ドラゴン怒りの鉄拳(Fist of Fury)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ドラゴン怒りの鉄拳』とは、1972年制作の香港映画。前作『ドラゴン危機一発』の大ヒットで一躍、香港のトップスターとなったブルース・リー主演の一連のカンフー映画の第2作目。日本公開は1974年。日本帝国主義が横行している1900年代初頭の上海を舞台に、中国武術の道場「精武館」を潰そうと企む日本人武術家一派に恩師を殺された青年が復讐を果たすため、単身で一派に立ち向かう姿を描く。

『ドラゴン怒りの鉄拳』の概要

『ドラゴン怒りの鉄拳』とは、1972年制作の香港映画。原題は『精武門』、英題は『Fist of Fury』。前作『ドラゴン危機一発』の大ヒットで一躍香港のトップスターとなった、ブルース・リー主演の一連のカンフー映画の第2作目。香港のゴールデン・ハーベスト社と、ロー・ウェイ監督の当時の個人プロダクション・四維影業公司(後の「ロー・ウェイ・プロダクション」の前身会社)の合作。日本帝国主義が横行している1900年代初頭の上海を舞台に、中国武術の道場「精武館」を潰そうと企む日本人武術家一派に恩師を殺された青年が復讐を果たすため、単身で一派に立ち向かう姿を描く。香港公開はゴールデン・ハーベストの配給で1972年3月22日。興行記録を2週間で塗り替え、アジア全域でも大ヒットとなった。日本では1973年の『燃えよドラゴン』の大ヒットを受け、『ドラゴン危機一発』に続き「ブルース・リー第3弾」として東宝東和の配給で1974年7月20日に公開された。
プロデューサーは、ゴールデン・ハーベスト設立者のレイモンド・チョウ。監督・脚本のロー・ウェイ、撮影のチェン・チンチュー、音楽のジョセフ・クーは、それぞれ前作『ドラゴン危機一発』に引き続き担当している。キャストには主演のブルース・リーの他、前作で端役だったノラ・ミャオが今回はヒロインを演じ、ジェームス・ティエン、トニー・リュウ、マリア・イー、リー・クン、ハン・インチェが前作に引き続き顔を揃えている。また、元は俳優だった監督のロー・ウェイが警察署長役で出演し、アメリカからボブ・ベイカー、日本からは橋本力と勝村淳が参加している。

本作の監督ロー・ウェイは、1976年にジャッキー・チェンを主役に抜擢した続編『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』を製作。この映画は本作の主人公チェンが学んだ精武館を舞台に、チェンの死んだ直後の物語を描いている。チェンのキャラクターは中華圏で親しまれ、定番キャラクターとなっており、ブルース・リャン、ジェット・リー、ドニー・イェンといったスターが、精武館を題材にした映画やテレビドラマで演じている。また、台湾でブルース・リーのソックリさんとして活躍した俳優”ブルース・リィ”ことホー・チョンドーは、本作の続編と銘打った『精武門續集』『截拳鷹爪功』(1978年・いずれも日本未公開)に出演しているが、それらの作品は本作に無許可で製作されていた。

『ドラゴン怒りの鉄拳』のあらすじ・ストーリー

日清・日露戦争で大日本帝国が勝利した数年後の上海。中国武術の大家であり道場「精武館」の創始者・ホーが病死した。だが死に至る病気ではなかったためその死因は謎に包まれていた。葬儀の日、ホーの愛弟子で若き武闘家・チェンが葬儀に参列するため上海に戻って来た。彼は恩師の不可解な死に疑問を抱き、必ず真相を暴くと精武館の仲間と誓った。やがて精武館に関係者が集まり初七日が行われた。そこへ日本武術の虹口道場の通訳でウーという男が門下生2人を連れて乗り込んできた。彼は館長から供養の品を預かって来たと言って、一枚の額を精武館の師範に渡す。そこには「アジアの臆病者」と書かれていた。虹口道場は館長であり日本武術協会会長も務める鈴木寛が、上海での絶大な権力を握っており、中国武術の精武館を潰そうと企んでいたのだ。ウーは散々嫌がらせを言って精武館の門下生たちを挑発し、「いつでも相手になってやる!」と息巻いて去って行った。

怒りの納まらないチェンは、翌日一人で虹口道場に乗り込むと、ウーが持って来た額を突き返す。そして居合わせた30人ほどの門下生たちを次々と痛めつけた。最後には黙って見ていた師範の吉田がチェンの相手になるが、簡単に叩きのめされた。この一件を知り、怒り心頭の鈴木は、すぐに手下を集めて精武館を襲撃するよう命令した。その頃、精武館では門下生たちが練習に励んでいたが、チェンが虹口道場に行ったことは誰も知らなかった。突然やって来た虹口道場の連中はあっという間に精武館になだれ込むと、抵抗する精武館の門下生たちと揉み合いになった。虹口道場の連中は散々道場内を荒らした挙句、「3日以内にチェンを引き渡さなければ精武館を潰す」と脅迫して引き揚げて行った。入れ替わるように精武館に戻って来たチェンに対し、精武館の師範は彼が1人で勝手な行動を取った事を責め、明日上海から出て行くように告げるのだった。

上海を出る事を余儀なくされたチェンは、その夜、皆が寝静まった後、一人師匠の遺影の前で過ごしていた。その時、怪しい物音に気付いたチェンは料理室へ忍んでいく。そこで精武館の使用人のフェンと、料理人のティエンのひそひそ話を聞いた。それは彼らがウーの指図でホーの食べる菓子に毒を入れたという事実だった。怒りに震えたチェンは2人を捕らえると衝動的に殴り殺した。その朝、師範の寝室に「師匠はこの菓子で毒殺された。敵を討つ」というチェンの書置きが毒入りの菓子と共に置いてあり、表にはフェンとティエンの死体が電信柱に吊るされていた。チェンはそのまま行方をくらましてしまう。

精武館の門下生たちは、チェンが犯人だと警察に知れる前に彼を探すことにした。そしてその夜、師匠の娘でチェンとは幼馴染のユアンは近くの墓地でチェンを見つけた。ユアンはチェンに戻るよう説得するが、彼は頑なに口を閉ざす。お互いに思いを寄せる二人は、将来一緒に家庭を持つ夢を語り合い愛を確かめ合うと、チェンはユアンに「決着が着いたら2人の夢を叶えよう」と言いその場を去った。一方、虹口道場では、ウーの入れ知恵で日本領事館から警察に圧力を掛けてチェンを引きずり出す手段に出た。警察署長は、精武館に対しチェンを引き渡さなければ道場が潰れることになると警告するのだった。

やがてチェンは虹口道場への復讐の行動に出る。まず手始めに人力車の車夫になりすましたチェンは、夜、宴会場から出て来たウーを待ち構えて車に乗せ、人の居ない通りに連れ込むと、彼が鈴木に頼まれてホーを殺したことを白状させた。そこでウーがチェンに抵抗したため、チェンはウーを殴り殺し、またもや死体を電信柱に吊るすのだった。そして翌日、今度は電話線の工事業者になりすましたチェンは、電話の修理で虹口道場に潜入。内情を探りながら館長の鈴木がどんな男なのかを確認し、とりあえず引き揚げた。

その夜、チェンは意を決して再度虹口道場に乗り込んだ。チェンが抵抗する門下生たちを相手にしていると、そこへ吉田が現れた。彼は日本刀を手に取ってチェンに斬り掛かる。格闘の末、チェンが刀を蹴り上げると、宙に舞った刀がそのまま吉田の背中に突き刺さり、彼は死亡する。チェンはそのまま奥の鈴木の部屋へ向かうと、鈴木の用心棒や、客人として来ていたロシア人の武闘家が立ちはだかった。だがチェンは彼等を簡単に血祭りにあげ、いよいよ鈴木との対決を迎えた。チェンの圧倒的な強さに恐れをなした鈴木は日本刀で立ち向かう。チェンも必殺の武器であるヌンチャクで対抗する。壮絶な戦いの末、最後は素手での殴り合いとなるが、チェンの必殺の飛び蹴りが炸裂し、吹っ飛んだ鈴木はそのまま絶命するのだった。

チェンが虹口道場で日本人たちを殺したことで日本領事館が動き出した。これには上海の警察も彼らの言いなりになるしかなく、警察署長と警官隊も出動して精武館にやって来た。日本領事はチェンの自首を要求し、さもなくば精武館を閉鎖し、門下生たちの命は保証しないと言う。チェンは2階の窓からこっそり帰ってきたが、師範と警察署長のチェンを渡す渡さないの押し問答を聞きつけると自ら姿を現した。チェンは「俺が自首すれば精武館は潰されずに済むのか?」と警察署長に確認すると、彼は「約束する。俺も中国人だからな」と答えた。チェンは日本領事にも「精武館には絶対手を出すな!」と念を押し、ゆっくりと外へ出た。だが、門の外には大勢の日本の憲兵や、列強の外国人がチェンに銃を向けていた。その状況にチェンは怒りが込み上げ、彼らに向かって走り出すと、一斉に銃弾の音が鳴り響いた。

『ドラゴン怒りの鉄拳』の主な登場人物・キャラクター

精武館の人物

チェン(演:ブルース・リー)

本作の主人公。
精武館の創始者・ホーの愛弟子で若き武闘家。
恩師のホーが病死したとの知らせで葬儀に参列するため上海に戻って来たが、ホーの不可解な死に疑問を抱き、必ず真相を暴くと精武館の仲間と誓った。その後、死因の真相が、虹口道場の館長・鈴木の仕組んだ毒殺だったことが判明し、復讐のため1人で虹口道場に乗り込んで鈴木に挑む。
虹口道場への復讐に対し、精武館の師範や仲間からは、恩師の教えを守らず1人で勝手な行動を取った事を責められるが、精武館を守りたい一心で独断の行動を貫く。だがホーの毒殺に関わった者たちを次々殺したことによって警察と日本領事館から目を付けられる。

ユアン(演:ノラ・ミャオ)

本作のヒロイン。
精武館の創始者・ホーの娘で門下生。
チェンとは幼馴染であり、将来一緒に家庭を持つことを夢見る恋人同士でもある。
父の復讐のために身勝手な行動を取っていることで精武館の師範や仲間から責められるチェンを、ただ一人擁護し、殺人を犯したことを自首するように促す。

師範(演:ティエン・フォン)

創始者のホー亡き後、精武館の館長代理を勤める。
ホーの「武術とは心身を鍛えるもので人と争うものではない」という教えを守り、精武館を潰そうとする虹口道場から再三の嫌がらせにも決して歯向かうことなく対応する。
警察署長からチェンの行方を聞かれ彼を差し出すように何度も命令されるが、行方をくらましたチェンが姿を現さないため警察の対応に窮している。

ファン(演:ジェームズ・ティエン)

精武館の門下生。
師範から一番信頼されているトップクラスの幹部候補生。門下生たちの信頼も厚く皆を引っ張っている。
虹口道場からの襲撃を受けた際に、散々殴られるも師匠の祭壇の写真を必死に守った。

スー(演:リー・クン)

精武館の門下生。
師範やチェンに対しても臆することなく意見を言う、口達者なムードメーカー的存在。
チェンを上海から逃がすための船の切符を買いに行った帰りに、街の電柱に吊るされたフェンとティエンの死体を発見した。

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