屍者の帝国(Project Itoh)のネタバレ解説・考察まとめ

『屍者の帝国』とは、作家・伊藤計劃(いとう けいかく)と円城塔(えんじょう とう)による小説、およびそれを原作とした漫画・アニメ映画である。物語の舞台は、生者が屍者として生き返り、産業や文明を支えるようになった19世紀の世界。屍者の秘密と魂の正体について迫る主人公のジョン・H・ワトソンと、仲間達の旅を描いている。日本のSF文学賞・星雲賞日本長編部門と日本SF大賞特別賞を受賞。第2回SUGOI JAPAN Awardエンタメ小説部門で1位を獲得した。

ユリシーズ・シンプソン・グラント

CV:石井康嗣

民間軍事会社・ピンカートンの代表者であり、元アメリカ大統領。ハダリーの上司にあたる。大統領退任後に、国内で起きた戦争・南北戦争にて生まれた屍兵の売買を行う為、ピンカートンの代表者として世界一周の旅に出た。また売買の傍らで、ザ・ワンや彼に関わっているとされるテロ組織・スペクターを追っている。ザ・ワンとスペクターを誘い出す為に自らを囮にする事もある、豪胆かつ無謀な性格の人物。
小説版・漫画版・映画版共に登場。小説版は、ワトソン一行を自らのザ・ワン追跡部隊に迎え入れる。これにより、ハダリーがワトソン一行の正式な仲間となる。漫画版・映画版ではその無謀な性格さ故にハダリーが彼を見捨て、ワトソン一行側に就く形に変更されている。

元ネタは、アメリカの第18代大統領であったユリシーズ・シンプソン・グラント。南北戦争時の北軍将軍であり、アメリカ発の陸軍あがりの大統領である。軍人としてはさまざまな武功があるが大統領としては数多くのトラブルを起こしており、アメリカ国内では「最悪の大統領」という異名でも知られる。史実でも来日しており、明治天皇と会見している。

レット・バトラー

ピンカートンの1人。南北戦争時代は、ピンカートン代表者のグラントとは敵対していた南軍にいた。戦後は実業家として活躍。結婚もするも上手くいかず、娘と2人で暮らすようになる。だがその娘が亡くなってしまった為、一時期自暴自棄になる。その際に、娘を屍者として蘇らせる為に「高名な発明家」であったトーマス・エジソンのもとに向かう。そこで「死を見つめるつもりがあるならハダリーと共に世界を見てきて欲しい」とエジソンから言われる。以降、ハダリーと共に旅を開始。その中でピンカートンと出会い、その一員として活動するようになる。小説版のみに登場。

元ネタはアメリカの長編小説『風と共に去りぬ』に登場する名家出身の青年、レット・バトラー。南北戦争時は南部の敗北をいち早く予測していた。この設定は、『屍者の国』のレッド・バトラーにも受け継がれている。原典では、小説の主人公でもあるヒロインと結婚し子どもをもうけるも、最終的には彼女を愛する事に疲れ、自ら家族の前から去る。

ウィリアム・シュワード・バロウズ

サンフランシスコにある通信会社・ミリリオン社の社長。二十歳という若さでミリリオン社を立ち上げた、若き実業家である。アメリカ一の解析機関を持っており、それを用いてザ・ワンと通信していた。ザ・ワンの追跡の為に、ミリリオン社にやってきたワトソン一行と対峙する。小説版のみ登場する。

元ネタはアメリカの発明家のウィリアム・シュワード・バロウズ1世。コンピュータメーカー・バロースの創業者となった人物である。死後はその功績を称えて、発明家と発明品のための非営利団体・全米発明家殿堂に殿堂入りする事となった。

サムズ

ミリリオン社の所属の女性技術者。実際にザ・ワンと通信をしていた人物である。屍者からの通信としては不思議な雰囲気を持っていた為、彼の動きを気にするようになったとのこと。屍者というよりは人間のような速度の通信だった為、何度かこちらから呼びかけてみた事もあるらしいが、返事が来る事はなかったという。ザ・ワンの名は知らなかった為、「バラム」という仮の名で呼んでいた。小説版のみに登場。

トーマス・エジソン

CV:武田幸史

アメリカの発明家兼実業家。ハダリーの制作者であり、小説版においてはバトラーに彼女を紹介した人物でもある。

元ネタは、実在したアメリカの発明家、トーマス・エジソン。
生涯において約1300の発明・技術革新を行ったとされ、発明王という異名を持つ。有名な発明品は白熱電球。そのほかにも多くの電化製品を発明・製作しており、一時期は世界最大とされるアメリカの総合電機メーカーであるゼネラル・エレクトリックの社長だった。

そのほかの登場人物

ウェイクフィールド

ワトソンの大学時代の友人。小説版の「プロローグ」と「エピローグ」にて登場する。軽口を叩く事が多く、真面目な優等生のワトソンとは真反対の性格の人物となっている。

ロバート・ブルワー=リットン

イギリス領インド帝国の副王。物語冒頭、ワトソンがアフガニスタンにピンカートンの一員として滞在していた時の上官である。小説版のみワトソンと話すシーンが描かれている。アレクセイの追跡にあたる事になったワトソンに、新型屍者の実物を見せた。

元ネタは、イギリスの外交官兼政治家であった貴族のエドワード・ロバート・ブルワー=リットン。初代リットン伯爵の名でも知られる。インドの総督を務め、在任中に第二次アフガン戦争を起こした。これにより、当時のアフガニスタンはイギリスの保護国となった。

『屍者の帝国』の用語

屍者(ししゃ)

軍事用に運用されている屍者の兵。

本編から100年前に実在した、ヴィクター・フランケンシュタイン博士が作り上げた技術を用いて蘇った人間および死体のこと。
擬似霊素と呼ばれる人工的霊素と専用のパンチカードをインストールされた死体で、あくまでもインストールされた内容に沿った動きしかできない為、本当に本人が蘇ったわけではない。自我はなく、喋る事もできない。吐息や唸り声をあげる事はある。動きもゆっくりな為、ゾンビに近しい外見をしている。耐用年数は約20年。運搬や雑用など日常的な仕事を担う屍者から、解析機関といった専門的な場所で働く屍者までいる。また一兵士として軍事方面で使用される屍者もおり、そういった屍者達は「屍兵(しへい)」という呼称がついている。『屍者の帝国』作中では、すでに生活上において無くてはならない存在となっている為、屍者を求めて墓を掘り起こす死体泥棒も多発している。

屍者技術(ししゃぎじゅつ)

ヴィクター・フランケンシュタイン博士が作り上げた、死人を屍者として甦らせる技術の名称。
擬似霊素と用途に応じたプラグインをパンチカードにして擬似霊素書込機(ぎじれいそかきこみき)を使って死体にインストールする事で、指定した動きができる屍者を作り上げられる。技術が誕生した当初は人々に受け入れられずにいたが、屍者が兵士に運用できるという事実から、夫や息子を出兵させたくない女性達から支持されるようになった。この事をきっかけに人々に受け入れられるようになり、日常生活でも屍者が使用されるまでとなった。

擬似霊素書込機

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