コーダ あいのうた(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『コーダ あいのうた』とは、米仏加3ヵ国合同で制作された2021年公開の映画。耳が聞こえない両親と兄の4人で暮らす女子高生ルビーは、家族の中で唯一の健聴者。合唱で歌の才能を見いだされたルビーは名門音楽大学の受験を勧められるが、両親に反対されてしまう。夢を諦めて家業を手伝うことにしたルビーに対し、娘の才能に気付いた父は夢を後押しすることを決意する。本作はろう者の俳優陣が聴覚障がい者を演じたことで話題を呼んだ。エミリア・ジョーンズ演じるルビーの美声も魅力的であり、見どころの1つとなっている。

ASLとはAmerican Sign Languageの略。アメリカやカナダの英語圏で使われている手話で、世界共通語が英語であるのと同じように、手話ではASLが多く使われている。撮影現場ではASLに秀でた人たちが、映像を確認しながら出演者たちの演技について指示をし、リアリティある作品になるようこだわった。

湖に飛び込むマイルズとルビー

映画の撮影はマサチューセッツ州グロスターで行われた。映画の中で、ルビーが遊泳禁止の湖に何度も訪れている。憧れていたマイルズを追いかけて合唱部に入った時に、顧問のベルナルド先生が個々のパートを決める際にハッピーバースデーの歌を歌うよう生徒に指示する。緊張でうまく歌えなかったルビーは、湖でハッピーバースデーを口ずさむ。また、マイルズが家族のことを学校の生徒に話したことでからかわれ、ケンカをした2人が和解をするため、マイルズをルビーが誘ったのも湖。そして、音楽大学へと進学が決まったルビーは、またマイルズと一緒に湖を訪れている。映画の中で湖は、ルビーが成長していく上で大切な場所。

『コーダ あいのうた』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

無音で表現した聴覚障がいの世界

高校のコンクール会場でルビーの歌を聞く家族

ルビーの合唱を聞きに行ったルビーの両親は、会場で合唱に聞き入る人々を横目に、手話で今日の夕ご飯について話をしている。両親ともに歌声が聞こえないため、ルビーの歌う姿にも最初はあまり関心を持てなかった。しかし、ルビーと恋人のマイルズのふたりがデュエットを歌いだすと会場の観客たちが、涙をうかべたり、歌を口ずさんだりする姿に気付いた父は、会場の様子を窺うようになる。映画では無音の映像のみが流れ、父や聴覚障がい者たちが感じている音のない世界が表現されている。

ルビーの歌を聞く父フランク

ルビーに歌を歌ってもらう父フランク

ルビーが舞台で合唱を披露した夜。帰宅したルビーの父フランクはルビーと車の荷台に座り、もう一度、歌って欲しいとルビーに頼む。ルビーは、家族のため音楽大学への進学を諦めていたが、父と向かい合いながらゆっくりと歌い始める。父親のために歌うルビーの喉元にそっと手を添えて、耳が聞こえない父はルビーの歌を喉の動きを通して感じようとする。舞台で拍手を浴びていた娘の姿に感銘を受けた父は、ルビーを家に縛り付けず、希望の進路へ進ませようと決意をする親子の愛が深まるシーン。

家族のために歌うルビー

音楽大学の試験場についたルビーは、舞台にあがるものの楽譜を持参するのを忘れてしまっていた。アカペラで歌うよう試験官に促されて困っていたところに、歌の指導をしてくれていたベルナルド先生が、試験会場に現れピアノの伴奏を名乗り出てくれた。最初は緊張からうまく歌えなかったルビーだが、会場の後方に家族が来ていることに気付くと、自然と歌詞を手話で表現しながら歌い終える。前日の合唱では、聞こえない家族に伝えきれなかった気持ちを家族に向けて、歌った感動的なシーン。

『コーダ あいのうた』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

第94回アカデミー賞で作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門受賞

第94回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門を受賞。脚本・監督を手がけたシアン・へダー監督は、「すごく感動した」とインタビューに答えている。 授賞式の直後にバックステージで耳が聞こえない母親役のジャッキーを演じたマーリーは、聴覚に障がいがあり、長年の俳優業を経て「もう、孤独じゃない」と感動を語った。スピルバーグ監督も「ここ5年でみた映画の中で一番好きな一本」と、映画を評価している。

ルビーと家族が送り合った手話の意味

見送る家族に手話を送るルビー

ボストンのバークリー音楽大学に入学するため、寮にはいるルビー。いよいよ旅立ちの時に、見送る家族と別れる最後のシーンで、家族がお互いに手話を送り合う。中指と薬指を折り、親指と人差し指、小指を立てる手話は、ASL(American Sign Language)で、「I love you」という意味を表す。ASLではアルファベットを表す指文字として、小指がI、人差し指と親指がL、親指と小指がYを意味する。3本の指でI Love Youの頭文字を表している。ルビーは、さらに本来は折り曲げている中指を人差し指にかけて、本当に大好きというメッセージを家族に送っている。

監督の配役へのこだわり

監督のシアン・ヘンダーは 「耳の聞こえない人の役があるのに、耳の聞こえない優秀な役者を起用しないというのは考えられなかった」とインタビューで語った。ルビーの母親のジャッキー役は聴覚障がいのあるマーリー・マトリンが演じている。マーリー・マトリンは、聴覚障がいのある女性の恋愛をテーマにした映画『愛と静けさの中に』で映画デビュー。この映画で、史上最年少でアカデミー賞を受賞している。ルビーの父親のフランク役を演じたのは、トロイ・コッツァー。男性ろう者の俳優として初めて、第94回アカデミー賞で助演男優賞を受賞した。またルビーの兄レオを演じたダニエル・デュラントは、視聴覚障がい者である。映画では手話のシーンが大半を占めているが、俳優たちの自然な手話にリアリティがある。

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