屍者の帝国(Project Itoh)のネタバレ解説・考察まとめ

『屍者の帝国』とは、作家・伊藤計劃(いとう けいかく)と円城塔(えんじょう とう)による小説、およびそれを原作とした漫画・アニメ映画である。物語の舞台は、生者が屍者として生き返り、産業や文明を支えるようになった19世紀の世界。屍者の秘密と魂の正体について迫る主人公のジョン・H・ワトソンと、仲間達の旅を描いている。日本のSF文学賞・星雲賞日本長編部門と日本SF大賞特別賞を受賞。第2回SUGOI JAPAN Awardエンタメ小説部門で1位を獲得した。

『屍者の帝国』の概要

『屍者の帝国』とは、小説家・伊藤計劃(いとう けいかく)と円城塔(えんじょう とう)によるSF&スチームパンク小説 、またはそれを原作とした漫画・アニメ映画の事である。2009年に伊藤計劃が冒頭30ページのみを残して癌で亡くなった為、後に彼の盟友であった円城塔が遺族に承諾を得て後を継ぎ完成させた。完成した『屍者の帝国』は、2012年8月に河出書房新社から刊行された。日本国内のSF小説関連の文学賞・星雲賞日本長編部門と日本SF大賞特別賞を受賞。さらに日本国内のサブカルチャーに関する賞・SUGOI JAPAN Awardの第2回にてエンタメ小説部門で1位を獲得している。海外文学のさまざまなネタが詰め込まれた作品ともなっており、洋学が好きな読書家の間ではさまざまな細かい文学ネタが楽しめる1冊としても知られている。
2014年にアニメ映画化が決定。「Project Itoh」の名で、フジテレビのアニメ放送枠であるノイタミナが伊藤計劃の他2作『虐殺器官』と『ハーモニー』とあわせて映画化する事となった。3作共に別々のアニメ制作会社が制作を担当しており、『屍者の帝国』はWIT STUDIOが担当している。監督はWIT STUDIOにて中編アニメーション『ハル』の監督を務めた事がある牧原亮太郎が担当した。キャラクター原案は、アニメ『ギルティクラウン』務めたredjuiceが担当。redjuiceは『虐殺器官』と『ハーモニー』の2作でも、キャラクター原案を担当している。また同時期に、コミカライズ化も決定。映画公開と同時に、漫画雑誌『月刊ドラゴンエイジ』にて連載が開始した。

本作の舞台は、ヴィクター・フランケンシュタイン博士が生み出した屍体蘇生術・屍者技術が普及し、屍者と生者が共存する19世紀の世界。主人公のジョン・H・ワトソンは、イギリスの諜報機関・ウォルシンガム機関のメンバーとして、とある男の動向調査に出向く事になる。その男というのが、屍兵部隊を率いてロシア軍を脱走し、アフガニスタン北方にて「屍者の王国」を築いているとされる元従事司祭のカラマーゾフだ。ワトソンは青年型の屍者・フライデーと、ウォルシンガム機関の一員・フレデリック・ギュスターヴ・バーナビーと共に、カラマーゾフの行方を追ってアフガンの奥地へ向かう事になる。だがそこで彼らを待っていたのは、「新型の屍者」にまつわる恐ろしい事実だった。
なお、映画・漫画版ではあらすじに大幅な改変が行われており、漫画版は映画版の内容に少々のアレンジと情報量の削減を行った内容となっている。ただし、屍者の王国の調査をする展開は小説版同様のあらすじとなっている。

『屍者の帝国』のあらすじ・ストーリー

小説版

プロローグ

ヴィクター・フランケンシュタイン博士による死体の蘇生術・屍者技術(ししゃぎじゅつ)が確立してから、早100年が経った19世紀末。世界では、産業や文明、軍事にと、ありとあらゆる場所で屍者が使われるようになっていた。ロンドン大学に通う医学生のジョン・H・ワトソンは、ある日の講義で死体が「屍者」として蘇る姿を目にする。かねてより指導教官のジャック・セワードに目をかけられていた彼は、その講義の最中、セワードの恩師であるエイブラハム・ヴァン・ヘルシングに気に入られる。ワトソンの優秀さを認めたヘルシングは、セワードと共にワトソンをイギリスの諜報機関・ウォルシンガム機関に迎える事を決める。放課後、ヘルシングとセワードと共にウォルシンガム機関に向かったワトソンは、そこで2人から機関の指揮官である男・Mを紹介される。Mはワトソンに、アフガニスタンで諜報活動を行うように依頼する。それは、ロシア軍にあった大量の屍者の兵・屍兵と共に軍を脱走し、アフガニスタン北方で「屍者の王国」を築いているとされるアレクセイ・フョードロヴィチ・カラマーゾフという男の調査だった。

屍者の王国の調査に向かう主人公・ワトソンと仲間達

ウォルシンガム機関の一員となったワトソンは、三カ月後の準備期間を経た後にウォルシンガム機関から貸し与えられたら旅路の記録用屍者・フライデーと共にアフガニスタンへ向かう。その先で彼は、生者と変わらない俊敏さを持つ新型屍者の存在を知る。屍者の王国と関わりがあると睨んだワトソンは、ウォルシンガム機関の一員であるフレデリック・ギュスターヴ・バーナビーと共に、改めて王国の調査に出る。また屍者の王国は、イギリスとロシアの戦争「グレート・ゲーム」に新たな火種を生み出す危険性があるという事で、イギリスとロシアは一時的に協力体勢を取る事に決める。ワトソン達は、ロシアから派遣されたニコライ・クラソートキンを新たに仲間にいれ、王国があるという場所を目指す。するとその途中、ワトソンは噂の新型屍者の実物と出会う。バーナビーに鹵獲して貰い、解剖して動きの仕組みを探ろうとするも答えを得る事はできなかった。その晩、ワトソンはアメリカの民間軍事会社・ピンカートンの一員であるレット・バトラーと計算者のハダリーに出会う。ハダリーはワトソンに「アダムに気をつけるように」という意味深な忠告をし、バトラーと共に去る。
後日、屍者の王国にたどり着いたワトソンはカラマーゾフと対面する。カラマーゾフは新型屍者は、屍者技術の原典となった情報が記されたヴィクターの手記を基にしている事を明かす。さらに世界最初の屍者のザ・ワンが今も生きている事、彼がヴィクターの手記を持っている事をワトソン達に伝え、ザ・ワンの追跡を彼らに依頼する。そして翌日、手記の存在が確実である事を立証する為、自ら新型屍者となる。屍者となっていたカラマーゾフの状態から、ワトソン達は新型屍者が、無理やり屍者技術に使う疑似霊素を上書きされた生者である事を知る。新型屍者の事実を知ったワトソン達は、カラマーゾフの依頼を受けてザ・ワンを追跡することを決める。

ヴィクターの手記を求めて訪れた日本

カラマーゾフの一件からしばらくして、ワトソン達はヴィクターの手記が日本に流失した事を知る。日本に向かい、手記を所持していた企業・大里化学へ乗り込む。だがそこにあったのは、情報隠蔽の為に殺された化学者達と、ザ・ワンとのやり取りをする為に使用されていた「脳」だった。ザ・ワンは、脳を通じてワトソン達にヴィクターの手記の内容が記載されたパンチカードを渡す。パンチカードは屍者に指定の動作をさせる為のカードで、ワトソン達の中では屍者であるフライデーにしか読み解く事ができないカードだった。
また後日、ワトソン達はハダリー達ピンカートンと再会する。そこで彼らはピンカートンの代表者のユリシーズ・シンプソン・グラントから、屍者を暴走させる事が可能なテロ集団・スペクターの調査の協力を依頼される。ザ・ワンと関わりがあるのではと睨んだワトソン達はグラントに協力するも、そこで彼らは実はスペクターの正体がテロ集団に見せかけたハダリー1人による犯行だった事を知る。共に旅するバトラーが、南北戦争時代に敵であったグラントを恨んでいると考えているハダリーは、彼の為にグラントの暗殺を試みていた。しかしバトラーにはそのような思惑はなく、常に彼女の計画を阻止し続けていた。バトラーいわく、ハダリー自身は彼の行動を承知しているが、その行動の意図は理解できずにいるという。ワトソン達はハダリー達の事をグラントに告げない代わりに、彼女達が知るザ・ワンの情報の開示を求める。そこでアメリカの組織・アララトと、ザ・ワンに関わりがあることを知る。また後日、ワトソンはザ・ワンの技術によって半屍者化した元兵部卿の大村益次郎(おおむら ますじろう)と対面する。ザ・ワンの存在が確かなものであると確証を得たワトソン達は、ザ・ワンの追跡と称してピンカートンと共にアメリカへ向かう事にする。

明かされたザ・ワンの目的

アメリカについたワトソン達は、サンフランシスコにある屍者解析機関・ミリリオン社にて、アメリカの州都・プロヴィデンスから大量の通信が来ている事実を知る。それがザ・ワンからの通信であると睨んだワトソン達は、通信元である教団・星の智慧派の教会に乗り込む。ようやくザ・ワンと対面したワトソン達だったが、そこへウォルシンガム機関の下部組織であるルナ教会が、ザ・ワンとワトソン達を拘束しに現れる。彼らに捕まったワトソン達とザ・ワンは、潜水艦・ノーチラス号でイギリスへ連行されてしまう。
ノーチラス号の中で、ワトソン達はザ・ワンから屍者化の真実を聞かされる。ザ・ワンいわく、人間が魂と呼ぶものが実はある種の菌株のようなもので、屍者化はそれが作用した結果の現象であるという。このままだと菌株が不死化して人類は破滅してしまう可能性があり、ザ・ワンはそれを止める為に屍者達のネクロウェアに関する計算をしている解説機関そのものと対話をしようとしていた。ワトソン達はザ・ワンに助力する為、ノーチラス号を乗っ取り、イギリスの解析機関であるロンドン塔へ向かう。だが解析機関にたどり着いたザ・ワンが行ったのは、解析機関との対話を用いて、かつてヴィクターに創る事を拒否された自らの伴侶の実体化だった。ザ・ワンの力により、「屍者の言葉」を完全に理解させられた解析機関は、全生命の屍者化を始めようとする。そこへ現れたヘルシング教授により、解析機関が使うネットワークが遮断されるものの、独立した存在となっていた解析機関には効果がなかった。そこでワトソンは、かつてカラマーゾフから屍者の言葉だという結晶体を貰っていた事を思い出し、それを屍者を操る力があるハダリーに渡す。ハダリーは自身の力を使い、結晶体をパンチカードに変え、それを解析機関に差し込んで機関を破壊する。解析機関の破壊と共に伴いロンドン塔も崩壊。ザ・ワンは実体化した伴侶と共にその場を去り、行方をくらます。

エピローグ

一連の出来事が終わりを迎えた事で、それぞれの任務や日々に戻ったワトソン達。ワトソンは、ウォルシンガム機関を去る。その後、ハダリーと再会した彼は、彼女にカードとして残っていた屍者の言葉を自分の中に吹き込むように頼む。かつて生者であった事を知らずに解剖してしまった新型屍者への償いとして、自分の意識を屍者の言葉で上書きする事にしたのだ。これにより、今までの旅をしてきたワトソンの意思は彼の中から消える。それからしばらくして、ワトソンは探偵を生業としているMの弟とコンビを組む事になる。一方で、ワトソンとの旅の記録を基に屍者のフライデーが「意思」を手に入れる。フライデーは、かつて自身と旅したワトソンの意思を見つける為、彼が相棒と駆け回っているロンドンの街中へと足を踏み出すのだった。

映画・漫画版

友人との約束を果たすべく屍者技術をめぐる旅に出る主人公・ワトソン

友人・フライデー(右)の遺体を屍者化させるジョン・H・ワトソン(左)

ヴィクター・フランケンシュタイン博士が生み出した屍者技術により、屍者が産業や文明を動かすようになった19世紀末。イギリス・ロンドンの一室でジョン・H・ワトソンは、友人・フライデーとの生前の約束で彼の遺体を屍者化させた。フライデーはかねてより、「魂の正体は言葉にある」といった仮説をたてており、ワトソンはその仮説を立証する為に彼を屍者化させたのだ。独自で作り上げたエンジンを使って友人を屍者化させたワトソンは、生前のフライデーが愛用していた万年筆を彼に渡し、自身の行動を全て言葉で書き記すように命じる。だが個人での屍者技術の利用は法で禁じられている為、そこをイギリスの諜報機関・ウォルシンガム機関に目をつけられてしまう。実際にワトソンの部屋に足を運びフライデーを見たウォルシンガム機関の指揮官・Mは、ワトソンの技術が自分の野望に役立つと判断し、彼とフライデーを機関に迎え入れる。
ウォルシンガム機関の一員となったワトソンは、フライデーと共に「屍者の王国」の追跡を行う事になる。「屍者の王国」は、イギリスが敵対している国・ロシアの軍人であったアレクセイ・フョードロヴィチ・カラマーゾフという男が、軍にいた屍者を率いて脱走した後に作り上げた国の事だった。新たな戦争の火種になりかねないこの男の存在を、イギリス・ロシア共に危険視していた。そこで両国は一時協力し合い、カラマーゾフと王国の追跡を行う。ワトソンは自身と同じウォルシンガム機関の一員であるフレデリック・ギュスターヴ・バーナビー、そしてロシア側から派遣された諜報員のニコライ・クラソートキンと共に調査を開始する。屍者の王国があるというアフガニスタンのカイバル峠へ向かう、ワトソン達。その途中、彼らは英国軍の屍者とカラマーゾフの屍者が戦争をしている場面と遭遇した。ワトソン達は、その争いに乗じて敵の目をかいくぐる形でカイバル峠へ向かう。だがその先で、カラマーゾフ軍の屍者と遭遇。緩慢な動きしかできないはずの屍者が人間のような俊敏さで自分達を襲ってきた為、ワトソンはそのいち屍者技術者としてその技術に関心を抱く。さらにそこへ、一台の馬車が現れる。馬車はアメリカの民間軍事会社・ピンカートンのものだった。馬車に乗っていたピンカートンの女性・ハダリーは火炎放射器を使って辺りにいた屍者達を焼き払う。彼女に救われたワトソン達は、そのまま去っていった彼女に倣うように、自分達の任に戻り王国の追跡を続ける。そうしてたどり着いた屍者の王国では、父殺しの濡れ衣で屍者になった兄と共に暮らしているカラマーゾフがいた。カラマーゾフは、かつてロシアで最初の屍者であるザ・ワンの再現をする為、屍者技術者として研究を行っていた。そこにヴィクターの手記と呼ばれる屍者技術の原典が記載された手記が関わっていると知ったワトソンは、フライデーとの約束にそれが必要だと判断。カラマーゾフにヴィクターの手記を求めるが、アレクセイは「それは禁忌に触れる」として手記の破棄をするように告げる。納得がいかなワトソンだったが、翌朝ヴィクターの手記の研究結果を使ってニコライが屍者化するところをカラマーゾフに見せつけられる。生まれたのは、あの人間のような俊敏さを持つ屍者で、ワトソンはかの屍者達が生者を無理やり屍者化させた者であった事を知る。カラマーゾフは「ヴィクターの手記は今は日本にある」という事をワトソン仲間達に告げると、この技術の愚かさを説く為、自身もニコライのように屍者化してしまう。
ワトソン達はヴィクターの手記を入手する為、日本へと向かう事になる。そこで彼らは、外務省から派遣された軍人・山澤静吾(やまざわ せいご)の力を借りて、手記を所有しているとされる企業・大里化学へ乗り込む。ヴィクターの手記を用いて作られた新型屍者達との戦闘を山澤とバーナビーに任せ、大里化学の奥へたどり着いたワトソンは、そこでヴィクターの手記である屍者用のパンチカードを見つける。ワトソンは、それの解析をフライデーに命じる。するとそれに反応するかのように、大里化学内でホルマリン漬け状態にあった新型屍者が目をさまし、山澤とバーナビーに襲いかかる。ワトソンはそれでもカードの解析を進めるが、そこに書かれている内容を紐解く事はできなかった。だがその時、痛みを感じない屍者であるフライデーが苦しみ始めた為、ワトソンはカードを通して彼に魂が宿ったのではないかと考える。すると、突然研究所が燃え上がる。さらにザ・ワン本人が現れ、ヴィクターの手記をフライデーから奪取し、その場を去ってしまう。迫りくる炎のせいで意識を失ってしまったワトソン、そして戦闘負傷したバーナビーと山澤がザ・ワンに対抗する事はできず、彼らはザ・ワンと手記を取り逃してしまう。

なお上記のあらすじは映画版のものであり、漫画版はヴィクターの手記を手にしたワトソン達を山澤が裏切り、日本政府の為に彼らから手記を奪おうとするシーンが追加されている。だが映画版同様、ザ・ワンが登場しヴィクターの手記を奪った為、それは失敗に終わってしまう。

ザ・ワンの目的とMの企み

ワトソンが目を覚めた時、彼は日本ではなくアメリカの船・リッチモンドの一室にいた。それはピンカートンが使用している船で、そこにはハダリーもいた。ハダリーは「魂」を欲しており、それ故にワトソン達同様にヴィクターの手記を求めていた。彼女に助けられたワトソン達は、しばらく船で療養をする。体調が回復したワトソンは、日本で見たフライデーの姿を信じて彼の中にある魂を求めて処置を始める。だがフライデーは苦しむばかりで、結果は得られない。一方、ザ・ワンの方は世界でも有数の死者達のネクロウェア、ネットワークに通じている解析機関・ポールバニアンを使って屍者達を人間であった事の「理」から解放しようと試みていた。それにより、屍者達は突如として生者を襲うようになる。もちろんフライデーにも影響は及ぶ。鎮静剤で眠らせるものの、船内では他の屍者達が船員を襲い始めており混乱に陥っていた。屍者を操れる特殊な音波を発せられるハダリーは、それを使って屍者達の動きを止める。そして船がサンフランシスコの港に近づいたタイミングを狙って、ワトソンやフライデー、バーナビーを車に乗せて船から脱出した。ハダリーの提案により、彼女のセルフハウスで体制を立て直す事になるワトソン達。だが、屍者によって車が横転してしまう。横転により目を覚ましたフライデーは、生者を襲おうとする。ハダリーは彼を静止しようとするが、その際に怪我を負ってしまう。その傷口から機械が見えた事で、ワトソンは彼女が人造人間である事を知る。ハダリーはワトソンとフライデーをこの場から離す為、彼らを地下水路に押し込む。地下水路の中、ワトソンは未だに暴れているフライデーの中にあるであろう「魂」へ、必死に呼びかける。するとその呼びかけに応えるように、フライデーが持っていた万年筆でワトソンの鼻の頭を叩く。それは生前にフライデーが、もし自らの魂が蘇った時はこのようにする、とワトソンに伝えていた仕草だった。だが、フライデーは再び我を失う。ワトソンは鎮静剤で彼を大人しくさせ、彼を連れてセルフハウスへ向かう。
一方ザ・ワンの方は、Mに所在を見つけられ捕らえられていた。ヴィクターの手記を手に入れたMは、世界から争いを無くす為に人類を屍者化しようと動き出す。それに対抗すべく、ザ・ワンはフライデーを使ってワトソン達に自身がいる場所を告げる。ザ・ワンがMによってロンドン塔にある解析機関・チャールズバベッジへ移送中である事を知ったワトソン達は、Mが何を企んでいると察する。そこで、ハダリーの父であるトーマス・エジソンが改造した潜水艦ノーチラス号を使ってロンドン塔へ急ぐ。
ロンドン塔についたMは、そこでザ・ワンとヴィクターの脳、そしてチャールズバベッジを繋いで、自身の野望を遂げようとする。チャールズバベッジは、Mの指示で特殊な音波を出して屍者達に人間を襲わせる。襲われた人間達は、次々に屍者化。街は屍者だらけになる。ロンドン塔にたどり着いたワトソン達は、Mを止めようと奮闘。落ち着きを取り戻していたフライデーの解析能力を使って、チャールズバベッジの音波を止める。だがMは隙をついて、周囲の屍者を操り動きを止めていたハダリーを銃で撃つ。ハダリーの機能が停止したのを見たワトソンは、Mを銃で撃ち抜く。そこに拘束を破ったザ・ワンがやってきて、Mの持っていた剣で彼にトドメを刺す。さらにザ・ワンは、フライデーを使って気を失ったハダリーの中に自身の嫁の魂を吹き込もうとする。実はこれこそが、ザ・ワンの本当の目的だった。かつてヴィクターに創る事を拒まれた花嫁を実体化させる為に、ザ・ワンは魂のないハダリーと、花嫁の魂を実体化できる解析機関と対話が可能なフライデーを求めていたのだ。しかしその代償として、「屍者の言葉」を理解してしまった解析機関が全生者を屍者化しようと動き出してしまう。そして屍者達から発光体のようなものを集めると、それをハダリーの体内へ入れていく。さらにザ・ワン自身も自分の古い肉体を捨て去ってフライデーに乗り移る。その時、塔の機関室で屍者と格闘していたバーナビーが、機関室を破壊。動力源である部屋が壊れた事で、解析機関の能力は停止してザ・ワンの計画は頓挫する。ワトソンは元に戻ったフライデーに、ザ・ワンの魂と屍者の言葉を手記に閉じ込めるという命令を出す。フライデーがその命に従った為、ザ・ワンの魂と屍者の言葉という概念は、ヴィクターの手記であるパンチカードの中に封じられる。同時にチャールズバベッジが崩壊。解析機関の力は完全に失われ、屍者だらけだった街は元の屍者と生者が共に暮らす場所へと戻る。

映画版の終幕

一連の出来事が終わった後、ワトソンはヴィクターの手記を悪用する者が出ないようにする為、手記を自身の中に封印する事を決める。フライデーに指示をだし、自分の体内にヴィクターの手記を封印したワトソンは、新たな「ワトソン」として生まれ変わる。そして事件から4年後、探偵シャーロック・ホームズと共にロンドンで起こる事件を解決していくようになる。一方でフライデーの方も、新しい「意識」が芽生えていた。それは、かつてのワトソンが彼に命じた「行動の記録」から生まれたものだった。フライデーは、かつてのワトソンの意思を探そうとするかのようにロンドンを駆け回るワトソンを眺める。時同じくして、ハダリーとバーナビーも、今のワトソンが街中を駆け巡るさまを影から見守るのだった。

漫画版の終幕

ワトソンは旅の出来事を通して、フライデーという過去にすがるのをやめ、未来を見て歩き出す事を決意する。その為、一連の出来事が終わった後は、フライデーをウォルシンガム機関に渡して1人で機関を去る。その去り際、フライデーを乗せた機関の馬車の窓越しに生前と変わらぬ動きをする彼を目にする。だが、それが本当にフライデー本人によるものであったのかは語られないまま、馬車はワトソンの前から去る。
後日、アイリーン・アドラーという名乗るようになっていたハダリーと再会したワトソンは、彼女と久々の談笑に花を咲かす。そうしてハダリーと別れた後、新たな仕事の相棒である探偵、シャーロック・ホームズのもとへ向かう。

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