鑑定士と顔のない依頼人(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『鑑定士と顔のない依頼人』とは、ジェフリー・ラッシュが演じる、すご腕の美術品鑑定士だが、人嫌いで女性と縁のないヴァージルが姿を見せない謎めいた依頼人クレアに心惹かれていくミステリードラマ。
ヴァージルとクレアの恋の裏では、ヴァージルの長年のパートナーが用意周到に計画した復讐劇が進められていた。
「ニュー・シネマ・パラダイス」などを手がけたジュゼッペ・トルナトーレ監督・脚本による作品である。

『鑑定士と顔のない依頼人』の概要

『鑑定士と顔のない依頼人』とは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督・脚本による2013年のイタリアの恋愛・ミステリー映画である。
主演はジェフリー・ラッシュが務め、共演にはジム・スタージェス、ドナルド・サザーランドらが出演している。
目利きの美術品鑑定士が、姿を見せない女性からの謎めいた鑑定依頼に翻弄され、思いがけない運命を辿る様を描いたミステリアスな作品である。

撮影は2012年4月30日にイタリア北部の都市トリエステで始まり、その後フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、ウィーン、南ティロルで5~6週間かけて行われた。
アメリカで発行されているエンターテイメント情報紙では「鋭い脚本」と評された。また、主演ジェフリー・ラッシュの演技も好評価された。
イタリア映画賞のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では作品賞、監督賞、美術監督賞、衣裳賞、音楽賞を獲得した。
同じくイタリアの映画賞、ナストロ・ダルジェント賞では音楽賞と作品賞を含む6部門を獲得した。イタリアゴールデングローブ賞では撮影賞と作曲賞にノミネートされている。
本作はイタリアで2013年1月1日の公開され、日本では2013年12月13日に公開された。

『鑑定士と顔のない依頼人』のあらすじ・ストーリー

鑑定士ヴァージル

美術品の鑑定士ヴァージル・オールドマンは美術オークションの場を取り仕切る、一流のオークショニアであった。
経済的に裕福な彼は、一日の仕事を終え、髪を染め、高級スーツに身を包んで一人高級レストランで食事をする生活を送っている。人間嫌いで潔癖症のヴァージルは、結婚もせず親しい友人も持たず、孤高の生活を送っていた。
ヴァージルの唯一の楽しみは美術品である女性の肖像画を収集することだった。
ヴァージルは、オークショニアとして木槌を振るい美術品を取引していながら、元画家のビリーと組み名画を格安で落札させるよう取引を誘導し、それらを手に入れていた。
不正に入手した名画の数々はヴァージルの自宅の隠し部屋にコレクションされていた。厳重な警備システムに守られた部屋の壁一面に飾った名画を鑑賞する時が、ヴァージルにとって至福の時間だった。

依頼人クレア

美しいクレア(右)を見て、恋に落ちるヴァージル(左)。

そんなヴァージルの元に、ある日鑑定の依頼が入った。
依頼人はクレア・イベットソンと名乗る女性で、急死した両親の収集していた美術品やアンティーク家具を鑑定し、競売にかけてほしいという依頼だった。ヴァージルは約束の日時に指定場所へと出向くが、誰も現れず待ちぼうけを食らってしまい、激怒する。
後日クレアから電話があり彼女は「交通事故に遭って行くことができなかった。今度はきちんと行くから鑑定をして欲しい」と言う。
クレアに懇願されたヴァージルは、再度クレアの邸宅へと出向くがそこでも彼女は姿を現わさず、彼女の変わりに屋敷の使用人フレッドが現れ、ヴァージルを屋敷の中へと案内した。
やむなく1人で屋敷の中を見て回ったヴァージルは、地下室の片隅に転がった機械部品に気付き、密かに持ち帰る。その機械部品を顔なじみの機械修理屋ロバートの元へ持ち込み、何の部品か調査を依頼した。

ヴァージルは屋敷の下見が終わり、クレアと電話を通して鑑定を進めることとなった。
だがヴァージルは「美術品を競売にかけるには書類にサインが必要で、あなたが姿を現さないと何も始まらない。」とクレアに告げる。それを聞いたクレアは「作業を進めてください。屋敷に出向いて契約書にサインをする。」とヴァージルに言った。
後日、屋敷の美術品やアンティーク家具を引き取るためヴァージルはフレッドを通じて屋敷に出向いた。
屋敷に出向くと言ってたクレアは一向に姿を表す気配がなく、ヴァージルは苛立ちを募らせていた。その時、フレッドの携帯電話にクレアから連絡が入る。電話を受け取ったヴァージルは「色々事情があって行けなかった」と言い訳をするクレアに「姿の見えない幽霊と仕事をするつもりはない」と苛立ちをぶつける。
その時、屋敷内で進められている美術品の鑑定作業音が電話口から聞こえたことで、ヴァージルはクレアが屋敷の中にいるのではないかと考え、屋敷中を歩き回りながらクレアに出てくるように言うが彼女は頑として姿を現さず一方的に電話を切ってしまった。

ヴァージルは、姿を現さないクレアについてフレッドに話を聞くことにした。フレッドによれば、クレアは恐らく27歳ぐらいになるが病気を患っており人前に出ることはなく、話をしたことはあるが11年の勤務中に一度も会ったことがないと語った。
ヴァージルはクレアの屋敷から持ち帰った機械部品を持って再びロバートの元を訪れた。以前渡した部品を分析したロバートによれば、それは18世紀頃に作られた貴重なオートマタ(機械人形)の部品かもしれないという。部品が揃ってオートマタを復元できれば、それは大変な価値を持つと知るヴァージルは、他の部品が屋敷にあるか探してみると請け合った。
後日、クレアから「会いたい」と連絡を受けたヴァージルは屋敷へと出向く。
ヴァージルが屋敷に入ると、クレアが壁越しに話しかけてきた。ヴァージルの読み通り、クレアは屋敷の中の隠し部屋の中にいたのだ。そこでクレアは自身の患う病気について話し始めた。クレアは広場恐怖症という病気により、「人に会うのが怖い。15歳から人が屋敷に入ってくると隠し部屋に引きこもる。人がいない時に屋敷の中を動き回っている。」と告白した。
ヴァージルとクレアは今後、電話だけではなく屋敷の壁越しにも会話することを決め、彼は屋敷への自由な出入りを許された。

ヴァージルとクレアの恋

壁越しに交流を続けるうち、ヴァージルは彼女の謎めいた様子に好奇心が高まっていく。
さらに、競売の契約のために身分証明書の提示を求め、彼女のパスポートに載っている子供の頃の写真を見たことで現在のクレアの容姿についても興味を持った。
ヴァージルのクレアに対する好奇心は日に日に高まっていき、ある日屋敷から帰ると見せかけて部屋の物陰に潜みクレアが隠し部屋から出てくるのを待ち受けた。
人がいなくなったら隠し部屋から出ると言っていた通り、ヴァージルが帰ったと思ったクレアは隠し部屋から出てきた。クレアの美しい素顔にヴァージルは心を奪われた。
一方で、ヴァージルはクレアの屋敷に通うたびに、オートマタの部品を見つけロバートに届け続けていた。
また多くの女性との交際経験を持つロバートに、ヴァージルはクレアについて相談するようになる。
ヴァージルとクレアは壁越しに会話をしながら仲を深めていく。また、クレアもヴァージルに惹かれていくようになる。

後日、ヴァージルは再びクレアの姿が見たくなり、帰ったふりをして身を潜める。
だが、携帯電話を落としてしまい物音に驚いたクレアは屋敷の中に誰かがいるかとパニックになる。
クレアが隠し部屋に閉じこもったところで、ヴァージルはそれ以上の物音を立てないように急いで外に出たが、ヴァージルの携帯電話にクレアからの助けを求める連絡が入り、再び屋敷に戻ることにする。そこでヴァージルは「私がいたんだ。君の顔が見たくて隠れていたんだ。」と先ほどの物音の正体が自分であることを告げる。
その日をきっかけにクレアはヴァージルの前に姿を現すようになり、食事をしたり、ヴァージルはクレアに美しいドレスをプレゼントしたり交際を深めていく。

ロバートのアドバイスもあり、ヴァージルとクレアは日を追うごとに互いを信頼していくようになる。しかしヴァージルは女性の扱いに慣れておらず、クレアとの接し方に不安を抱いていた。そこでヴァージルは、自分とクレアの関係性をロバートに見せるために「クレアを見てほしい」と告げる。ロバートは快諾するが、人前に出れないクレアとロバートを会わせることはできないため、ヴァージルはかつて自分がそうしたように、ロバートを物陰に潜ませクレアと自分の現在の関係を見せたのだった。
後日ヴァージルはロバートの元を訪れ「どうだった?」と聞くとロバートは「口説きの天才だ。」とヴァージルを褒めた。ヴァージルはロバートから合格点をもらって安心した様子を見せた。しかし、クレアについて「病気のことを言われなければ普通の子に見えるし、とても綺麗だしタイプだ。」と告げたのだった。
そして、ある日ロバートのガールフレンドのサラがヴァージルの元を訪れ「ロバートは女の出入りが激しい。今も他に気になる子がいて、クレアの話ばかりをしている。」と告げられた。動揺したヴァージルはロバートの元を訪れ、サラのことは伏せたまま、問答無用で組立途中のオートマタを引き上げ「信用に足らない男だ」と喧嘩別れしてしまった。

クレアはヴァージルを自分の隠し部屋に招き入れるほど心を許した。彼女の部屋にも年代物の家具などが置かれていた。
そこにオートマタの部品を発見したヴァージルは「これも年代物だ。鑑定しようか?」とクレアに告げると彼女は「私よりも美術品に興味がある。部屋に入れるんじゃなかった。」と機嫌を損ねてしまった。
後日、ヴァージルは喧嘩別れしたロバートの元を訪れ「オートマタの残りの部品を見つけた。完成させる気はあるか?」と尋ねる。ロバートは「あなたが決めることですよ。」と冷たい対応をする。
ヴァージルは喧嘩別れになった理由として、サラが自分の元へ来たこと、ロバートは女の出入りが激しいと愚痴ったことを告げる。その話を聞き、ヴァージルの嫉妬だと合点がいったロバートは彼を許し、オートマタの組立を再開することにした。
ロバートに「部品を持ってきたか?」と問われた。オートマタの残りの部品はクレアの隠し部屋の中にあり、つい先日その部品のことでヴァージルはクレアの機嫌を損ねてしまったことがあった。ヴァージルはクレアの機嫌を損ねることなくオートマタの部品を回収しなければならないため、「それは私の私生活に関わることだ」と答えた。

宝石店でヴァージルはクレアへの指輪を選び、屋敷に行ったが彼女の姿はどこにもなかった。
ヴァージルは屋敷の向かいにあるカフェに駆け込み「屋敷から女性が出るのを見なかったか?」と尋ねると、「朝方出て行くのを見た」と聞かされる。広場恐怖症で外出できないはずのクレアが外に出たと聞かされ、焦るヴァージルはロバートとフレッドに連絡しクレアの捜索を依頼した。
ヴァージルはクレアの姿を探して奔走し、仕事であるオークションに遅れるほど動揺していた。急いでオークション会場へ向かい仕事をするが、その合間にもロバートやフレッドからクレア捜索の状況報告が入る。クレア失踪により動揺を隠せないヴァージルはその日の仕事でミスを連発してしまった。
「広場恐怖症の女性が遠くへ行ったとは考えにくい、何か見落としがあるのではないか?」とロバートに告げられたヴァージルは屋敷内をくまなく捜索することにする。そして屋敷の中でまだ足を踏み入れたことのなかった屋根裏部屋でクレアを発見した。

どれぐらの時間そこにいたのか分からないが、憔悴したクレアはヴァージルが着てくれたことに感謝し、自身の過去について語り始める。
過去には交際相手がおり、プラハで共に過ごしレストランに行ったこと、とても幸せだったこと、交際相手と交通事故に巻き込まれクレアが目覚めたときには交際相手はいなくなっていたこと、そしてそれ以降、家の外に出られなくなったことを告白した。傷ついたクレアを抱きしめたヴァージルは、彼女一夜を共にし、ヴァージルはその夜初めて女性を抱いた。
すっかりクレアに夢中になったヴァージルは、ロバートに「クレアを外に連れ出したい」と考えているのだと明かす。だがロバートは反対の意思を示し「何かきっかけがあれば、出てくる。焦らず待った方がいい。」とアドバイスした。

ヴァージルの決意

ある雨の降る夜の日、クレアの屋敷を訪れようとしていたヴァージルは暴漢に襲われ財布を奪われる。暴行を受けその場に放置されたヴァージルは、クレアに電話で助けを求めた。クレアはついに家を出て、ヴァージルの元へ駆けつけた。
病院に搬送されたヴァージルは、目の前にいるクレアを見て微笑んだ。
ヴァージルを助けた日以降、クレアは外に出られるようになり、退院したヴァージルは、クレアを自宅へと招待する。
そこで、ヴァージルは自身のコレクションを集めた隠し部屋へもクレアを案内した。壁一面の絵画コレクションを見て驚愕するクレアだった。
「生涯をかけて集めた女達。彼女達を愛し、愛してもらった。そして最愛の人を待てと教わった。そして君が現れた。」とクレアへの愛を語るヴァージルはクレアに一緒に暮らすことを提案し、クレアは了承した。またクレアも「どんなことが起ころうとあなたをずっと愛している。」とヴァージルに思いを告げた。
後日、ヴァージルはクレアの屋敷にあった美術品やアンティーク家具をオークションにかけるための目録が完成したと報告する。しかし彼女は思い出の品々を手放すのが惜しくなり「売るのをやめようと思う。」と言う。そんなクレアの言葉を受けとめたヴァージルは、目録を破り捨てる。
そしてヴァージルはこの先、クレアと共に生きると決め「来週ロンドンで行われるオークションを最後の仕事にする。」と言った。
ヴァージルはロンドンへ旅立った。最後のオークション会場にはビリーの姿もあった。ヴァージルの最後の晴れ舞台で、ビリーは「俺の絵の才能は認めてくれなかったが、お祝いに絵を送っておいた。」と言う。

仕事を終えたヴァージルは自宅へと戻った。だがそこにクレアの姿はなかった。
使用人からクレアはロバートと出かけており、昼頃に戻るだろう告げられたヴァージルは、クレアを待つ間ビリーが送ってきた女性の肖像画をコレクションに加えようと隠し部屋へと向かった。しかしその部屋に肖像画は無かった。ヴァージルは生涯をかけて集めてきた数々の肖像画がなくなっていることに愕然とし、持っていた絵を落としてしまった。

更に、部屋の片隅にはロバートが組み立てたオートマタが置かれており、ヴァージルが近づいたことによりオートマタの仕掛けが作動し喋りだした。「いかなる贋物の中にも本物が隠されている。見抜けなかったね。あなたはすでに過去の遺物。」と何度も何度も同じ台詞が流れ続けた。

クレアが姿を消した後

廃人のようになってしまったヴァージルは、介護施設で暮らしていた。そこへ手紙を持ってかつての部下が訪ねてきた。過去自分と関係のあった彼の顔を見ながら、ヴァージルは車椅子の上でクレアが去ったあとの出来事を思い出していた。
クレアがヴァージルのコレクションと共に姿を消し、ヴァージルはクレアの屋敷を訪れたが、そこには既に誰もいなかった。屋敷の前のカフェで聞き込みをするヴァージルは、そこで一人の女性に話を聞く。そしてカフェの常連で驚くべき記憶力を持つ小人症の彼女こそが、屋敷の持ち主で名は「クレア」だと聞かされる。屋敷は彼女のもので大きく使い道がないため、映画の関係者などに貸し出しを行っているのだという。そして、その女性はヴァージルがクレアだと信じていた広場恐怖症の女性が、どれほど頻繁に屋敷を出入りしていたかを話した。そしてここ2年間は技術者に貸していたと言い、その人物のことを「感じがよく、何でも直せる男性だ。」と語った。

彼女の語った男性がロバートのことだと思ったヴァージルは彼の元へと向かった。しかし、そこはもぬけの殻でロバートもまた姿を消していた。
ヴァージルは、肖像画コレクションが全て消え去り、持っていた絵を落とした時そのカンバスの裏には、「ヴァージルへ親愛と感謝を込めて。ビリー」と記されてたことを思い出し、クレアとロバート、そしてビリーが共謀し自分を騙したと悟るのだった。
失意のどん底にいるヴァージルは、つかの間ではあるがクレアと暮らした自宅を出て一人プラハへと向かった。そこでヴァージルは、クレアが話していたプラハのレストランを訪れる。ウェイターに「おひとりですか?」と問われたヴァージルは少し思案したのち、「いや、連れを待っている。」と告げるのだった。

『鑑定士と顔のない依頼人』の登場人物・キャラクター

ヴァージル・オールドマン(演:ジェフリー・ラッシュ、吹替:小川真司)

美術品の鑑定士。その目利きは一流で、その世界では有名人。また、美術オークションの場を取り仕切る、一流のオークショニアでもある。
私生活では、元画家のビリーと結託し、美術品を安価で手に入れ自身の隠し部屋でコレクションするほどのマニアックさも持つ。人間嫌いで偏屈である。また常に手袋を着用し、電話を使う際には受話器にハンカチを巻くなど極度の潔癖症。仕事以外で女性との交流もほどなかったが、謎の女性クレアと出会い次第に惹かれていく。

クレア・イベットソン(演:シルヴィア・フークス、吹替:山根舞)

急死した両親の遺品鑑定をヴァージルに電話で依頼した、姿を現さない謎めいた天涯孤独の女性。
ヴァージルとの約束も一方的にすっぽかし、ヴァージルを激怒させてしまう。しかし、実は広場恐怖症という病を患っているため人前にでることができないという。ヴァージルとのやり取りは主に電話で行っている。ヴァージルと出会い、徐々に彼に信頼を寄せその姿を現すようになる。

ロバート(演:ジム・スタージェス、吹替:花輪英司)

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