ハーモニー(Project Itoh)のネタバレ解説・考察まとめ

『ハーモニー』とは、作家・伊藤計劃(いとう けいかく)による小説、およびそれを原作とした漫画・アニメ映画である。ジャンルはSF。伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』と同世界観であり、『虐殺器官』によって引き起こされた大災害を機に高度医療社会となった世界が舞台となっている。そんな世界で、ある日突然多くの人が同時自殺をする事件が発生。主人公のトァンは世界の均衡を維持する監察官として事件の調査に乗り出すが、そこで彼女が知ったのは、事件に13年前に亡くなった筈の友が関わっているという衝撃の事実だった。

『ハーモニー』の概要

『ハーモニー』は、小説家・伊藤計劃(いとう けいかく)のSF小説『ハーモニー<harmony/>』 、またはそれを原作とした漫画・アニメ映画である。2008年に早川書房から単行本が刊行。後2010年に文庫版が刊行された。2009年に癌で亡くなった伊藤計劃の遺作にあたる、2作目のオリジナル長編小説である。日本国内のSF小説関連の文学賞・星雲賞と日本SF大賞を受賞している。さらに海外のSF小説の賞・フィリップ・K・ディック賞にて、審査員特別賞も受賞。この賞は名だたるSF作家に与えられてきたSF小説界を代表するものであり、日本人が受賞するのは本作が初である。
2015年にアニメ映画化が決定。「Project Itoh」の名で、フジテレビのアニメ放送枠であるノイタミナが伊藤計劃の他2作『虐殺器官』と『屍者の帝国』とあわせて映画化する事となった。3作共に別々のアニメ制作会社が制作を担当しており、『ハーモニー』はSTUDIO 4℃が担当している。監督はアニメ映画『AKIRA』の作画監督を務めた事があるなかむらたかしと、アニメ映画『鉄コン筋クリート』で監督を務めていたマイケル・アリアスの2人が担当した。また映画公開に先駆けて、キャラクター原案を務めたredjuice(レッドジュース)による新ビジュアルカバーの文庫本が発売された。さらに公開記念と称して、コミカライズが決定。女性同士の恋愛漫画を収録した漫画雑誌『コミック百合姫』にて連載が決まるも、最終的に企画は頓挫してまう。その後2015年5月に、KADOKAWA発の雑誌『月刊ニュータイプ』にて同雑誌の創刊30周年記念企画の一環として、改めて漫画連載が開始される事となった。

本作は、伊藤計劃のデビュー作である『虐殺器官』後の世界を舞台に物語が展開される。なお世界観が同じだけで、ストーリーとしての繋がりはない。『虐殺器官』の結末がきっかけで起こった世界的な大災害・大災禍(ザ・メイルストロム)が収束された後、人類はニ度と同じ過ちを起こさない為に大規模な福祉厚生社会を築きあげる。しかし主人公・霧慧トァン(きりえ とぁん)は、そんな社会の現状や他人の命を自らの事のように慈しもうとする人々の道徳観に違和感を抱き、周囲と馴染めずにいた。そんな時、彼女の前に反社会的思想を持った少女・御冷 ミァハ(みひえ みぁは)が現れる。トァンは友人の零下堂キァン(れいかどう きぁん)と共に、ミァハの考えに心酔していくようになり、ついにある日「社会への反抗」という理由からミァハの提案で3人で自殺を図る。しかし自殺は失敗。ミァハ1人だけが亡くなってしまう。それから13年後、28歳になったトァンは日本社会から逃げる為に、WHO所属の監察官となり紛争地に赴く。だがその先で、監察官特権を使って飲酒などの身体に悪いものを摂取していた事が上司にバレ、日本に帰還させられてしまう。日本に帰国したトァンは、そこでキァンと再会。久しぶりに食事をする事になるが、その先で突然キァンが自殺する事件が起こる。実は同時刻、世界中でキァンのように自殺をする人々が現れていた。後日、トァンは世界の健康と均衡を維持する監察官として、世界中を大混乱に陥れたこの事件の調査を行う事になる。だが調査を追う毎に見えてきたのは、13年前に亡くなった筈のミァハがこの事件に関わっているという驚きの事実だった。

『ハーモニー』のあらすじ・ストーリー

少女時代の後悔と世界同時多発自殺事件の始まり

友人キアンの突然の自殺に唖然とするトァン

21世紀、突如としてアメリカで起こった大暴動。それを中心に世界のありとあらゆる場所で核兵器を用いた戦争が行われ、さらには未知のウィルスが蔓延する大災害が起こる。大災禍(ザ・メイルストロム)と名付けられたこの出来事をきっかけに、人々は新たな政治の機構・生府(ヴァイガメント)を作り上げる。生府の活躍により、世界は高度な医療社会に発展する。人々は成人と共に生府が作り上げたナノマシン・WatchMe(ウォッチミー)を体に取り入れなければならないが、それにより高度医療社会の恩恵を受けて健康を維持する事が可能となる。また自身の健康や社会的貢献が公共のリソースとして見なされるようになり、人々は社会の平和の為に健康と幸福を維持する事が義務となった。そんな社会に閉塞感を覚えていた主人公・霧慧トァンは、ある日反社会的思想を持っていた友人・御冷ミァハに誘われるがまま自殺を図る。もう1人の友人・零下堂キアンも含めて3人で自殺をするが、死に恐怖したキアンが親に密告した為に、ミァハ以外の2人の自殺は失敗に終わってしまう。それから13年後、28歳になったトァンは、WHO(世界保健機関)の組織であるWHO螺旋監察事務局の上級監察官になっていた。息苦しい高度医療社会の日本やミァハだけを逝かせてしまった現実からから逃げる為、上級監察官として生府の健康思想に反抗している国や紛争地帯に出向くトァン。だがある日、健康思想によって禁止されている筈の酒や煙草を戦場で摂取している事が上司にバレ、日本に強制帰還させられてしまう。
帰国したトァンは、そこでキアンと再会する。共に昼食を取る事になるが、その最中突如としてキアンがミァハへの謝罪と共に、テーブルナイフを使って自殺してしまう。また時同じくして、世界各地でキアン同様に自殺をする人が多発していた。後日、生府はこれを健康思想を訴える社会へのテロと断定。トァンは監察官として、そしてキアンの友人として彼女の死の真相を知る為、事件の調査を開始する。

事件の裏に感じるミァハの存在

事件の調査を開始したトァンは、事件の裏に亡くなっている筈のミァハが関わっている可能性に気づく。そこで彼女は、かつてミァハの遺体を引き取ったとされる医療分子技術の研究者・冴紀ケイタ(さえき けいた)の下へ足を運ぶ。トァンはケイタから、行方知れずである自身の父・霧慧ヌァザ(きりえ ぬぁざ)の代わりにミァハを引き取った事、ヌァザが人の意思を制御する研究を行っていた事を知る。トァンはミァハについて知る為、父の行方を追う事を決意。ケイタに教えられたヌァザの研究仲間が居るというバグダットへ向かう。さらにその最中、トァンはキアンが死の直前にミァハと通話していた可能性に気づき、キアンの死ぬ間際の電話のログを確認する。そこには確かにミァハがキアンに電話した内容が音声として残されており、トァンはミァハがまだ生きている事を知る。また翌日、トァンの前に、インターポールの捜査官を名乗るエリヤ・ヴァシロフという男性が現れる。エリヤは捜査官としてトァンに今回の事件調査の協力を願い出ると同時に、非公式の組織・次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループの存在を教える。だがその時、ニュース番組で今回のテロの主犯だという人物からのメッセージが報道される。犯人はこれから新しい世界を作る事を告げ、世界に残す人を選ぶ為に一週間以内に誰かを殺すように人々へ告げる。殺せなかった場合は、犯人側でWatchMeを操作して自殺するように促すとのこと。メッセージを聞いたトァンは、その話し方からそれが確かにミァハの言葉である事を確信する。

父との再会

無事、バグダッドで父の研究仲間と出会ったトァン。しかし、めぼしい情報は得られずに終わる。ホテルに戻ったトァンは、部屋のドアにヌァザからのメモが挟まれている事に気づく。メモに指定された場所へ向かったトァンは、そこでヌァザと再会する。トァンはヌァザから、実は13年前の自殺時にミァハが生きていた事、彼女を自身の研究の実験体にした事を話す。次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループの1人として、ヌァザは人の意思を制御するハーモニー・プログラムの開発・研究を行っていた。そこでミァハが反社会的思考を持っていると知ったヌァザは、彼女の意識を制御する事ができればハーモニー・プログラムが完成すると考える。トアンから密告された情報を利用し、ミァハを死んだ事にして次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループに迎え入れる。結果、プログラムは完成するも、ミァハを使った実験により「起動すると人間の意識が消滅してしまう」という欠陥が見つかってしまう。その為、プログラムは起動せずにおく事になるも、ヌァザいわくミァハはプログラムの実行を望んでいたという。さらにミァハが元はとある絶滅した少数民族の子どもで、その民族には「意識」が備わっておらず、ミァハの意識は後天的に備わったものである事を告げられる。衝撃の事実にトァンが動揺したところへ、突如エリヤが現れる。実はエリやはミァハの仲間で、彼女の命でヌァザを拘束しようとしていた。トァンは、ヌァザと共にその場から逃げる。だが銃撃戦が開始された事で、ヌァザがトァンをかばい亡くなってしまう。エリヤの方は、トァンが撃った銃により重傷を負う。痛みによる苦しみから救われたかった彼は、トァンにミァハの居場所を教える代わりに射殺して貰う。

ミァハから明かされた事件の真相

エリヤからミァハがチェチェンにある組織・対ロシア自由戦線にいる事を教えられたトァンは、彼の言葉通りチェチェンへ向かう。そこで彼女は監察官の1人、ウーヴェ・ヴォールの協力を得て対ロシア自由戦線に接触し、ミァハが旧ロシア軍基地に居る事を突き止める。ミァハの下へトァンが向うと、そこではミァハが1人で彼女が来るのを待っていた。そしてハーモニー・プログラムを起動させたい理由が、世界を"わたし"という人間の意識から救う為である事を告げる。プログラムの実験体になったミァハは、そこで意識の消失が生み出す自明的な選択、つまりは深く思考や葛藤をせずに正しい選択をできる暮らしの素晴らしさに気づく。そうして人類をよりよくする為に、プログラムを起動させるべきだと考えた。一連の事件は、大災禍のような事が起こればプログラムの実行が行われると考えたミァハが起こしたものだったのだ。ヌァザがミァハに命を狙われていたのも、プログラムの起動に反対していた為だった。事の真相を知ったトァンは、もしかしたらミァハが民族として暮らしていた頃の世界に戻りたかったのかもしれないと考える。だがキアンとヌァザの復讐を果たす為、トァンはミァハの望む世界を実現させるがそれを彼女には与えない事を告げる。銃でミァハを撃ったトァンは、息も絶え絶えの状態の彼女に頼まれて一緒に基地の外へ出る。一方で収まらない世界の暴動を前に、次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループはついにハーモニー・プログラムを起動させる。これにより。人類の「意識(わたし)」は完全に消滅。トァンは1人、世界と自分に別れを告げるのだった。

『ハーモニー』の登場人物・キャラクター

主要人物

霧慧トァン(きりえ とぁん)

CV:沢城みゆき
本作の主人公。少女時代から生命主義の社会が持つ道徳観に息苦しさを感じており、反社会的な姿勢を見せていたミァハに心酔していた。後にミァハの提案で、社会へ反抗する為に友人・キアンと共に自殺を図る。だが自殺は失敗。そのまま大人になってしまったトァンは、日本社会から逃げる為にWHO螺旋監察事務局の上級監察官となり、紛争地帯へ赴くようになる。WatchMeを騙すプログラム・DummyMeを使って健康監視システムの情報をごまかし、戦場で不法に入手したタバコやお酒を嗜む生活を送るが、それが上司にバレてしまい日本へ帰国させられてしまう。帰国後、ミァハが起こした集団自殺に巻き込まれ、監察官として事件の真相を調べる事になる。

御冷ミァハ(みひえ みぁは)

CV:上田麗奈
かつてトァンが心酔していた少女。成績の良い優等生かつ、『ハーモニー』作中ではもう存在していない紙の本をわざわざ作って読書を嗜むような文学少女だったが、孤独を好む性格や反社会的な発言などから周囲から孤立していた。しかし同じく周囲と馴染めずにいたトァンとキアンとは波長があい、交友を図るようになる。医療社会への強い反抗心から、少女時代は社会を破壊する方法をずっと考えていた。その結果、トァンとキアンを誘って自殺を試みる。自殺そのものは失敗に終わり、トァンとキアンにはミァハだけ死んだものとして告げられる。だが実は、ミァハの反社会的思想に目をつけた次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループによって一命を取り留めていた事が物語中盤に判明する。その後、次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループの一員として、人間の意思を制御するハーモニー・プログラムの実験体となり、そのプログラムの素晴らしさを身をもって体験する。これにより、世界を救うにはこのプログラムが必要だと判断したミァハは、プログラムを発動させる為に世界同時多発自殺事件を引き起こす。

WHO螺旋監察局

オスカー・シュタウフェンベルク

CV:榊原良子
螺旋監察官の首席監察官。トァンの上司にあたる女性である。実年齢は72歳だが、高度医療社会による医学的処置と生命主義による完璧な節制により、30代後半の美貌を保ち続けている。

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