コーダ あいのうた(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『コーダ あいのうた』とは、米仏加3ヵ国合同で制作された2021年公開の映画。耳が聞こえない両親と兄の4人で暮らす女子高生ルビーは、家族の中で唯一の健聴者。合唱で歌の才能を見いだされたルビーは名門音楽大学の受験を勧められるが、両親に反対されてしまう。夢を諦めて家業を手伝うことにしたルビーに対し、娘の才能に気付いた父は夢を後押しすることを決意する。本作はろう者の俳優陣が聴覚障がい者を演じたことで話題を呼んだ。エミリア・ジョーンズ演じるルビーの美声も魅力的であり、見どころの1つとなっている。

『コーダ あいのうた』の概要

『コーダ あいのうた』とは、2021年アメリカ公開のヒューマンドラマ。2014年に公開されたフランス映画『エール!』のリメイク作で、アメリカ、フランス、カナダの共同製作。監督・脚本はシアン・ヘダー。タイトルのコーダとは、耳が聞こえなかったり、聞こえにくかったりする親のもとで育つ子供のこと。また、音楽用語で楽曲の終わりという意味もある。『コーダ あいのうた』は聴覚障がいのある両親をもつ子供(コーダ)をテーマに大学進学を控えた10代の少女が成長していく姿を描いた作品。主人公のルビーを演じたのはエミリア・ジョーンズ。聴覚障がい者の両親のフランクとジャッキーを演じたのはトロイ・コッツァーとマーリー・マトリン。また聴覚障がい者の兄レオをダニエル・デュラントが演じている。両親と兄を演じた3人の俳優はみな聴覚に障がいがあり、父親役のトロイ・コッツァーは、聴覚障がいがある俳優として初のアカデミー助演男優賞を受賞した。2022年のアカデミー賞で作品賞を受賞。

『コーダ あいのうた』のあらすじ・ストーリー

聴覚障がいの家族を支えるルビー

女子高生のルビーは、聴覚障がい者の父フランクと母のジャッキー、兄のレオの4人家族。家族の中で唯一、耳が聞こえる。家業である漁にでる父と兄とともに、登校前に毎日、早朝からルビーは船に乗って手伝いをしている。手伝いは単に漁だけではなく、船での無線のやりとりや、他の漁師や魚の仲買人との通訳まで多岐に渡る。同級生に魚臭いとからかわれても、ルビーは家族のために手伝いを続けていた。新学期がスタートし、選択授業を迷っていたルビーは、憧れている男子高生のマイルズと同じ合唱クラブに入ることを決める。親友のガーティに驚かれるが、合唱クラブに希望を出して学校を出ると、両親が病院で、ルビーに通訳をしてもらうために車で迎えに来ていた。大きな音でラップ音楽をかけるフランクに、音量を下げるよう焦るルビーをよそに、耳が聞こえないがラップの振動を楽しむため、フランクは音量を下げようとしない。恥ずかしくなり早々に、学校を出るルビー。病院に行くと、フランクはインキンタムシと診断され、2週間性生活を禁止するよう医師に言われる。夫婦仲のよいフランクとジャッキーは不満をもらすが、そんな時もルビーは手話で通訳をしていた。夕食の時間、音楽をイヤホンで聴いていたルビーは、ジャッキーに咎められる。隣で兄のレオは、スマートフォンで出会い系サイトを見ながら女の子を探していた。母は、レオと一緒に、スマートフォンの画面を見ながら女の子を品定めする。イヤホンで音楽を聴くことはダメなのに、出会い系サイトを見ることは注意されないことが不満なルビー。ルビーはジャッキーに抗議するが、音楽は家族で楽しめないが、出会い系サイトは家族で楽しめるとたしなめられてしまう。

ルビーに歌の才能を感じたベルナルド先生

高校での合唱クラブのレッスンの初日。顧問のベルナルド先生は、ひとりひとりの音域をチェックするためにハッピーバースデーの歌をアカペラで歌わせる。みんなが順番に歌を歌わされ、ルビーの順番になるが人前でこれまで歌ったことがないルビーは、歌うことができない。ルビーは、耐えられず教室から逃げ出してしまう。落ち込んでひとり、湖にやってきたルビーは、教室で歌えなかったハッピーバースデーの歌を歌った。ルビーが帰宅すると、両親はお金のことで言い合いをしていた。船を売ることを提案する母ジャッキーに父のフランクは、自分は漁しかできないと言って話は平行線のまま終わり、気まずい雰囲気が漂っていた。翌日、ルビーはベルナルド先生のいる教室にむかう。周りの目が怖いと告白するルビー。ベルナルド先生はそんなルビーを励ましてくれた。ルビーの歌声を聞いたベルナルド先生は、ルビーには才能があると確信する。ルビーが憧れているマイルズと2人で、秋に開催する学校のコンサートでデュエットをするよう指示をだした。憧れのマイルズとのデュエットを喜ぶルビーだが、異性として意識するあまり一緒に練習をすることができない。数日後、授業終了した後に、ベルナルド先生の前で歌を披露するが、一緒に練習をしたことがない2人のデュエットは全く息が合わない。「ラブソングだぞ!」と怒るベルナルド先生。マイルズは、ベルナルド先生にギターを弾くよう指示される。ルビーはベルナルド先生に、バークリー音楽大学に進学するつもりはないかと提案をされる。ベルナルド先生は、進学に必要なお金は奨学金を利用し、受験に向けて夜と週末に自分がレッスンをすると説得を始める。もともと歌が好きだったルビーは、ベルナルド先生に認められたことで、音楽大学への進学を夢見るようになる。思い切ってジャッキーに合唱を始めたことを話したルビーだが、耳が聞こえない家族に対する反抗期だと言われケンカになってしまう。

憧れのマイルズに幻滅するルビー

家業である漁業で父フランクと兄レオは、取引の手数料を値上げするといってきた仲買人たちと揉めていた。協同組合を立ち上げようとレオが提案をするものの、耳が聞こえない自分たちでは無理だろうとフランクは消極的だ。レオはイラ立ちながら漁業の仲間と飲みに行くが、別の客に耳が聞こえないことでトラブルになりケンカをしてしまう。ケンカの後、カウンターでお酒を飲んでいると店でバイトをしていたルビーの親友のガーティに声をかけられる。前々からレオに好意を持っていたガーティとレオは親密な仲になる。
ルビーは自宅にマイルズを招き、練習をすることにした。部屋で、ルビーの持っている珍しい歌手のアルバムを見つけたマイルズとルビーは、打ち解け合い練習をしはじめた。実は、町のレストランで、ルビーが家族の分の料理を注文をする姿を見かけてかっこいいと思っていたマイルズ。マイルズは、自分の家族はルビーの家族のように仲が良くないと告白する。マイルズの弾くギターに合わせ、向かい合って練習を始めるルビー。マイルズとルビーはお互いを異性として意識してしまい、うまく歌えない。そこで、背中合わせで練習を再開した。その時、隣の部屋から母ジャッキーの大きな喘ぎ声が聞こえてくる。驚いたルビーが隣の部屋のドアを開けると、裸で両親が抱き合っていた。気まずい雰囲気の中、リビングに揃った両親とマイルズとルビー。ルビーが初めて男の子を家に連れてきていたことでうかれる両親。オープンな性格の両親は、ちゃんと避妊をするようにとジェスチャーで伝えようとしてマイルズを驚かせる。その様子に怒ったルビーは、マイルズを家から追い出すように帰らせ、両親をののしった。
翌日、ルビーが学校に行くと、昨日の両親のことが噂になっていた。恥ずかしさのあまり、その場にいられなくなったルビーは学校から逃げ出してしまう。慌ててマイルズがルビー追いかけてきて、噂を広めたのは自分ではない、友達のひとりにしか話していないと言い訳をする。ショックを受けたルビーは、マイルズとケンカになってしまう。ベルナルド先生の家でレッスンを始めたものの、ルビーはうまく歌うことができない。実力を出し切れないルビーにしびれを切らしたベルナルド先生は、ルビーのコンプレックスをさらけ出させるようにけしかける。ルビーはだんだんと大きな声で歌ううちに感情をこめて歌えるようになった。レッスンのあと、フランクとレオが出席している漁師たちと仲買人たちの集会に駆け付けたルビー。これからは、監視員を有料で雇い、定期的に漁船に乗せなければならなくなることを聞かされる。漁業での儲けがほとんどない上に、手数料も値上がりすることに腹を立てたフランク。仲買人をののしる言葉をそのまま手話通訳するルビーに、会場の漁師たちは歓声をあげる。フランクは頭に血がのぼり、つい組合を作って自分で魚を売ると啖呵を切ってしまう。帰宅後、話し合いの席での話をすると、ジャッキーは猛反対でフランクを非難するが、ルビーがこれからも一緒にいてくれたら頑張るとついには協力をすると譲歩する。その様子を見ていた兄のレオは複雑だった。いつもルビーに頼ってばかりの今の状況をレオは、妹のためにはならないとイラ立ちを隠せなかった。

漁業の免許停止処分を受ける父フランク

組合を立ち上げたルビーたちは、町の人たちに漁師から直接、魚を買えることを話しながらチラシを配りアピールをした。漁師の仲間の妻たちは、集まって魚の加工を手伝っている。ルビーも聞こえない家族のために、電話応対や通訳などに奔走した。その分、ベルナルド先生のレッスンに遅刻することもしばしば。ケンカをして気まずいままのマイルズとも仲直りできずにいた。
レッスンに遅刻してばかりいたルビーは、今日こそはと時計をみながらレッスンに向かおうとするが、ジャッキーに引き止められてしまう。組合の取材にテレビ局が来るから通訳としてルビーがいてくれないと困ると言われてしまう。無理だと断るが、引き下がらないジャッキーに押し切られ取材を通訳するルビー。ようやく取材が終わり、遅刻してベルナルド先生の家に向かうが先生の姿はない。学校でベルナルド先生にルビーは謝罪をするが、やる気が感じられないこと、挑戦を恐れているとベルナルド先生にきつく怒られてしまう。ベルナルド先生の言葉を重く受け止めたルビーはその夜、音楽大学に進学したいと家族に初めて伝えた。聞こえない自分たちの娘に歌の才能があるとは信じられない両親は驚く。さらに、もしルビーが進学をして家からいなくなったら、家業を続けるのに困るとルビーを責めた。ルビーは、自分には自分の人生があると反論するが、両親の賛成は得られなかった。
翌日は、外部の監視員が、フランクの船に乗り込んで調査をする日。船には、フランクとレオに聴覚障がいがあると知らない女性の監視員が乗船してくる。まったく気づかないまま、海へ船を出すが、質問をしても返事が返ってこないことで彼らが聴覚障がい者であることを知った調査員の女性は沿岸警備隊を呼んでしまう。沿岸警備隊の停船命令に気づかなかったフランクたちは、免許停止の処分を受けることになる。

湖で仲直りをするマイルズとルビー

ルビーは、ケンカをしたままのマイルズと仲直りをするために、マイルズを湖に誘った。遊泳禁止の看板を無視して湖のほとりに着くふたり。ルビーはマイルズに崖から飛び込むことができたら許すと言った。マイルズはルビーと仲直りをするために、ルビーの言葉に従って崖から湖に飛び込んだ。マイルズを追いかけるように湖に飛び込んだルビー。ふたりは湖に浮かんでいた木につかまりながら見つめ合いキスをする。
マイルズと別れ帰宅したルビーは、両親から漁に一緒に来なかったせいで、免許停止になったと詰め寄られる。自分のせいだと言われ、怒りをあらわにするルビー。後日、多額の罰金を課せられたうえに、今後は健聴者を船に同乗させなければ漁をしてはダメだと言い渡されてしまう。健聴者であるだけではなく、手話がわかる同乗者を探すことは難しく、また雇うためにはお金がかかるからとルビーは音楽大学への進学を諦め、船に同乗することを決意する。しかし、それを聞いた兄は、夢を諦めさせられるルビーをみてイラ立っていた。
夜、ルビーの部屋に来たジャッキーは、秋のコンサートで着るためのドレスをルビーに用意してくれていた。ジャッキーは、ルビーが生まれた時に、病院で耳が聞こえるか検査を受けた際に、耳が聞こえないことを祈ったと告白する。驚くルビーに、検査でルビーが耳が聞こえると知って、聞こえない母親の自分とはわかり合えないのではないか、母親としての自信を失ったとルビーに当時のことを語った。自分が健聴者の母親に理解してもらえなかったこと、ルビーだけが家族でひとりだけ健聴者であることにも疎外感を感じていたことを伝えた。子育てに失敗したかもしれないと弱気になるジャッキーに、聴覚障がいとは関係ないとルビーは笑い飛ばした。ルビーのベッドの上で、ジャッキーとルビーはしっかりと抱きしめ合い、ジャッキーはルビーの頭を撫でた。次の日の朝、海岸でレオはルビーに、家族の犠牲になるな、家のことは自分がなんとかすると言った。

舞台に立つルビー

学校でのコンサート当日。ジャッキーが用意してくれた赤いドレスを着て、ステージに立つルビー。ルビーの両親と、レオの彼女でルビーの親友でもあるガーティは並んで座る。コンサートが始まると、アップテンポの歌声に会場は包まれる。両親は、聞こえないが周囲に合わせて手を打ったりしていたものの会場の雰囲気になじめない。夕食のメニューのことを手話で話す両親。ルビーの歌う姿を見ても、関心は薄かった。合唱が終わり、マイルズとルビーのデュエットが始まる。ふたりの歌声にじっと聴き入る人や、微笑みながら歌を口ずさむ人、涙をぬぐう人がいることにフランクが気づく。会場にいるたくさんの人が、自分の娘のルビーの歌声に、聞き入っていることをフランクは実感した。
コンサートが終わると、ロビーに集まっていたルビーの家族の前にベルナルド先生が現れる。動画配信で、挨拶の手話を覚えたというベルナルド先生だったが、間違った手話を覚えていた。意味は通じたと、ベルナルド先生と挨拶を交わすフランクに場は和む。ベルナルド先生はルビーを素晴らしかったと褒め、明日の音楽大学受験をまだ諦めていないと言ったが、誉め言葉だけをルビーは家族に通訳した。
夜、帰宅するとフランクはルビーを呼び止め、話をしようと誘う。ルビーが隣に座ると、もう一度、歌ってほしいとフランクがルビーに頼んだ。ルビーが歌いだすと、フランクは両手をルビーの喉元に当てて、伝わってくる振動で歌声を感じようとする。歌い終わったルビーと、額と額をあわせたフランクはある決心を固めていた。翌朝、フランクにたたき起こされたルビー。音楽大学の受験のため、大慌てで家族全員で車に飛び乗り会場を目指した。実は、夜のうちにフランクがジャッキーを説得し、ルビーに試験を受けさせ、音楽大学への進学を認めさせていたのだ。
移動の途中で、試験会場に向かっていることをベルナルド先生に報告したルビー。30分遅刻して、なんとか受験を認められたルビーは、試験会場であるホールに向かった。服は普段着のままで楽譜も忘れてきたルビーは、アカペラで歌うよう試験官に指示される。ルビーが戸惑っていたその時、ベルナルド先生が現れる。自分が伴奏しますと言って、許可をもらうベルナルド先生。曲は、レッスンを重ねてきたジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」。緊張のあまり本来の力を発揮できずに歌い出したルビーをみてベルナルド先生は、わざとピアノの伴奏を間違え、試験官にやり直しを申し出た。自分のためにやり直すチャンスをくれたベルナルド先生の気持ちを理解したルビーは、気持ちを入れ替えて歌い始める。すると、試験会場の2階席に家族が入ってきたのを見つけ、ルビーは自然と彼らを見つめながら手話をつけて歌いだした。手話をはじめたルビーに、試験官は驚くが、会場にいる家族の姿をみて何も言わずに試験を続けさせた。

ルビーの旅立ち

合格発表の日。パソコンで合格を知ると飛び上がって喜ぶルビーと家族。そして、ルビーは自転車を急いで漕ぎ、ベルナルド先生の家に報告をしに行った。大喜びでルビーを迎え入れたベルナルド先生は、ルビーとハイタッチをしあった。しかし、残念ながらマイルズは不合格。ふたりでかつて飛び込んだ湖に行くと、待ってるからとルビーは、マイルズに伝える。ふたりは手をつないで、一緒に湖に飛び込んだ。
いよいよ大学の寮に入るために家を旅立つ日が来た。ガーティが寮まで車で送るため、迎えに来てくれている。別れの挨拶を両親と兄にするルビー。笑顔で荷物を積み込み、出発したもののガーティに車を停めてもらうと、飛び降りて家族のもとに駆け寄った。家族4人でしっかりと抱き合い、別れを惜しむが、フランクの「行け」という言葉に背中を押され、再び車に乗るルビー。走り出す車に向かって、「大好き・愛してる」という手話を送る家族に、助手席から笑顔でルビーも同じ手話でメッセージを送り返した。

『コーダ あいのうた』の登場人物・キャラクター

ルビー・ロッシ(演:エミリア・ジョーンズ)

聴覚障がいの両親と兄の4人家族。家族でただひとり、耳が聞こえる健聴者。漁業を営む家族のため手話通訳として家族を支えている。憧れのマイルズを追いかけ合唱クラブに入り、歌の才能を見出され、音楽大学への進学を夢見る女子高生。

フランク・ロッシ(演:トロイ・コッツァー)

ルビーの父親。聴覚障がいがあるため、体に響くラップを大音量で聞くのが好きな明るい父親。家族を大切にし、漁に出て真面目に働いている。娘の才能を知り、夢を後押しする娘思いの温かい父親。

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