マネーの拳(三田紀房)のネタバレ解説・考察まとめ

『マネーの拳』とは2005年から2009年にかけ『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で連載された三田紀房による漫画である。元ボクシング世界フェザー級王者の主人公が引退後、会社を興すもののそれを手放し、新たに会社を立上げ、様々な障壁を乗り越え、やがて東証一部上場を果たすというサクセスストーリーである。東証一部上場に昇り詰めるまでの過程での主人公や従業員の仲間達、ライバル、その他の利害関係者らの描写はリアリティを感じさせ生き生きとしており、経営に関する名言やヒントが満載の作品である。

第11巻90話に登場する。
ケンは、一ツ橋物産から出向中の高野に「いかにも信用できなさそうなヤツをもう2~3人引っ張って来れないか」と指示を出す。それに対し高野はケンにその真意を聞く。するとケンは「だいたい経営者ってのは社員なんて誰一人信用しちゃいない。信じるのは自分だけ。」と言い切る。その上でケンは自社を狡猾な狼の集団にしたいという。ここで信用できそうな社員が会社を腐らせるという信念を持つケンが言い放つ言葉が「社長から信用されていない。これを誇りに思わなきゃダメだ。」である。信用されていない社員というのは実は会社を活性化させる社員であるという逆説が高野を鼓舞する。

花岡健「俺は誰も信用しない。そのかわり責任は取る!」

第12巻100話に登場する。
井川や高野をはじめ、T-BOX社には次々と新しい仲間が加わる。自分たちの立場が危うくなると考え始めた大林は独立を考えるようになる。ここで大林が思いついた独立方法がマネジメントバイアウト、のれん分けのような独立の仕方であった。大林は意を決してケンにこのことを切り出す。これに対しケンは「俺は絶対子会社など作らない」と答えその理由を「信用しないからだ」という。更に「俺は元々誰も信用していない」とし、信用と言う言葉はそれを隠れ蓑に自分には責任がないという言い逃れの準備をする言葉だとする。その上でケンは「俺は誰も信用しない。そのかわり責任は取る!」と言い切る。子会社としての独立は大きなチャレンジのリスクが取れていないとし「どうしても独立したければ一人でやれ。金はやる。」と大林を完膚なきまで叩きのめす。こう言い切るのはケン自身がそうしてここまで来たからである。そのようなケンだからこそ言いきれる言葉である。

『マネーの拳』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ストーリーの一部は作者の原体験

『マネーの拳』は作者の原体験が反映されている。
作者は大学卒業後一度は就職するものの実家の洋品店の経営悪化に伴い会社を退職し、実家に戻り兄と共に家業に専念するという経歴の持ち主である。『マネーの拳』この時の経験が色濃く反映されている。

ケンの成長ぶりを物語る居酒屋シーン

作中に出てくる居酒屋でケンの悪口や動向などが噂されるシーンはそれだけケンが注目されていることを物語っている。またその居酒屋等で語られる噂の内容は悪口から評価、時にはケンと従業員との関係など、明らかにケンの成長ぶりを反映するものになっている。居酒屋のシーンは主人公の成長を窺わせる作者の演出が施されている。

作者が漫画家になった理由はお金

作者の三田紀房が漫画家を目指したきっかけは「お金の必要性に迫られたから」である。
作者は大学卒業後、西武百貨店に入社するも、父親の体調不良がきっかけで実家に戻り、兄と共に家業の衣料洋品店を手伝い始める。その時点で店は大赤字で銀行の利息分まで滞らせる程であった。「おカネが必要」と常々考え念じ続けた矢先、偶然手に取ったマンガ誌で新人賞募集の広告が目に飛び込む。大賞は賞金100万円であったという。その後、ちばてつや賞に応募し見事新人賞に入選、50万円を獲得したという経緯がある。更に原稿の掲載料として16万円も振り込まれ、「漫画家っていい商売だなあ」と心底感じたという。作者の現在の漫画家としての活躍は、現在とは全く畑違いでの金策に端を発していた。

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