ブラック・スワン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ブラックスワン』とは2010年公開のアメリカのサイコスリラー映画。日本では2011年にR15+指定作品として公開された。監督はダーレン・アロノフスキー。主演にナタリー・ポートマン。『白鳥の湖』で主役の座を射止め、清純な白鳥と官能的な黒鳥の2役を演じることになったバレリーナが役へのプレッシャーから徐々に精神が崩壊して行く様を描く。幻覚か現実かあやふやな描写が観客の目を惹きつけた。批評面、興行成績ともに成功を収め、第83回アカデミー賞では主演のナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を受賞した。

『ブラックスワン』の概要

『ブラックスワン』とは2010年公開のアメリカのサイコスリラー映画である。日本では2011年5月11日にR15+指定作品として公開された。
監督は、2008年公開の『レスラー』(主演:ミッキー・ローク)で第65回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞したダーレン・アロノフスキー監督。
サイコスリラーを得意とする彼は、本作『ブラックスワン』で生真面目な少女が元バレリーナである母親の期待を背負いバレエにすべてを捧げる姿を美しくも狂気に満ちた描写で映し出した。
『ブラックスワン』はバレエ界の華やかなステージの裏で人間の根底に眠る憎悪や嫉妬といった感情を徐々に狂っていく少女にのみスポットを当てることで、一個人の心情を丁寧に描き、ホラーと称されるほど凄みを感じさせる映画になった。

ニナ(演:ナタリー・ポートマン)は母エリカ(演:バーバラ・ハーシー)の熱心な庇護のもと、バレエに全てを捧げ励んでいた。所属する劇団のプリマ交代の時期に『白鳥の湖』の上演が決まる。紆余曲折あったがニナは演出家のトマ(演:ヴァンサン・カッセル)の心を掴み、主役に抜擢される。喜びも束の間、ニナは役へのプレッシャーに押される。『白鳥の湖』はプリマが清純な白鳥と官能的な黒鳥の2役を踊る。完璧主義で生真面目なニナは白鳥の演技は完璧であったが、女性としての性的魅力に欠けると言われるニナにとって黒鳥を官能的に踊ることに苦戦していた。そこへ新人でありライバルのリリー(演:ミラ・クニス)が現れる。自由奔放で性的な魅力にあふれたリリーの存在がニナにとって脅威的なものとなり、ニナは次第に追い詰められ、現実と幻影があやふやになっていく。ある日、エリカの監視に耐えられなくなったニナはリリーと夜遊びをし、初めてのドラッグや男性と関係を持つことの愉しみを知る。翌朝、新たな愉しさを覚えたニナの踊りは前日までとは変わり、官能的な黒鳥の踊りも魅力的に踊れるようになっていた。しかしニナは幻覚と現実がわからなくなっていき、公演前日には舞台裏でトマとリリーが性行為をしている場面に遭遇するが、トマが黒い羽を纏った姿に変形していき、リリーの顔もだんだんニナの顔に変わっていくという幻覚をみる。帰宅しても幻覚は止まず、母が描いた絵が自分をあざ笑うかのように見えたり、黒い羽根が背中から生えてきたりしてニナは気を失ってしまった。
公演当日、エリカはニナが役に潰されることを恐れて、劇団にニナ降板の連絡をしていたが、ニナは主役を演じること以外見えておらず劇場に向かった。ニナは幻覚が収まらないまま舞台に立った。最初は順調に役をこなすニナだったが、プレッシャーから大きな失敗をしてしまう。王子様役のダンサーがニナを受け損ね落としてしまったのだ。すっかり憔悴して楽屋に戻ると、そこには黒鳥のメイクをしているリリーの姿があった。そして黒鳥のメイクをしたリリーがニナ自身に変容していく幻覚をみながら、リリーと揉みあいになり、割れたガラスの破片でリリーを刺殺してしまう。ニナはリリーの死体を隠し、第三幕を踊るため黒鳥の姿で舞台に上がった。
ニナは情熱的に官能的に黒鳥を踊り、観客はその魅力に圧倒され、総立ちになり、あふれんばかりの拍手でニナを褒め称えた。
舞台を降りたニナが楽屋で待機していると、そこにリリーの死体はなく、ニナの踊りに感動したリリーが激励の言葉をかけに現れた。この時ニナは先ほどリリーと争ったことは幻覚で、刺したのはリリーではなく自分自身だったということに気づいた。
第四幕が上がりニナは完璧に白鳥を踊りきった。最後に白鳥が飛び降り、自殺するシーンまで演じきったニナをたくさんの拍手が包み込む。トマが駆け寄り、ニナの熱演を賞賛する中、ニナは「完璧よ」とつぶやき目を閉じた。

批評面、興行面ともに評価が高く、第83回アカデミー賞では作品賞を含む5部門で候補に挙がり、主演のナタリー・ポートマンは主演女優賞を手にした。
第67回ヴェネツィア国際映画祭のオープニングとして初演され、リリーを演じたミラ・クニスがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)を受賞した

アメリカの評論サイトRotten Tomatoesでは255名の批評家のうち88%が好意的な評価を下し、平均点は10点満点で8.2点となった。

アメリカの雑誌『REASON』の記者、カート・ローダーは、映画が「素晴らしく気味が悪い」と言い、「完全に満足させない。しかし、それは監督の普通の創造的な生気で煎じられ、すばらしく暗くてきらりと光る外観がある」と記している。

日本での公開劇場について、当初はTOHOシネマズシャンテでの小規模公開を予定していたが、ナタリー・ポートマンのアカデミー賞受賞を受けてTOHOシネマズ日劇に変更して全国拡大公開した。

興行収入は北アメリカで累計1億ドル以上、日本では23.9億円を売り上げ、大ヒット作品となった。

『ブラックスワン』のあらすじ・ストーリー

歪んだ親子関係

ニューヨークのバレエカンパニーに所属するニナ・セイヤーズ(演:ナタリー・ポートマン)はある朝、『白鳥の湖』演じる夢を見て目が覚める。
ニナの部屋はぬいぐるみがたくさん置いてあり、白とピンクを基調とした年の割に少女趣味な部屋だ。
起きるとすぐニナはストレッチを始めた。そしてニナは朝食のピンクグレープフルーツを食べながら、母・エリカ(演:バーバラ・ハーシー)にその夢の内容を話し、劇団の演出家であるトマ・ルロイ(演:ヴァンサン・カッセル)が「今シーズンは私を主演に推したい」と言っていると伝えた。
エリカは一度不機嫌を隠すように下を向いてから笑顔になり、「それは当然よ。あなたは劇団で長いし、誰よりも努力しているんだから」と言い、またすぐに真顔に戻った。
エリカはニナに上着を着せようとニナの背後にまわると、ニナの肩甲骨当たりにひっかき傷があることに気づいた。「これ何?」とエリカは顔を曇らせた。「何でもない」とニナはエリカから視線を反らした。
これからニナは劇団に出かけるのだ。「本当についていかなくていい?」エリカはもう大人のニナに言う。
エリカ自身も元バレリーナであり、今は絵画を描いて生活しているが、自分が果たせなかった一流のプリマになるという夢をニナに託すステージママとなっていた。
ニナに対して過剰なほどの愛情を注ぎ、その期待から友人との外出を禁止したり、常に携帯電話で連絡を取るというような異常な束縛を見せていた。ニナはバレリーナとして才能を開花していたが、臆病にもなっていた。

気になるライバルの出現~ 『白鳥の湖』のオーディション

ニナは地下鉄で劇場に向かっていた。隣の車両におそらくバレリーナであろう、自分と同じように髪をお団子にまとめ、黒い服を纏った女性が乗っていることに気づき、意識する。
その女性はニナの降りる駅より前の駅で降りていった。
ニナは劇場の前に貼ってあるポスターを眺めた。ポスターには劇団の現プリマドンナであるベス・マッキンタイア(演:ウィノナ・ライダー)が大きく写っていた。
楽屋に入るとベスの話の話でもちきりだった。ベロニカ(演:クセニア・ソロ)が「プリマを変えるべき。更年期に差し掛かっていない人」とベスの悪口を言った。
ニナは「悲しいわ。ベスは素晴らしいダンサー」とベスを庇った。
そこへ黒い服を着た女性が「ここはソリストの楽屋?降りる駅間違えちゃって」と言いながら楽屋に入ってきた。
地下鉄に乗っていたあの女性だ。彼女はサンフランシスコから来たリリー(演:ミラ・クニス)という新人のバレリーナだった。
全体のレッスンの最中、演出家のトマが次回の上演は『白鳥の湖』に決まり、新しいプリマを選ぶと発表した。『白鳥の湖』は清純な白鳥と官能的な黒鳥2役を1人で踊るため、相反する事柄を1人で表現する実力がいる。ニナは次こそ自分がプリマの座を射止めると心に決めていた。

ニナがベスの楽屋の前を通りかかるとドアが開いており、ベスが荒れていた。おそらくトマからプリマを降りることを言い渡されたのであろう。ベスは怒りながら楽屋を出ていった。ニナはこっそりベスの楽屋に入った。ニナはベスへの憧れの気持ちから鏡の前に置いてあった赤いルージュを盗んでしまう。

オーディションででニナは『白鳥の湖』を踊る。トマは「白鳥の役だけ踊るなら君を選ぶ」とニナに言うが、問題は黒鳥の方だった。黒鳥を踊るニナにトマは「体が硬い。もっと誘惑しろ」と厳しい指摘をした。黒鳥の踊りの途中、ドアが急に開いてその音で集中力が切れてしまったニナはよろけてしまう。入ってきたのはリリーだった。

ニナが地下鉄で帰宅する途中、電話の着信が鳴る。エリカからだった。電話に出ず携帯を閉じると、少し前の方に黒い服を来た女性がいて彼女もまた携帯を閉じていた。前から歩いてくる女性を何となく怖く感じながら彼女の顔を見ると自分の顔のように見えるのだった。
ニナが帰宅するとエリカは「どうだった?」と聞いた。「よかった」とニナは答えるが、エリカに抱きつき泣き出してしまう。オーディション中、リリーが急に部屋に入ってきたので集中力を切らせて失敗してしまったことや、トマに「ニナには黒鳥の踊りは踊れない」と言われたことを思い出し、主役には選ばれないかもしれないと不安になったのだ。
ニナは帰宅後もストイックに鏡の前で黒鳥の踊りを練習し続けた。足はボロボロで親指の爪が割れてしまった。
エリカはニナの爪の手当てをし、「うまくいかない日もあるわ。結果がどうあれ4羽の白鳥には選ばれるわ。あなたは素晴らしい」と優しくニナを慰め、ニナを撫でた。
ニナはエリカに撫でられながら眠りにつく。

『白鳥の湖』の主役に選ばれるニナ

翌日、ニナはベスから盗んだ赤いルージュを塗りトマのところへ向かった。
ニナは場合によってはトマに色仕掛けしてでも役に推してもらいたいと考えていたが、いざトマを目の前にするとニナは急に恥ずかしくなった。
ニナは「コーダ(黒鳥の踊り)を練習して踊れるようになった」とトマに伝えたが、トマに「技術の問題じゃない。もう主演はベロニカに決めた」と言われると、すぐに了解して逃げようとした。
トマは「めかしこんで私を説得しに来たんじゃないのか?」とニナを煽ってくる。「私を主役に抜擢して」ニナは弱弱しいながらも真っ直ぐにその思いをトマに伝えた。
するとトマはその覚悟を試すかのように突然ニナにキスをしてきた。突然のことに驚いたニナはトマの唇を噛んでその場を逃げ出してしまう。
長年ニナを見てきたトマは、生真面目で自分を抑制をすることに長けているニナが人の唇を噛むという新たな一面を持っていることを知り、ニナに主役を任せるという賭けようと決意する。

『白鳥の湖』の配役表が貼りだされた。ニナはてっきりベロニカが主役になったかと思っていたが、主役に選ばれたのはニナだった。
ニナは嬉しさのあまりトイレに駆け込みエリカに主役になったことの報告の電話をした。しかしトイレから出たニナが見たのは鏡に赤いルージュで書かれた“アバズレ女”の文字。
慌てて文字を拭き消そうとするニナ。周りはニナの座を狙うライバルばかりだった。

ニナが帰宅し、母の部屋に入ると、母の描いた女性の絵の目が動いたような気がした。バスルームに入り、鏡を見ると、肩甲骨のあたりの傷から血が出ている。
「ママはキッチンにいるから」と言うエリカの声でキッチンに向かうと、バレリーナの飾りが載った大きなケーキが用意されていた。エリカがニナを祝うために買ってきたのだ。
エリカはそのケーキを大きくカットした。「緊張して胃が縮んでいるから小さくして」とニナが言うと、エリカは気を悪くしてケーキを捨てると言いいごみ箱に入れようとした。
「ごめんなさい」とニナが謝り、ニナはエリカの指についたクリームを舐めた。

レッスンが始まった。ニナはやはり黒鳥の踊りに苦戦していた。その上、ライバルで新人のリリーが予測不能で表現豊かな演技を見せることに焦りを感じていた。
資金提供者への会合の席でニナは華々しく次作『白鳥の湖』の主演と紹介される。同時にそれまで憧れていたベスの引退も発表された。
会合が終わりニナがトマを待っていると、そこにベスが現れた。どうやって主役をとったのかベスは問い詰め、「アバズレ女」とニナを罵る。
トマとトマの家に行きお酒を飲みながら、ニナの性的な経験の話になる。
トマはニナが性的な魅力に欠けるのは自分を抑制しているからだと考え、自分で触って愉しみを知るという宿題を出す。

自宅に帰ったニナをエリカが迎え、「自分でやる」というニナの言葉も聞かずにアクセサリーを取り、服を脱がせた。
ニナの肩甲骨当たりの傷を見ると、「また爪でひっかいたのね」と怒り出し、もう大人のはずのニナの爪を切った。そして「あの役のせいね。荷が重いんでしょ。やっぱり無理だと思っていた」と言い、切りすぎたニナの指先に口をつけ、「大丈夫よ」と何度も呟いた。

翌朝、ニナはベッドでトマに言われた自慰を試みるが、近くの椅子にエリカが座って寝ていたことに気づき、慌ててやめる。
ニナの部屋には鍵もついておらずプライバシーなどないのだ。

レッスン中のバレリーナたちのもとにベスが交通事故に遭い入院したというニュースが飛び込んでくる。
ベスのことが気になり見舞いに行ったニナはベスのぐちゃぐちゃになった脚をみて動揺を隠せなかった。

ベスが入っていた個室の楽屋にニナが入ることになったが、ニナの荷物はベスから盗んだ赤いルージュ、香水、爪やすりくらいだ。

プレッシャーはますますニナを追い詰めるが、満足のいく黒鳥の演技はできない。
居残り練習でトマから個人的にレッスンを受け、トマから誘惑されたニナはトマから「これじゃ逆だな」と言われ、どうすればよいのかわからなくなりその場で一人泣いていた。
そこへリリーが現れた。リリーはニナに「何かあったら話を聞く」と声をかける。ニナがつらい気持ちを話すと、リリーは「トマは優しくない」とニナに同情したが、ニナはトマを非難することができない。
そんなニナをリリーが「トマのことが好きなのね」とからかった。ニナはリリーを振り切ってうちに帰った。

風呂場でニナはトマから出された課題の自慰を試みるが、プライバシーがないので専念できない。湯船に潜っていると、上から血がぽつりぽつりと滴り落ち、一瞬リリーの顔が映ったような幻影を見て恐ろしくなる。指先からも血が出ていた。風呂を出てかがみの前で慌てて爪をきると、鏡に映った自分の顔が恐ろしい表情になり、深爪してしまう。バスルームの外からは相変わらずニナを心配するエリカが呼ぶ声がする。

翌日のレッスンでは、昨日ニナが稽古場で泣いていたことがトマに伝わっていた。リリーは良かれと思ってしたことだったが、ニナは告げ口されたと思い、怒る。トマからは「才能はあるが臆病だ。もっと強くなれ」と叱咤される。

母への初めての反発

帰宅してもニナはむしゃくしゃしていた。そんなニナに、エリカは別の心配をしてくる。「女好きのトマに言い寄られていないか?」と言うのだ。
エリカは事あるごとに「自分と同じ過ちを犯すな」とニナに忠告してくる。エリカは28歳の時にニナを妊娠し、バレリーナとしてのキャリアを諦めたのだという。
ニナはそれに反感を感じていた。28歳と言ったらバレリーナとしては旬を過ぎている。それを自分を妊娠したからと言うのはあんまりではないか。
エリカはニナの肩甲骨当たりの傷をひっかいていないか服を脱いで見せろと言う。あまりに干渉してくるエリカにニナは反発し、嫌だときっぱり言った。
その時だった。玄関のチャイムが鳴った。エリカは出るとすぐにドアを閉めた。ニナはきっと自分に関係がある人だと思い、ドアを開けた。来たのはリリーだった。
トマにニナが泣いていたことを言ったことを謝ろうとしてきたというのだ。
飲みにいかないかと誘われたニナ。いつもならエリカに怯え、断るところだったが、むしゃくしゃする気持ちとエリカへの反発心から出かけることにする。

リリーと出かけたバーでニナは初めてのドラッグを経験し、見知らぬ男と体を重ねる。エリカから電話は頻繁にかかってきたが無視した。
タクシーでニナはリリーと一緒にうちに帰った。
酔って気が大きくなったニナはつっかい棒をしてエリカを締め出し、リリーとの性行為にふける。
しかしそれはニナの夢だった。

あやふやになっていく現実と幻影

翌朝、ニナは寝過ごした。レッスンの時間はとっくに過ぎていたがエリカはニナを起こさなかった。昨日のニナの反抗的な態度に腹を立てていたのだ。
急いて劇場に向かうと、リリーが代役として踊っていた。焦りを隠せないニナはリリーと昨晩あったことの答え合わせをする。するとリリーは昨晩はバーであった男と帰っており、ニナのところには泊っておらず、ニナが夢でリリーを求めてしまったことが明るみになってしまった。

性的に解放されたニナの踊りはこれまでとは違いとても魅力的なものになっていた。しかしリリーが代役だということは変わりない。ニナはリリーに役を取られるのではないかという強迫観念におそわれていた。
ニナはトマにリリーを代役から外してほしいと懇願するがはぐらかされる。
公演前日だというのにニナは焦りから稽古場で自主練習をしていた。するといきなり電気が消え、見えかけた人影を追うと、トマとリリーが絡み合うところを目撃してしまう。しかしトマが黒い羽根を纏った姿に変容し、それが現実なのか幻覚なのかわからなくなる。主役を取られるという恐怖にさいなまれ、誰かとそれを共有したいニナは、ベスの病室に盗んだものを返しに行く。
「あなたのように完璧になりたくて」というニナに、ベスは「完璧?私は何も持っていない。クズ」と自分を爪やすりで傷つけ始める。ベスの顔が一瞬エリカの顔に変わったように見え、ニナは怖くなりその場を逃げ出す。
帰宅してもニナの気持ちが落ち着くことはなかった。キッチンに何者かがいるように見えたり、母の部屋の絵が自分を笑っているように見えたりして気分も悪くなり吐いてしまう。異変を感じたエリカが事情を聴こうとするがニナは拒絶し、自分の肩甲骨当たりの傷から黒い羽根が生えてきて黒鳥に変化するという幻覚を見て失神してしまう。

公演日~黒鳥を演じ切る

翌朝、公演初日。ニナが目覚めると側にはエリカがいた。エリカはニナが役に潰されることを何より心配し、劇場に休むという連絡を入れていた。しかしニナはもう役を演じ切ることしか考えておらず、劇場に向かった。
エリカから連絡を受けていたトマはリリーが代役として踊るとニナに告げるが、ニナは聞く耳を持たない。
トマは「君の道をふさぐ者は君自身だ。解き放て」と背中を押し、ニナはリリーに主役を奪われるという幻覚が収まらないまま舞台に立った。

第一幕。白鳥のシーンはうまく踊りきったニナだったが、他のバレリーナたちが視界に入るたびに不安に駆られ、途中で幻覚に囚われ、床に落ちる失態を演じてしまう。

楽屋に戻るとそこには黒鳥のメイクをするリリーに姿があった。
「あたしが代わりに黒鳥を踊る」そうリリーに言われたニナはリリーと揉み合いになり、割れた鏡の破片でリリーを刺殺してしまう。
ニナは慌ててその死体をバスルームに隠し、黒鳥として第三幕の舞台に出る。

これまでにない情熱的で気迫あふれる演技をしたニナに観客からの拍手は鳴りやまなかった。
舞台を降りたニナは誰の目も気にすることなくトマと熱い口づけを交わした。
楽屋で殺してしまったリリーの血がバスルームから溢れてきたので、それを隠そうとタオルで血を拭いていると、リリーが感動を伝えるためにニナの楽屋を訪れる。
不思議に思ったニナがバスルームを覗くとそこにリリーの死体はなかった。そして自分の腹部が赤い血に染まっていることに気づいた。
すべては幻影だったのだ。ニナは自分で自分を刺していた。
自分が異常だということを知ったニナは泣くしかなかった。

最終幕が開き、ニナは再び白鳥として舞台に出た。観客席の中に涙をにじませるエリカの姿があった。
ラスト、白鳥が自殺するところまでを見事に演じきったニナはスタンディングオベーションに包まれる。
トマが駆け寄り賞賛するが、ニナの腹部の血を見て救急車を呼べと指示する。
鳴りやまない拍手の中で、ニナは薄れゆく意識の中、「完璧よ」と呟き目を閉じた。

『ブラックスワン』の登場人物・キャラクター

ニナ・セイヤーズ (演:ナタリー・ポートマン)

日本語吹き替えは坂本真綾。

物語の主人公。
生真面目な性格で毎日練習を欠かさず、食事制限もしていてバレエの技術も高い。
長年プリマを務めたベスの後に決まった『白鳥の湖』の主役に選ばれた。
清純で可憐な白鳥の役は完璧で演出家のトマのお墨付きをもらうが、妖艶で官能的な黒鳥の演技に苦戦し、だんだん精神のバランスを崩していく。
過保護で過干渉な母・エリカと2人暮らし。ニナはもう大人なのにエリカが携帯で常に連絡を取ってくることをニナは窮屈に感じている。
部屋もニナの趣味というよりは母がこうあってほしいという娘の姿が映し出されたようなピンクと白を貴重したぬいぐるみがたくさん置いてある少女趣味な部屋である。
プライバシーがないので妖艶な演技をするためにトマから貸された課題である自慰もできない。
もともと自傷癖があるが、バレエに追い詰められだんだん幻覚を見ることが多くなり傷も一層ひどくなっていく。
うまく黒鳥を演じられない苛立ちと母のうっとおしい過干渉に嫌気がさし、リリーと夜遊びをし、翌日以降妖艶に黒鳥を踊れるように開花する。
主役を演じることに執着しており、恐ろしい幻覚を見ても『白鳥の湖』を演じきった。
生真面目さ故、人を悪く言えない正確。すぐに謝るのも弱い証拠と演出家のトマに言われる。

トマ・ルロイ(演:ヴァンサン・カッセル)

日本語吹き替えは森田順平。

ニナが所属するバレエ団の演出家。
少し女癖は悪いが、演出家としての才能は一流である。
長年、ベス・マッキンタイアをプリマドンナにしたバレエの演出をしてきたが、興行が思わしくいかないこともあり、主役を交代させ、新たなプリマドンナにニナ・セイヤーズを迎え、新しい解釈の『白鳥の湖』の上映を決める。
ベスのことを「わが姫君」と呼んでいたが、ニナ主演の『白鳥の湖』の上演後にはニナのことを「わが姫君」と呼んでいる。
清純さが売りのニナが赤いルージュを引き、色仕掛けをしてでも「主役に抜擢してほしい」と頼んできたとき、その覚悟を試すかのようにニナにキスをした。
唇をニナに噛まれ、そこでニナの気の強い一面を見いだし、主役に抜擢することに決めた。

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@taki_taku888

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