虹色のトロツキー(安彦良和)のネタバレ解説・考察まとめ
『虹色のトロツキー』とは、1990年より1996年まで、安彦良和が『月刊コミックトム』に連載した漫画作品。昭和初期の満州を舞台に、日本人の父とモンゴル人の母との間に生まれた青年・ウムボルトが、レフ・トロツキーを満州国に招く「トロツキー計画」に関わり、自身のルーツに迫っていく姿を描く。舞台となる満州国や日本を中心とする第二次世界大戦直前の世界情勢の中で、トロツキーをめぐって国家や民族、人々の思惑が絡み合い、複雑な人間ドラマが形成される。石原莞爾や辻政信、甘粕正彦といった実在の人物が多数登場する。
『虹色のトロツキー』の概要
『虹色のトロツキー』とは、1990年より1996年まで、安彦良和が『月刊コミックトム』に連載した漫画作品である。
安彦良和はアニメーターとして『機動戦士ガンダム』『クラッシャージョウ』『ヴイナス戦記』など携わり、1979年に漫画作品『アリオン』を発表してからは漫画家としても活動していた。1989年の『ナムジ』以降、専業漫画家となり、次いで発表されたのが今作である。
日本人の父とモンゴル人の母を持つ主人公・ウムボルトは、少年時代に両親をトロツキーに似た人物に殺害された。成長したウムボルトは日本陸軍・関東軍の中心人物である石原莞爾(いしはらかんじ)や辻政信(つじまさのぶ)らによって、創立されたばかりの満州国・建国大学に特別編入させられる。石原らは、ソ連を追われて亡命生活をよぎなくされていた革命家のレフ・トロツキーを満州国へと招き、建国大学で教鞭をとらせようという「トロツキー計画」を企んでおり、ウムボルトを引き込むことを目論んでいた。日本に対する嫌悪感を抱きつつも「トロツキー計画」によって翻弄されるウムボルトは、石原莞爾、辻政信、元軍人で満州国建設に関与した甘粕正彦(あまかすまさひこ)、抗日運動の先輩格である孫逸文(ジャムツ)、馬賊のリーダーである謝文東(しゃぶんとう)、「トロツキー計画」を阻止しようとする安江仙弘(やすえのりひろ)大佐などを通じ、自身のルーツや民族のアイデンティティに目覚め、成長していく。
主要な登場人物は一部をのぞいてほとんどが実在の人物であり、描かれるエピソードは史実によるものか、歴史考証に裏付けられたフィクションであり、リアリティの高い濃密な作品世界が展開される。
潮出版社から単行本(全8巻)、中央公論社より中公コミック文庫版(全8巻)、双葉社より愛蔵版(全4巻)が出版されている。
『虹色のトロツキー』のあらすじ・ストーリー
建国大学入学
昭和13年6月。日本人の父とモンゴル人の母の間に生まれた青年・ウムボルトは、満州の建国大学に特別研修生として入学する。彼は幼い頃に、ロシア革命の指導者のひとりであるレフ・トロツキーと思われる謎の男に家族を殺され、自身も記憶を失っていた。
ウムボルトの後見者である関東軍の石原莞爾(いしはらかんじ)や辻政信(つじまさのぶ)は、トロツキーを満州に招き、建国大学で教鞭をとらせるという「トロツキー計画」に、ウムボルトの記憶を利用しようと目論んでいた。
ウムボルトは石原や辻、合気道師範の植芝盛平(うえしばもりへい)から、亡き父・深見圭介(ふかみけいすけ)が陸軍の大陸工作に関わっていたことを知る。
また、ウムボルトは以前、抗日運動に関わっており、日本の憲兵による拷問を受けた際に、辻によって救い出された過去があった。
そんな経緯もあり、ウムボルトは日本に対して嫌悪感を抱きつつも、石原や辻の要求を拒絶することができずにいた。
その後、石原は病気療養のため日本に帰国する。それを知ってショックを受けたウムボルトは故郷に帰り、幼馴染で抗日運動家であるジャムツ(孫逸文)や、彼を助ける麗花(れいか)と出会い、行動を共にする。
建国大学に戻ったウムボルトは、満州は民族共和の理念からかけ離れているとして、その現状にあらがう学生たちの考えにふれる。
自身のルーツ、民族的なアイデンティティに目覚めたウムボルトは、あえて「トロツキー計画」に関わっていくことになる。
抗日武力闘争に身を投じる
ウムボルトは辻とともにハルビンへと赴き、かつて父と関わりがあったというロシア人と接触する。しかし、その男は何者かによって殺されてしまい、情報を得ることはできなかった。
ウムボルトは「トロツキー計画」を阻止しようとするユダヤ評議会の手の者に拉致される。その窮地を救ったのは、ジャムツや麗花ら抗日戦線のメンバーだった。
一方、辻は奉天特務機関の楠部金吉(くすべかねきち)にウムボルトの確保を命じるが、ウムボルトは混乱の中で楠部を殺害してしまう。
これを見た馬賊のメンバーに頭目として迎えられたウムボルトは、抗日武力闘争に身を投じる。
だが、馬賊としての活動はしだいに行き詰まる。この状況を打開するため、抗日聯軍(こうにちれんぐん)第八軍を率いる謝文東(しゃぶんとう)を頼ることとなった。
謝文東の軍に合流したウムボルトは、その活躍によって謝文東からの信頼を得る。
しかし、謝文東の軍はしだいに関東軍に追い詰められ、その活動は限界に達しつつあった。
そんな中、ウムボルトの前に植芝盛平が関東軍大連特務機関長である安江仙弘(やすえのりひろ)大佐を伴って現れる。
安江はウムボルトの父のかつての同僚であり、その目的は「トロツキー計画」を阻止することにあった。
安江に協力を要請されたウムボルトは、父が関わっていた「トロツキー計画」について部分的に知ることになる。
ウムボルト、父と母がなぜ殺されたのかを知るため、安江に従うことを決める。
満州国興安軍に赴任
ウムボルトは満州国興安軍の少尉に任官し、興安軍の軍官学校に赴任する。
ここで軍官学校校長代理であり、幼少期に親しくしていたウルジン将軍と再会し、失っていた記憶を断片的に取り戻した。
ほどなくしてウムボルトは、上海にトロツキーがいるという情報をもとに、それが本物であるか確かめるために上海に向かうことになった。
トロツキーはかつて、ライバルであるスターリンとの党内論争に敗れ、党を除名された。そしてスターリンはソ連の権力を握る。
スターリンは、日本やドイツを混乱させるため、そしてトロツキーを陥しいれるため、トロツキーの影武者を用意したという。
安江はウムボルトの父・深見が接触していたトロツキーは、その影武者の1人だと考えていた。
ウムボルトがこの上海のトロツキーと会い、これが両親を殺した「トロツキー」と同一人物だと確認できれば、石原や辻が進める「トロツキー計画」を阻止することができる。
案の定、このトロツキーは偽物だった。
しかし、ウムボルトは父母を殺した「トロツキー」とこの偽トロツキーが同一人物だとは認めようとしなかった。
上海から興安へ戻ることになったウムボルトは、汽車の中でジャムツと再会する。
ウムボルトはジャムツに裏切りを勧められるが、それを断り、ジャムツに拘束されて洗脳されていた麗花を助け出して興安へ戻る。
ノモンハン事件勃発
同じ頃、満州国とモンゴルの国境付近では、関東軍とモンゴル軍との小規模な戦闘が頻発していた。
モンゴル軍を支援してソ連軍が南下してくるという情報を得た辻は、功名心から国境付近に出向き、作戦を立案。戦火が拡大し、ついに「ノモンハン事件」が勃発する。
興安に戻ったウムボルトも蒙古少年隊を率いて戦場に送られた。ウムボルトたちは最前線に配置され、ソ連軍相手に死闘を繰り広げる。
ウムボルトらの少年隊・生徒隊は、壊滅的な被害を受ける。
ウムボルトはその後、満州国軍人・ジョンジュルジャップの手引きにより、関東軍の花谷正(はなやただし)大佐と対面する。彼こそが、ウムボルトの父・深見の死について真相を知る人物だった。
深見の死の真相、それは「陸軍の総意」だった。
当時、関東軍は中国東北部の軍閥(ぐんばつ)の長で、日本に協力的だった張作霖(ちょうさくりん)が日本のいうことに従わなくなったので、河本大作(こうもとだいさく)大佐が中心となって張を爆殺した。
日本政府は河本を処分しようとするが、河本を守りたい関東軍は、あらぬ嫌疑を招きかねない工作はすべてもみ消す決定をする。
深見が関わる「トロツキー計画」が露見すると、関東軍への心証が悪くなる。そのため関東軍は深見を殺し、計画を闇に葬ったのだった。
真相を知ったウムボルトは刀の柄に手をかけるが、花谷を殺すのは思いとどまった。
少年隊・生徒隊は、後方に送られるが、ウムボルトは連絡役として前線に取り残されることになった。
戦況が悪化する中、ウムボルトはソ連に投降しようとする兵に銃で撃たれ、怪我を負う。
かろうじて難を逃れてさまようが、やがて力尽き、荒野に斃れた。
『虹色のトロツキー』の登場人物・キャラクター
主要人物
ウムボルト
本作の主人公。父は日本陸軍中尉で関東軍に所属する深見圭介、母はモンゴル人のハーフ。
新疆で暮らしていた少年時代に「トロツキー計画」に関わっていた父と母が殺害された現場に居合わせ、そのショックで記憶を失う。
奉天の師範学校の学生だった時に抗日運動に関わり、憲兵に捕らえられて拷問を受けるが、関東軍の石原莞爾(いしはらかんじ)と辻政信(つじまさのぶ)に助けられる。
彼らの力添えで満州の建国大学に特別研修生として入学し、トロツキー計画に協力することを要請され、関わっていくことになる。
ハルピンでトロツキー計画を阻止しようとするユダヤ評議会に拉致され、幼馴染で抗日運動家であるジャムツによって助けられたことをきっかけに、抗日武力闘争に身を投じる。
その後、父のかつての同僚で、今は関東軍の中にあってトロツキー計画に反対の立場である安江仙弘(やすえのりひろ)に請われ、満州国興安軍の少尉として赴任する。
ほどなく「ノモンハン事件」が勃発し、部下を率いて参加する。
麗花(れいか)
キャバレーで歌う歌手であり、抗日運動家。女優・歌手として日本や満州で大人気だった李香蘭(りこうらん)に少し似ているとされる。
ジャムツとつながっており、ジャムツに助けられたウムボルトをかくまう。当初はウムボルトを嫌っていたが、憲兵からともに逃亡するうちに打ち解けるようになる。
ジャムツが失踪した後は、ウムボルトと関係を持つようになり、行動を共にする。
やがてウムボルト共に安江大佐の家に身を寄せるが、ウムボルトと袂を分かち、失踪しまう。
のちにジャムツに拘束されて人格矯正を受けるが、ウムボルトに助け出され、彼の子どもを身ごもる。
ジャムツ
ウムボルトの幼馴染。共産主義者で、「孫逸文」の偽名で抗日運動を行う。
ウムボルトにとっては抗日運動の先輩格にあたり、ウムボルトを仲間に引き入れようとし、たびたびその窮地を救う。
一方でウムボルトに対して複雑な心境を抱えており、ウムボルトと別れた麗花(れいか)を拘束し、人格矯正を行う。
のちに満州国の軍人・ジョンジュルジャップのもとで「王」の偽名で活動する。
ウムボルトと再会し、共産主義への寝返りを勧めるが拒絶される。
日本軍
石原莞爾(いしはらかんじ)
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目次 - Contents
- 『虹色のトロツキー』の概要
- 『虹色のトロツキー』のあらすじ・ストーリー
- 建国大学入学
- 抗日武力闘争に身を投じる
- 満州国興安軍に赴任
- ノモンハン事件勃発
- 『虹色のトロツキー』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- ウムボルト
- 麗花(れいか)
- ジャムツ
- 日本軍
- 石原莞爾(いしはらかんじ)
- 辻政信(つじまさのぶ)
- 東条英機(とうじょうひでき)
- 磯谷廉介(いそがいれんすけ)
- 片倉衷(かたくらただし)
- 三品隆以(みしなりゅうい)
- 植田謙吉(うえだけんきち)
- 服部卓四郎(はっとりたくしろう)
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- 石原莞爾「だがそれでも日中戦争はやめさせんといかん!でないと日本が滅びる!!」
- ベラロッテ「なにが満州国さ!なにが抗日ゲリラさ!どっちもどっちよ!子供のお遊びよ!」
- ウムボルト「どういう戦いなんだ」
- 朴基白「蒙古民族と共に闘えよ!そうしたらキミはジンギスカンになれる!」
- ウムボルト「人がひとり死んだんだぞ!!平気な顔をするな!!泣け!!」
- ウムボルト「非道な犠牲を人に強いるような大義など正しくはありません!!そんなものは犠牲になった者達の流す涙の万分の一の値打ちもない独りよがりです!!」
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- いしかわじゅんとの論争