タクシー運転手 約束は海を越えて(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『タクシー運転手 約束は海を越えて』とは、1980年の光州事件時の実話を基にした、韓国発の社会派映画である。楽観的で明るい性格のマンソプ(ソン・ガンホ)はタクシードライバーをしながら、男手一つで娘を育て奮闘していた。ある日、同僚からの高額なお客の依頼を聞きつけ、生計に困っていた彼は、この機会を逃すまいと同僚からそのお客を奪取した。しかし、そのお客とは、ドイツ人記者、ピーター(トーマス・クレッチマン)であった。この二人の出会いが韓国の運命を大きく変えることとなる。

「便衣」とは平服という意味であり、「便衣兵」と呼ばれるものには2種類あります。
1 一般市民が武器を取って抵抗するもの
2 軍隊が一般市民に偽装して作戦を行うもの

出典: www.nishino-law.com

本作品では、後者の意で扱われる。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ピーター「必ず守る」

ジェシクが、ピーターに「韓国で起きているこの惨状を必ず世界に発信すると約束してほしい。」とし、ピーターが「必ず守る」と言うこのシーン。この後、ジェシクは軍に捉えられ、ピーター達が追い詰められた際に再びピーターに同じ言葉を投げかける。そして、ピーターは再び力強く「必ず守る」と言う。ピーターが最期に交わしたジェシクとの会話だった。ピーターとジェシクの短い間に築かれた、固い絆、そして、お互いの命を懸けた約束がこのセリフに込められている。

ファン「心配するな」

軍に追われ、ついに軍に包囲された矢先、助け舟として現れたファン率いる光州のタクシードライバー達。彼らも、命懸けで、軍用車に突撃し、道ずれにしていく。最後にファンのみになったとき、彼が覚悟を決め、マンソプらに「心配するな」と声をかける。彼の優しさ、強さがわかる名セリフである。

ピーターから預かった報酬をマンソプに渡すシーン

このシーンは、マンソプが私服軍人からの酷い暴行に遭い、ウンジョンのためを思うと、報酬よりも大切なものがあるとし、ピーターの前から立ち去る。その時に、ファンが駆け付け、ナンバープレートとピーターから預かっていた報酬を渡すシーンである。マンソプは、「受け取れない」と拒否していたが、ファンに、「車の修理費もあるだろう」など説得される。光州のつくまでのマンソプなら喜んで受け取るはずだが、光州に来た短時間でのマンソプの心境の変化が判るシーンの一つでもある。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

マンソプは虚構の人物

当時、この映画が記録的大ヒットをしている中、主人公マンソプのモデルであろうキム・サボク氏の息子キム・スンピル氏が、本作品を視聴し、「もしかしたらこれは父のことかもしれない」と名乗りをあげたという。更に、彼によるとサボク氏であろうマンソプのキャラクターがあまりにも父親とかけ離れていたと言う。

息子のヨンピル氏がこう語るように、マンソプとサボク氏には大きな違いがいくつかある。キム氏は、1980年当時、ソウルでパレスホテル所属の外国人専用タクシーを運営した。日本語と英語が堪能で、外信記者たちはキム氏のタクシーをたくさん乗った。また、ヒンツペーター氏とサボク氏は、光州に行く前から交流があったともいう。

キム氏は初めて映画を見た後「喜びと無念が交錯した」と話した。「父が民主化に無言で寄与した点が知られた点はうれしかったんです。けれど、父をモデルにした“マンソプ”というキャラクターは虚構の人物でした。マンソプの話が父の話であるかのように思われたら困ると、無念な思いもありました」

出典: japan.hani.co.kr

「父とヒンツペーター記者は5・18民主化運動より5年前の1975年頃から交流がありました。」当時光州の状況を知っていたキム・サボク氏は、ヒンツペーター記者と“同志的関係”で動いたということだ。

出典: japan.hani.co.kr

映画の中にも描かれているが、マンソプとピーターは、再会出来ずに物語は終わる。なので、マンソプに関しては、製作陣でも、サボク氏自身や家族も発見出来ず、恐らく情報がかなり少なかったこともあり、完全オリジナルのキャラクターとしたのであろう。そこで、ヒンツペーター氏の証言や、取材などを基に中心にノンフィクションも交え映画化したと推測される。なので、正確には、マンソプのモデルはサボク氏ではないのである。

ヒンツペーター氏は死後サボク氏と再会を果たした

光州には、”ヒンツペーター記念庭園”があり、そこには彼の生前寄付した、髪の毛や爪が埋葬されているという。キム・サボク氏の息子である、スンピル氏によると

「京畿道揚州市(キョンギド・ヤンジュシ)の清涼里(チョンリャンリ)大聖堂の墓地に埋葬されていた父の遺体を火葬して、5・18旧墓地にあるヒンツペーター記念庭園に移葬する」

出典: www.donga.com

とのことで、彼らはようやく念願の再会を果たしたのである。

映画での後半のソウルに向かう検問のシーンはオリジナル

saku_ok_rock
saku_ok_rock
@saku_ok_rock

Related Articles関連記事

パラサイト 半地下の家族(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

パラサイト 半地下の家族(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『パラサイト 半地下の家族』とは、2019年のスリラー、ブラックコメディー韓国映画。『殺人の追憶』『母なる証明』で知られるポン・ジュノ監督と主演ソン・ガンホが再度タッグを組み第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞。アカデミー賞では4部門で受賞と世界的に注目を集めた作品。韓国の貧しい地域の半地下のアパートで生活するキム一家は全員が失業中で貧困だが結束の固い家族。一方、豪邸で裕福な暮らしをするIT企業社長のパク一家。境遇の異なる二つの家族が思いもよらない衝撃の結末を迎える。

Read Article

弁護人(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

弁護人(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『弁護人』とは、2013年に韓国で公開された映画で、監督はヤン・ウソク。主人公は韓国の元大統領の盧武鉉(ノ・ムヒョン)がモデルで、物語の大筋は彼の半生を描いている。高卒で司法試験に合格して弁護士になったソン・ウソクは、知人が共産党主義者の疑いで取り調べを受けていると知る。拷問に近い取り調べの実情に驚愕したウソクは彼らの弁護人として法廷に立つことを決め、無罪を勝ち取ろうと奔走する。この物語は、金儲けのために働いていた一人の弁護士が人々のために劇的に変化していく様を、事実に基づいて描いた作品である。

Read Article

ベイビー・ブローカー(是枝裕和)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

ベイビー・ブローカー(是枝裕和)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ベイビー・ブローカー』とは2022年に公開された韓国映画である。監督は日本人である是枝裕和。2022年5月に行われたワールドプレミアでは、上映終了後12分間にも及ぶスタンディングオベーションが起こった話題作だ。赤ちゃんポストに入れられた乳児をこっそり連れ出し子どもを望む夫婦へ違法に売る2人の男。ひょんなことから赤ちゃんを置き去りにした母親が現れ、一緒に養父母を探すことになる。養父母を探す旅に出た彼らを現行犯逮捕しようと、2人の刑事が尾行していた。それぞれが複雑な状況を抱え物語は進んでいく。

Read Article

目次 - Contents