
『時計じかけのオレンジ』とはアンソニー・バージェスによる小説、およびそれを原作としたイギリスとアメリカのSF映画である。映画が公開されたのは1971年。監督を務めるのはスタンリー・キューブリック。少年アレックス・デラージは仲間と共に無差別暴力行為に明け暮れていた。しかし仲間に裏切られ彼だけが逮捕される。人格矯正治療を受けることになったアレックス。欲望のままに生きていくことと、選ぶ権利の無い統制された社会の間で板挟みとなった少年の姿が描かれている。
真人間
人の道を外れない正しい生き方をしている真面目な人を指す。
『時計じかけのオレンジ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
牧師「善は心より発するもの。善は選択され得る。選ぶことのできぬ者は人間とは言えない。」

出典: x.com
逮捕されてから2年が経ち、ルドヴィコ療法の被験者に志願したいと牧師に話した際、彼は「善は心より発するもの。善は選択され得る。選ぶことのできぬ者は人間とは言えない。」とアレックスに言い聞かせた。治療が成功すれば早く出所することが可能になるため、その後も急ぐアレックスに対し牧師は耐え忍ぶよう促す。結果、ルドヴィコ療法によって真人間となったアレックスだが、それは暴力に対する拒絶反応から機械的に拒否するようになっていただけだと牧師は考えている。この善を暴力をしないこととして捉えるのなら、アレックスが暴力を振るわなくなったのは彼の意志からくるものではなく、機械的に振るえないことを受け入れているだけにすぎない。これでは更生とは言えないと牧師は指摘していた。
牧師「非行は防げても道徳的選択の能力を奪われた生き物に過ぎない。」

出典: ameblo.jp
ルドヴィコ療法の成功が認められ、それを見守っていた周囲の政府関係者が喜ぶ中、牧師は「非行は防げても道徳的選択の能力を奪われた生き物に過ぎない。」と言って反論する。彼はこの実験に終始否定的であった。強制的にアレックスの非行は防げても、彼は真人間に更生するために必要な善行を自分で選んでいく過程を経験してはいない。その過程で得るものが更生するために最も重要なことであり、後のアレックスを構成するものとなると牧師は考えていた。実験による苦痛しか知らずに更生が認められたとなれば、そこにはアレックスの人間性を認めるものは含まれていなかった。
アレックス・デラージ「完璧に治ったね。」
着飾った多くの人に見守られながら、女性と性行為をするアレックスの妄想で映画は幕を閉じる。行為の最中に、彼の独白として「完璧に治ったね。」と聞こえてくる。彼はかつての暴力性や野心を取り戻していた。治らなければアレックスは誤った更生をされたまま生きることとなり、完治したのならまた過去に起きた非行を繰り返す存在となる。そこには政府の徹底した監視のつくことが予想されるが、これを喜ぶべきか、そうではないのかを判断しかねる巧妙なラストであった。
『時計じかけのオレンジ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
マルコム・マクダウェルがたまたま歌ったために使用された「雨に唄えば」
アレックスが「雨に唄えば」を口ずさみながらフランクの見ている前で、アレクサンダーに暴行するシーンがある。その時に歌われた「雨に唄えば」は、あらかじめ決められていた曲を歌っているのではなく、マクダウェルが歌詞を半分ほど覚えていたために偶然歌った曲であったという。また1953年に公開された『雨に唄えば』の映画で監督、主演を務めたジーン・ケリーにマクダウェルは会う機会があった。しかしケリーはさっさと背中を向けて去ってしまう。ケリーは自身の映画の楽曲が、問題作と言われている『時計じかけのオレンジ』で使用されていたことを不快に感じていたようだ。
角膜が傷つきながらも映画を良くするためシーンの撮影に臨んだマルコム・マクダウェル

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ルドヴィコ療法を受ける際、アレックスは目を閉じられないようにリドロックのクリップで、瞼を開いた状態のまま固定している。撮影時、このリドロックがしょっちゅうずれて外れかけたためにマクダウェルの角膜は傷ついていたという。最初キューブリックからリドロックをつけられた患者の写真を見せられ「これをやってほしいんだ。」と言われた時には「そんなこと絶対無理だよ。」と答えていたマクダウェルであった。
『if もしも‥‥』のマルコム・マクダウェルの演技を気に入り彼を主演に決めたスタンリー・キューブリック
マクダウェルが本作の主演に抜擢されたのは、彼のデビュー作、リンゼイ・アンダーソン監督の『if もしも‥‥』(1968年)に出演していたことが要因となっていた。キューブリックの妻の話によると、彼は自宅で映画技師と『if もしも‥‥』のマクダウェルが出ているシーンを5回繰り返して観ていたという。そうして「僕たちのアレックスを見つけたよ。」と言い、マクダウェルはオーディションではなく、キューブリックと会って話をしただけで『時計じかけのオレンジ』への出演が決定した。
『時計じかけのオレンジ』の主題歌・挿入歌
主題歌:ジーン・ケリー「雨に唄えば」
「雨に唄えば」の初公開時期は定かではない。1952年にジーン・ケリーが同名のミュージカル映画『雨に唄えば』で披露した同タイトルの楽曲が使用されているシーンは、映画史に残る名場面となっている。本作ではアレックスが作中に歌うだけでなく、エンディングにも使用されている。
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目次 - Contents
- 『時計じかけのオレンジ』の概要
- 『時計じかけのオレンジ』のあらすじ・ストーリー
- ドグール率いる少年アレックスの犯した数々の非行
- アレックスの人格を変えたルドヴィコ療法
- 撒いた種を刈り取り元の人間性を取り戻したアレックス
- 『時計じかけのオレンジ』の登場人物・キャラクター
- “ドルーグ”のメンバー
- アレックス・デラージ(演:マルコム・マクダウェル)
- ディム(演:ウォーレン・クラーク)
- ジョージー(演:ジェームズ・マーカス)
- ピート(演:マイケル・ターン)
- “ドルーグ”から暴行を受けた被害者
- 乞食の老人(演:ポール・ファレル)
- ミスター・フランク(演:パトリック・マギー)
- ミセス・アレクサンダー(演:エイドリアン・コリ)
- キャットレディ(演:ミリアム・カーリン)
- 政府関係者
- フレデリック(演:アンソニー・シャープ)
- バーンズ(演:マイケル・ベイツ)
- 牧師(演:ゴッドフリー・クイグリー)
- 女医(演:マッジ・ライアン)
- 精神科医(演:ポーリーン・テイラー)
- トム(演:スティーヴン・バーコフ)
- その他
- デルトイド(演:オーブリー・モリス)
- ダッド(演:フィリップ・ストーン)
- ママ(演:シーラ・レイナー)
- ジョー(演:クライブ・フランシス)
- ビリー・ボーイ(演:リチャード・コンノート)
- 『時計じかけのオレンジ』の用語
- 第九交響曲
- ルドヴィコ療法
- 真人間
- 『時計じかけのオレンジ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 牧師「善は心より発するもの。善は選択され得る。選ぶことのできぬ者は人間とは言えない。」
- 牧師「非行は防げても道徳的選択の能力を奪われた生き物に過ぎない。」
- アレックス・デラージ「完璧に治ったね。」
- 『時計じかけのオレンジ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- マルコム・マクダウェルがたまたま歌ったために使用された「雨に唄えば」
- 角膜が傷つきながらも映画を良くするためシーンの撮影に臨んだマルコム・マクダウェル
- 『if もしも‥‥』のマルコム・マクダウェルの演技を気に入り彼を主演に決めたスタンリー・キューブリック
- 『時計じかけのオレンジ』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:ジーン・ケリー「雨に唄えば」