屍者の帝国(Project Itoh)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『屍者の帝国』とは、作家・伊藤計劃(いとう けいかく)と円城塔(えんじょう とう)による小説、およびそれを原作とした漫画・アニメ映画である。物語の舞台は、生者が屍者として生き返り、産業や文明を支えるようになった19世紀の世界。屍者の秘密と魂の正体について迫る主人公のジョン・H・ワトソンと、仲間達の旅を描いている。日本のSF文学賞・星雲賞日本長編部門と日本SF大賞特別賞を受賞。第2回SUGOI JAPAN Awardエンタメ小説部門で1位を獲得した。

死体を屍者として蘇らせる際に使用する機械。持ち運び可能な簡易霊素書込機(かんいれいそかきこみき)もあり、それを使えば簡単な内容のプラグインであれば追加する事ができる。

ネクロウェア

疑似霊素の内訳の名称。基本的に屍者には、肉体(死体)制御する「制御機関」と運搬や兵士などの用途に応じた「プラグイン」の2つが書き込まれる。この内訳の事をネクロウェアと呼ぶ。

本作における重要なキーワードとなる用語。元来の意味は、肉体に宿る精気や気力・心の動きをつかさどるものをさす。本作でも意味合いとしては同じだが、根本の正体について2つの主張があげられている。1つは、「菌株」であるというザ・ワンの主張。キノコのような極小の菌株が生物の体に寄生しており、その菌株が人間の「意識」を作り出しているとのこと。その為「魂」という産物は本当はないというのがザ・ワンの意見である。もう1つが、「魂の正体は言葉にある」というもの。これは小説版のヘルシングや、映画版・漫画版のフライデー(生前)の主張となっている。実際、どちらの主張が正しいかは明確には語られていない。

新型屍者(グローバル・エントレインメント)

ワトソンを襲う新型屍者(画面手前)

本編中に使用されるようになった新型の屍者。緩慢な動きしかできなかったこれまでの屍者とは反対に、本物の人間にも負けない速さで行動が行える。屍兵として運用される事が多く、戦況を大きく覆す存在として各国から重要視されている。しかしその正体は死者を使った屍者ではなく、ネクロウェアに強制的に意識を上書きされ屍者化した生者である事が、カラマーゾフにの築いた屍者の国にて発覚する。生きている者にアヘンと特定の音楽を使って意識を曖昧にさせ、そこへ疑似霊素を上書きする事で屍者化できる仕組みとなっている。なお意識を曖昧にさせる事さえできるのであれば、アヘンや音楽に頼らなくてもよい。実際に作中では、病原体を用いて意識を曖昧・朦朧とさせる手段も描かれている。これらの手段は屍者技術同様に、ヴィクターの手記の内容をもとに作られている。

ウォルシンガム機関

イギリスの諜報機関であり、秘密部署。その為、表向きには「ユニバーサル貿易」という名で活動している。名前の元ネタは、1550年代後半からイギリスで活躍していた政治家・フランシス・ウォルシンガムにある。当時の女王エリザベス1世に仕えており、駐フランス大使や国王秘書長官といった官職に就いていた経歴もある。また秘密警察長官・スパイマスターとしても活躍していた事で有名で、500人のスパイを各国の宮廷に送り反乱や陰謀の摘発にあたったという話が存在している。表向き用の名前「ユニバーサル貿易」は、映画『007』シリーズのオマージュと推測される。『007』作中に登場する秘密情報部MI6が、表向きに使用している名前が「ユニバーサル貿易」となっている。

ヴィクターの手記

ヴィクター・フランケンシュタイン博士が作り上げた、屍者技術について記載された手記。ザ・ワンが所持しており、その内容をもとに社会の裏で暗躍していた。小説版では手記のコピーにあたるパンチカードが登場するも、原典は登場していない。映画・漫画版では、日本の大里化学にあったパンチカードが本物の手記という設定となっている。

スペクター

小説版『屍者の帝国』で、「霊素」といった意味や、世界中で屍者を暴走させているとされるテロ組織の名前、ネクロウェアの欠陥を意味する用語として使われてる。ネクロウェアの欠陥については、ハダリーの持論である。彼女いわく「一定以上の複雑さを持った構造に必ず現れるセキュリティホール」とのこと。その為、ネクロウェアのみならず、生者や社会構造といったものにもスペクターが現れる事があるという。

明言はされていないが、映画『007』シリーズに登場する秘密結社・スペクターが元ネタではないかと、ファンの間では噂されている。

解析機関

タイトルコール。背景にある機械が解説機関の一部。

架空の超大型演算装置の名称。アメリカやイギリス、ロシアといった列強国が所有する、歯車式計算機である。ネクロウェアのアップデートなどの計算を行っており、全ての装置が海底ケーブルを通して繋がっている。

なお解析機関そのものは、現実世界にも実在している。数学者のチャールズ・バベッジが設計したものの、設計当初は技術面に関するさまざまな問題があり、実現は敵わなかった。チャールズ・バベッジ死後、彼の遺した設計図をもとに制作された。

ピンカートン

架空の民間軍事会社の名前。元ネタは、アメリカに実在する探偵社兼警備会社のピンカートン探偵社。身辺警護のような警備任務にくわえ、軍の請負といった軍事方面でも活躍していた。最盛期は、アメリカの陸軍に並ぶ程の人数が在籍していたという。しかしあまりの巨大な組織故に、準軍事組織または民兵として雇われかねないという懸念から、法律で彼らを雇う事が非合法とさせられてしまった。その後は時代の流れから組織業務の縮小化などが行われ、徐々に弱体化。紆余曲折を経て、スウェーデンの警備会社・Securitas ABの一部門となった。

大里化学

日本編で登場する、架空の企業。ヴィクターの手記を所持しており、新型の屍者の製造をしていた。ザ・ワンとの繋がりもあり、彼経由でヴィクターの手記の内容が記載されたパンチカードを所持していた。ワトソン一行がパンチカードとザ・ワンとの連絡手段を発見してしまった事を機に、以降はザ・ワンとの繋がりを失う。

『屍者の帝国』の名言・名セリフ/名シーン

ジョン・H・ワトソン「おかえり、フライデー」

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