メッセージ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『メッセージ』(原題:Arrival)とは、本作後に「ブレードランナー2049」を撮るドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるSFムービー。
突如地球上に現れた巨大な宇宙船。飛来した目的を探ろうと、船内の異星人とコミュニケーションをとるため軍に依頼された女性言語学者が、彼らと接触するうちに未来を見ることが出来るようになり、自分の人生を見つめ直していくシリアスタッチの知的なドラマ。2016年製作のアメリカ作品。

アメリカ軍のキャンプ地で、12の宇宙船が飛来した場所をモニターで見ながら、なぜその場所なのかを推測しようとイアン達がいろいろ考えをめぐらす時のイアンのセリフ。「1980年にシーナ・イーストンの曲がヒットした所」と馬鹿げたことを口走るが、それは結局皆目見当がつかず、お手上げだという意味で言ったジョークでクスリッとさせられる。
地球の危機かも知れない状況で唐突にこんな気の利いたジョークを口走るのが、いかにもアメリカ人だなと思わせる、映画ならではのセリフだ。日本映画なら、こんなセリフはまずありえないと思える。
シーナ・イーストンはイギリス・スコットランド出身の歌手で、1980年に発表したデビューアルバム「モダン・ガール」は日本のオリコン洋楽アルバム・チャートで2週連続1位を獲得。「007 ユア・アイズ・オンリー」(81)の主題歌を歌っていることでも知られている。

「この先の人生が見えたら、選択を変える?」「自分の気持ちをもっと相手に伝えるかも」

未来が見えるようになったルイーズが「この先の人生が見えたら、選択を変える?」とイアンに聞いたとき、彼は「自分の気持ちをもっと相手に伝えるかも」と答える。
イアンが夫になり娘を授かる未来を見てしまっているルイーズが、本当にそれでいいんだろうかと迷って彼に尋ねたようで、彼女の揺れる心情が汲み取れる印象的なセリフだ。それに対しイアンが「相手にもっと気持ちを伝えるかも」と答えるところも、これまた印象深い。

「君との出会いだ」

ルイーズのおかげで中国が宇宙船への攻撃命令を中止し、世界がまた一つになろうとすることに安堵したイアンが、ルイーズにプロポーズするときの言葉。
「僕はずっと宇宙に憧れてきた。だが、一番の出会いは彼ら(ヘプタポッド)との出会いじゃない。君との出会いだ」と言ってルイーズを抱き、彼女もそれに応え彼の背中に腕をまわす。
異星人との遭遇より、愛する人を見つけたことの方がもっと大事だと思うイアンの心情にグッと来てしまう名セリフだ。

防護服を脱いで異星人に顔を見せるルイーズ

異星人との3回目のセッションの時、相手の様子が前回と違うように感じたルイーズが、自分達の言葉が相手にうまく伝わらなかったのではと思い、しばし考えた後「顔を見せる」と言い、思い切ってヘルメットを脱ぎ顔を出す場面。
防護服も脱いで透明版に近づき透明版に手を当てると、異星人も透明版に近寄り手のひらを押し当てる。ルイーズの大胆な行動に驚かされる名シーンだ。
イアンやマークス大尉など男たちが彼女の行動にオロオロと慌てているところは、男より女の方がいざという時は捨て身でなんでも出来るんだと思わせ、ニヤリとさせられる。

空中に溶けるように姿が消えていく宇宙船

中国が攻撃命令を中止し、ロシアやスーダンも宣戦布告を取りやめ、世界がまた一つになったことで異星人達は役目を終え去っていく。空高く飛び去っていくのではなく、空中に溶けていくかのように各国に飛来した宇宙船がゆっくりと姿を消していく、何とも幻想的で美しいシーンだ。

『メッセージ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

イアンが名付けた2体の異星人の呼び名“アボット&コステロ”

アボット&コステロ(バッド・アボット&ルウ・コステロ)は、1930代後半にヴォードヴィル芸人として舞台に立ち、1940年代に映画界に進出し50年代頃まで数多くのコメディ映画に主演し人気を博したアメリカのお笑いコンビ。日本では彼らの主演作22本が劇場公開されている。
テレビにも進出し、シチュエーション・コメディ「ザ・アボット・アンド・コステロ・ショー」(52~54年)に出演。日本では「凸凹劇場アボット・コステロ」のタイトルで1958~59年に日本テレビ系で放映された。また1967~68年に二人が主人公のテレビ・アニメがハンナ・バーベラ・プロダクションにより製作された。日本では東京12チャンネル(現・テレビ東京)の「まんがキッドボックス」「マンガのくに」などで放映された。
イアンがなぜ異星人をアボット&コステロと名付けたか定かな理由は映画では説明されていないが、おそらくイアンが子供の頃に二人のテレビ番組を見てファンだった可能性がある。

宇宙船のデザインの元になった小惑星エウノミア

異星人の宇宙船のデザインは、ヴィルヌーヴ監督が製作段階でいろいろな資料を調べていた時に小惑星エウノミアの画像を目にし、“奇妙な卵のような不思議な形”に魅かれ、「きっと宇宙船に脅威とミステリアスな感覚をもたらしてくれるだろう」と思い、それをベースに考えられたそうだ。
小惑星エウノミア(Eunomia)は、火星と木星の間を公転している太陽系の小惑星で、小惑星帯のなかでは8から12番目に大きい天体。

異星人の円形の文字、ヘプタポッド語を作りあげるまでの苦心

ヘプタポッドの言語である円形の文字

美術監督パトリス・ヴァーメットは、ヘプタポッドが描く円形の文字をどのようにビジュアル化するかに悩み、数か月かけても満足できるものができなかったそうだ。結果的には、パトリスの妻が15字のデザインを描いて彼に見せ、そのデザインがヒントとなって映画に登場する円形の文字を作り出すことが出来た。
妻が描いたデザインは、にじんだインクやコーヒーのシミのような不思議な円形の文字だったそうだ。
パトリス達は、ヘプタポッドの文字の辞書まで作り、100字以上の異なる文字を照らし合わせて見ることができるようにしたそうだ。映画ではその中の71文字が使用されているらしい。

yo12jack8
yo12jack8
@yo12jack8

Related Articles関連記事

君の名前で僕を呼んで(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

君の名前で僕を呼んで(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『君の名前で僕を呼んで(Call Me by Your Name)』とは、2017年に公開されたルカ・グァダニーノ監督による青春・ラブロマンス映画。17歳エリオは大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァーとひと夏を共に過ごす。そんなエリオの初めての、そして生涯忘れられない恋の痛みと喜びを描いている。本作はアンドレ・アシマンが2007年に出した小説『Call Me by Your Name』を原作としている。今作では原作の物語の途中までしか描かれておらず、続編の構想が明かされている。

Read Article

ボーダーライン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ボーダーライン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ボーダーライン』とは2015年に製作された犯罪・サスペンス・アクション・ドラマを扱ったアメリカ映画である。現場で活躍するFBIの女性捜査官がメキシコの麻薬カルテル撲滅のために組織されたチームにスカウトされ、アメリカとメキシコを股にかけた麻薬戦争の実情を目の当たりにするという話である。監督は『ブレードランナー2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴが務め、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラント、『トラフィック』のベニチオ・デル・トロらが出演した。

Read Article

魔法にかけられて(ディズニー映画)のネタバレ解説・考察まとめ

魔法にかけられて(ディズニー映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『魔法にかけられて』とは、2007年にウォルト・ディズニー・ピクチャーズが製作したミュージカル映画。ディズニー伝統のアニメーションと実写を融合し、過去のディズニー作品からのセルフパロディや楽しいミュージカルナンバーを随所にちりばめて描いたファンタジック・ラブ・コメディ。王子との結婚式の日に魔女に騙されて現代のニューヨークへと送り込まれたおとぎの国のプリンセス・ジゼルは、見知らぬ世界の中で困り果てていた時、弁護士の男性・ロバートと出会い、やがて彼に惹かれていく。

Read Article

ボーン・レガシー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ボーン・レガシー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ボーン・レガシー』とは『ボーンシリーズ』の4作目で、2012年公開のサスペンス・アクション映画。記憶を失くした元CIAトップ工作員ジェイソン・ボーンをめぐる陰謀を描いた前3部作の裏で同時進行していたストーリーを描くスピンオフ的作品。ボーンの存在によりCIA上層部でさえ知らない国家的極秘計画が暴かれる危機が発生。計画隠蔽のために襲われた工作員アーロン・クロスの逃避行が描かれる。『ボーンシリーズ』の世界観を継承したストーリー展開に加え、前3部作後のCIAの状況もわかるファン必見の物語である。

Read Article

シェイプ・オブ・ウォーター(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

シェイプ・オブ・ウォーター(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『シェイプ・オブ・ウォーター』とは、2017年にアメリカで制作・公開された、声を発することのできない中年女性と半魚人が愛を育むラブ・ロマンスを描いた映画である。2018年に日本でも公開され話題になった。1962年冷戦下アメリカの機密機関で働く声を失った女性清掃員イライザと、アマゾン奥地からそこに運び込まれた正体不明の半魚人との心の交流を中心に描いている。前代未聞のラブストーリーということで、ギルレモ・デル・トロ監督作品の中でも傑作と呼ばれた。

Read Article

アベンジャーズ/エンドゲーム(MCU)のネタバレ解説・考察まとめ

アベンジャーズ/エンドゲーム(MCU)のネタバレ解説・考察まとめ

『アベンジャーズ/エンドゲーム』とは、2019年に公開されたディズニー配給・マーベル製作の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編である。本作は、宇宙最大のパワーを持つ6つの石”インフィニティ・ストーン”を集めたサノスがアベンジャーズのメンバーを含む、全宇宙の生命の半分を消滅させたところから始まる。人類を守るため、”キャプテン・アメリカ”や”アイアンマン”を筆頭に最強ヒーローたちが再び立ち上がり、史上最凶最悪の敵・サノスに逆襲(アベンジ)する。

Read Article

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

往年の人気TVシリーズを、トム・クルーズ製作・主演、「Mr.インクレディブル」のブラッド・バード監督で映画化した大ヒット・アクションシリーズ第4弾。前作から5年後の2011年、日米同時公開。爆弾テロ犯の濡れ衣を着せられたイーサン・ハントとそのチームが、組織の後ろ盾を失いながらも事件の黒幕を突き止めるべく世界を股に過酷なミッションに挑む姿を圧倒的なスケールで描き出す。

Read Article

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

トム・クルーズの代名詞ともいえる大ヒットスパイアクションのシリーズ第5作。2015年公開のアメリカ映画。監督は、クルーズ主演映画「アウトロー」のクリストファー・マッカリー。各国の元エリート諜報部員を集めた謎のスパイ組織「シンジケート」の暗躍により、秘密工作機関IMFはまたも解体の危機に陥る。組織の後ろ盾を失いながらも、イーサンは仲間とともに世界の危機を救うため史上最難関のミッションに挑む。

Read Article

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(DCEU)のネタバレ解説・考察まとめ

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(DCEU)のネタバレ解説・考察まとめ

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』とは、2016年に公開されたアメリカ合衆国のヒーローアクション映画。「DCコミックス」から出版された人気アメリカン・コミック『バットマン』と『スーパーマン』を原作とした、実写映画作品である。『マン・オブ・スティール』で、地球の危機を救ったスーパーマンだが、その戦いでの被害は甚大なものであった。地球外から来た異星人は追放すべきだと世論が強まっていく中、バットマンも自社のビルを破壊されて社員を失ったことから、スーパーマンを危険視してしまう。

Read Article

マン・オブ・スティール(DCEU)のネタバレ解説・考察まとめ

マン・オブ・スティール(DCEU)のネタバレ解説・考察まとめ

『マン・オブ・スティール』とは、2013年に公開されたアメリカ合衆国のスーパーヒーロー映画。「DCコミックス」の人気アメリカン・コミック『スーパーマン』の実写映画作品である。『スーパーマン』シリーズを含めると、本作は通算第6作目の作品だ。科学や文明が発達して人工生育が常識である、地球から遠く離れた惑星「クリプトン」で、数百年ぶりに自然出産で「カル=エル」という子供が生まれた。のちに「スーパーマン」と呼ばれる彼は、子供のいなかった夫妻に育てられたのち、自分の出自を知るための旅にでる。

Read Article

完全なるチェックメイト(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

完全なるチェックメイト(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『完全なるチェックメイト』とは、2015年にアメリカで公開された天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの半生を描く伝記ドラマ映画。冷戦下の1972年、15歳でチェスのグランドマスターとなったボビー・フィッシャーは、その奇抜な言動から周囲から変わり者と扱われてきた。そんなボビーは世界が見守るチェス最強国のソ連が誇るボリス・スパスキーとの対局で苦戦しながらも驚くべき戦略でスパスキーに立ち向かう。チェスの世界で精神の極限状態に追い込まれるボビーを緊張感のある表現で描かれている。

Read Article

アベンジャーズに出てた人 その1 ジェレミー・レナー

アベンジャーズに出てた人 その1 ジェレミー・レナー

「日本よ、これが映画だ」のCMのおかげで大体の日本人が知っている映画「アベンジャーズ」シリーズ。でも主要登場人物のうち、日本で広く名前が知れ渡っている俳優は「アイアンマン」役のロバート・ダウニー・Jrくらいではないでしょうか。意外と知らない他のメインキャストについて、今回から勝手にシリーズものとして紹介していきます。

Read Article

目次 - Contents