虹色のトロツキー(安彦良和)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『虹色のトロツキー』とは、1990年より1996年まで、安彦良和が『月刊コミックトム』に連載した漫画作品。昭和初期の満州を舞台に、日本人の父とモンゴル人の母との間に生まれた青年・ウムボルトが、レフ・トロツキーを満州国に招く「トロツキー計画」に関わり、自身のルーツに迫っていく姿を描く。舞台となる満州国や日本を中心とする第二次世界大戦直前の世界情勢の中で、トロツキーをめぐって国家や民族、人々の思惑が絡み合い、複雑な人間ドラマが形成される。石原莞爾や辻政信、甘粕正彦といった実在の人物が多数登場する。

1938年にソ連東部の国境でおきた日ソ両軍の衝突事件。
現地の第19師団は大本営や朝鮮軍の制止を無視し、独断でソ連軍を攻撃。反撃を受けて多大な損害を出した。

抗聯軍(こうれんぐん)

東北抗日聯軍(とうほくこうにちれんぐん)の略。満州に展開した中国共産党指導下の抗日パルチザン組織。
中国人や朝鮮人の有名なパルチザンが所属し、のちにその一部が金日成(きんにっせい・きむいるそん)を中心に朝鮮民主主義人民共和国の権力の中枢を占めることになる。

五族協和(ごぞくきょうわ)

もとは辛亥革命(しんがいかくめい)の際に主張されたスローガンで、漢族・満州族・モンゴル族・ウイグル族・チベット族の五族が平等の立場で中国を建設することを目指した。
ここでは日本が大陸を侵略する際に使用したスローガンで、五族は日本・朝鮮・満州・中国・モンゴルをさす。

興安軍(こうあんぐん)

満州国内のモンゴル族居住地域である興安省(こうあんしょう)、熱河省(ねっかしょう)を含む地域を管轄した、満州国軍の部隊。
モンゴル人によって構成され、騎兵を主力部隊としていた。

ノモンハン事件

1939年、満州国とモンゴルの国境であるノモンハン付近でおこった日ソ両軍の大規模な武力衝突。
参謀本部と陸軍省は事件不拡大の方針をとるが、関東軍は中央の意向を無視して戦闘を続行。日本軍は大敗し、第23師団が壊滅した。

『虹色のトロツキー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

石原莞爾将軍時局大講演

石原莞爾(いしはらかんじ)が建国大学で行なった講演。
この講演で石原は「日本人は他の民族よりも優秀だからいい身分につきいい給料をとっていい暮らしをするのが当然だと思っているような大バカ者がいつの間にかはびこっている」、「参謀本部にも支那派遣軍にも馬鹿者達がいて蒋介石に勝つのはカンタンだと本気で考えとる」、「連中には支那(しな・中国)の広さがわからん!四億という人の数のスゴさがわからん!支那の底力というものがわかっとらんのだ」、「今は日本と支那が喧嘩しとる時じゃないというそういう一番大事なことが全然わかっとらん」と話し、このままでは日本はアメリカに勝てず、ソヴィエト・ロシアにさえ勝てないと、挑発的に生徒たちに語りかける。
陸軍始まって以来の秀才といわれ、満州事変の首謀者であり、型破りの言動によって日本の軍人の中でも特異な存在とされ、主人公・ウムボルトにも多大な影響を与える石原の、その魅力を伝えるシーンといえる。
ウムボルトは「(石原は)トロツキーを利用して満州国と中国をソ連との戦争に引きずり込むつもり」かと質問する。これに対し、石原は「スターリンが攻めて来なくてもソ連との戦争はある」と答えるのだった。

石原莞爾「だがそれでも日中戦争はやめさせんといかん!でないと日本が滅びる!!」

病気を理由に満州から日本に帰った石原莞爾(いしはらかんじ)のもとに、辻政信(つじまさのぶ)が訪ねてくる。
この時期の石原は、軍に予備役編集願いを出すが受理されず、生殺し状態だった。
酒を酌み交わしながら中国の動静を伝え、意気揚々と謀略について語る辻に、石原は「支那(中国)との戦争は容易なことでは終わらんぞ!」と反論。続いて「だがそれでも日中戦争はやめさせんといかん!でないと日本が滅びる!!」と語る。
その石原の迫力に、辻は沈黙せざるを得なかった。
満州事変(まんしゅうじへん)を引き起こした石原であるが、日中戦争は本意ではなく、ましてや日本が敵とすべきは米英ではなくソ連だと考えていた。
しかし石原は軍の主流から外れつつあり、その意に反して暴走しようとする関東軍の動向を傍観せざるを得ない状況となっていた。この場面は、それでもなお「民族共和」を追求しようとする理念を追求しようとする石原の姿を描いている。
その思いも虚しく、日本は無謀な戦争へと突入し、結局は石原の言葉通りの結果となった。

ベラロッテ「なにが満州国さ!なにが抗日ゲリラさ!どっちもどっちよ!子供のお遊びよ!」

ユダヤ人民会の工作員であるベラロッテは、ウムボルトを拉致してハバロフスクの人民裁判所への出廷を迫るが、ジャムツの率いる抗日聯軍に阻まれて失敗し、成り行きからウムボルトと行動を共にしていた。
日本の軍事行動が近いという情報をつかんだベラロッテは、ウムボルトたちとの意見の相違もあり、彼らのもとを去ることになる。
その際に麗花(れいか)と言い合いとなり、突き飛ばされ罵られたベラロッテは、腹いせに「おまえなんたちなんか今にみんなわたしの指先でひねり潰してやる」と言い返す。
そして「なにが満州国さ!なにが抗日ゲリラさ!どっちもどっちよ!子供のお遊びよ!」、「今に歴史の巨きな歯車でみんな押しつぶされるんだ!」、「情けも涙も無い鉄の法則があんたたちを裁くのさ!」と捨て台詞を残す。
のちにそれは現実のこととなる。歴史の渦の中に巻き込まれていくウムボルトたちの先行きを暗示するシーン。

ウムボルト「どういう戦いなんだ」

馬賊(ばぞく)に身を投じ、謝文東(しゃぶんとう)が率いる抗日聯軍(こうにちれんぐん)第八軍に合流したウムボルトは、郭立波(かくりゅうは)軍との戦いに参加する。
身を伏せて郭立波軍を正面から待ち伏せしながら、ウムボルトは建国大学での辻権作(つじごんさく)による教練をふと思い出す。
その甲斐もあって活躍し、謝文東軍を勝利に導いたウムボルトだが、戦闘中、ふと「これは何の戦争だ」、「いったい誰が、何のために、誰を殺しているんだ」と我に返る。ウムボルトが自身のルーツや民族的なアイデンティティにあらためて立ち返るきっかけとなるシーン。
勝利を喜ぶ謝文東軍の中で、ウムボルトは辻に対し「あなたの教練が役に立つ何で思わなかった こんなに早く しかもこんなかたちで」、「あなたは教え子達がみなひとつの目標に向かって力を合わせ戦うことを想っていただろうに…」、「いったいこれはどういう殺し合いだ…」、「どういう戦いなんだ」とむなしさを覚えるのだった。

朴基白「蒙古民族と共に闘えよ!そうしたらキミはジンギスカンになれる!」

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