セッション(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
2014年、撮影当時28歳で全く無名だったデイミアン・チャゼル監督初の長編映画。サンダンス映画祭 W受賞を皮切りに驚異の記録で賞レースを席巻。名門音大に入学したドラマー(マイルズ・テラー)と伝説の鬼教師(J・K・シモンズ)、究極の師弟関係を狂演VS怪演で演じきり、狂気のレッスンの果ての衝撃のセッションは、誰も観たことのないクライマックスへと展開する。映画史上に残るラスト9分19秒は圧巻。
『セッション』のあらすじ・ストーリー
アメリカで最高の音楽学校、シェイファー音楽学校でジャズ・ドラムを学ぶアンドリュー・ニーマン。
偉大なドラマーになることに憧れ、日々練習に打ち込んでいる。
そんな折、ニーマンが練習している教室に、指揮者として当校の中でもハイレベルなバンドを受け持つテレンス・フレッチャーがやってくる。
フレッチャーは、ニーマンの演奏を少し聴くと、自分のバンドが新しいドラム奏者を募集している事を告げ練習室から去った。
そのことにニーマンは少なからず期待を膨らませていたのだが、数日後の練習中に今度は、明朝6時にフレッチャーのスタジオに来いと言われたのである。
気分を良くしたニーマンは映画館でアルバイトをしている女学生、ニコルに会い、デートの申し込みをするとこれもOK。ますます有頂天になるニーマン。
しかし翌日、練習初日にもかかわらずニーマンは学院の寮で寝坊してしまいスタジオに駆け込んだのだが、廊下の貼紙には練習は9時からと書かれていた。
やがてバンドメンバーがやってきて、9時前には全員が揃い楽器のチューニングも済み、時間きっかりにフレッチャーがスタジオに入ると緊張が走った。
フレッチャーによる指導は厳しく、開始早々怒声を浴びせられ、泣きながら退場させられるバンドメンバーを目にして度肝を抜かれるニーマン。
休憩時間、そんなニーマンをなだめるようにフレッチャーはニーマンにやさしく語り掛けると、次の時間はドラムを叩くように言うのだった。
新人のニーマンのために、テンポの遅めの演奏が開始されるが、テンポがずれているという理由で椅子を投げつけられ、さらには、バンドメンバーの目の前で屈辱的な言葉を浴びせられながら頬を叩かれる。あまりの厳しさに涙を流すニーマンに、フレッチャーはもっと練習しろと言うだけだった。
理不尽な暴力を受けながらも、フレッチャーを見返そうと今までに無いほど個人練習に打ち込むニーマンの手はマメだらけ。文字通り血の滲むような特訓を繰り返す。
やがて人材発掘を目的としたジャズコンテストがやって来た。フレッチャーのスタジオバンドは当然優勝を狙う。フレッチャーはメンバーに楽譜は絶対に離すなときつく言っていたのだが、ドラム主奏者のタナーの楽譜を預っていたニーマンは、ロビーの椅子に置いた楽譜から目を放した隙に紛失してしまう。タナーは楽譜を暗譜をしていなかったため、ニーマンが記憶を便りにジャズの名曲「Whiplash」を演奏することとなる。バンドは優勝、フレッチャーはニーマンを主奏者に格上げする。
ある時、ニーマンのテンポが悪いと、フレッチャーは初等教室でニーマンと一緒に学んでいたドラマー、コノリーを新たにバンドに加え誉め称える。演奏技術が自分より劣るのは明らかなのに、彼を誉めることに納得出来ず、ニーマンは思わずフレッチャーに食って掛かってしまうのであった。
とにかく利用できる全ての時間を練習に費やそうと考えたニーマンは、デートを重ねていたニコルの存在がドラム奏者への道を阻み、デートも時間の無駄だ、と彼女と別れてしまう。
フレッチャーの指導はさらにエスカレート。来る重要なコンペティションのため、新しい曲「 Caravan 」の指導を始めるが、タナー、コノリー、ニーマンのドラマー3名に極端に早いテンポでのドラム演奏を要求する。演奏は数時間にも及び、スティックを持つ手からは血が流れ落ちる。そしてついにニーマンただ一人がこれを最後まで演奏、フレッチャーは最終的にニーマンの腕前を認めざるを得なくなる。
コンペティション当日、会場へは余裕を持ってくるよう指示されていたが、ニーマンの乗ったバスは運悪く途中でパンク。乗り継ぐバスもタクシーもない。仕方なくレンタカーを借り遅れながらも何とかバックステージにたどり着くのだが、案の定フレッチャーから罵声を浴び、おまけに肝心のスティック一式をレンタカーの店に置いてきた事に気が付くと、「ステージの時間に間に合わせる!」と言って急いで取りに戻る事になる。だが時間に焦るあまり、もう少しで着くところでトラックと衝突、車は横転し、自身も血まみれになるほどの大怪我を負ってしまう。執念で開演直前に会場に辿り着きそのままステージに上がるニーマン。しかし、右手はほとんど使えず、ついにはスティックを落としてしまう。演奏を止めると、冷酷に「お前は終わりだ」と宣言するフレッチャー。この言葉に激昂したニーマンはフレッチャーに殴りかかり、会場から退去させられるのだった。
この騒動を受けて、ニーマンはシェイファー音楽学校を退学。ニーマンと父親は、かつてフレッチャーの教え子で事故で亡くなったとされるショーン・ケイシーの代理人を務める弁護士と会う。
そこで、ショーン・ケイシーは実は首吊り自殺で、フレッチャーの生徒になってからうつ病を患っていたことを知らされる。弁護士は、ケイシーの両親はフレッチャーを直接訴えることは出来ないが、ニーマンが協力すればフレッチャーを辞めさせる事はできると持ちかける。フレッチャーを辞めさせることで、二度と彼の体罰に遭う生徒が現れないようにできるのだ、と。ニーマンは、自身のドラムへの情熱が消えてしまったことで自暴自棄になり、フレッチャーから受けた体罰について匿名で証言、フレッチャーは音楽学校を辞めさせられる。
数か月後の夏、どこか満ち足りない毎日を送っていたニーマンは、あるジャズクラブでフレッチャーがピアノ奏者でゲスト出演している看板を見つける。
演奏を聴くだけのつもりが呼び止められ、酒を飲みながら二人は話をする。「学院は指導を理解していない、自分は努力はしたが音楽家を育てる事は出来なかった」と、初めてかつての自分の振舞いを弁明するフレッチャー。
さらに、今度のジャズフェスティバルで指揮を執るのだが、現在のバンドのドラマーが十分ではない。曲目は音楽学校時代のレパートリーと同様だ。と、ニーマンに代役を務めることを持ちかける。
プロのバンドでドラム演奏が出来ること、初めて見せるフレッチャーの率直さに、ニーマンはドラムへの情熱を取り戻し、これを受けることにするのだった。
フェスティバル当日、スカウトマン達が集まる公演でフレッチャーはニーマンに今日の演目は「 Whiplash」だと告げた。
だが、ステージに上がり「密告したのはお前だな」と、ニーマンに囁くと、始まったのは楽譜も持っていない全く知らない曲 「Upswingin'」。
ニーマンは即興で叩くしかなく、無能と罵られてしまう。愕然とし一度はステージを去るニーマンだったが、何かを決心したように再びステージ上がると、フレッチャーの曲紹介を遮るように突如ドラムを叩き始め、曲は「 Caravan 」だからと合図をし、他のバンドマンが演奏させざるを得ない状況を作り出す。
凄まじいドラムの独奏をするニーマンに対して、従わざるを得ないようになると忌々しそうに指揮を始めるフレッチャー。
ニーマンのパフォーマンスは延々と続き、やがて二人の視線がぶつかり合った時、ついにエンディングを迎える。
主な登場人物・キャラクター
アンドリュー・ニーマン (演:マイルズ・テラー)
この映画の主人公。
夢はジャズ界のレジェンド”バディ・リッチ”のような偉大なジャズ・ドラマー。
夢を叶えるため、全米屈指の音楽の名門校シェイファー音楽学校でドラムの練習に日々打ち込んでいる学生である。
高校教師の父といつも映画館で映画を観ては話をする時間を持ち、その映画館でアルバイトをしている女学生のニコルに恋焦がれ、デートを重ねる。
学校ではハイレベルなバンドの指揮者、フレッチャーの指導を受け始めると、全ての時間を練習に費やし、時間の無駄になるという理由からニコルとは別れてしまう。
だが、次第にフレッチャーの容赦のない指導がエスカレートし、ついには屈辱を受けたことで、自身のドラムへの情熱が消え、学校を退学する。
その後、カフェの店員として働き始めていた矢先に、偶然フレッチャーと再会、自分が指揮するバンドでドラムを叩かないかと誘われ受けることにする。
テレンス・フレッチャー(演: J・K・シモンズ)
シェイファー音楽学校の中でも最高のバンドを受け持っているジャズの指揮者。
自分のバンドが新しいドラム奏者を募集している事から、練習していたニーマンに声を掛ける。
バンドのセッションに関しては、度を越した指導を容赦なく行う徹底した完璧主義者。
かつての教え子でトランぺッターのショーン・ケイシーという生徒が実は鬱病を患っており、やがて首吊り自殺をしたことが発覚し、学校を去る。
ニコル (演:メリッサ・ブノワ)
ニーマンが良く行く映画館の売店でアルバイトをしている大学生。
ニーマンとの初デートは、ジャズの流れるピザ屋で、自分は大学でまだ専攻も決めず、ホームシックに掛かっていると話す。
その後、必死にドラムの練習に打ち込むニーマンに、自分が彼の夢の邪魔をすると言われ、「あなたは何様なの!」と怒って破局になる。
ジム・ニーマン (演:ポール・ライザー)
アンドリューの父親。
高校で教師をしているが、本業は物書き。
息子とよく映画館に映画を観に行く。
息子がプロのドラム奏者になることにはあまり理解を示していない。
監督:デイミアン・チャゼル
デイミアン・セイヤー・チャゼル
映画監督・脚本家
1985年アメリカ・ロードアイランド州プロビデンスに生まれる。
父は計算機科学者で大学教授、母は作家。
幼いころから映画を作ることを夢見ていたが、高校ではジャズ・ドラムに打ち込む。だが音楽の才能に見切りをつけ、大学から再び映画製作の道を歩みだす。
2009年にジャズミュージカル映画『Guy and Madeline on a Park Bench』で脚本・監督デビュー。
『セッション』の製作案はプロデューサーたちの関心を引き、その資金集めのために同作のコンセプトを基にした短編映画を制作する。
第29回サンダンス映画祭に出品し、フィクション短編部門の最優秀賞を獲得。
そして2014年に、オリジナルの長編映画『セッション』を製作し、非常に高い評価を得ることになる。
高校当時、厳しい指導者にいつも怒鳴られるのではないかとビクビクしていて「早い、遅い、速度が違う!」という指導者の罵倒が、高校生活を通して最も頻繁に耳にした言葉なのだという。テレンス・フレッチャーというキャラクターにはその経験が反映されているのだそう。
この映画についてチャゼルは「生徒をより高い領域へと追い込むのが教師の務めなら、どこまでやれば十分なのか?誰かを偉大にするにはどうすればいいのか?といった、音楽を別の角度から捉えた映画を作りたいと思った。これは、音楽の苦悩と恐怖を描いた映画だ。」と説明している。
原題「Whiplash」について
本作の原題でもあり劇中で何度も演奏される「Whiplash(ウィップラッシュ)」。
楽曲「Whiplash」は1973年にアメリカン・ジャズの作曲家、ハンク・レヴィが作曲。
1927年生まれ(2001年没)のハンク・レヴィは「変拍子の神様」と言われたトランペッター「ドン・エリス(フレンチ・コネクションの音楽を担当)」のビッグバンドのコンポーザーとして数多くの作品を残している。「Whiplash」もその中の一曲であり、曲の中で目まぐるしくリズムの変わる曲作りを好むことで有名だった。
「Whiplash」の意味は“鞭で打つこと”。
ドラムに打ち込むあまりに首にかかる鞭打ち症のことでもあり、この映画で象徴される、スティックさばきの“鞭を打つ”ようなしなやかさと共に、過酷なしごきをイメージさせるタイトルとなっている。
ドラム演奏シーン秘話
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