時計じかけのオレンジ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『時計じかけのオレンジ』とはアンソニー・バージェスによる小説、およびそれを原作としたイギリスとアメリカのSF映画である。映画が公開されたのは1971年。監督を務めるのはスタンリー・キューブリック。少年アレックス・デラージは仲間と共に無差別暴力行為に明け暮れていた。しかし仲間に裏切られ彼だけが逮捕される。人格矯正治療を受けることになったアレックス。欲望のままに生きていくことと、選ぶ権利の無い統制された社会の間で板挟みとなった少年の姿が描かれている。

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『時計じかけのオレンジ』の概要

『時計じかけのオレンジ』とはイギリスの作家アンソニー・バージェスが書いたディストピア小説、およびそれを原作としたイギリスとアメリカのSF映画である。イギリスで1971年、アメリカと日本では1972年に公開されている。日本での公開日は1972年4月29日。監督をスタンリー・キューブリックが務めた。作中には、ロシア語の影響を強く受けた人為的な言語のナッドサット言葉が使用されている。近未来が描かれたSF作品であるが、人間にとっての普遍的なテーマが主題となっている。欲望のままに暴力やセックスに明け暮れることと、国の利害と一致するよう個人の自由が管理、統制されている政治体制の間で苦悩する様を描いた風刺作品。

15歳の少年アレックス・デラージは3人の仲間と共に暴力や強盗、レイプなどの無差別暴力行為"ウルトラヴァイオレンス"に明け暮れていた。しかしそれは突然終わりを迎える。仲間の裏切りによりアレックス1人が逮捕されたのだ。刑務所で内務大臣と対面したアレックス。そこで刑期を短くできると噂されていたある実験への参加を志願する。それは政府が開発した「ルドヴィコ療法」という人格を強制的に真人間へと更生する治療であった。アレックスはこの実験に成功するものの、それは真の更生ではなく機械的にアレックスの衝動を封じ、暴力に対して無防備になるだけの洗脳状態となる結果をもたらす。暴力に対して生理的な拒絶反応を示すようになっていたのだ。本作は自由意志の問題と、国による個人の管理や矯正の倫理性を説く作品である。自由意志を奪われた人間の皮肉がアレックスを通して描かれている。

『時計じかけのオレンジ』のあらすじ・ストーリー

ドグール率いる少年アレックスの犯した数々の非行

近未来のロンドン。15歳の少年アレックス・デラージは仲間と共に要望を思いのままに解放する日々を過ごしていた。アレックスは4人組グループ“ドルーグ”を率いるリーダーであり、今夜も無差別暴力行為“ウルトラヴァイオレンス”を遂行していく。ホームレスから女性、夫婦など無差別に暴力を振るう非行をドグールは繰り返していた。

ある日一行は助けを求めるふりをして、作家夫婦のミスター・フランクとミセス・アレクサンダーの家に押し入る。4人は仮面を被りアレックスは「雨に唄えば」を愉快そうに歌いながら家の中を荒らしていった。暴走行為は止まらずフランクの目の前でアレクサンダーを輪姦。アレックスは恵まれた家庭環境で育ちながらもその歪んだ性格は直ることがない。暴力だけでなく彼は学校にも行っておらず、担任の教師のデルトイドから散々注意を受けていた。またアレックスは仲間にも容赦がない。アレックス以外はグループを新体制に変えたがっていた。そこで揉め事が起こり、アレックスは暴力で抑えつけ言いなりにさせようとする。しかし仲間に対しても好き放題にしていたアレックスを最悪の事態が襲う。仲間のディム、ジョージー、ピートが結託し、3人でアレックスをはめたのだ。突然の裏切りによりアレックスだけが警察に逮捕されることとなった。

アレックスの人格を変えたルドヴィコ療法

アレックスは実刑判決が下され刑務所に収監される。そうして2年が経ったある日、内務大臣のフレデリックが刑務所を訪れた。アレックスは実験的人格矯正プログラム「ルドヴィコ療法」の被験者を探していたフレデリックと対面することになる。そしてフレデリックはアレックスの人間性が実験に相応しいと判断し、アレックスを被験者に抜擢した。治療を受けるためルドヴィコ医療センターに移されたアレックス。薬を投与された状態で椅子に縛られ実験が開始。目は瞬きを封じるため強制的に開かせたまま目薬が点眼され、アレックスは残虐な映像を見続けていく。鑑賞する映像は肉体的な暴力や性行為に対し、激しい吐き気を促すような作用を生み出した。それは薬からくる吐き気と目に映る残虐な行為がアレックスの中で繋がることによって起きる仕組みになっている。やがて彼は暴力に対して身体的に抵抗できない人間へとなっていった。

治療後アレックスは真人間として釈放された。しかしそれは彼の意思ではなく、機械的に暴力を拒絶するだけの状態であると牧師は指摘。それでも結果は成功とみなされ出所が認められる。彼は真っ先に家に帰ったが、そこにはアレックスと同年代のジョーが居候していた。ジョーと両親は親子のような関係を築いており、アレックスの居場所は無かった。すぐさま家を飛び出したアレックスの元に小銭を恵んでくれとホームレスが近づいてくる。しかしその老人が以前危害を加えたホームレスであることに互いが気付く。ホームレスたちに襲われても、アレックスは無抵抗を選んだ。その後騒ぎに気付いた警官2人が間に入る。助かったと思ったのも束の間、2人はなんとディムとジョージー。2人からの暴力もアレックスは耐え忍ぶだけであり、実験による更生がアレックスから自由意志を奪っていた。

撒いた種を刈り取り元の人間性を取り戻したアレックス

痛ぶられたアレックスは、無一文で宿を探す。たどり着いた場所はかつて襲った作家夫婦の家であった。ボロボロのアレックスをフランクは自宅に受け入れる。彼はアレックスらの暴行による負傷から車椅子の生活を余儀なくされていた。それだけでなく妻の姿が見当たらない。アレクサンダーは肺炎で亡くなっていたが、彼女の死因をフランクはかつての輪姦が原因と思い込んでいたのだ。フランクは新聞でアレックスがルドヴィコ療法の被験者であることを把握しており、アレックスを利用して政権への怒りを晴らそうと画策する。しかしそれはアレックスの正体を知る前のこと。疲れ切っていたアレックスは風呂に入っていた時に「雨に唄えば」を歌ってしまう。それがフランクの耳に入ったことで、彼はアレックスの正体に気付き復讐心を燃え上がらせていた。室内に違和感を覚えるアレックス。薬物の入れられたワインを飲ませられながら、彼はベートーヴェンの「第九」を聴くと死にたくなると漏らし、そのまま意識を失う。目が覚めると高い位置の部屋に監禁され、大音量の「第九」を聴かせられ続けた。アレックスは耐えきれずに窓から身を投げる。重傷を負ったものの意識を取り戻したことでフランクの計画は失敗に終わった。

意識の戻ったアレックスは病院の一室にいた。治療の効果は薄れ、再びかつての欲望が湧き上がってきているところをフレデリックが面会に訪れた。治療が原因で起きた自殺未遂によって落ちた政府の支持率回復に力を貸してほしいとフレデリックは話す。快諾したアレックスはフレデリックと交友関係を結び、かつての笑みを浮かべながらセックスシーンを思い浮かべるのであった。

『時計じかけのオレンジ』の登場人物・キャラクター

“ドルーグ”のメンバー

アレックス・デラージ(演:マルコム・マクダウェル)

出典: asa10.eiga.com

少年4人組グループ“ドルーグ”のリーダー。非常に暴力的な人間性を持ちながら、クラシック音楽を好む一面を見せる。中でもベートーヴェンを愛している。無差別な暴力を楽しみ、学校にも行かずに次々と非行を尽くしていく。そのようにして過去に襲った人々から、後になって報いを受ける因果がアレックスを待っていた。

ディム(演:ウォーレン・クラーク)

手前の男性。

少年4人組グループ“ドルーグ”の1人。アレックスを良く思っていないようだが、アレックスに負けない強さで発言することができない。ジョージーと仲が良く、後に2人は警察官となりその時に再会したアレックスに暴行を加える。

ジョージー(演:ジェームズ・マーカス)

出典: cinemore.jp

アレックスの右側背後に立つ男性。

少年4人組グループ“ドルーグ”の1人。ディムの反発から始まり、ジョージーはグループが新体制になることを望んでいる旨をアレックスに伝える。ディムと仲が良く、2人は一緒に警察官となった。

ピート(演:マイケル・ターン)

出典: ameblo.jp

一番左にいる男性。

少年4人組グループ“ドルーグ”の1人。主張の激しい人物ではなかったが彼もディム、ジョージーと共にアレックスを裏切る。他の3人と比較すると控えめな印象であった。

“ドルーグ”から暴行を受けた被害者

ニシモトレン
ニシモトレン
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