海の上のピアニスト(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『海の上のピアニスト』とは1998年に製作された、あるピアニストの生涯を描いたイタリア映画である。船の中で生まれ育った、「1900」と名付けられた主人公のピアニストとして活躍、ともに演奏するトランペット吹きの男との友情、とある少女への恋などを巨匠エンニオ・モリコーネの作る音楽に乗せて描く。監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレで、主人公のピアニストをティム・ロスが演じ、プルイット・テイラー・ヴィンスらが共演した。
『海の上のピアニスト』の概要
『海の上のピアニスト』は1998年に製作された、あるピアニストの生涯を描いたイタリア映画である。イタリアの劇作家アレッサンドロ・バリッコが書いた朗読劇『海の上のピアニスト』にインスパイアされたジュゼッペ・トルナトーレ監督が映画化した。イタリア映画ではあるが全編通してほとんど英語が使用されている。
第57回ゴールデングローブ賞では最優秀作曲賞を受賞した。
第4回ゴールデン・サテライト賞では最優秀作曲賞、最優秀美術監督・美術デザイン賞にノミネートされた。
第44回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では最優秀監督賞、最優秀美術賞、最優秀音楽賞、最優秀撮影賞、最優秀衣装デザイン賞、審査員賞を受賞し、最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀編集賞にノミネートされた。
第54回ナストロ・ダルジェント賞では最優秀製作賞、最優秀監督賞、最優秀美術賞、最優秀脚本賞、最優秀衣装デザイン賞、特別賞を受賞した。
第12回ヨーロッパ映画賞では最優秀撮影監督賞を受賞した。
第7回キャメリメージ国際撮影技術映画祭では、ゴールデン・フロッグ賞にノミネートされた。
ドイツのGuild of German Art House Cinemas賞では外国映画賞銀賞を受賞するなどヨーロッパ内外で評価をされた作品である。
監督、脚本は『ニュー・シネマ・パラダイス』などで知られるイタリア人映画監督のジュゼッペ・トルナトーレ。音楽は『ニュー・シネマ・パラダイス』でも担当したエンニオ・モリコーネ。撮影は後にジュゼッペ・トルナトーレが監督する『マレーナ』でも担当するコルタイ・ラヨシュ。
ティム・ロスが主人公の「1900」を、プルイット・テイラー・ヴィンスが「1900」の友人マックスを、ビル・ナンが「1900」の育ての親を、メラニー・ティエリーが「1900」の恋する少女を、クラレンス・ウィリアムズ三世が「1900」にピアノの決闘を挑むを男を、ピーター・ヴォーンが楽器屋の店主を演じている。
豪華客船ヴァージニアン号で置き去りにされた赤ん坊を見つけた機関士のダニー・ブートマンはその赤ん坊に、自分の名前の「ダニー・ブートマン」、置き去りにされていた箱に書いてあった「T・D・レモン」、当時の西暦の「1900(ナインティ・ハンドレッド)」を合わせた「ダニー・ブートマン・T・D・レモン・1900」と名付けて船内で育てる。船内で大人になった「1900」は船を降りることなく、ヴァージニアン号内でピアニストとして活動していた。その「1900」と親友だったマックスが楽器屋で「1900」の弾く曲が録音されたレコードを発見し、楽器屋の店主に「1900」のことを語っていくという回想形式の物語である。
本作は巨匠エンニオ・モリコーネが手掛ける音楽を主人公がピアノで演奏する場面が数多く登場する。主人公の「1900」を演じたティム・ロスも実際には演奏こそしていないが、その演奏シーンを演じるために6か月間に渡ってピアノのトレーニングを積んでいる。特に本作の中盤に描かれる「1900」の評判を知った男とのピアノの決闘シーンは大きな見せ場になっている。
日本やアメリカで公開されたバージョンは上映時間125分である。イタリアで公開された上映時間170分のオリジナル版は日本でソフト化されていなかったが、2020年に日本でオリジナル版が初公開されたことを契機にソフト化された。
『海の上のピアニスト』のあらすじ・ストーリー
終戦後に楽器屋で発見された1枚のレコード
第二次世界大戦も終わった頃、トランペット吹きのマックス・トゥーニーは仕事で使っていたトランペットを楽器屋に売りに来ていた。マックスは楽器屋の店主に「もう一度だけトランペットを吹かせてくれ」と言ってトランペットを吹き始める。その店主はマックスの吹く曲と同じ曲がピアノで録音されたレコードを持ち出してプレイヤーにかける。その店主が豪華客船ヴァージニアン号から引き取ったピアノに隠されていた、割れたレコードを繋ぎ合わせていたのだ。そのレコードを聞いたマックスは「このレコードは世界に1枚しかない」と話すと、店主はそのピアニストについて興味を示す。マックスはそのピアニストの話を始めた。
「1900」の誕生
時代は遡って1900年。アメリカとヨーロッパを定期運航する豪華客船ヴァージニアン号で機関士をやっているダニー・ブートマンは、客が降りた船内で置き去りにされた赤ん坊を見つける。ダニーと同じく機関士をやっているメキシコ人の男に名前を聞かれたダニーはその赤ん坊に当時の西暦である「1900」と名付ける。孤児院に送られるのは可哀そうだと考えたダニーは「1900」を船内で大切に育て続けるのだった。
ダニーの死と「1900」のピアノの才能
「1900」が8歳になった時、ダニーは船内の機関士としての仕事中、機材が頭部を直撃する事故により死んでしまう。ひとりぼっちになった「1900」は、船内のダンスホールで軽快なメロディに合わせて大人たちが踊っている様子を見ていた。ダンスホールでパーティが終わった深夜、「1900」は誰から教わることもなくピアノの演奏を始めると、そのメロディに呼び寄せられるように乗客らがピアノの周りに集まって来る。その演奏を聞いた女性が感動して涙を流していたほどの才能だった。
マックスと「1900」の出会い
1927年。映画の冒頭、楽器屋にトランペットを売りに来ていたマックスは、この年、ヴァージニアン号内でトランペット吹きの仕事を得ていた。マックスは船酔いしていると「1900」に声をかけられ、ダンスホールにあるピアノの席の横に座らされる。彼の演奏に魅せられたマックスはすっかり船酔いも醒めることになる。そこから仲良くなった2人は、他にも雇われていたバンドメンバーとともに船内のダンスホールで演奏する日々を送っていた。「1900」のピアノ演奏はたちまち船内で人気となり、乗客は「1900」の演奏を聞くために彼のピアノを取り囲むこともあった。ある日の晩、イタリアからアメリカへ移民する1人の農夫が「1900」の演奏する曲につられて彼のピアノのところへやって来る。その農夫はたった1人生き残った娘のために、生き方を変えるべくアメリカに行くのだと移民の理由を明かすのだった。
ピアノの決闘
ヴァージニアン号内での「1900」の評判はアメリカ内にも広まり、ジャズを発明したと言われる男ジェリー・ロール・モートンが「1900」にピアノの決闘を挑みに船へ乗り込んでくる。多くの乗客が見守る中、ピアノの決闘は両者が交互に演奏する形で行われる。まずはジェリーがピアノを演奏し、乗客から大きな拍手を得る。何を演奏しようか迷った「1900」は自分の曲ではない「きよしこの夜」を演奏する。再びジェリーがピアノを演奏すると再び観客から大きな拍手を得る。「1900」は先程ジェリーが演奏した曲と同じ曲をそっくりそのまま演奏すると、乗客からブーイングを浴びてしまう。そして最後のターンでもジェリーは演奏後に大きな拍手を得る。後がなくなった「1900」は今まで披露してこなかったテンポの速い曲を熱心に演奏する。演奏を終えると、圧倒された会場内は沈黙に包まれるが、1人が拍手を始めると続けて他の乗客らも割れんばかりの拍手を送り、ピアノによる決闘は「1900」に軍配が上がるのだった。
レコードの録音とある少女との出会い
ヨーロッパからアメリカに向かうヴァージニアン号に、「1900」の人気を知ったレコード会社が「1900」の演奏する曲を録音するために船内にやって来る。「1900」はピアノを演奏していると、窓の外にいる乗客の少女に一目惚れする。その少女を想って演奏した「1900」は、その曲が録音されたレコードを「僕の音楽だ」と言って持ち去る。「1900」は雨が降る甲板で、その少女が1人になるタイミングを見計らい、レコードをプレゼントしようと近づくがあと一歩踏み出す勇気を持てずにいた。ついにヴァージニアン号がニューヨークに到着すると、彼女は船を降りようとしていた。「1900」は彼女に声をかけることはできたが、人混みの中彼女に追いつくことができなくなりレコードは結局渡すことができなかった。ただ、彼女からは「いつか訪ねてきて」と住所を教えてもらう。その後、悲しみに暮れる「1900」は彼女に渡せなかったレコードを割ってゴミ箱に捨ててしまう。
船を降りる決意
ヴァージニアン号の中で生活してきた「1900」だったが、住所を教えてくれた少女に会いに行くために船を降りる決意をする。マックスや船長らが見守る中、「1900」はタラップを降りていたが、ふと立ち止まって船に引き返してきてしまう。「1900」は船に引き返した理由を周囲に語ることなく、しばらくするとまた今まで通りの生活に戻っていった。しかし、時が経つと第二次世界大戦も近づき、親友のマックスはヴァージニアン号での仕事に終止符を打つことになり、「1900」とマックスも疎遠になってしまう。
ヴァージニアン号の爆破
時は現在に戻る。楽器屋の店主からヴァージニアン号が爆破によって取り壊されることを知ったマックスは、港長に無理を言って爆破前のヴァージニアン号に乗り込み「1900」を探す。「1900」を発見したマックスは、「一緒に船から降りよう」と説得を試みる。そこで「1900」はかつて船から降りようとしてまた船に引き返した理由をマックスに語り始める。「1900」が降り立とうとしたニューヨークは彼にとってあまりにも大きすぎた。彼がいつも弾いている鍵盤の数は88と限りがあるが、その大きな町ニューヨークには家も通りも数に限りがなく、どれを選んでいいか分からない。この船を降りることはできない。人生を降りるほかないと語る。「1900」が船から降りられない理由を聞いたマックスは涙を流し、「1900」と抱擁を交わした後、1人ヴァージニアン号を降りる。「1900」が乗ったままのヴァージニアン号が爆破された後、マックスは楽器屋に戻ってきた。「1900」の演奏を高く評価していたマックスは割れたレコードをピアノに隠したのは自分だと店主に話す。マックスが店を去ろうとすると店主は呼び止める。親友も仕事もなくした悲しみに暮れるマックスに店主は笑顔で「良い話を聞くことができた」と言って彼の唯一の商売道具であるトランペットを返す。店から出たマックスを店主は見送った。
『海の上のピアニスト』の登場人物・キャラクター
「1900(ナインティ・ハンドレッド)」(演:ティム・ロス)
日本語吹替:三木眞一郎(VHS・DVD版)、日野聡(Blu-ray版)、宮本充(テレビ東京版)
本作の主人公。赤ん坊の頃、豪華客船ヴァージニアン号内に置き去りにされていたところをダニー・ブートマンに発見される。彼によって、自分の名前の「ダニー・ブートマン」、置き去りにされていた箱に書いてあった「T・D・レモン」、当時の西暦の「1900」を合わせた「ダニー・ブートマン・T・D・レモン・1900(ナインティ・ハンドレッド)」と名付けられるが、周囲からは「1900」と呼ばれている。ダニー・ブートマンに船内で育てられていたが、8歳の頃に育ての親ダニー・ブートマンを事故で亡くしている。以降は船内のダンスホールに置かれたピアノを弾くことで才能を発揮し、船内で人気者になる。親友になったトランペット吹きのマックスから度々船を降りるように言われるが、船内で生活を続けている。ある日乗客の少女に一目惚れし、彼女を追って船を降りようとしたことが一度あったが思いとどまっている。第二次世界大戦後に、老朽化したヴァージニアン号の爆破が決まり、マックスが船を降りるように説得するも船は降りられないとして爆破の瞬間も船内にいた。
マックス・トゥーニー(演:プルイット・テイラー・ヴィンス)
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目次 - Contents
- 『海の上のピアニスト』の概要
- 『海の上のピアニスト』のあらすじ・ストーリー
- 終戦後に楽器屋で発見された1枚のレコード
- 「1900」の誕生
- ダニーの死と「1900」のピアノの才能
- マックスと「1900」の出会い
- ピアノの決闘
- レコードの録音とある少女との出会い
- 船を降りる決意
- ヴァージニアン号の爆破
- 『海の上のピアニスト』の登場人物・キャラクター
- 「1900(ナインティ・ハンドレッド)」(演:ティム・ロス)
- マックス・トゥーニー(演:プルイット・テイラー・ヴィンス)
- ダニー・ブートマン(演:ビル・ナン)
- 少女(演:メラニー・ティエリー)
- ジェリー・ロール・モートン(演:クラレンス・ウィリアムズ三世)
- 楽器屋の店主(演:ピーター・ヴォーン)
- 港長(演:ニール・オブライエン)
- 機械工(演:アルベルト・ヴァスケス)
- 農夫(演:ガブリエレ・ラヴィア)
- 『海の上のピアニスト』の用語
- ヴァージニアン号
- 割れたレコード
- ピアノ
- 『海の上のピアニスト』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 1900「陸から見たいんだ」
- マックス「何かいい物語があって語る相手がいる限り、人生捨てたもんじゃない」
- 1900「ピアノは無限ではない。弾く人間が無限なのだ」
- 『海の上のピアニスト』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 決闘を挑む男はピアニストのジェリー・ロール・モートンがモデル
- 実在した船のヴァージニアン号
- 『海の上のピアニスト』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:ロジャー・ウォーターズ『ロスト・ボーイズ・コーリング』
- 挿入歌:『Playing Love』