き、もう長いことサクナヒメ以外の豊穣神は豆や麦を主作としていて、米はカムヒツキに捧げる分しか作っていなかった。だからこそ、サクナヒメは母が作った良質な米をカムヒツキに捧げるだけで都での地位を保っていたのだ。そんな状況で、天穂と張り合う品質と量で流通する米があるとは考えにくいことだった。
瀬守神が持参した件の米を炊いて食べてみると、なんと天穂そのものの味がする。天穂と違うのは後味で、少し癖になりそうな風味が口に残る。この米を買った客はその後味の虜になってしまい、やがて他の物は一切口にしなくなるのだという。田右衛門によると、米の味は種、土、水で決まり、これらが違う土地で同じような味になることは考えにくい。つまり、この米は天穂そのものに何か細工をして売られているということだった。炊いた米をよく見ると、粒のやや小ぶりな米が混ざっており、それが細工になっていると思われた。
苦労して作った米が勝手に細工されて別の商品として売られていると知ったサクナヒメは当然怒り、そんなことをする不届き者は誰だと尋ねた。すると瀬守神は、「ココロワヒメが売っている」と答えた。サクナヒメが都にいた頃、ずっと親しくしていた無二の親友だ。
これを聞いたサクナヒメは事の仔細を自らココロワヒメに質すために、都に帰ることを決意する。ただし、カムヒツキの勅命があるため大っぴらには帰らず、こっそりと戻って用を済ませ、すぐヒノエ島に取って返すことにした。

ココロワヒメとサクナヒメ

謎の人物からの指示書を前に葛藤するココロワヒメのもとを、サクナヒメが訪れる。部屋には作りかけの絡繰りが転がっている。

サクナヒメが都を追放されてから、ココロワヒメを取り巻く環境は大きく変わっていた。ココロワヒメは車輪と発明の神で、自動で動く絡繰り人形を作ることができる。サクナヒメがいた頃はその才能をなかなか認められなかったが、絡繰り人形が都の守護に大いに役立つとカムヒツキに認められ、大きな仕事を任されるようになっていた。
そんな状況を、ココロワヒメは喜びながらもどこか後ろめたく思っていた。親友サクナヒメの追放と引き換えに名誉を得たように思えたからだ。いつかサクナヒメは任務を果たして都に帰ってくるだろう。そうなったら自分はまたもとの日陰者に戻ってしまうのではないか、そんな考えが頭にこびりついて離れないのだった。
そんなある日、ココロワヒメの部屋に1匹の鬼が現れた。都にいるはずのない鬼の姿にココロワヒメは驚くが、鬼は袋と手紙を置いてすぐに姿を消してしまう。袋の中には見慣れない米が入っていた。手紙には、その米をサクナヒメの天穂に混ぜて売るように、という指示が書かれていた。
鬼を遣わすような正体不明の者の指示に従ってよいはずがない。そう考えるココロワヒメだったが、謁見の席でカムヒツキの口から「天穂」の名前を聞いたココロワヒメはとっさに、新たな米として混ぜ物をした天穂を勧めてしまう。ココロワヒメの米はあっという間に天穂に取って代わって都で流行するようになった。
サクナヒメの影に怯えているからといって、その邪魔をしていいはずもない。葛藤するココロワヒメを、ある晩、都にいないはずのサクナヒメが訪ねてくる。
合わせる顔もないと逃げ出すココロワヒメは絡繰り兵を差し向けてサクナヒメを足止めし、深夜の都中を逃げ回る。サクナヒメは絡繰りを壊しながらその後を追いかけ続け、とうとうカムヒツキへの捧げものが収められた御饌殿(みけでん)でココロワヒメと対峙する。天穂に混ぜ物をしたココロワヒメの米がずらりと並んでいる前で、どういうことか説明してくれと詰問するサクナヒメ。その言葉に、ココロワヒメの中で長年押しとどめられていた不満が爆発した。
「あなたはいつもそうして自分のことばかり!好きな時に食べて寝て、書を読み、 笑って、奔放に生きてきたあなたと違って私はずっとずっと努力を重ねてきた!なのに認められなかった。家名に寄りかかって贅をむさぼるあなたばかりが目立っていたから!初めていただけた大役なのです。カムヒツキ様にようやくお認めいただいた。もう、あなたの影に怯える私でいたくはないのです!」
そう叫ぶココロワヒメの後ろで、サクナヒメが壊した絡繰り兵の部品が火花を散らせている。米や酒や油が収められた樽の下に敷かれた筵に火花が散り、あっという間に燃え広がっていく。サクナヒメはココロワヒメを宥めて火を消そうとするが、長年の鬱憤が爆発したココロワヒメは聞く耳を持たず、すぐ後ろで燃え上がっていく炎にも気付かない。
都中に爆発音と、香ばしい匂いが広がった。

久しぶりの自宅で寝るサクナヒメ。しばらく羽を伸ばそうとするも、田んぼのことが気になって仕方がない。

サクナヒメとココロワヒメは揃ってカムヒツキの咎めを受けることになった。二度も御饌殿をぶっ飛ばしたサクナヒメは、天穂に混ぜ物をして中毒性をつけた危険な米を一刻も早く処理するためこうなったのだ、と堂々と申し開きをする。
一方ココロワヒメは、自分は友を妬むばかりに悪事に手を染めてしまった、どんな罰でも受ける、と言い訳はしない。
カムヒツキはココロワヒメを重用してきただけに、その失望は大きく、極刑を言い渡そうとする。だが、カムヒツキの家来がこっそりと耳打ちをした。ココロワヒメを失えば、都の守護に用いている絡繰り兵を二度と作れなくなる。それだけでなく、派手な騒動の後に要職にあった上級神を処分すれば都中の神から事情を詮索されることは避けられず、そうなると主神カムヒツキ自ら中毒米に夢中になっていたことが知られ、大いに恥をかくことになる。
自らの沽券にかかわると聞いたカムヒツキはすぐさま態度を翻し、ココロワヒメのこれまでの働きとサクナヒメの友を想う気持ちに免じて許す、ということになった。また、勝手に都に戻ってきたサクナヒメも不問とされ、鬼島の調査任務はそのままに、都の追放処分は取り下げとなった。
そうして久しぶりに自宅に戻ったサクナヒメは、暖かい部屋の綺麗な寝床でゆったりと体を休める。久しぶりの都で何日か羽を伸ばしていこうと考えるが、ふと、田んぼの水路の樋(とい)を上げたか下げたかが思い出せない。留守の間このようにしろと田右衛門に申し付けてもいない。もし嵐が来たら、自分抜きで田んぼを守れるのか。ヒノエ島の家と田んぼのあらゆることが気になってちっとも眠れないサクナヒメ。結局、翌朝には島に帰ることになった。

自分の友を想う気持ちをしっかりと伝えるサクナヒメ。島での生活を通して、神として大きく成長している。

朝、船着き場に出たサクナヒメを、ココロワヒメが見送りにやってきた。
都にいた頃の自分はあまりに幼かった、きっと何気ない言葉でたくさん傷つけてきたのだと思う。すまなかった、それでもココロワヒメを親友と思っている。そう伝えたサクナヒメに、ココロワヒメも答える。
いつも自信に満ちて、堂々と他者と接することができるサクナヒメに憧れていた。遠く離れた鬼島からカムヒツキの命に逆らってでも駆けつけてくれた、あなたは紛れもなく大切な親友。
互いの友情を確かなものとしたサクナヒメとココロワヒメ。次はココロワヒメの方から島に遊びに行くこと、困ったことがあったときは頼ることを約束し、サクナヒメはヒノエ島へ帰っていくのだった。

火山の神

火山の火口に現れたヨモツホムスビ。殺されたアシグモ族の怨嗟でできている。

火山の探索を進めるサクナヒメだが、登れば登るほどアシグモ族の黄泉神が次々に襲ってくる。火山ではどうやら黄泉神と鬼たちの争いが起こり、黄泉神が優勢であることがわかった。だが、タマ爺ですら見たことのなかった黄泉神がこうも多いことには、何か原因があるはずだった。
火口付近に辿りつくと、鬼は全くおらず、静かだった。するとサクナヒメとタマ爺の前にいくつもの火の玉が浮かび上がり、「黄泉火産霊(ヨモツホムスビ)」が現れる。アシグモ族のむくろを黄泉神に変えていた張本人だ。お化けが嫌いなサクナヒメは半ばやけくそでヨモツホムスビに挑み、これを退治する。ヨモツホムスビは火口へ消える間際、「我らは鬼と人に殺された」と口走った。
ヒノエ島にかつて住んでいた人間はトヨハナだけ、今はサクナヒメと共に生活する田右衛門たちだけだ。アシグモ族を殺した人間などいないはずだった。
峠に戻り、アシグモにヨモツホムスビが残した言葉について尋ねてみると、今にして思えばかつてアシグモ族を狩っていた鬼たちは、鬼にしては統率が取れすぎていたように思える、と答えた。タマ爺によれば、獣鬼は本来、別種同士の群れは作らないものだという。しかし、サクナヒメが退治してきた鬼は兎や猪、鹿など、あらゆる種類の獣鬼が群れとなっていた。鬼たちを束ねる何者かがいるのかもしれない。その推測を聞いた田右衛門が、我々の他にも頂の世に迷い込んだ人間がいたはずだと言いだす。天浮橋でサクナヒメに蹴り落とされた、山賊の石丸だ。
天浮橋の下に充満する雲は、時も処もなく、何にも定まっていない何かだ。そこに落ちた者が、サクナヒメたちが訪れる前のヒノエ島に辿りつき、鬼たちを統率してアシグモ族を狩る。ありえない話ではない。
いずれにせよ、島でサクナヒメが攻めていないのは西の砦だけ。実際のところは、砦を落として確かめてみる他はないのだった。

傷ついた兎鬼

傷ついた兎鬼を囲んで言い合いになるサクナヒメたち。ゆいは特に兎鬼に強く同情したようで、いつになく口数が多い。

西の砦攻めを始めたある日の晩、サクナヒメが家に戻ると、田右衛門たちが家の中で集まって神妙な顔をしていた。その中心には傷ついた兎鬼が横たわっている。サクナヒメが訳を問いただすと、峠の近くで倒れているところを見つけたのだと田右衛門が説明した。鬼には刀傷があることから、恐らく仲間内でいじめられ、逃げてきたものと思われる。自力で立ち上がれないほど弱り、怯え切った様子の兎鬼を見かねて連れ帰ってきてしまったのだ。歩けるようになるまで家で面倒をみてやれないかと田右衛門たちはサクナヒメに頼み込むが、サクナヒメは頑として聞き入れない。タマ爺も同様の意見で、鬼とはただの獣ではなく、邪な悪の心を持つから鬼と呼ばれる、逆恨みこそすれ恩を感じるはずがない、と説明する。
ヒノエ島での生活で、兎は数えきれないほど殺して食べてきた。それでも田右衛門たちは、傷つき怯える兎鬼をどうしても殺せないと言う。きんただけは殺すべきだと言ったが、ゆいは、きんたにそんなことを言ってほしくない、ときんたを責める。戦や争いごとで生きる場所を奪われてきた田右衛門たちにとって、兎鬼の姿はかつての自分たちと重なり、どうしても殺せないのだった。
サクナヒメはとうとう折れ、少しでも歩けるようになれば追い出す、いざとなれば田右衛門が斬るように、と言いおいて、兎鬼を匿うことを承諾するのだった。

タケリビとトヨハナ

とうとうタケリビがトヨハナに求婚するくだりで歓声をあげる一同。みんな恋の話が好きなのだ。

ある晩の夕食の席で、サクナヒメは両親が結婚した経緯をタマ爺に尋ねる。サクナヒメが生まれてすぐ、父も母も姿を消してしまったため、両親のことをほとんど知らずに育ったのだ。タマ爺はタケリビとトヨハナが出会い、結ばれるまでの長い物語を、幾晩もかけて語った。
昔、このヒノエ島には鬼だけではなく多くのアシグモ族が暮らしていた。大きな群れを作ることは好まなかったが、個々の生きる力に秀でている彼らは平和に暮らしていた。しかしあるとき、恐ろしい病が流行った。医療の知識に乏しいアシグモ族はその数をどんどん減らしていった。そんな中、この家とともに忽然と姿を現したのがトヨハナだった。はじめ、アシグモ族はトヨハナを怪しみ、殺そうとまでしたが、トヨハナは意にも介さず、逆にアシグモたちの手当てをはじめた。トヨハナの煎じた薬と峠の水が効いたのか、アシグモ族は病から救われた。深い恩を感じたアシグモ族はトヨハナを姫と称え、支えていくことを誓った。
その頃、タケリビは都を放逐されていた。先代カムヒツキとの大喧嘩が原因で、都中をひっくり返すほどの大騒動だったという。各地を転々としたタケリビが最後に辿りついたのが、このヒノエ島だった。アシグモ族はよそ者を排除しようとするが、そこは最強の戦神タケリビ、アシグモ族に止められるものではなかった。襲い掛かるアシグモ族を退けながら、タケリビはアシグモ族が「姫」と呼ぶ何者かを守っているらしいことに気付く。どんな毛むくじゃらの姫か、ひとつ笑ってやろうと考えたタケリビは峠を目指した。そして、峠にいたトヨハナの姿が目に飛び込むなり固まってしまった。それだけトヨハナは見目麗しい女性だった。そして、トヨハナもまた同様にタケリビの姿に目を奪われた。
しかし、お互いすぐには胸の内をさらせず、タケリビは峠に居座るための口実として、誰の目にも無用な鬼退治を始めた。峠に不知の術が施されたのもその頃だ。日々は穏やかに過ぎ、夏が終わり山が色づき始めた頃、北の渓谷にそれは現れた。
麓の世に、水害を由来とする悪神がいた。人々はこの悪神を鎮めるため、毎年人柱を捧げていたという。しかしある年、人柱とされたはずの娘が家ごと頂の世へ逃げてしまった。その娘がトヨハナだった。羽衣の力で世を渡り、人柱から逃れたのだ。そもそも人柱に本当に水害を鎮める効果があったかは定かではない。だが、その水害、大龍(オオミズチ)は逃げた人柱を追うようにしてヒノエ島に顕現した。
北の渓谷に現れた大龍はトヨハナを探したが、不知の峠を見つけることはできなかった。そこで大龍はトヨハナを炙りだすため、鬼を率いて島を荒らしまわりはじめた。アシグモ族は島を守るために立ち向かったが、無尽蔵に湧いて出る鬼を相手に成すすべもなく殺されていく。見かねたトヨハナはついに羽衣を携えて峠を飛び出してしまった。ここでタケリビも重い腰を上げる。こうしてタケリビ、トヨハナはアシグモ族と共に大龍に挑むことになった。
タケリビは大龍に正面から切りかかり、トヨハナは大龍の攻撃を羽衣で次々にいなしていく。アシグモ族は無数の鬼に果敢に立ち向かう。死闘は幾日幾夜も続き、誰もが疲れ果てたとき、とうとうタケリビがタマ爺、正しくは「星魂剣(ほしだまのつるぎ)」を使い、決め手となる一撃を入れた。大龍は地面に大穴を穿ち、海の方へと逃げていった。鬼は散り散りになり、島は平穏を取り戻したのだった。
かの「鬼島」にて、タケリビが悪神大龍を討ち取ったという報せは都にまで届いた。そして先代カムヒツキは、この機に乗じて島を手に入れようと手勢を差し向けた。この動きをいち早く察知したタケリビは、アシグモ族と共に都の軍を迎え撃つことにした。大龍との戦いからほんの数か月後、島で新たな戦いが始まった。
島の西側の海岸沿いに、常に深い霧に覆われた山々がある。そこからはヒノエ島で唯一大型船が接岸できる浜を一望することができる。タケリビはその山に砦を築城しながら都の軍と戦う、という方針を取った。尽きることのない援軍に、海岸の真上に構えられた砦の堅牢な守り。戦いは長く続くかに思われたが、ひとつの報せをもって打ち切られることになる。それは先代カムヒツキ崩御の報せだった。
常に争ってはいたが、代えがたい喧嘩友達を失い、タケリビは失意を覚える。先代カムヒツキもタケリビには友情を感じていたようで、こんな遺言を残していた。「戦を終え、以後は新たな帝を支えて都の繁栄に尽くせ」。タケリビは遺言に従い、都に帰ることに決めた。
タケリビとトヨハナはこの半年ほどで決して切ることのできない絆を育んでいた。意を決したタケリビはとうとうトヨハナに求婚し、その後はトヨハナと共に仲睦まじく都の繁栄に尽力した。こうして、都を騒がせた戦神は、皆に頼られる夫婦神となったのだった。

田右衛門の願い事

田右衛門の願い事を聞き入れるサクナヒメ。その心には神としての自負がある。

ある晩、田右衛門がひとりで家の外に出て、島の西方を眺めていた。もし本当に鬼の首領が石丸であったら、と考えていたのだ。その様子を見たサクナヒメは、話したいことがあるなら聞いてやる、と田右衛門を促す。
田右衛門と石丸は、同じ山賊の一味にいた。その頭はかいまるの父だった。盗みを働く相手は横暴な領主や無法な僧兵ばかりで、貧しい者からは決して取らなかった。仲間は寺から逃げ出したものや、戦で家を失ったものなど、はぐれ者ばかりだった。田右衛門は戦から逃げ、落ち武者狩りに追われた先で、かいまるの父や石丸に出会った。一味に加えられたはいいものの、武芸がからきし駄目な田右衛門は使い物にはならず、山中の隠し田の世話ばかりしていた。そんな田右衛門であるから石丸には何かと目の敵にされたが、頭は面白がり、「田右衛門」というあだ名をつけた。
そんな大らかで心の優しい頭であったから、一味の誰もが彼の世話になっていた。しかし、ある夜、石丸は頭を殺し、一味を乗っ取ってしまった。
石丸はかねてから頭のやり方に反対していた。人間はどのような汚いやり方をしてでも生きなければならない、ただ強くなければならない、というのが石丸の言い分だった。そんな石丸が一味を牛耳り、人身売買に手を出した。その「商品」の中には、ミルテ、きんた、ゆいもいた。石丸に勝つ力のない田右衛門は彼らを連れて山中を逃げ回り、頂の世に迷い込んだのだった。
ここまで語った田右衛門は、もし鬼を率いているのが石丸であれば、どうか殺さないでやってくれとサクナヒメに頭を下げた。石丸はもともと、戦で家族を殺されて行き場を失った子どもだった。田右衛門は侍の身分でありながら、何もしてやれなかったことを悔いているのだった。今からでも石丸を救うことができるのであればどんなことでもする、と田右衛門はサクナヒメに縋る。
サクナヒメは「わしは神様じゃからな」と快く引き受け、ここの者たちは田右衛門のことを頼りにしているのだから、もう少し自分を大切にしろ、と言い含めるのだった。

砦の石丸

大龍の復活と共に火を噴き始めた火山。

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