ふしぎ遊戯(玄武開伝)のネタバレ解説・考察まとめ

『ふしぎ遊戯 玄武開伝』とは、渡瀬悠宇による漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品で、前作『ふしぎ遊戯』で語られた玄武の巫女と七星士の活躍を紡ぐ物語である。大正時代の女学生・奥田多喜子は、嫌っていた父が訳した書物・四神天地書に吸い込まれる。本の中に広がる異世界で玄武の巫女となった多喜子は、巫女を守る七星士と共に玄武の召喚を目指す。玄武を祀りながら巫女と七星士を不吉と見なす北甲国皇帝一族、北甲国を狙う倶東国の軍勢との戦いの中、多喜子は巫女としての使命に目覚めていく。

『ふしぎ遊戯 玄武開伝』の概要

『ふしぎ遊戯 玄武開伝』とは、渡瀬悠宇による少女漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品。ノベル化やアニメ化され、完結してからも人気を誇る名作『ふしぎ遊戯』の前日譚で、前作で存在が語られた玄武の巫女や玄武七星士の物語が描かれている、朱雀と青龍を巡る前作(『朱雀・青龍編』と呼ばれることもある)に対し、『玄武編』との異名を持つ。
玄武、朱雀、青龍と白虎は四神思想と呼ばれる実際の伝承において、東西南北を守護する霊獣とされる。作中では北の玄武、東の青龍、西の白虎、南の朱雀が四つの大国で祀られており、異界から現れる娘・巫女により呼び出され願いを叶える力を与える。四神思想の他、黄道(地上から見た太陽の通り道)付近にある28の星座から吉凶などを占う二十八宿思想も取り入れられている。巫女を守る七星士は二十八宿と同じ字を体のどこかに持ち、巫女と共に神獣を召喚するのが役目である。

大正時代の女学生・奥田多喜子(おくだ たきこ)は、嫌っていた父の訳した経典・四神天地書に吸い込まれる。本の中で、玄武を呼び出す巫女となった多喜子だが、玄武を祀りながら巫女とそれを守る七星士を不吉の前兆と見なす北甲国(ほっかんこく)の皇帝一族、並びに北甲国を狙う倶東国(くとうこく)の巫女と七星士討伐隊に狙われることとなる。
初めは「誰かに必要とされたい」との気持ちで巫女になった多喜子だが、次第に虐げられる人々の為、北甲国の平和の為に玄武を呼び出す気持ちが芽生えていく。女宿(うるき)を始めとする七星士もまた、自身の過去や宿命と向き合い、多喜子を守り戦う。氷河期到来の予兆、倶東国軍の侵攻など、北甲国にはかつてない危機が迫っていた。
報われない恋や、母から伝染した結核など、多喜子自身の運命との戦いも描かれる。壮大なファンタジーだが、女宿と多喜子の恋の行方も本作の見どころである。

前作において、多喜子は「現実世界に帰還した後、父・永之介(えいのすけ)に殺され、父はその後を追って自害した」と記録が残されていた。多喜子の死が決まっていたことから、全編を通してギャグは少なめにされている。また、前作では巫女や七星士は救世主のような扱いであったが、『玄武開伝』ではそれまで神獣の巫女、七星士が現れたことはなく、「国の滅亡の危機に現れる」との予言内容により不吉の象徴と見なされ迫害を受ける描写も存在する。尚、本の内部は現実世界と時間の流れが違っており、四神天地書で数か月を過ごしても現実世界では数時間しか経過していない場合もある。『ふしぎ遊戯』の時代は、四神天地書の中では『玄武開伝』よりも200年後ということになっている。
また『ふしぎ遊戯』で神座宝の守護者として登場した玄武七星士の虚宿(とみて)と斗宿(ひきつ)が前作と同じキャラクターデザインで登場し、長年のファンは歓喜した。

2003年から2013年まで発表されたが、掲載誌は『少女コミック増刊』(2003年4月15日号ー2004年)、『渡瀬悠宇パーフェクトワールドふしぎ遊戯』(2004年ー2008年)、『凛花』(2010年10号ー2012年16号)、『増刊flowers』(2012年冬号ー2013年春号)と変遷している。全40話、フラワーコミックス全12巻。
2009年公式ファンブックである『ふしぎ遊戯 玄武開伝9.5 公式ファンブック~星ノ螺旋~』が発売された。

ゲーム、ドラマCDとしてメディアミックス展開がされている。

『ふしぎ遊戯 玄武開伝』のあらすじ・ストーリー

神話の始まり

1923年(大正12年)、女学校に通う奥田多喜子は、肺病を患い療養している母・美江とともに、岩手県盛岡で過ごしていた。

ある日、取材のため長いこと支那(現在の中国)へ渡っていた父・永之助が帰国。しかし支那で取材していた古い文献の翻訳に取り組むため、家族に見向きもせず、自室にこもってしまう。
多喜子は仕事一筋で余命わずかな母をも放ったらかしにしている父を恨んでおり、父を責めるが、永之助はそれでも一心不乱に翻訳に取り組んでいた。

しかし、とうとう母がなくなってしまい取り乱す多喜子。母の葬儀に参列してくれていた、父の後輩・大杉高雄に「ずっと慕っていた」と想いを伝えるが、大杉は妻子がいるため多喜子の想いには答えられず。多喜子は傷つきながらも悟られないよう気丈に振る舞っていた。

母の通夜の準備のため、永之助を呼びにいった多喜子だったが、いまだに書物に執心している父の姿を見て激昂。出来上がったばかりの「四神天地書」を取り上げ破こうとすると、突然本から眩い光が溢れ、多喜子は身につけていたリボンだけを残し、姿を消してしまった。

気がつくと、多喜子の目の前には雪景色が広がっていた。ここはどこなのか、戸惑いながらも雪山を歩いていると、大きな柱に鎖で縛られている少女に出会う。
多喜子はその少女に話しかけてみる。すると突如妖獣が出現した。学校でも薙刀が得意な多喜子は、咄嗟に木の棒を拾って応戦を試みるも勝てる見込みがない。妖獣に襲われかけたその瞬間、目の前にいた少女が風の力を使って一瞬で妖獣を退治し、そのまま高熱で倒れてしまう。

少女をおぶって歩いていると、謎の童子が現れ、多喜子に向かって「玄武の巫女」と告げ、街の方角を指さした。

その頃現実世界では、永之助が四神天地書を拾い上げ読んでいた。しかし、自分が翻訳し書いたものと内容が変わっていることに気づき、多喜子が本の中へ吸い込まれ、玄武の巫女になっていることを知る。

玄武七星士との出会い

街に到着した多喜子は、少女を介抱しているうちにその少女が男になるのを目撃する。男にも女にも慣れる特異体質だったのだ。そして女の姿の時は胸元に「女」という字が書かれていた。

翌朝、助けた少女から
・ここは北甲国である
・自分が四神天地書に吸い込まれた「玄武の巫女」である
・玄武の巫女とは国が滅びようとした時に異世界から現れ、玄武七星士と共に神獣・玄武を召喚し、あらゆる願いを叶え国を救う存在である
と教わる。

少女も動けるようになったため、宿を出ようする多喜子であったが、部屋を出た途端突然男に襲われる。
なんと助けた少女が「風斬鬼リムド」という賞金首で、これまでに千人もの人を殺めたお尋ね者だということを知る。

なんとか宿から脱出した多喜子とリムドだったが、今度は警吏に囲まれ捕まりそうになる。多喜子がリムドを庇い警吏の前に立ちはだかったその瞬間、多喜子の体から銀色の光が発せられ刑吏たちの目を眩ませる。

その間にリムドは助けに来た従者・ソルエンと共に脱出。多喜子は最初に襲ってきた男・チャムカに捕らえられてしまう。
脱出に成功したリムドはソルエンから多喜子が伝説の玄武の巫女だった場合、リムドは玄武七星士の女宿(うるき)として星の運命へと導くはずだと告げるが、リムドはそれを拒否、敵国である倶東国に忍びこみ、偶然倶東国皇太子・玻慧(はけい)に見出され、傭兵として雇われることになる。

一方、チャムカに捕らえられた多喜子は、リムドの仲間であると思われ拘束されていたが、チャムカを探しにきたチャムカの母・ボラーテによって救出され、チャムカたちが住む村まで案内される。ボラーテの話で、チャムカは玄武七星士・虚宿(とみて)であり、貧しさゆえ賞金首であるリムドを追っていたことを知る。
村人たちから玄武の巫女として歓迎された多喜子だったが、ある日倶東国軍からの襲撃に合い、軍の中にリムドがいることに気付き驚く。
多喜子を守るため、倶東国の矢を受けたボラーテを見たチャムカは、怒りから七星士の力を使ってリムドに攻撃するも、リムドは自身の七星士の力を使って反撃。互いに玄武七星士であることを知ったリムドとチャムカだったが、リムドはそのまま風のように逃げ去ってしまう。

現実世界では母を失い、父と大杉から拒絶され、居場所がないと思っていた多喜子。この世界では自分を必要としてくれる人がいるとしり、北甲国の人々を守るべく玄武の巫女になることを決める。
すると突然リムドが多喜子の前に現れ、「玄武の巫女になると七星士共々殺されるからやめておけ」と忠告してくるが、多喜子の意思は固い。翌朝から七星士・虚宿とともに残りの七星士たちを探す旅に出た。

七星士探しの始まりと悲しい現実

虚宿とともに七星士を探し始めた多喜子だったが、七星士に関する情報が何もなく、また虚宿から「玄武の巫女と七星士は忌み嫌われている」と聞かされる。
なぜなら巫女は「国が滅びようとした時に異世界から現れる」ので、「不吉の象徴」である巫女などいて欲しくないというのが国民の心情だったのだ。

情報収集のため街に立ち寄ると、1件の民家で火事が起こっていた。その家の中に逃げ遅れた少女がいた為、虚宿の氷の力を使って火事を鎮火・少女を救出したが、そのことで多喜子たちが玄武の巫女と玄武七星士であることがバレてしまい、宿にすらも宿泊できなくなってしまう。

途方に暮れる多喜子たちであったが、助けた少女の家族が匿ってくれ、武器職人でもある少女の祖父に薙刀を作ってもらう。

その夜、突如虚宿の前に現れたリムドは、「敵が巫女と七星士を殺しにくる」と忠告し、そのまま多喜子を連れ逃げ出す。そしてその道中でリムドが実父に命を狙われており、その父を殺そうとしていることを多喜子に告げるのであった。

一方、虚宿は倶東国軍の紫義(しぎ)と緋鉛(ひえん)から襲撃にあっていた。虚宿を助け出すため、多喜子は戻るが、紫義に捕まってしまい絶体絶命の窮地に陥る。多喜子の後を追ってきたリムドは女の姿で風の力を使い多喜子を救出する。しかしリムドの父から送られた使者によって矢で攻撃を受け、その隙を狙って攻撃してきた緋鉛からリムドを助けようとした多喜子は、体から銀の光を発し敵を追い払うのであった。

新たな七星士との出会い

多喜子と虚宿は街の人から近くの山に七星士・室宿(はつい)がいると情報を得て探しに向かう。
山の中にあった古い寺を見つけた多喜子と虚宿は、そこに住んでいたフェンの世話になり、紫義に命じられたリムドもその寺へと来ていた。
夜、フェンの罠にかかり地下へと落とされた多喜子は、助けに来たリムドと共に地下にいた室宿に出会う。
室宿は過去に七星士の力を制御できず、誤って人を死なせてしまったことに傷つき、人間不信から鉄籠に閉じこもっておりフェンに匿ってもらっていたが、多喜子に救われ仲間となる。

そして逃亡するフェンをリムドは追いかけるが、リムドを射った黒服の男によってフェンは殺されてしまう。

黒服の男と対峙したリムドであったが、男は七星士の能力を奪う力を持っており、リムドから奪った風の力を使って攻撃してくる。間一髪のところでソルエンに助けられ、無事逃げることに成功する。
そしてソルエンからリムドの過去を知らされるのであった。

倶東国以外の敵とリムドの過去

何度となく襲撃を受けているリムドたち。その襲撃を命令していたのがリムドの実父・テムダンであった。
テムダンは北甲国の現帝・テギルの兄であり、リムドが生まれた時に告げられた「玄武の巫女が四神天地ノ書を開く時、貴方の息子が必ずや貴方を殺す」という予言を実現させないため、リムドの命を狙っていたのである。リムドは北甲国の皇子だったのだ。

休息も束の間、多喜子たちはリムドの父の私兵に襲撃される。七星士達のおかげで敵を倒すことはできたが、自分がいることで多喜子たちを危険な目に合わせると思ったリムドは多喜子の説得も聞かず倶東国の陣営に戻ってしまう。

リムドが去った後、残る七星士たちの居場所を知るため、多喜子たちは偉布礼(いふれい)にいる巫大師(みこたいし)の元へと向かい、さらに転節の石原にいる巫尊師(みこそんし)・アンルウに会いに行くようにと告げられ、その晩は巫大師のもとに泊まっていくよう言われる。

その言葉に従い、地下にある部屋で休んでいた多喜子たち。しかし多喜子たちが休息している間に紫義たちが訪れ、巫大師は斬られてしまう。
瀕死状態の巫大師は急いで駆けつけたリムドに、多喜子はまだここにいること、転節の石原にはリムドも一緒に行かねばならないことを告げ、息を引き取った。

玄武召喚

様々な試練を乗り越えていく多喜子(左)と女宿(右)。

多喜子は女宿たちにこのままでは北甲国が永遠に氷に閉ざされることを話す。七星士たちも躊躇いはあったが多喜子の希望通りに玄武召喚の準備に入る。市街への侵攻を始めた倶東国軍は、フィルカが率いる星護族が食い止めることとなった。
結核の症状、儀式を行う玄武廟への落雷、討伐隊の侵攻により儀式は手間取った。遂には虚宿が紫義により致命傷を負ってしまうが、多喜子は七星士が欠ける前に召喚に必要な詔(みことのり)を唱え、玄武の召喚に成功した。玄武は、命を賭して召喚を成し遂げた多喜子を気高い娘と評し、彼女に願いを叶える力を与える。

第一の願い「北甲国に春を取り戻す」で太陽が現れた。同時に、多喜子の体が玄武に食われ始める。痛みと戦いながら、多喜子は第二の願い「この国にいる命ある者全ての回復」を発動させる。同時に、星命石がすべて石から生命の水へと還元する。星命石から生まれた精霊である壁宿も多喜子に礼を言い、七星士としての形と自我を失って生命の水へと還った。生命の水は国中に雨となって降り注ぎ、敵味方関係なく負傷者の傷を癒した。

ずっと現実世界から多喜子の物語を負っていた永之介の声が、苦しむ多喜子に届いた。互いに流れる血の繋がりが多喜子と永之介を繋いでおり、絆を一時的に強めるべく血を流す為に自らの手を刺した永之介の姿が女宿らにも見えた。こんなことに巻き込んでしまったことを詫び、永之介は娘を玄武に食わせまいと自らの心臓を刺す。その傷が多喜子にも共鳴し、多喜子もまた心臓を貫かれる痛みを感じた。それでも多喜子は、こんな素晴らしい人生を与えてくれた父に感謝し、女宿に北甲国の未来を託して女宿の腕の中で息を引き取った。

北甲国中の民が多喜子にひれ伏し、倶東国兵士でさえ頭を垂れた。兵士たちが戦意を失い、倶東国皇帝が崩御したとの知らせが入る。玻慧は撤退を命じて帰還したが、紫義は納得しきれず北甲国民全てを殺す勢いで向かっていき、刺したはずの緋鉛により殺された。緋鉛は相打ちで死亡した。

現実世界では、奥田親子が原因不明の死を遂げた。大杉は永之介の遺書を受け取り、四神天地書を管理していくことを決める。

ひと月の後、星命帝(せいめいてい)として即位した女宿、暤巴帝(こうはてい)として即位した玻慧は和平調停を結んだ。生き残った七星士の室宿、牛宿、危宿は皇帝となった女宿の補佐をしていくこととなる。
かつて自分が縛られていた、多喜子と出会った黒黎神山に夢で呼ばれた女宿は、太一君、並びに虚宿、斗宿の霊と再会する。戦も終わらぬうちに世を去った二人は最後まで巫女を見届けられなかったことを悔い、玄武召喚の際多喜子が身に着けていた首飾りを守ると言ってきた。
多喜子の強い意志が宿った首飾りは神座宝と呼ばれる依り代となり、いずれ現れる白虎、青龍、朱雀の巫女の為に奉納してほしいと太一君に言われた。多喜子の形見として持っていた女宿だが、多喜子もそれを望むだろうと自ら首飾りを二人に託した。虚宿の母や斗宿の妹・アイラ、二人の出身である一族の安泰を引き受け、一日でも長生きして良き皇帝となることを誓う。「そうでなければ、多喜子に合わせる顔がない」女宿はそう言って、春を取り戻した北甲国を治めていく。

時が経ち、玄武の巫女の話は伝説となっていった。玄武七星士・女宿と恋仲となり、自分の為の願いは一つも言わずに北甲国に春と平和をもたらした。三つ目の願いは叶えられず力尽きて亡くなった巫女の代わりに、多くの民が玄武へ祈りを捧げた。
北甲国が春を取り戻して100年目、生涯妻を娶らず、フィルカの曽孫を後継ぎに据え、女宿は惜しまれて世を去った。
北甲国の民が玄武に祈った最後の願いとは、玄武の巫女と女宿が再び出会い、離れないことだった。冥府と思しき場所で、多喜子は女宿と再会し、玄武の巫女の物語は幕を閉じる。

『ふしぎ遊戯 玄武開伝』の登場人物・キャラクター

玄武の巫女・玄武七星士

奥田多喜子(おくだ たきこ)

CV:雪野五月

『玄武開伝』の主人公にして、玄武の巫女。大正時代の高等女学校に通う女子学生である。薙刀が得意で気が強く、女学校では他の生徒のイヤミにも屈しない。頑固な一面もあり、父の永之介(えいのすけ)には「仕事にかまけて家庭をないがしろにしている」「息子を望んでおり、自分を愛していない」との認識を抱いていた。強く快活な一方、他者への思いやりと優しさを持つ。父の著書のファンで10年来の友人である大杉高雄(おおすぎ たかお)に想いを寄せる少女らしい面もある。
母の美江(よしえ)が結核で亡くなり、10年前から慕っていた大杉に「そばにいてほしい」と言うも拒絶をされ父からは「お前が息子であったなら」と言われ自分は必要のない人間だと感じる。
帰国後は妻の看病をせずにひたすら本(四神天地書)を書き続け、妻の死後も本に執着するような父の言動に反発し、完成した天地書を破こうとしたが、その瞬間に天地書の中へ吸い込まれ、女宿(うるき)と接触する。

四神天地書の名を口にした為、女宿から「お前は玄武の巫女か」と聞かれ、玄武が今いる国・北甲国の守護神であること、玄武の巫女とは国が滅びる時に異界から現れ国を救う存在であることを聞く。一方で、巫女や七星士は「国の危機に訪れる」為、災いの前兆でもあった。その為、七星士を見つけても特殊な能力故に傷つき仲間入りすら拒否されることが多かった。その度に七星士たちの立場に立って考え、説得をして徐々に仲間を増やしていく。
七星士だけではなく、遊郭に売られた娘たちや、皇族の安全の為虐げられ見捨てられた民たちを結果的に救い、彼らからの信頼も得ることとなる。その中で、女宿が「父王を殺す」との予言により実の父・テムダン王に命を狙われていること、女宿討伐の命令を受け動くハーガスが最後の七星士・危宿(うるみや)であることが発覚する。ハーガスは、証の字を双子の兄のテグと分け合っていた。
巫女や七星士を待ちわびる星護(オド)族の少女・フィルカに案内されて悪しき心を持つ者が入れぬ聖地・ナサルの森に一時匿われる。討伐隊がハーガスをともなって現れるが、討伐隊は森へは入れず睨み合いとなった。

そんな矢先、「巫女は神獣に食われる生け贄」だと太一君(たいいつくん)に聞かされた女宿から「元の世界へ帰れ」と言われ、自分が必要ない存在だと感じて現実世界へと帰った。母の診察の為に東京から来ていた及川(おいかわ)医師の求婚を受け、現実世界で生きていくことにする。それでも自分の心が女宿にあり、四神天地書の中の仲間たちのことも忘れられないことに気付き、及川に謝罪をして四神天地書へと入る。北甲国に氷河期や戦が近づいていること、願いを叶え終わった巫女が神獣に食われることを父から聞き、その上で多喜子は「死にに行くわけじゃありません」と言った。

七星士と再会し、病のことは皆に隠しながらテグとハーガスを仲間にすること、テムダン王と話し合うことを提案する。王の説得を自ら引き受け、元宮女であった牛宿(いなみ)の案内で宮廷に入る。テギル皇帝の娘・フィルカの助けもあって、心労から眠ったままのアユラ妃(女宿の母)、そしてテムダン王に会う。
テムダン王は、彼を慕う一派による内乱の中で弟のテギルを殺して帝位を奪ったが、暗殺や帝位の奪取は私利私欲からではなかった。地質や気候を調べた結果、北甲国が近いうちに永久凍土と化すことを察知したテムダン王は、せめて民だけでも助ける為に国宝である星命石と引き換えに民を倶東国に移住させようとしていたのだった。

既に北甲国を第二の故郷と感じていた多喜子は、「自分が玄武を呼んでこの国に春を取り戻す」と言う。血を吐くほどの病に苛まれながら、なおも強い瞳で自らの意思を語る多喜子に、テムダン王は心を動かされる。その場に現れた女宿は父を殺さないと決めるが、テムダン王はテギルの忠臣による小剣で命を落とした。多喜子による「息子に殺される予言は嘘」との言葉を聞きながら息子に対する警戒を解かなかったテムダン王だが、ようやく息子と和解し、女宿に帝位を譲り国の未来を託した。ハーガスは死亡したが、元よりテムダン王と同じ病にかかっていた自分が死ぬことで証を兄に分け与え、最後の七星士・危宿として覚醒させるつもりであった。多喜子は、危宿から玄武召喚の要である四神天地之書(北甲国皇帝一族に伝わる経典)を受け取る。
皇帝となった女宿は軍隊を倶東国兵士との戦いではなく、民の護衛に当たらせ、宮殿に豊富に蓄えられていた食糧や薬を民に分け与えた。多喜子は七星士、目を覚ましたアユラ妃の後押しもあり、形式だけ女宿との結婚式を挙げ、永遠の愛を誓う。

倶東国軍が侵攻を始めるが、七星士たちは多喜子に玄武を呼ばせず、自分たちだけで倶東国を退けようとした。女宿は玻慧の陣に赴き撤退を勧めるが、遂に北甲国に氷河期の予兆である天変地異が起き始める。
天変地異を「北甲国が泣いている」と感じた多喜子は、玄武の召喚に入る。倶東国兵士の侵攻、虚宿(とみて)の負傷、多喜子自身の結核の症状による召喚呪文詠唱への支障こそあったが、フィルカが率いる星護族の助けや女宿の支えにより、玄武の召喚に成功する。

多喜子は玄武に食われると知りながらも、北甲国を救いたいとの気持ちから喜んで命を差し出し、願いを叶える力を手に入れる。第一の願いで北甲国に春を取り戻し、玄武に食い荒らされながらも第二の願いで北甲国にいるもの全ての生命を回復させた。

現実世界でずっと多喜子の動向を見ていた永之介は、自らの手を刺して血を流すことで娘との交信を試みる(四神天地書の内外にいる人物は、特定の物質を媒体として繋がることができる)。すれ違いこそあったものの親子の絆で同じ血を流す永之介と多喜子は、ようやく声が通じ合った。「父さんが助けてやる」と言い、永之介は自らの心臓を刺す。娘の心臓にも同じ傷が伝わり、多喜子もまた死亡する。死の寸前、多喜子は自分の運命に満足していること、こんな素晴らしい人生を与えてくれた父に感謝していることを伝え、女宿や皆に礼を言った。

多喜子は自分の為の願いはひとつも言わず、七星士の女宿と恋仲でありながら結ばれなかった巫女、北甲国を救った巫女として語り継がれ、北甲国の民の願いにより女宿の死後、冥府で再会した。

女宿(うるき) / 李武土琅輝(リムド=ロウン)

CV:櫻井孝宏(男性時) / 長沢美樹(女性時) / 瀧本富士子(少年時代)

七星士名:女宿
年齢:16歳
誕生日:1月28日
身長:175㎝(女性時は165㎝)
血液型:O型
字:「女」の字で胸の中央(鎖骨の下)

多喜子が初めて出会った玄武七星士。女宿は七星士としての名前で、リムド=ロウンが本名である。字が出ている時は体が女性化する。
北甲国の皇子だが、父テムダン王により命を狙われ、母アユラの命を受けた忠臣タウルと、その息子ソルエンと共に赤子の頃から逃亡生活を送ってきた。皇族としての誇りを教えられながら、タウルを実の父のように慕っていた。そのタウルが目の前で討たれたことで七星士としての力が覚醒する。実の父親により命を狙われていること、その原因が「父王を殺す」との予言にあることをソルエンに教えられた。その後は風を操る能力故に「風斬鬼リムド」として恐れられるようになる。
皇子としてより、城に押し入った賞金首として知られる。黒黎神山(こくれいしんさん)という山で処刑されたと見せかけて密かに脱出し、追手を減らしてソルエンと合流して倶東国に身を隠す予定だったが、本の内部に降り立ったばかりの多喜子の前で体調を崩し救われる。

当初はその出自故に多喜子らと同行するのは拒否し、倶東国皇太子の玻慧の下へと向かい、タキの偽名で玄武の巫女討伐隊の一人として召し抱えられる。討伐隊隊長の紫義らと行動を共にするが、結局多喜子への想いから巫女一向に合流する。
多喜子が倶東国軍に捕らえられた際、共に捕まったソルエンが倶東国兵士を少しでも多く倒すべく自爆を決行した。女宿は、ソルエンの死で深い喪失感と自責の念を抱えた状態の中、多喜子らと共に巫女と七星士を待ちわびていた星護族(オドぞく)に保護され、聖地と言われるナサルの森に匿われる。皇族に七星士として生まれたせいで、自分を守る為にソルエンが死んだと苦悩するが、同じく母という大切な存在を失くした多喜子に抱きしめられ、星還りの儀(一種の葬儀)でソルエンを送り出し、ようやく彼と別れる決心がついた。
ナサルの森で太一君から「神獣を呼び出し、願いを叶えた巫女が神獣の生け贄となる」と聞き、多喜子の生存を願う気持ちから彼女を元の世界に戻した。ところが、多喜子は天地書の記述を読んだ父から北甲国がこの先永久凍土と化すことを聞き、結核の症状が出始めた身で自ら本の中へと戻ってきた。

多喜子を玄武に食わせまいとその身を案じる女宿だったが、巫女の運命を知った上で「北甲国を救いたい」「そんな簡単に食われたりはしない」との多喜子の言葉や覚悟を知り、彼女を守り抜く決意を固める。

テグ、ハーガスを仲間にするだけではなく、テムダン王とも話し合いをすべきだとの多喜子の提案に驚きつつ、自ら王の下へと向かうと言う多喜子を七星士として信じ、牛宿、斗宿、壁宿(なまめ)に護衛や案内を任せた。残った室宿、虚宿と共にテグを探した際、一瞬力を使ったことでテグが反応をする。テグの気を感じ取り、彼が幽閉されている場所を突き止めたが、玄武を呼ぶのは最後の手段とし、まずはテグ、ハーガスの両名を仲間にすることを考え、宮殿の地下迷宮内部を室宿、虚宿と共に探る。

テグの居場所へと向かう際ハーガスと会敵し、多喜子の命が長くないことを聞かされショックを受ける。それでも多喜子の為に七星士を集めようと地下迷宮の底に降り立ちテグと出会う。ハーガスとテグが再会し、分けられていた字がハーガスの死で一つとなって最後の七星士・危宿が誕生するところを見届ける。
ハーガスが死を覚悟して戦ってきたことを知り、多喜子の覚悟を改めて思いやる。皇帝だった弟を殺し帝位を奪ったテムダン王のもとに現れ、ソルエンの形見の剣を抜くが、テムダンを殺すことはしなかった。命の重みを知った女宿は、「もう誰の命も失わせない、下らぬ予言は自分が断ち切る」とテムダンに宣言し、その場にいた多喜子を迎える。
テムダンは深手を負ったテギルの忠臣に刺され、死の間際息子に皇帝の証を渡す。女宿は死んだと言われていたテムダンの妃・母のアユラとの再会も果たした。

国の運命を多喜子と共に託され皇帝となった女宿は、畏まる兵士たちに倶東国との戦況を聞き、国宝の星命石よりも人民を守る為に戦うと口にした。多喜子に玄武を召喚させるつもりはなく、自分たちだけで倶東国兵士を止めようとしていた。
他の七星士の計らいで、形式だけだが多喜子との結婚式を挙げる。アユラからも背中を押され、「俺の妻は、生涯お前だけだ」と誓う。
倶東国軍兵士は七星士だけで抑えることもできたが、北甲国に氷河期の前兆である天変地異が起き始める。人知を超えた力を持つ七星士でも天災はどうすることもできず、多喜子は玄武の召喚を決意する。その覚悟を汲み取った女宿は、多喜子や他の七星士と共に玄武廟へ向かい玄武召喚の儀式を始めた。
倶東国兵士による侵攻から多喜子だけでも守ろうと戦い、結核の症状で血を吐きながら詔を唱える多喜子を支える。女宿は多喜子の最期を看取り、玄武の力で春を取り戻した国土、玄武の巫女に感謝する人々を見渡し、多喜子にその様子を伝えるように語りかけた。

戦の終結後、星命帝(せいめいてい)の名で正式に即位し、倶東国の帝位に就いた玻慧との間に平和条約を結ぶ。名君と謳われ、誓い通り生涯妃を娶らず、いとこのフィルカの曽孫に帝位を譲ると100年の天寿を全うした。
「自分の為に願いを使わず北甲国に平和をもたらした巫女と、恋仲だった七星士」として北甲国の民に語り継がれ、叶えられていない三つ目の願いが民たちにより願われて冥府で多喜子と再会した。

えどまち
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@edono78

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