ドールズフロントライン(ドルフロ)のネタバレ解説・考察まとめ

『ドールズフロントライン』とは、中国のサンボーンが開発しているスマートフォン用のゲームアプリである。民間軍事会社の指揮官であるプレイヤーは、第三次世界大戦により荒廃した近未来を舞台に、人工知能の反乱により襲い来る機械の兵士たちを撃退するため、銃の名前を冠する戦術人形と呼ばれる機械の少女を率いて戦うことになる。

新生グリフィン基地を訪れたゼリンスキー局長は指揮官にアンジェリアの処分を命令する

〈指揮官救出作戦の成功直後〉
UMP45と404小隊による指揮官救出は成功した。しかし、指揮官が逃げ出したことを知った謎の組織こと「パラデウス」は何としても指揮官を抹殺すべく大規模な戦力を投入して追撃を開始した。一方、指揮官救出に向けて準備を進めてきたカリーナ率いる新生グリフィン部隊は指揮官を連れた404小隊を援護するために部隊を展開するのだった。

〈エピローグ〉
ようやく新たなグリフィン基地へ帰還した指揮官。そこに待っていたのは、しばらく会わないうちにすっかりたくましくなっていたカリーナとI.O.P.社の社長であるハーヴェルだった。正規軍によって本部や主な基地を失ったグリフィンに設備の整った新しい基地を用意したスポンサーはハーヴェルであった。
そのハーヴェルは、「会わせたい人がいる」としてある人物を基地に招き入れていた。それは、国家保安局の局長であるゼリンスキーだった。ゼリンスキーは、開口一番「自分にはテロリストであるグリフィンの指揮官をこの場で射殺する権限がある」と指揮官を恫喝した上で、グリフィンのテロリスト指定を取り消し、拘留されているクルーガーらを釈放することを成功報酬として国家保安局への協力を要請した。要はPMCであるグリフィンの雇い主がカーター将軍からゼリンスキーに代わるということであった。
ゼリンスキーの依頼、それは「エルダーブレインに関する重要な情報を奪取・隠匿し、国家保安局所有の戦術人形2体を連れて逃亡中のテロリスト」であるアンジェリアを処分せよというものであった。
本拠地を失い散り散りとなった鉄血は表舞台から姿を消した。しかし、その代わりに現れたのは正規軍と国家保安局、そして謎の組織パラデウス。指揮官は、陰謀渦巻く地獄の戦いへと絡め取られていくのだった。
(EP11へ続く)

サマーイベント「碧海秘話」

バカンス最後の日を楽しむ戦術人形たち。夕日に照らされた海の美しさは彼女たちの思い出となった

青い海と青い空、そして白い砂浜。
船の難破によりこの南洋の孤島に漂着した指揮官は、飢えと渇きでもはや手足を動かすこともできず、強い日差しに焼かれながら最期の時を迎えようとしていた。

という指揮官の辛気臭い一人芝居を横で聞いていたAA-12は、苛立ちながら一人芝居をやめるように口を挟んできた。グリフィン部隊は、バカンスを兼ねた調査任務の最中であった。今日は調査の予定はなく、ただビーチでバカンスを楽しむ日だ。

事の発端は3日前、カリーナが持ちかけてきた依頼の「孤島を調査して脅威があったら排除してほしい」というものであった。数十年前に放棄されたこの島は無人となって久しく、北蘭島事件によるコーラップス汚染の影響もない豊かな自然に恵まれた状態になっていた。しかし、この島の近辺に鉱脈が確認されたことから、採掘場設置に支障がないかを確認するために調査が必要だとして今回の依頼が舞い込んできたのだ。カリーナの事前調査によればこの島は鉄血も興味を示さない場所であり、予想される脅威は野生動物ぐらいだという。そのため、調査は1日程度で後はビーチでバカンスを楽しめばいいというのだ。そのカリーナは作戦報告書の作成に追われて同行することはできなかったが、指揮官は戦術人形たちを連れて島に向かうことになった。ずっと前線指揮で多忙な日々を送っていた指揮官へのねぎらいとしてカリーナはこの任務を持ってきたのだ。
島内を調査したグリフィン部隊だったが、事前の調査通りかつての文明の痕跡は全て森に呑まれ、野生動物以外に脅威となる存在は確認できなかった。こうして1日ほどで調査を終えたため、翌日からはバカンスモードとなって今に至る。

指揮官は、日光浴で浜辺に寝そべっていたところM37とM1ガーランドによって首から下を砂に埋められ、身動きが取れなくなっていた。そのため、退屈しのぎにさっきのような辛気臭い一人芝居をしていたのだ。他の人形たちはというと、88式は自身の素体の防水加工を気にしており、Z-62は浜辺に来てまで銃のメンテナンスをしていた。スプリングフィールドは焼き上がったパンケーキを皆に振る舞っており、95式は美しい景色にすっかり上機嫌で歌を口ずさんでいる。その95式に話しかけたスプリングフィールドは、人形用の日焼け止めについての話で盛り上がっていた。そこにスイカを持って現れたSPAS-12に、Five-sevenはスイカ割りで遊ぶことを提案する。楽しそうな人形たちを見ていた指揮官は、ふと我に返り自分の前回の休暇がいつだったかを思い出そうとしたが思い出せなかった。そんな指揮官を不思議そうに見るAA-12に、「長い間前線で戦い続けてきたせいで、自分はもう平和な生活が合わなくなった」と言う指揮官。AA-12は、指揮官のその言葉を「無駄な心配」と呆れ顔で切り捨てて会話を止めるのだった。
砂に埋もれたままうたた寝をしていた指揮官。しかし、突然耳元で刃物が何かを叩き割る音で目が覚めた。頬に当たるのは真っ二つに割られたスイカの半分。SPASたちはよりにもよって指揮官の枕元でスイカ割りをしていたのだ。しかもSPASが使っていたのはダマスカス鋼の斧である。一歩間違えば自分の頭があのスイカのようになっていたことに肝を冷やす指揮官。スイカ割り成功にはしゃぐFive-sevenと指揮官の頭を叩き割ったと勘違いして驚くSPASを指揮官は思わず怒鳴りつける。Five-sevenは謝りながらSPASを連れて逃げ出してしまった。

その時、水遊びをしている他の人形たちを監視する役だったセルジュコフが、正体不明の敵性信号をキャッチしたことを報告してきた。鉄血の勢力圏でもなく島内に稼働している人工物もないということは侵入者か、と思った指揮官だったが、報告によると信号は森の深奥部からだという。何者かが偽装して隠れていたのを見落としていたことを謝るセルジュコフに、指揮官は他の人形たちを集めて迎撃するよう命じる。

時間は孤島への出発を控えた三日前に遡る。
宿舎に引きこもっていたMDRは、文字打ち込みに特化改造した愛用の携帯電話を使って猛烈な勢いで書き込みを続けていた。そこに現れたのはR93。先日MDRが撮影に使うと言って借りていった自分のサングラスを取り戻しに来たのだ。R93は「孤島での任務は半分バカンスのようなものなので水着を持っている人形は持参していい」という指揮官の指示があったため、水着に合わせるためのサングラスが必要になったのだ。その島についてMDRは何かを知っているようであったが、それをごまかすように「掲示板でみんなが話題にしていた」と言い直した。MDRは島に行くメンバーには選ばれていなかったが、ビーチでのバカンスを羨ましがる様子はなく、むしろ「その島に伝わる幸運をもたらす秘宝」が気になるようであった。何しろグリフィンの掲示板に10ページにも及ぶ秘宝の考察を書き込んでいたのは当のMDRであったが、それを書いたのが自分であることは内緒にしていた。「不運に至る運命を書き換える秘宝」という話に一気に食いつくR93。ギャンブルが趣味だが幸運に恵まれない彼女にとって、それは聞き逃せない話であった。部屋のガラクタの中からようやくサングラスを見つけて返そうとしたMDRに、R93は秘宝についての話を詳しく聞かせるように迫る。MDRは、衛星写真で島の全景を見ると中央部が密林になっていることを指摘。秘宝があるとすればこの密林の奥なのではないかと言う。

そして、指揮官たちの部隊が謎の敵を迎撃するため出撃した頃。
皆が遊んでいるビーチとは違う海岸へと移動したR93は、愛用のサングラスをかけて密林の深奥部を目指す。同行するのは、グリフィンの人気ナンバー1アイドルになるため秘宝の力にあやかろうとするP38。当のR93は、やる気満々のP38を秘宝奪取のために利用するつもりであった。指揮官に一報を入れずに独断で動いていいのか疑問に思うP38に、R93は「前回は失敗したから今回は成功してから指揮官に事後報告したい」と言う。P38は、R93の前回の失敗とは「ビーチバレー大会で釣り針が水着に引っかかって脱げてしまった」ことかと尋ねる。なぜP38がそれを知っているかを問い返すR93に、「グリフィンの匿名掲示板に証拠のサングラスの写真共々大々的に書き込まれていた」と答えるP38。そう言われたR93は、MDRが自分のサングラスを借りていった理由がようやくわかった。その話の真偽を尋ねるP38だったが、R93は話をごまかすと森の奥へ出発するようP38を急かすのだった。
森の奥へと二人が踏み込んでからおよそ5分後。長い間手つかずの森は原生林かと思うぐらいに木々が生い茂っており、眩しいはずの陽光も遮られるほどであった。「先日見たホラー映画を思い出す」と言い出したR93だったが、それに反応したP38はすっかり怯えている。P38はホラーや幽霊の話が大の苦手だったのだ。「戦術人形が幽霊を怖がるわけがない」「この科学の時代に幽霊なんてありえない」と虚勢を張りながらも声が震えているP38は、早く森の奥に進んで秘宝を見つけ出そうとしていた。その姿を見たR93は、思わず背後からP38をつつく。周囲の鳥たちが逃げ出すほどの大きな悲鳴をあげたP38は、すさまじい勢いで森の中央めがけて走り出していった。R93は、呆れながらもP38を追うのだった。

指揮官率いる戦術人形部隊は、甲殻類などに偽装した正体不明の自律兵器群を撃破していた。この自律兵器の出どころは一体どこなのか。指揮官は出発前にカリーナに言われたことから手がかりを得ようとしていたが、全く思い出せず頭痛がするばかりであった。一方、通信モジュールをカットして戦闘に参加しなかった一部の戦術人形たちは相変わらずビーチではしゃいでいた。浮かれすぎている人形たちを見て「今日の曜日すら忘れている」とぼやく指揮官だったが、当の指揮官自体も木曜日と金曜日を間違えるぐらいにバカンス呆けしており、セルジュコフに指摘されるありさまであった。気を取り直した指揮官はセルジュコフに周辺の偵察を命じると、水鉄砲を振り回して暴れている人形たちを連れ戻しに向かった。
G41とC-MSは、水鉄砲を乱射しながら浅瀬を駆けていた。指揮官は水遊びを止めて集合するように命じるが、すっかりテンションが上がりきった二人には通じるはずもなく、水鉄砲合戦の盾にされた状態で浅瀬に連れ込まれた指揮官はもみくちゃにされてしまった。そこにやってきたFALや四式も止めに入るどころか一緒になって指揮官に水鉄砲を撃ちまくる。やっと水責めから解放されたと思った矢先、指揮官の顔面を直撃したのはAmeliの水着に付いていた留め具だった。彼女の乳の大きさを支え切れずに弾け飛んだのだ。弾丸のような勢いで飛んできた留め具に顔面を強打され倒れた指揮官は、その拍子で頭をぶつけて失神。運悪く潮の流れに巻き込まれて流されてしまった。偵察を終えて戻ってきたセルジュコフは、FALから指揮官がビーチで溺れて行方不明になったという報告を受けて愕然とする。慌てて指揮官捜索のため他の人形たちに緊急通信を送るセルジュコフだったが、Ameliから謎の自律兵器群の第二波が出現したとの報告が入る。指揮官捜索のためにも、まずは敵を撃破しなければならなかった。

一方その頃、R93は走り出して行方がわからなくなったP38を追っていた。勝手に持ち場を離れたことを指揮官に気付かれる前に宝探しを終えて戻りたかったR93だが、P38を追うのに時間を取られたことですっかり焦っていた。その時、R93の方へP38がものすごい勢いで走ってきた。その表情は、先ほど驚かせた時よりも更に恐怖でひきつっていた。何があったのかを尋ねるR93に、P38は「海の化け物を見た」と答える。幽霊よりも怖さに欠ける、と一蹴するR93だったが、P38はR93を脅かしたいわけではなく本当に目撃して、しかも踏んでしまったのだと言う。R93は、もし化け物が実在するならそれは秘宝に近づいている兆しなのではと思い直し、化け物を見つけるために嫌がるP38を連れて現場へと向かうのだった。
P38が化け物を目撃したのは、森を抜けた先の海岸であった。その砂浜に転がっていた大きな海藻の塊が突然動き出した。P38は、あれが海の化け物だと言う。先手必勝で攻撃を主張するP38だったが、R93は正体を確かめようと観察をする。よくよく見ると、海藻の塊というよりは海藻にまみれた人型の何かであった。E.L.I.D感染者ではないかと思い怯えるP38。二人は、石を投げて反応を見ようとするが特に反応はなかった。そこで近づいたところ、その人型は苦悶の声と共にのたうち回りながら、二人の足首を掴んできた。悲鳴をあげて驚いた二人は、銃を手に取るのも忘れてグリフィン仕込みの近接格闘術でその人型の化け物を叩きのめす。あっさりと崩れ落ちた化け物。しかし、P38はその声に聞き覚えがあった。メンタル内で音声データの照合が完了し、恐怖に顔が強張るR93。P38は、倒れた化け物を覆っていた海藻を剥ぎ取る。R93が思った通り、化け物の正体は先ほど別のビーチにおいて水遊びに巻き込まれた挙句に潮に流された指揮官であった。
ボコボコにされてぐったりしている指揮官を抱き締め、「誰が指揮官をこんな目に!」と絶叫するP38。すかさず「あなたですよ!!!」と絶叫でツッコむR93。二人の応急措置で指揮官の容態は回復し、ようやく顔に生気が戻っていた。安堵する二人だったが、どうして指揮官がこの海岸で海藻まみれになって倒れていたかが疑問であった。他の人形たちがいるはずのビーチで緊急事態が発生しているのではないかと不安になるP38。その時、R93は海藻の山に古いファイルケースが混じっていることに気が付いた。防水処理されたそのケースの中には、一枚の地図が入っていた。これこそが幸運の秘宝のありかを示す地図だと確信するR93は地図を確認する。そこには、この孤島の地図が描かれており、島の中央部に赤い星マークが記されていた。

ようやく意識を取り戻した指揮官だったが、溺れかけたことに加えて戦術人形二人に近接格闘でボコボコにされたことによる苦痛と疲労感でなかなか起き上がることができない状態だった。目の前にいるP38とR93に自分が置かれた状況を尋ねた指揮官だったが、秘宝探しのために部隊から離れて単独行動をしていたことを知られたくないR93は、うっかり口を滑らせかけたP38を黙らせると二人で島内の未開発地域を自主的に調査していたと説明する。指揮官は、棒読みで追随するP38の様子から二人が何かを隠していることは分かった。しかし、それを追及するには痛みと疲労が酷かった。指揮官は自分が海に沈む直前に何があったかを思い出そうとして顔をしかめていたが、それを見たP38は嘘が見破られたと思ったのかどんどん顔色が青ざめていく。P38は人形同士のプロトコル通信で指揮官を皆のところに送り届けてから探索を再開するようR93に要請するが、R93は指揮官を送っていたら時間がなくなる、とそれを拒否。その時指揮官は、ビーチに謎の自律兵器が現れたためその対処をするべく遊んでいる人形たちを呼びに行ったことを思い出していた。指揮官はすぐに部隊に戻ろうと言い出し、R93は「このあたりの道は入り組んでいるので自分が道案内をします」と申し出る。しかし、これはR93の策であった。ここで秘宝探しを中断するわけにはいかないと思ったR93は、道案内と称して秘宝のありかと思われる場所まで指揮官を連れていこうとしていたのだ。P38はプロトコル通信で指揮官の体調を考えると連れ帰った方がいいとR93に要請するが、秘宝探しに固執するR93は聞く耳を持たない。R93は、以前グリフィンの匿名掲示板にP38が自作自演で立てたP38の応援スレッドに全くレスが付かなかった(註:P38は戦術人形としての出世よりトップアイドルの座を望んでいるが、酷い音痴でアイドルとしての人気は皆無である)ことを材料にP38を脅迫し、そのことをバラされたくないP38は渋々R93の暴走に付き合うのだった。
指揮官は先ほどからの二人の不審な挙動、そして森から出るにしてはどんどん険しくなってきている山道を見て本当にこれが帰路なのか疑問を呈するが、その時、目の前に草木に埋もれた古い巨大な建物が現れた。R93が「見つけた」と口にしたこと、そして手には古い地図を持っていることに気付いた指揮官は、R93がこの建物を探すため自分を連れ回していたことを知る。建物の周囲は堅牢な壁に囲まれており、入口は正面だけであった。そして、入口には軍隊が使用するマークのようなものが描かれていた。それは、秘宝のありかというよりは廃棄された軍事施設と言う方が適切であった。首をかしげながらも建物に近づくR93。危険を察知した指揮官がR93を止めようとしたその時、入口近くのセンサーから赤い光が放たれ、同時に警報音が鳴り響いた。この建物はまだ機能を停止しておらず、防衛システムが生きていたのだ。さすがに異常事態であると気付いたR93は指揮官と共にこの場を離れようとしたが、機械音と共に地面のあちこちがせり上がり、中から甲殻類によく似た自律兵器が多数現れた。それはビーチで人形たちを襲撃した謎の敵性存在と同じものであった。己の不運を嘆くR93だったが、指揮官の命令で他の人形たちに救援信号を送る。P38は、自分たちが自律兵器群に包囲されていることを指揮官に報告してきた。味方の増援が来るまで何とか持ちこたえなければならない。指揮官は、そのための策を考えるのだった。
自律兵器群の攻撃から逃げる中で、指揮官はここまでのことを思い返していた。せっかくのバカンスだと思ったら敵に襲撃され、人形たちのいたずらで溺死しかけ、挙句にこうして少数戦力で孤立無援の戦いを強いられる、とひたすら不運に見舞われてしまった。今後はカリーナの持ってくる任務はよく精査してから受けよう、と反省する指揮官。そして、指揮官は状況を打開するためあえて建物内部に入り込むことを決断する。建物が敵勢力の本拠地であれば、内部では攻撃を躊躇するだろうという判断であった。P38はそうなると完全に包囲されて逃げられなくなると反対するが、R93は指揮官の目的が他の人形部隊が到着するまでの時間稼ぎであると理解し賛成する。R93の攻撃で敵の包囲網を一時的に破って建物内に逃げ込んだ指揮官たち。この建物の正体は、人工知能で制御された無人工場であった。自律兵器群は、人間が島を放棄した後もこの工場で作られ続けていたのだ。工場内部へと逃げ込んだ指揮官たちだったが、思惑と違い自律兵器たちは執拗に指揮官たちを追ってくる。追撃から逃れるため、工場内の高所を目指してひたすら走り続ける指揮官たちだった。
残弾が少ない中で袋小路へと追い詰められ絶体絶命となった指揮官たち。しかし、指揮官はそこにレールとコントロールルームを発見した。R93の援護でコントロールルームに到着した指揮官は、60年以上前のコンピューターに四苦八苦しながらシステムを起動させる。システムが正常な動作を開始すると、自律兵器たちは警戒態勢を解き追撃を止めてどこかへと戻っていった。戦わずして自律兵器を撤退させた指揮官を称賛するR93たち。しかし、指揮官はあの自律兵器たちはこれからこのレールを通って輸送されるものに道を譲っただけだろうと説明する。そして、自動放送のアナウンスと共にそのこれから輸送されるものが現れた。弾薬搭載、火器管制、と不穏な言葉が続くアナウンスに不安を隠せないR93たち。「運用テストを開始します」のアナウンスと共にゲートの奥から出現したのは、センサーを不気味に赤く光らせた巨大な機動兵器であった。指揮官の「逃げろ!」という絶叫と共に、指揮官とR93たちは工場の外へと駆け出した。

一方その頃、指揮官が海に沈んで行方不明になったため、ビーチにいた戦術人形たちは総出で指揮官を探していた。一部の人形がそんな状況でも危機感がないことに苛立ったMP7は、指揮官は溺れて海に沈んだのだからもっと真剣に探すよう叱りつける。そんな時、森の奥から銃声が響くと同時にFive-sevenから通信が入った。森の中を捜索していた彼女たちの部隊は謎の建物を発見し、ビーチで遭遇したのと同じ型の自律兵器と交戦状態に入ったというのだ。Five-sevenは指揮官がこの勢力に拉致された可能性を指摘すると、建物を捜索すると言う。通信を受けたWA2000は、指揮官救出の手柄をFive-sevenだけに独占させまいと建物の座標を送るよう要請、出撃準備に入る。88式はWA2000に座標を送るようFive-sevenに要請するが、手柄を自分たちのものにしたいSPASはそれに反対。Five-sevenもWA2000を出し抜いて指揮官にいいところを見せたいためSPASに同調する。Five-sevenは、R93が送ってきた救援信号の内容から指揮官がこの建物にいることを知っていた。増援を待つより一刻も早く指揮官を助けることが大事だ、と88式を言いくるめたFive-sevenは、工場への突入を指示する。しかし、その指揮官が工場の避難口のドアを蹴り破ってFive-sevenたちの方へと猛烈な勢いで走ってきた。R93とP38も一緒だ。自力で脱出したのだと思い指揮官に手を振るFive-seven。88式は、指揮官が何かに追われていることに気付く。次の瞬間、工場の外壁を突き破り巨大な機動兵器が出現した。Five-sevenに出し抜かれまいと必死で追走してきたWA2000や他の人形たちが到着したのとほぼ同時に、その機動兵器はジャンプして人形たちと指揮官を分断するかのように立ちはだかった。指揮官を助け出すには、あの機動兵器を倒すか注意を逸らして指揮官たちから引き離す必要があった。

ようやく戦術人形たちが機動兵器を撃退し指揮官は救出された。指揮官は工場を爆破し、事の顛末はセルジュコフが報告書をまとめてグリフィン本部へ提出した。これにより島の調査は完全に終了した。すっかり疲労困憊の指揮官であったが、どさくさにまぎれて逃げようとしていたR93とP38を捕まえて説教をするという最後の仕事が残っていた。

説教を終えた頃にはもう夕方になっていた。バカンス最後の夜はバーベキューパーティーである。
持っていたジュースをぶつかった弾みでG36にかけてしまったG28は、その眼光の怖さからてっきり酷く睨まれていると思い込み、謝りながら逃げ出していった。しかし、G36の鋭い目つきは遠視のせいであり、G28に対して腹を立てていたわけではなかった。G36は、怖がらせてしまったことを逆に申し訳なく思っていた。
一方、NTW-20が巨大なマグロを持ってきたのを見た一部の人形たちは、歓声をあげながら彼女を囲んでいた。NTW-20が海に沈んだ指揮官を探している時に捕まえたというのだ。95式は中華風の蒸し魚にしたらどうだろうと提案するが、ゲパードM1はマグロを蒸すのはもったいないと反対する。SPASは、待ちきれないといった様子でマグロ解体用の大きな包丁を準備していた。
料理に参加しない人形たちは、夕日に照らされたビーチで遊んでいた。先ほど指揮官にあれだけ怒られたP38やR93もそんな人形たちに交じっていた。P38は、まだ幸運の秘宝のことを未練がましく口にしていた。人気アイドルの夢が潰えたことが悔しくてしょうがないらしい。しかし言い出しっぺのR93は、「あれは伝説にすぎなかったのです」とまったく頓着していなかった。R93は、自分たちが独断専行したことが島の潜在的な危険を見つけるきっかけになり、プラスマイナスゼロで指揮官からも処罰がなかったことを誇らしげに語っていた。しかし、P38は処罰の代わりにバーベキューパーティーに参加させてもらえなくなった、と愚痴をこぼす。すっかりしょげてしまったP38は「(アイドルの)卒業宣言した方がいいのかなぁ」と言うが、R93は「デビューもしてないのにですか?」と辛辣であった。
既に夕日の半分は海に沈み、空には星が輝いていた。コーラップス汚染とかつての大戦による核汚染でどんよりと曇った夜空しか見たことがなかった彼女たち戦術人形にとって、星空をじっくり眺めるのは初めての経験だった。星空を映す海の美しさを見たP38は、この場所をステージにして指揮官のために歌うことを決意していた。P38はまだ人気アイドルになる夢を諦めるつもりはなかった。R93も、幸運の秘宝は見つからなかったけれど、この美しい光景を見ることができたから不幸ではなかったのだと思っていた。
海を楽しむP38とR93の姿を見た指揮官は、二人への懲罰が足りなかったかもしれないと思ったが、すぐに考えるのをやめた。この後のパーティーはきっと長くなりそうだから、と。

ハロウィンイベント「怪夜狂騒劇」

基地内の伝染病騒動を解決しようとするP7(実は発端その1)とP90(実は発端その2)は互いを犯人だと思い対決する

グリフィン基地を騒がせた伝染病は単なるイタズラであったが、鉄血のアルケミストはそのとばっちりで鹵獲されてしまうのだった

ハロウィン当日の午後、悪魔の仮装をしたP7は落ち込んだ様子で基地内を歩いていた。その後を追ってくるのはP7が飼っている鹵獲ダイナーゲート。P7は、自分が仕掛けたイタズラに誰も反応しなかったことに腹を立て、同時にがっかりしていた。今回のイタズラが子供っぽ過ぎたのがよくなかったのか、と反省するP7だったが、ふと自分が何者かにずっと監視されているような気配を感じる。電子マップに敵の視界を感知する能力を付けられないか、と思いつつP7は自分の宿舎へ帰ってベッドに寝転がると電子タブレットを取り出す。すると、そこには新発見された奇病「USO感染症」についてのニュースが表示されていた。
一方その頃、基地内の広場でもウェルロッドたちがそのニュースを眺めていた。それによると、「USO感染症の患者は皮膚にカラフルな痣が現れるのが特徴」だという。吸血鬼の仮装をしたままのウェルロッドは、この一文を読んで眉をひそめた。そんなウェルロッドの様子を見たP90はウェルロッドのタブレットを覗き込んで内容を読んだが、「MDRが掲示板に載せる情報はほとんどフェイクニュースだ」と一笑に付す。そもそも人形が人間と同じ感染症にかかるはずがないと言うP90だったが、小声でウェルロッドが指差した他の人形たちの肌にはあちこちにカラフルな痣が浮かんでいた。「ハロウィンだからみんな悪ふざけでメイクをしているだけでは」と言うP90に、ウェルロッドは「本当にこれが悪ふざけなのかどうかは慎重に調べる必要がある」と答える。すると、P90はタブレットに表示された新しい情報を見て驚きの表情を浮かべる。それを見せられたウェルロッドの顔は青ざめる。続いて、Spitfireが慌てた様子でウェルロッドの方へ駆けてきた。彼女の姉であるCz75がUSO感染症に感染した疑いがあるという。哨戒任務中に負傷し、手当てのために医務室へ行ったら全身に奇妙な痣ができていたというのだ。P90がウェルロッドに見せた情報も同様であった。基地内の多くの人形たちが、身に覚えのないカラフルな痣ができたことを報告していた。見栄っ張りで悪ふざけに加担する性格ではないWA2000まで痣ができたことを報告していることから、ウェルロッドはこれが只事ではないと認識するに至った。他の人形との付き合いを嫌う頑固者のFAMASが全身カラフルな痣だらけになっている画像を見たP90は思わず笑い出すが、尊敬する姉のCz75にまで伝染病が感染したと思うと気が気でないSpitfireはP90をたしなめる。ウェルロッドは基地内にUSO感染症が蔓延したのは事実であろうと断定し、感染源はどこなのかを調べようと言う。P90もそれに同調する。基地内に常駐していて多くの人形と接触している人間といえば指揮官かカリーナであり、そのうちカリーナは商談のためここ二日ほど基地に帰ってきていない。ウェルロッドは、この数日指揮官が外部からの来客と頻繁に会談していたことを指摘し、感染源は指揮官であると推測。P90に、秘密裏に感染症について調査して医療小隊との連携で事態を解決するよう命じると、まずは感染源である指揮官の隔離を行うと宣言した。
同日の夕刻。ウェルロッドとSpitfireは、「自分は伝染病には感染していない」と主張する指揮官の言うことに耳を貸さず、司令室の隠し小部屋に指揮官を監禁すると通信権限を剥奪、外から電子ロックを施錠した。事態の解決まで指揮官にはおとなしくしてもらおう、と言うウェルロッド。すると、指揮官室の通信施設から声がする。その声の主は、捕虜としてグリフィン基地に幽閉されているはずの鉄血高等人形・アーキテクト(イベント「低体温症」参照)だった。捕虜のアーキテクトが基地の通信権限を利用していることを不審に思うウェルロッドだが、アーキテクトはグリフィンの電子演習には自分が協力していることを告げる。アーキテクトはウェルロッドたちを散々に挑発しながら、この感染症は外部からの侵入者によって撒き散らされたことを示唆する。するとその時、基地内に警報が鳴り響く。鉄血の部隊が基地へ向けて移動しているというのだ。アーキテクトは、「自分にもっと礼儀正しく応対していればこのことを早く教えていた」とウェルロッドたちを嘲笑う。指揮官不在の上に感染症騒ぎで基地が混乱している状況で鉄血を迎撃しなければならないことに焦りを感じるウェルロッドであった。
一方その頃、ふてくされていたP7は宿舎の窓のカーテンの隙間から基地の様子を眺めていた。USO感染症騒ぎに加えて鉄血の襲撃もあり、基地内は喧騒に包まれていた。混乱のどさくさに紛れて基地の倉庫から菓子を盗んでVectorに追われているFNC、治療を拒否して基地内を逃げ回るUSO感染者の人形たちの姿をドローンで実況するMDR。基地内でパンデミックが発生して、P90がIWSやスプリングフィールドらと共に感染者の人形を捕まえては医療施設に放り込んでいるという情報を目にしたP7は、感染した人形は解体されるのではないかと思い恐怖で震えていた。P7の手は、カリーナが持っていた「洗っても落ちない化粧品」で汚れていた。このカラフルに染まった手を見られたら、感染者と間違われて解体処分を受けるのではないかと思い込むP7。
指揮官ならこの感染症をどうにかできるのではないかと思ったP7は、助けを求めて指揮官室へ通信を送る。しかし、指揮官からの返答はない。
時間は日没前に遡る。基地外周部分に侵入してきた鉄血部隊を撃退したウェルロッドたちに、再びアーキテクトからの通信が入る。アーキテクトが鉄血に情報を流していたのではないかと憤るウェルロッドだったが、「あくまで偶然だ」としらを切るアーキテクトは、更なる情報として「この基地で発生している感染症には本体が自爆した後に起動した鉄血高等人形・アルケミストのダミーが関連している」と告げる。アーキテクトが何かを企んでいるのではないかと疑うウェルロッドだったが、Spitfireは鉄血部隊がこの基地周辺に現れたのは事実であり、アーキテクトが仄めかしたように鉄血の新たな拠点が設置されたのではないかと言う。ウェルロッドは、基地周辺を偵察して鉄血の拠点を探し出す作戦を開始した。
一方その頃、指揮官室の隠し小部屋に閉じ込められた指揮官は、アーキテクトからの通信を受けていた。ウェルロッドたちに鉄血部隊を迎撃させているアーキテクトの意図を掴みかねて困惑する指揮官に、アーキテクトは「人生に色々なサプライズがあると教えてくれたのはグリフィンじゃない」と意味がわからないことを言う。今の基地内で起きていることは伝染病の蔓延ではないことを皆に伝えたい指揮官だったが、こうして閉じ込められていてはどうしようもないと困り果てる。そんな指揮官に、多くの人形が指揮官室に通信を送ってきていることを確認したアーキテクトは「いい方法がある」と囁くのだった。

基地外周に本当にアルケミストのダミーが率いる鉄血の拠点が発見され、ウェルロッドたちは驚いていた。「アーキテクトの虚言に騙されてやる」ぐらいの気持ちで臨んだ偵察だったが、アーキテクトからの情報は本当だったのだ。突入準備を整えたウェルロッドたちに通信を送ってきたのは、聞き覚えのあるアルケミストの声だった。アルケミストは、設置したばかりの拠点がすぐに発見されたことを悔しがっていたが、ウェルロッドたちが自分のところまで辿り着くことはできないだろうと挑発する。ウェルロッドは、アルケミストの言葉を遮ると拠点への突入を開始した。
数度の戦闘で防衛線を突破し、鉄血の司令要塞へと迫るウェルロッドたち。アルケミストも、要塞から出て自らグリフィン部隊を迎え撃つ準備をしていた。グリフィンの通信を傍受していたアルケミストは、自分の情報をグリフィンへと流していたアーキテクトを「鉄屑」と蔑むと、グリフィンの人形たちも進歩がない連中ばかりだと嘲笑う。アルケミストは、「人間の感染症が人形に感染するはずもないし、その原因が自分だと疑っているウェルロッドたちはとんだ了見違いをしている」と言う。「愚かなグリフィンの劣等人形は淘汰されるべきだ」と持論を展開するアルケミストだが、仲間を侮辱され激昂したSpitfireは銃弾でアルケミストを黙らせようとする。

ウェルロッドたちがアルケミストと戦っているその頃、P7はペットのダイナーゲートと共にこっそりと基地内を移動していた。何者かに送られた暗号通信で「基地に起きている危機を解決するために、基地内の監視カメラの記録を調べてほしい」と言われたのだ。ダイナーゲートを通じて監視カメラのデータを抜き取り、映像をチェックしていたP7は、Vectorに捕まってもまた脱走してお菓子を盗もうとしているFNCやメイクを試していただけなのに感染者扱いされて捕まったm45、「指揮官に会わせて」と泣きわめきながら発砲するMk23など基地内で起きている様々な惨状に辟易しながらも事態解決のために異常なものが映っていないかを調べる。すると、自分が何者かに尾行され続けていることに気が付いた。昼間から監視されているように感じたのは気のせいではなかったのだ。そして、監視カメラの映像が不自然に途切れていることにも気が付いた。何者かが監視カメラにジャミングをかけていたのだ。飼っているダイナーゲートのカメラも、周囲にドローンがいると不自然に途切れる。P7は映像を更にチェックし、今日は基地内に飛んでいるドローンが不自然に多いことを知る。P7は、これまでまとめた情報を自分に暗号通信を送ってきた何者かに送信するのだった。
その後数時間、P7は尾行されないように注意しながら基地内の監視カメラ情報を収集していた。すると、再び暗号通信が送られてきた。「司令室へ行って上級監視データを手に入れ、人形のIDデータを入手してホログラム監視映像を再構築し全ての人形の行動を監視せよ」という指令だった。勝手に司令室へ入ることにいくらかの躊躇いはあったが、事態解決のためにはやむを得ないと思ったP7は行動を開始する。
なんとか司令室前まで辿り着いたP7はドアを開けようとするが、ドアノブに触った途端警報が鳴り響く。すっかり怯えて足が止まるP7に、暗号通信で「現在は基地内の警戒態勢が強化されているので強行突入しろ」と指令が届く。あまりの無茶振りに呆れるP7を呼び止めたのは、司令室を警護していたKVSKだった。KVSKは化粧品で汚れたP7の手を見て感染者だと思い、銃を突きつけて医療施設へ連行しようとするが、パニックに陥ったP7がつい口にした「謎の存在から指令を受けて上級監視データを手に入れてみんなを助ける」という言葉を聞いたKVSKは、自分が信仰している神がP7を救い主としてここに導いたのだと思い銃を下ろす。KVSKは、自分が司令室の警護を任されたのも天の導きであると言い、P7に司令室へ入るよう促した。全く事態が呑み込めないまま、P7はKVSKの助けを受けて司令室へと突入するのだった。

司令室に入ったP7は管理権限を利用して基地内の監視データをダウンロードすると、当日午前中からのグリフィン所属人形たちの行動モデルを構築し始めた。「これで事件の真相が分かるはず」と背後を守っているKVSKに言うP7だったが、そのKVSKは昏倒させられていた。そして、そこに立っていたのはP90だった。P90はP7が基地内の監視データを破壊しようと企んでいると思い込みP7に銃を向ける。P7も、構築された行動モデルのデータから自分をずっと尾行していたのがP90だと知りP90へ銃を向ける。P7は、「感染爆発が起きた現場に必ず居合わせていたP90がこの感染症を引き起こした」と言い、P90も化粧品で汚れたP7の手を見て「感染症を基地に持ち込んだのはP7で、その証拠を隠滅するために監視データを破壊しようとした」と言う。P90とP7、お互いが「あんたを捕まえて指揮官に引き渡してやる」と叫ぶ。

P7とP90が対決しているのと同じ頃、鉄血部隊を打ち破ったウェルロッドたちはアルケミストとの決戦を迎えていた。二度もグリフィンに敗れるつもりはないと意気込むアルケミストだが、未だに自分を感染症の原因だと信じているウェルロッドたちのことを「馬鹿を通り越して面白い」とさえ感じはじめていた。感染症を「人形の身に起こり得ないこと」と断ずるアルケミストに「仲間を大事に思う気持ちは鉄血にはわからない」と言うSpitfire。アルケミストは、本当に鉄血の人形に仲間を思う気持ちがなかったらウェルロッドたちがここに辿り着くことはなかったと言う。その意味を理解できず戸惑うウェルロッドに、アルケミストは「鉄血とグリフィンの人形は互いの共通点を互いに認めたがらない」と言う。Spitfireは、アルケミストとの問答を打ち切って戦うようウェルロッドに呼び掛ける。

本体ではなくダミーであったためか、本来の戦力を出し切れずに敗れたアルケミスト。とどめを刺そうとするSpitfireだったが、死に瀕しているはずのアルケミストは笑顔のままであった。Spitfireが引き金を引こうとしたその時、全人形向けのオープン回線で通信してきたのは、ばつの悪そうな笑顔を浮かべたP90だった。P90は、P7が全てを説明すると言う。P90に首根っこを掴まれているP7は、USO感染症は存在せず、全ては誤解の産物であると言う。それを聞き、基地内外にいる全てのグリフィン人形は手を止めた。そして、おそらくただ一人事態の真相を予測できていたアルケミストだけが大笑いしていた。
事の発端はハロウィン当日の午前中。商談に出かけていて留守にしているカリーナの化粧道具を盗み出したP7は、ペットのダイナーゲートに命じてSuperSASSの服の内側と洗顔タオルに化粧品を塗りたくってゾンビみたいな見た目に仕立てるというイタズラを仕込んだものの、SuperSASSは別の服を着て顔を洗わずに外出してしまった。イタズラが失敗したP7は腹を立てて化粧道具を捨ててしまい、それを見ていたP90は化粧道具を回収すると、P7の声真似をしてドローンに命令し、各所で人形たちに向けて化粧品を振りかける(そして責任はP7になすりつける)というイタズラを仕込んでいたのだ。しかし、ウェルロッドたちと合流して警備任務に就いている際に自分がイタズラを仕込んだことを忘れていて、気が付いたらMDRの流したデマによって想定以上の大騒動になっていた。これがUSO感染症の顛末であった。
鉄血の拠点では、笑い疲れてぐったりしているアルケミストをよそに、イタズラに振り回されて無駄足を踏んでしまったSpitfireとウェルロッドが呆然と見つめ合っていた。改めてこれがただのイタズラであったことをP90に確認するSpitfire、消え入りそうな小声で肯定するP90。怒り狂って指をボキボキ鳴らすSpitfireに平謝りするP7。この期に及んでまだ言い訳をするP90とP7を鋭く叱りつけるSpitfireだったが、「愚かな芝居は終わった」とこっそり立ち去ろうとするアルケミストのことは見逃さなかった。ウェルロッドに取り押さえられたアルケミストは、研究材料の名目で鹵獲されてグリフィンへと連行されるのだった。

そしてハロウィン当日の深夜。MDRが立てた匿名掲示板のスレッドは途中からP7たちに占領され、この事態の顛末が書き込まれることとなった。そして、最後に鹵獲されたアルケミストを交えた記念写真が貼られたことでスレッドは非常に盛り上がったという。
その一方で、日付が変わってもまだ指揮官は隠し小部屋に閉じ込められたままであった。悲痛な叫びを上げる指揮官に応えるのは通信施設越しのアーキテクトだけである。指揮官はアーキテクトがP7やウェルロッドたちをけしかけてアルケミストの基地襲撃や伝染病デマによる基地の混乱を解決するために動いていたことを知らなかったため、アーキテクトが上機嫌である理由を図りかねていた。通信権限を奪われて外部に連絡できないことを嘆く指揮官に、アーキテクトは自分を頼るように言うのだった。

異性体01「幻の平和」

アンジェリアは、犠牲となって死んでいった兵士たちの残したものをM4へと語る

(このエピソードはEP11からの続き)
先の戦い(註:イベント「秩序乱流」参照)の後に行方をくらませていたアンジェリアは、ベルグラード市郊外の無名戦士慰霊碑の前にたたずんでいた。そんな時、市内に潜伏しているパラデウスの動向を監視していたAK-12から、パラデウスが動き始めたという報告を受ける。市内の警備を担当している国家保安局の判断の遅さに悪態をついたアンジェリアは、AK-12たちにかねてよりの作戦通り行動するよう命じる。アンジェリアと共に行動しているM4は、アンジェリアが祈りを捧げている慰霊碑に対し「何度戦争が起きても状況はひどくなるばかり」「彼らの犠牲に意味はない」と言うが、アンジェリアは「彼らは信念に命を捧げた」「生きている者にその犠牲が有意義だったか判断することはできない」とM4の言葉を否定する。アンジェリアはM4が密かにグリフィンに助力したことで反逆小隊が動いていることがパラデウスに知られてしまう可能性があったことを指摘するが、M4はグリフィンに助力したのも全て作戦成功のためであると答える。
冷徹な態度のM4を見て、かつて自分がAR小隊を指揮していた頃の彼女とは違うことを改めて痛感するアンジェリアだった。そんなアンジェリアに、「どんな犠牲を払ってもAR小隊の仲間を守らなくてはならない」と教えたのはあの頃のアンジェリアだったと言うM4。アンジェリアは、今はもう自分もM4もあの時とは立場が違うと答える。

慰霊碑に花束を供えたアンジェリアは、この先に嫌な予感がする、と呟く。「その割には楽観的ですね」と言うM4に、自分は生き残るという信念を持っていると言うアンジェリア。彼女はM4に、生き残るための努力を惜しまなければ、この慰霊碑に祀られている無名戦士たちのように犠牲となることの意味がM4にも必ずわかる日が来る、と言うのだった。

一方その頃。指揮官は、Kとの交渉にあたっていた。指揮官にとって、Kは苦手なタイプの人種だった。彼の素性を知らない指揮官は、Kのことを「こういう情報屋は金になるうちは役に立つが、そうでなくなった途端にいつでも裏切る」と考えていた。
翌朝。指揮官はなかなか自室から出てこなかった。迎えに来たROが当惑していると、カリーナは「指揮官は昨日のKさんからの情報が相当堪えたらしい」と話すのだった。もうすぐKからの定時連絡が来る時間だと焦るROだったが、その直後に突然自室から出てきた指揮官はすぐに通信室へ向かった。
通信に出たKは、指揮官がベルグラード市内に配備していた戦術人形部隊を宿舎に引き揚げたことに腹を立てた様子だった。指揮官は、自分の任務はアンジェリアの捜索だったはずだと答える。しかし、Kは人形たちを引き続きベルグラード市内に配備するよう要請する。それに対して指揮官は、アンジェリアについての情報を教えないならこのままグリフィン部隊にサボタージュを続けさせる、とKを脅す。指揮官の要求に応じたKは、アンジェリアはテロリスト認定されたにも関わらず現在ベルグラード市内で危険度の高い任務に身を投じており、しかも彼女の配下にはかつてグリフィンに所属していた人形がいるという情報を教えた。つまり、指揮官がこのままサボタージュを続けるならアンジェリアの身に生命の危険が及ぶというのだ。M4がアンジェリアの配下となっていることを示唆された指揮官は、M4のためにもKに協力することを選択するのだった。
一方、下水に浸かる等の散々な目に遭った挙句にパラデウスの本拠地を掴み損ねた(註:EP11参照)ROは不満たらたらであった。同じ目に遭ったSOPIIは、下水に浸かったこと以外は特に不満はないようで、早く防水素体に改造してほしいと言っていた。そんな時、二人はカリーナからKから預かったアタッシュケースを持って通信室に来るように言われる。
Kから預かったアタッシュケースの中身は、ベルグラード市内の立体映像マップと座標指定だった。Kは、この指定された座標全部にグリフィンの部隊を配置するよう要請してきたのだ。市内全域の監視という無茶な要求に腹を立てるSOPIIだったが、カリーナはこれもアンジェリアの安否を確認するためにも必要なのだと言う。アンジェリアがこの街にいるのならM4やAR-15とも再会できるのではないかと言うROに、SOPIIはもし二人と再会したら何を言えばいいのかわからないと困惑する。
指揮官は、市内全域に配置された戦術人形たちに武器を隠して市民のふりをしながら周囲を監視するよう命じた。Kは、指揮官の行動の早さを称賛し、そして既にパラデウスがこの街の各所に潜んでいることを伝える。彼の目的は、市内に潜伏しているパラデウスを見つけ出して排除することだった。Kはパラデウスのデータを送ると、それに該当する人形を発見したらすぐに電子戦を仕掛けてメンタルモデルを焼き落とすかROたちに排除させるように命じた。

ベルグラード市での活動にあたってKから司令部の代わりとして提供されたセーフハウスは、正規軍用の司令設備に匹敵する通信施設が潤沢に使われたものだった。あまりの豪華さに目を丸くするカリーナ。Kは副官であるメイド人形のマホロに後事を託してセーフハウスを去る。カリーナは、マホロからアンジェリアの情報を聞き出そうとするが、「禁則事項です」と答えない。一通りセーフハウスを確認したカリーナは、マホロに手伝ってもらいセーフハウスの指揮系統をグリフィンの司令室と同様のレイアウトへと組み直すのだった。
カリーナは、マホロからKの普段の様子を聞き出そうとするが、Kは厳密なスケジュール管理の下で行動しておりマホロと私的な会話をすることはないと答える。「Kさんは自律人形なのではないか」と口を滑らせたカリーナに対し、マホロは一転して怒りを露わにする。Kはたとえ誰に理解されなくとも、各方面における最善を尽くすために行動しているのだと。マホロがKに寄せる信頼の強さを垣間見たカリーナは、Kも指揮官と同様に多くの人々を守るために戦っているのだと理解する。
セーフハウスの司令室に現れた指揮官はさっそくペルシカと連絡を取ろうとするが、カリーナは今のペルシカは厳重な監視下にあるため止めるべきだと忠告する。カリーナは、ハーヴェルから勧められた情報企業「WAVE」と契約したこと、そしてそれによりある情報を掴んだことを告げる。それは、Kは国家保安局所属のエージェントではなく外部の人間であること、そして現在ベルグラード市で動いているエージェントは外務保安担当の安全9局ではなく内務担当の安全6局からの派遣であることだった。外交案件担当の9局ではなく先端技術と防衛産業を管轄する6局が国際会議の警護に派遣されているのは、本来なら筋違いのことである。
そして、アンジェリアについての情報もあった。あったというよりは「痕跡があった」のだ。以前はグリフィンに所属していたアンジェリアだったが、胡蝶事件近辺の彼女の行動記録は不自然な形で消去されていたのである。
指揮官は、Kの立場と目的、そしてアンジェリアは何を知っていてどういう意図によって動いているのかを考えていた。そして、この会談の真の目的は何なのか。新ソ連とも汎ヨーロッパ連合とも中立であるベルグラード市で会談を行う理由は何なのか。そこにやってきたカリーナは、Kが集めていたという情報を持ってきた。それは2年前にこの街で開催された第三次世界大戦終結10周年イベントにまつわる資料だった。その共通項は「ロクサット主義」。新国連の加盟国のうち25ヶ国がこのロクサット主義に賛同している。そのキャッチフレーズである「新世界の輝き」。それは、指揮官たちにも聞き覚えがある言葉だった。

グリフィンは、市内に潜伏しているパラデウスの人形を順調に排除していた。しかし、回収された残骸から得られたデータはほとんど役に立たなかった。指揮官は、この一件の背景をKの口から聞き出そうとする。指揮官の手際の良さに感心したKは、この作戦の目的が新ソ連と汎ヨーロッパ連合による二ヶ国会議の安全確保のためであると明かした。Kは、新ソ連の国家保安局実動部隊よりも民間軍事会社であるグリフィンの方がこの場合は適格だと判断したのだ。仮に国家保安局が失敗した場合、国際問題にも発展しかねない。それなら民間企業であるグリフィンの方が角を立てないのだ、と。カリーナはアンジェリアの居場所を教えるようKに迫るが、Kはそれについては頑なに口を割らなかった。指揮官は、最後の質問として「自分たちが破壊した人形は本当にパラデウスのものだったのか」とKに問いかける。その理由は、指揮官が知るパラデウスの動きと違ってあまりに規則性がなく連携不足であったからだった。Kは、それが彼らの実力なのだろうと言うが、指揮官は物事が順調に運び過ぎるのは良くないことの前兆だと返す。それは過去の経験によるものだった。指揮官は、これまでのパラデウスの動きは撒き餌にすぎず、本命の部隊は別にいると看破していた。指揮官はKに国家保安局からの支援部隊を呼ぶように要請する。しかし、Kは本隊の支援は来ないと断言する。新ソ連にとって重要なのは、会議の成功ではなく会議開催までこぎ着けた国内世論の変化だと言うのだ。そして、会議がパラデウスに襲撃されてもそれは必要な犠牲の一つでしかない。それが当局の判断であった。Kは、指揮官に余計なことに首を突っ込みすぎないよう念を押すと通信を切るのだった。

一方その頃。ベルグラード市内のグリフィン部隊セーフハウスでは、任務を終えた人形たちが雑談にふけっていた。ルイスは敵側の人形の美醜について語っていた。彼女によると鉄血はまあまあ、正規軍は目も当てられない、パラデウスがいちばん可愛いとのことであった。美しい人形を撃ちたくないとぼやくルイスだが、同僚のP22は攻撃をためらったら醜い残骸になるのはルイスの方だとバッサリ切り捨てる。ルイスは、人形同士の話し合いで事態が解決すればいいのにと更にぼやく。そこに入ってきたX95は、二人に休息を取るように言う。「人形同士で争いたくない」と不満を募らせるルイスに、X95は「ほとんどの場合そうするしかないから」だと言う。P22は、人形が戦争を肩代わりすることで人間が傷つかないことを喜ぶべきだと直言するが、ルイスは「厄介ごとを人形に押し付けているだけで何の解決にもなっていない」と反発する。X95は、人間が歴史上多くの問題を抱え過ぎたことが戦争の原因であり、それは人類の進歩の代価なのだと言う。P22は、それにもっともらしい名前をつけたものが「民族主義」なのだと嘲笑する。X95は、そういった戦争への大義名分で頭に血が上った人々を正気に戻せるのは結局のところ戦争による悲惨な被害だけなのだと言う。ルイスは、憎しみをボタンひとつで消せればいいと言うが、P22は「憎しみを消したがらない人は少なくない」と指摘する。復讐心はそう簡単には消せないのだ、とも。頭を抱えるルイスに、P22は「人形は人形らしく任務をこなして、難しいことはお偉方に考えさせればいい」と言うのだった。
その上階の部屋では、ルイスとP22の戦争を巡る議論に閉口していたHS2000がようやく話し声が収まったことに安堵していた。同室のKSVKは、こういった話し合いが攻撃性を帯びるのは当然のことだと割り切っていた。終わりが見えない任務の中でみんな疑心暗鬼になっているのだと言うKSVK。HS2000は、そんなことには興味がなく、ただベルグラード市のテレビ番組がどの局もつまらないことの方が大問題だと言う。ただでさえつまらない番組が豪雨の予報に切り替わったことに文句たらたらのHS2000だったが、これで任務が中止になるのではと期待を寄せる。しかし、KSVKは自分たち人形には無関係だと言う。コーラップス交じりの大雨の中でもまたパラデウスの人形を探しに行かなければならないと知り嫌そうな態度を示すHS2000。「可愛く振る舞っているだけで給料がもらえる仕事に就きたかった」とぼやくHS2000に対し、「その考えは破滅を招く」と厳しく窘めるKSVK。しかしHS2000は、「どうせ人形は死なないですし」と呑気に構えるのだった。

グリフィンによるパラデウス掃討が始まってから3日目。指揮官と通信していたSOPIIは、代わり映えしない任務が延々と続くことに苛立っていた。「もうすぐ終わるから」と宥める指揮官だったが、SOPIIはROもこの任務に苛立っていると言う。すぐに割って入ったROは「自分は不満を言っていない」と指揮官に言い訳する。指揮官は、Kから指示された掃討任務はもうすぐ終わると説明した。そこにKから通信が入った。予定より8時間早い掃討完了に驚くK。各小隊からはまだ完了連絡がないと言う指揮官に、Kは国家保安局エージェントからの報告だと答える。「掃討も国家保安局にやらせればいいのに」とこぼす指揮官に、国家保安局は監視、グリフィンは掃討という役割分担がルールだと言うK。アンジェリアの行方を尋ねる指揮官に「もうすぐ会えるはずだ」と告げてKは通信を切った。そこに現れたカリーナに、指揮官は、掃討担当の部隊を帰還させて待機中の部隊を引き続き監視に当たらせるよう要請する。指揮官は、あまりにもあっけなさ過ぎるパラデウスの動きに警戒感を募らせていた。指揮官は市内全域を網羅する監視カメラの映像に次々と目を滑らせる。その時、指揮官の目に一人の少女人形の姿が映った。監視カメラの存在を認識しながら微笑みかけたその少女は、すぐに姿を消した。指揮官はその容貌に見覚えがあった。それは「ネイト」、パラデウスの上級人形だ。パラデウスは、この作戦を掌握した上で国家保安局もグリフィンも手玉に取っていたのではないか。指揮官は恐怖に凍りついていた。
Kから再び通信が入った。Kはこれまでアンジェリアの情報を出し渋っていたのは、彼女が重大な任務のために尽力していたからだと告げる。そして、次の作戦こそがこの任務にグリフィンを選んだ本当の理由であり、それが終わったらアンジェリアと再会できるだろうと言うのだった。
Kが言い渡した任務とは、会議当日の護衛任務だった。しかし、それは指揮官が予想していた新ソ連のロシチン大使の護衛ではなかった。グリフィンが守るべき相手、それは相手国である汎ヨーロッパ連合のギルダ・ウルリッヒ主席だったのだ。

会議当日の早朝。指揮官とカリーナは、それぞれ取材記者として議事堂へ入り込んでいた。既に議事堂前では反ロクサット主義のデモ隊と武装警官隊のもみ合いが続いていた。複数の人形たちもKが用意した偽造IDで取材クルーやサービス用人形として潜入しており、主力部隊であるROとSOPIIたちは議事堂周辺の監視拠点で待機している。
開会が近づくにつれ、人の出入りも増え、同時にトラブルも多発していた。議事堂入口では、ベルグラード当局の警備兵と新ソ連国家保安局のエージェントが武器の持ち込みを巡って激しい口論をしている。指揮官は、これまでの政治的ないきさつを考えるとベルグラード当局と新ソ連の武官がもめ事になるのはやむを得ないことだと考えていた。カリーナは、パラデウスの存在を抜きにしてもこの会談が平和的に終わるのかどうか不安に思っていた。
指揮官は、サービス用人形として潜入しているX95に現場の状況を確認した。それによると、警備員の数が少なすぎる上にそのほとんどが出入口でのセキュリティチェックに奔走しており、予定されていた国家保安局のエージェントの姿も見えない。非常口も封鎖されている。何らかの作為を感じた指揮官は、Kもこれに気づいていることを期待しながら最悪の事態に備えようとしていた。その時、同様に潜入していたルイスからウルリッヒ主席が議事堂へ到着したとの報告が入った。34歳の若さで汎ヨーロッパ連合の中枢を務める女性官僚である。彼女の姿を確認したことでデモ隊は警備網を突破しようと激しく動き始めた。この混乱に乗じて事態が動くことを懸念した指揮官は、各部隊に警戒を強めるよう命じるのだった。
しかし、すぐにルイスがデモ隊の一人が自爆テロを敢行したことを報告。同時に通信規制が入り通常の通信網が封鎖されてしまった。指揮官は、Kによって用意されていたツェナープロトコル通信網に切り替えて各小隊からの報告を待つ。P22は、パラデウス人形の信号を発信している車輛が多数議事堂へ向かっていると報告してきた。Kは、指揮官にグリフィンは予定通りの3区画だけを警備するよう指示する。他の区画は国家保安局の部隊が対応すると言うのだ。指揮官は不安を感じながらも、国家保安局の体面を考えてその命令を承諾する。
議事堂の警備兵がデモ隊への発砲を開始する中、指揮官は監視拠点のROたちに民間人への発砲をせずパラデウスだけを殲滅するように指示を出すのだった。

パラデウスの車輛部隊を殲滅したグリフィン部隊。他区画でも国家保安局の部隊が同様に敵部隊を撃破した模様であった。デモ隊も解散し、議事堂周辺の脅威は去ったように思われた。手ごたえのない相手にがっかりした様子のSOPII。
それを離れた場所から観察している黒衣の少女人形。彼女は、これがまだ始まりにすぎないのだと口にしていた。その言動は、これまでの無機質なネイトと違い明確に感情を備えていることが伺えた。そして、彼女の巡らせた策は議事堂内で密かに進行していた。

混乱が一旦去った議事堂では、ウルリッヒ主席と新ソ連のロシチン大使による記者会見が行われていた。汎ヨーロッパ連合と新国連は新ソ連に対して友好的であると語るウルリッヒ主席。カリーナは、テレビ局が先ほどの自爆テロやデモ隊への発砲を一切報じていないことを怪訝に思っていた。指揮官は、上層部は自分たちの望むものだけを市民に見せるものだと答えながらも、議事堂内の様子がおかしいことを警戒していた。そんな時、X95から通信が入った。彼女が議事堂メインホールに仕掛けていた指向性マイクが、暴徒のものと思われる音声を拾っていたのだ。暴徒は既に議事堂内に入り込んでいると判断した指揮官は、X95に彼らの位置を確認するよう命じる。と、ホール内の警備兵の数が妙に増えていることに指揮官は気がついた。
ウルリッヒ主席が演説を終え、続いてロシチン大使が演説に移ろうとした時、事態は動いた。警備兵が突然天井に発砲すると、他の警備兵たちがウルリッヒ主席やロシチン大使、そして居合わせた取材記者たちに銃口を向けたのだ。その中には、記者に偽装して待機していた指揮官とカリーナも含まれていた。
警備兵に偽装していた暴徒の正体は、パラデウスの信徒たちであった。パラデウスは、汎ヨーロッパ連合の掲げるロクサット主義による公正分配を偽善的な思想として憎むベルグラードの貧困層を巧妙に取り込んでいたのだ。指揮官の指示を仰ごうとするX95だったが、この状況で戦術人形部隊を突入させても犠牲は不可避であると判断した指揮官は判断をしあぐねていた。しかし、周囲を見た指揮官は機会を伺って暴徒を制圧しようと考えている者が自分以外にもいると判断し、その時が来るのを待つのだった。
暴徒は身分証を持たない貧困層や難民を浄化壁外に追いやっている今の政策を批判し、浄化壁の破壊を示唆すると共にウルリッヒ主席を演台に押し付けて「革命の狼煙」として射殺しようとしていた。しかし、ウルリッヒ主席は銃口を頭に突きつけられながらも、暴力による衝突は国家の再建を遠ざけるだけだと冷静に諭す。逆上した暴徒が引き金を引こうとしたのを見て指揮官は戦術人形部隊の突入を命じようとするが、それより先にロシチン大使が隠し持っていた拳銃で暴徒を射殺していた。それと同時に、記者たちも拳銃を抜き他の暴徒たちを撃つ。この会見場自体が、警備兵を装った暴徒たちがウルリッヒ主席を襲撃することを見越しての国家保安局による仕込みだったのだ。グリフィンはあくまで予備戦力でしかないと言うKの言葉は正しかった。Kによるとベルグラード当局は既に反乱者のリストを国家保安局に提出しており、残党にも既に手が回っているという。
しかし、その様子を観察していた黒衣の人形は「人間の信徒はあてにならない」と嘲笑すると、作戦を次の段階に進めるために動きはじめるのだった。

作戦完了を告げたKはグリフィン部隊の議事堂内からの撤収を命じようとした。次の瞬間、議事堂が激しい震動に襲われた。国家保安局部隊への連絡のために慌てて通信を切ったKに続き、議事堂内に配置されていたルイスの部隊が市街地方面での大爆発を観測したと連絡してきた。それと同時に、待機所にいたROからパラデウスの大規模部隊が市内中心部に侵攻してきたとの報告が入る。待機所への突然の奇襲によりグリフィン部隊の半数が戦闘不能となったと言うROは、撤退命令を要求する。指揮官は、ROに待機所から撤退して残存戦力は議事堂前で敵部隊を迎撃するよう命じる。
あの時監視カメラに映っていたのは確かにネイトであり、こちらの作戦を見抜いていたのだと確信する指揮官。指揮官はKに連絡を取る。Kによると、同様に外部で待機していた国家保安局の部隊も2/3が一瞬で戦闘不能になったという。先ほどのパラデウスの車輛部隊は、グリフィンと国家保安局の護衛部隊拠点を見つけるための撒き餌だったのだ。指揮官は、国家保安局にグリフィン部隊を友軍と識別するよう信号の書き換えを要請すると共に、議事堂内の重要人物を護衛して脱出する準備を開始した。
その時、浄化塔近辺の監視部隊に配置されていたKSVKから、「市民がE.L.I.D.感染者に襲撃されている」との報告が入った。KSVKによると、ベルグラード市の浄化塔方向から大きな爆発音が聞こえており、隔離壁が爆破されて感染者が市内に流入してきたと推測されるとのことであった。ここでKSVKたちが踏みとどまっても感染者の群れへの対処はできないと判断した指揮官は、KSVKに持ち場を離れてROたちと合流するよう命令した。
国家保安局のエージェントと共にウルリッヒ主席たちを議事堂から脱出させようとしていた指揮官たちだったが、突然通路目がけて大口径の徹甲弾が連射された。その直撃弾を受けたロシチン大使は胴体が両断され即死。吹き飛んだロシチン大使の死体が当たってしまったウルリッヒ主席は昏倒し、護衛のエージェントたちも次々と撃ち倒されていく。議事堂外からの徹甲弾による狙撃という防ぎようのない攻撃の前に国家保安局のエージェントは全滅した。Kは議事堂内の内通者が狙撃の指示を送っていると言うと、なんとか内通者の指示を止めて脱出するよう指揮官に指示する。想定を上回る敵の策略に、さすがのKも焦りを隠せない様子だった。指揮官は、ホールに煙幕を焚いて狙撃手の目を眩ませ、その隙にX95とルイスの部隊にウルリッヒ主席を救出するよう命令する。そしてROに議事堂前の戦況を尋ねる。ROによると、パラデウスは人間の部隊を優先的に攻撃しており、そのため議事堂の警備兵も国家保安局の部隊も総崩れになったとのことだった。これは、倒しづらい人形ではなく脆弱な人間を狙って戦線を崩壊させる巧妙な作戦であった。
Kは、指揮官に「議事堂から数ブロック先にある教会へ逃げ込め」と指示する。この教会は堅牢な造りで籠城に向いているのだと言う。Kは、ベルグラード市当局内に潜伏していたパラデウス側の内通者が国家保安局に暴徒の情報を渡し、国家保安局が彼らの意図通りに動くよう仕組んでいたのではないかとの推測を話す。Kは「まさかパラデウスがベルグラード市全体を破壊してまで目的を果たそうとするとは思わなかった」と自身の認識の甘さを悔やんでいた。指揮官は、パラデウスの目的は国際会議の破壊ではなくアンジェリアが動いている別件だろうと言う。Kは、指揮官の推測を肯定し、アンジェリアとの連絡が取れなくなったことを明かした。そして、アンジェリアが無事に脱出した時の保険とするため市内に安全エリアを確保するよう指揮官に要請、グリフィンに重装部隊の投入を許可した。それを受けて、指揮官は待機させていた重装部隊に出撃命令を出すのだった。

異性体02「猫と鼠」

時間は国際会議当日、開会よりしばらく前に遡る。
夜明け前のベルグラード市の裏路地では、AR-15とAN-94が作戦に向けての準備を行っていた。AN-94がAR-15に渡したのは新型の無線通信機とシステム更新用のプラグインチップだった。ツェナー通信のポートを遮断しているAR-15のためにAK-12が用意したものだった。AN-94に礼を言うAR-15に、このことではAK-12に礼を言うべきだと言うAN-94。AN-94がいつもAK-12のことばかり口にするのはAK-12が好きだからだろうと皮肉を言うAR-15に、自分はAK-12を守るために造られた人形なのだからこれは運命だと答えるAN-94。AR-15は、AN-94のその態度が宗教じみていると嫌悪感を示す。対するAN-94は、AR-15もM4を守るために造られた人形ではないのかと問うが、AR-15は、中枢命令が削除された今、M4は自分にとって無価値な人形だと答える。AN-94は、人形が神、つまり自身の造物主の行いを信じることの是非を問うが、AR-15は、自身の造物主であるペルシカについては中枢命令という苛酷な運命を与えたことを恨んでいると答える。AN-94は、造物主に与えられた命令としてだけではなく自身の意志でAK-12を守ることを選んだのだと言う。これ以上話し合っても平行線だと悟ったAR-15は会話を打ち切り、まるで話が合わないAN-94と自分を組ませたアンジェリアに悪態をつくのだった。
二人にアンジェリアが与えた命令は、ベルグラード市内に潜伏しているパラデウス人形の動きから、彼らが追っている「ノード」と呼ばれる物の所在を探ることであった。そのためパラデウスとはなるべく交戦せず、あくまで彼らの移動ルートを確認するだけである。そして、AR-15は郊外へ、AN-94は市街地へそれぞれ向かうのだった。

それよりしばらく後。市街地のAN-94と郊外のAR-15は、それぞれの状況を報告していた。市街地では多くのパラデウス人形と識別信号不明の信号を持つ人形が確認されていた。掃討の是非を問うAN-94に、AR-15は敵勢力の排除は別部隊の担当であり自分たちの仕事ではないと答える。反逆小隊が動いていることはパラデウスに悟られてはならないのだ。AR-15は、「ノード」の情報を持つパラデウス人形を発見するのが最優先だと言う。そんな時、AN-94は、気がかりなこととして鉄血の信号を発する人形を発見したと報告する。AR-15は、もしやM-16もこの件に関わっているのではと動揺する。AN-94は、今回の作戦目的に鉄血は関係ないはずだとAR-15を諭し、AR-15も最優先すべきはパラデウスの動向だと再認識する。しかし、鉄血の部隊がベルグラード市内に潜んでいることがどうしてもAR-15の心に引っ掛かっていた。
AR-15は、郊外にある軍の駐屯地へと侵入していた。軍の駐屯地からパラデウスの信号が発信されていることについて、AR-15はあまりにもあからさま過ぎて罠ではないかと疑っていた。AR-15は、アンジェリアと連絡を取るために情報封鎖エリアの展開をAN-94に要請する。AN-94は、AR-15も傍受されやすい無線ではなくツェナー通信のポートを開くべきだと言うが、AR-15はツェナー通信ポートの使用を頑なに拒否していた(註:「傘」ウイルス感染によりAR-15のメンタルモデル内部に芽生えたOGASからの呼びかけを遮断するためである)。
AN-94は60秒間の情報封鎖を展開しアンジェリアとの通信を繋いだ。AR-15は基地内にパラデウスの反応が多数あることを報告、破壊の許可を申請するが、アンジェリアはそれを却下。基地内に敵の大物がいる可能性を示唆しスキャン範囲を基地全体に広げるよう指示する。AR-15は、このままパラデウスの人形を放置すれば多くの人命が失われるおそれがあるのに「ノード」の発見を優先するのか、と憤る。アンジェリアは、自分たちの任務は「ノード」の捜索で民間人の保護ではない、と一蹴する。AN-94は、この基地だけでなく市街地にも多数のパラデウスが侵入していることを告げる。アンジェリアは、これだけの数のパラデウスが特に信号を隠蔽することもなくベルグラード市内に入り込んでいるということは、既に当局の中枢部がパラデウスの信徒に汚染されているのだろうと判断した。アンジェリアとの通信が終わり、AR-15はAN-94に駐屯地の別側出口の動向を監視するよう頼む。しかし、AN-94は突然「にゃー」と鳴いた。怪訝に思うAR-15だったが、AN-94は今の発言を気にしないよう言うとAR-15の要請を受け入れて通信を切った。
市街地で通信を行っていたAN-94は、突然小さな野良猫がまとわりついてきたことに困惑していた。先ほどの「にゃー」は、この猫に対しての発言だったのだ。AN-94は、膝に乗ろうとしてきた猫を抱き上げて撫でていた。そこに、黒衣の少女が声をかけてきた。「猫は可愛いけれど立派な捕食者だ」と言うその少女は、この付近の住人で猫に餌を与えているのだという。少女がキャットフードを猫に与えたのを見て立ち去ろうとするAN-94。少女はすれ違った瞬間、AN-94を「可愛い捕食者さん」と呼んだ。素性を見抜かれたと思って思わず向き直るAN-94だったが、その時には黒衣の少女も、そして猫と地面に撒かれたキャットフードも消えてなくなっていた。

それより約3時間後。AN-94は駐屯地の地下通路へ侵入していた。到着が遅い、と文句を言うAR-15に、「念のため遠回りをしてきた」と言うAN-94。あの黒衣の少女と出会ったことで、自分の所在がパラデウスに露見していると判断したAN-94はわざと迂回路を通ってきたのだが、その詳細をAR-15に報告するのは躊躇われた。
基地内でもう一方の通路を監視していたAR-15は、自分が監視しているところでも何の動きもなかったと言う。AN-94は、AK-12なら基地のシステムをハッキングして調べられたはずだ、とAR-15に謝るが、AR-15にとってはAN-94が事あるごとに「自分はAK-12より劣っている」と言うことの方が腹立たしかった。
その時、一台のジープが基地の通路に現れた。パラデウスの信号は発信されていないためスルーしようとしたAR-15だったが、AN-94は直感的に「あのジープは怪しい」と判断すると追跡を開始した。AR-15から見ると突然AN-94が暴走したとしか思えず、AN-94の後を追いながらアンジェリアへ通信する。アンジェリアは、「AN-94の勘は当たる」とAR-15に言い、そのジープは「ノード」を隠匿している場所へ向かっていると判断した。AR-15は当惑し、「ノード」を発見したらどうすればいいかを尋ねる。アンジェリアは、「ノード」を発見したら一旦こちらの指示を仰いでから即座に破壊するよう命令した。

AN-94が追っていたジープは、今は軍の施設となっているベルグラード市の古い城塞の前で停止した。降りてきたのは軍の士官とおぼしい青年と黒衣の少女。先ほどAN-94の正体を看破した彼女だった。ネイトではないかと思って信号を探知してみたが、彼女からパラデウスの信号は出ていない。その時、彼女はAN-94が潜んでいる方向へ微笑みかけた。3km先からのスキャンを逆探知されるはずはないのにどうして、と狼狽えるAN-94。その背後に現れたのはAR-15だった。急に背後を取ったAR-15に怒るAN-94だったが、AR-15はいきなり説明もなくジープを追いはじめたAN-94が悪いと言い返す。AR-15は、あの二人からパラデウスの信号は発信されてないと言うが、AN-94は、あの黒衣の少女は間違いなくネイトだと答える。AN-94は、あの時の猫を巡るやり取りがネイトによるメンタルモデルへの電子攻撃だと判断していた。そこに存在していない猫をメンタルモデルへのハッキングによって感知させられたのだ、と。しかも、その時にあのネイトはメンタルモデルに今後に備えた侵入口を残していかなかったのだ。それは、「小細工抜きでもすぐに倒せる」という挑発だった。軍用人形であるAN-94の防壁がたやすく破られたことに驚くAR-15。AN-94は、あのネイトに侮られたことに激しい怒りを燃やしていた。
接近して倒すかと尋ねるAR-15。AN-94は、あのネイトのハッキング能力の射程がわからないうちは迂闊に接近すべきではないと言い、まずは彼女たちが何を話しているかを知るべきだと答える。AN-94は既に指向性の傍聴設備を展開しており、その会話を探知していた。AR-15は、これまでAK-12のこと以外では感情を表に出さなかったAN-94が怒りを露わにしていたのを珍しいことだと思っていた。「彼女はこれまで思っていたのと違うタイプなのかもしれない」と思うAR-15だった。

マーキュラスと呼ばれた黒衣の少女は、士官に案内されながら城塞の中へと入っていった。無個性な機械人形のネイトでありながら水銀を意味する個体名を持ち、また詩を口ずさむマーキュラスに苛立つAR-15だったが、AN-94は、「彼女はこれまでのネイトとは違う」と言い、警戒するよう忠告した。堅牢な石造りの城塞では指向性傍聴設備による盗聴も効果が薄いため、AR-15たちはマーキュラスを追って城塞内へと入っていった。その道中、AN-94はマーキュラスと接触した際の顛末について語っていた。自分からAN-94の前に現れて挑発してきたマーキュラスの豪胆さに、AR-15はただのネイトではないというAN-94の評価が正しいと判断した。二人は城塞の地下通路へ入っていった。AN-94によると、この地下通路はかつて王族の逃走経路などに使われており、非常に入り組んだ構造になっているという。マーキュラスは相変わらず人形の識別信号を発信していないため、二人は声を頼りに追跡を続けていた。すると、士官とマーキュラスがまた話を始めた。二人はその内容を聴いていた。
マーキュラスを案内してきた士官は反ロクサット主義者であり、自国が汎ヨーロッパ連合と融和することを拒否してパラデウスに加担するのだと言う。ロクサット主義にも美点があるのではないかと返すマーキュラスに、士官は浄化壁内外の住民間格差を広げようとするロクサット主義者への怒りを露わにする。マーキュラスは士官の怒りを称え、平和によって目の曇ったロクサット主義者たちに戦争という名の報復を行うべきだと焚きつけるのだった。士官とマーキュラスは、城塞の地下にある核シェルターへと向かっていた。その中にマーキュラスが求めている「バラクーダノード」があるらしい。このバラクーダノードが、アンジェリアの言う「ノード」の正式名称だった。反遺跡条約に基づいた古代遺跡技術研究の全面禁止により、バラクーダノードはこの場所に永久封印されることになったのだという。それを「遥か昔に埋蔵された秘宝が勇者の訪れを待っている」と詩的に喩えたマーキュラスは、士官と共に核シェルターの扉の前へ辿り着いていた。
マーキュラスたちが遮蔽範囲に入ったせいか傍聴不可能になったため、AR-15はマーキュラスへ接近するべく先へ進む。そこにあったのは、近年設置されたと思われるセキュリティドアだった。マーキュラスたちはこの奥に入っていったのだ。AR-15たちもそれを追って扉の奥へと入っていく。その先は、二又に分岐した通路になっていた。AN-94は、今の状況で二手に分かれるのは危険だと言う。センサーや傍聴設備が使用できない密閉空間のため音を頼りに追跡することもできず、勘に任せて追跡するAR-15たち。しかし、侵入者を混乱させるために巧みに造られた地下通路は、彼女たちを道に迷わせていた。再びセキュリティドアの近くに戻ってきてしまったAR-15は、早く追いかけてマーキュラスもろともバラクーダノードを破壊しようと焦る。AN-94は脱出経路が定まっていないこの状況では、仮にバラクーダノードを破壊しても敵の増援が来たら生還できないため、まずはアンジェリアに連絡して指示を仰ぐべきだと言う。この機を逃したら城塞への再潜入はできないかもしれない、と答えるAR-15だったが、その時セキュリティドアのロック音が響く。二人は閉じ込められてしまったのだ。AK-12の電子戦性能であれば開錠可能かもしれないが、AN-94もAR-15もそれだけの電子戦性能は持たない。所持している爆薬ならドアを破壊可能だが、これはバラクーダノードの爆破用である。とにかく前進するしか選択肢がなくなった二人は、再びマーキュラスを追って通路を進む。
この地下通路は城塞建築当時のそのままであった。二人は、念入りにルートを記録しながら進んでいく。まるでアリの巣のような迷路となっている地下通路には、各所に隠し扉が配置されていた。いざとなったらこの隠し扉を使って追跡から逃れようと言うAN-94。AR-15は、そんな事態が来ないよう祈るのだった。

幾度かの分かれ道を経て、ようやく灯火がある方向へと辿り着いたAR-15たち。そこには、マーキュラスたちの姿があった。ようやく追いついたのだ。古代の城塞そのままの通路を抜けた先は、近代的な軍事施設だった。すると、マーキュラスたちの会話が聞こえる。AR-15たちは物陰に隠れて傍聴を開始した。
シェルターへの直通ルートを使用せず城塞内を延々と歩かされたことに不平をこぼすマーキュラス。士官は、通行記録に残らないルートを使ったのだと答えた。士官はこの先にバラクーダノードの保管庫があるが、扉の開錠手段がないのだと言う。元々保管庫を管理していたのは大戦前の旧ソ連軍(註:バラクーダノードが最後に使用されたのは前世紀のソ連時代)であり、ベルグラード当局も管理権限を持っていないため開けることはできないというのだ。士官は、バラクーダノードまで案内した対価として反乱分子への協力の確約をマーキュラスに要求する。するとマーキュラスは、朗々と詩の一節を読み上げたかと思うと両袖から触手を伸ばし、士官を締め殺した。「あなたの役目は終わりました」と絶命した士官の亡骸に一礼したマーキュラスは、高らかに笑うとAR-15たちを呼ぶ。最初からマーキュラスは追跡に気づいており、わざと二人をここに誘い込んだのだ。「愚かな漁師が、水面の月を追い立てるがごとく」と二人を嘲笑するマーキュラス。マーキュラスの言葉は虚勢だと言うAR-15だったが、瞬時に伸びてきたマーキュラスの触手がAR-15の頬を掠めた。触手が触れただけでメンタルへ強制侵入されたことに狼狽えるAR-15。マーキュラスは触れるだけでメンタルモデルへのハッキングが可能なのだ。
マーキュラスは、読み取った情報からAR-15たちがバラクーダノードとは何であるかも知らされずにこの任務に派遣されたことを知って彼女らを憐れむ言葉を投げかけ、姉のニモゲンに作戦開始の通信を送ると共に、通路に潜ませておいたパラデウス機械兵たちを呼び集める。高らかに詩の一節を吟じながらAR-15たちに死を宣告するマーキュラス。形勢不利と見たAR-15は、すかさず逃走態勢に入るのだった。

異性体03「辺境の外」

(異性体01「幻の平和」冒頭部より続く)
アンジェリアはM4との会話を打ち切ると、浄化壁の様子を伺っていたAK-12を呼んだ。AK-12によると、浄化壁近くの5箇所にE.L.I.D.感染者の群れが集まってきているという。原因は不明であり、浄化壁近辺を監視しているはずの駐屯地にも特に動きはない。そして、気象予報ではこれから暴風雨になるとのことだった。汚染物質交じりの大雨が感染者に与える影響を危惧するAK-12。アンジェリアは、国際会議が開催されている中で軍の戦力を感染者駆除にまで割く余裕がないのだと言う。コーラップス汚染により国の首都ではなくなったベルグラードには軍もそれほどの戦力を常駐させていない。だが、それゆえに各国ともこの街を重視しておらず、そのことが逆に国際会議の会場として選定される理由になったのだ。「感染生物に襲撃されるリスクがあっても?」と問うAK-12に、アンジェリアはそれを肯定する。そして、感染生物よりもっと恐ろしい存在であるパラデウスがこの街を蝕んでいることも。その時、アンジェリアに通信が入った。Kからである。Kは、国家保安局のエージェントが到着したこと、そしてグリフィンが今回の作戦に有用であるとの判断が下されたことを告げる。アンジェリアは、自分が推挙したグリフィンなら当然のことだと言う。Kは、国家保安局のエージェントが時間を稼いでいるうちにアンジェリアが目的を達成するよう念を押すと通信を切った。アンジェリアは、ベルグラードがいつまで無事で済むかを案じるのだった。
それから国際会議の当日まで時間は進む。
反逆小隊のM4とAK-12は慰霊碑の近くで浄化壁の監視を続けていた。AK-12は、慰霊碑に名前が書かれていないことを不思議がっていた。アンジェリアは、ここには書ききれないほどの人数だからだと答える。そんな慰霊碑にもかかわらず誰も訪れない、と言うAK-12に、アンジェリアは「人間は過去を忘れないと未来に向き合えない」と答えた。かつての仲間のことを思い出し感傷にふけるアンジェリアの気持ちを「人形には難し過ぎる」と言うAK-12。少ない反逆小隊の人員を更に分割してまで浄化壁を監視する意味を問うAK-12に、アンジェリアは「どうしても不安が残る」と言い、切り札は温存しなければならないと答える。AK-12は、M4がそこまで重要な存在なのかと言うが、アンジェリアは「そこまで気になるのなら直接話してみたら」と答える。
監視任務中のM4に話しかけたAK-12だったが、M4は会話を拒む。対するAK-12は、「自分と話してる方が楽しいものね?」と、彼女の中にいるOGASを知っていることを匂わせると、会話をやめて去っていった。OGASの存在を知られている、と焦るM4に、OGASは「ごまかすのが下手ね」と語りかける。嫌そうな態度を取るM4に、もうお互いに信頼し合える関係のはずだと言うOGASだったが、M4はOGASとは利用し合う関係にすぎないと突き放す。今後はもっと協力しなければならない局面が増えると言うOGASに、露骨な嫌悪感を示すM4。しかしOGASは、自分の存在を受け入れてくれたM4に感謝していると言う。対するM4は、自分を騙した(註:「特異点」でM4をエルダーブレインに引き合わせた際の口約束)ことを絶対に忘れない、とOGASに釘を刺す。それでもOGASは、自分にとってM4は真実に至るために共に歩む相棒であると言うのだった。

一方その頃、慰霊碑前にいたアンジェリアへAR-15から通信が入った。AN-94が駐屯地から出てきたジープを追って飛び出したのだという(註:異性体02「猫と鼠」参照)。アンジェリアはAN-94の勘は当たると言い、バラクーダノードを発見したら一旦こちらの指示を仰いでから破壊するよう命令した。すると、そこに現れたAK-12が、浄化壁を監視している軍の駐屯部隊が奇妙な行動をはじめたと報告してきた。通常は一定ルートに従って監視行動を行うはずの部隊が、進行ルートを外れて壁外の一定エリアに集結しているというのだ。感染生物が接近しているのではないかというアンジェリアだったが、AK-12は周囲の感染生物にその兆候はないと答える。その直後、その部隊が識別信号をパラデウスのものに変更した。「葉が朽ちるのは往々にして根が腐乱した後」と呟くアンジェリア。軍内部にも既にパラデウスの信徒が蔓延していたのだ。アンジェリアは、AK-12にM4と共に浄化壁へ向かうよう指示する。パラデウスに呼応した反乱部隊が何をするつもりなのかを偵察するためである。
その数分後、AK-12たちが見たのは浄化壁の防衛部隊と反乱部隊が交戦している光景だった。アンジェリアは、AK-12たちに防衛部隊に加勢して反乱部隊を殲滅するよう命じる。AK-12は、他国の領土で、しかも人間の兵士を相手に発砲することがどういうことになるか承知しているのかと問う。アンジェリアは、敵部隊の主戦力は軍用人形と機動兵器であり、それらを重点的に叩けばいいと言う。そして、必要なら人間の兵士も躊躇せずに倒せとも。M4は、自分たちの目的はバラクーダノードの発見および破壊であり、これは余計な手出しなのではと言うが、アンジェリアは「パラデウスが動いたということは、これらの動きは全てバラクーダノードに繋がっている」と答える。そして、和平会議が行われている議事堂周辺でも同様にパラデウスが行動を開始したことを告げる。それでもバラクーダノード探索を優先すべきと言うM4だったが、アンジェリアは「精緻な情報を待っていたら手遅れになる」とその提案を拒絶した。AK-12は、やや納得がいかないながらもアンジェリアの命令を受諾し、反乱部隊への攻撃を開始する。M4もしぶしぶそれに続くのだった。
反乱軍の機動兵器群を排除し壁内へ入ったAK-12たちにアンジェリアが通信してきた。「どうせ悪い知らせね」とぼやくAK-12。内容はその通りであった。コーラップス交じりの暴風雨に追い立てられた感染者の群れが浄化壁へと向かっているというのだ。コーラップスを含んだ雨は感染をより進行させる。より変異し凶暴化した感染者が壁に殺到しており、それを駆除するはずの防衛部隊は反乱部隊への対処でそれどころではない。取り返しのつかない事態になる前に反乱部隊を排除しなければならないのだ。
隔壁内部の自律防衛装置に苦戦するAK-12たち。AK-12は、防衛部隊が自分たちの識別信号を味方だと認識してくれれば装置を排除せずに済むと言い、M4に防衛部隊とのコンタクトを提案する。M4は反逆小隊の存在を知らせるべきではないと反対するが、AK-12はM4に事態を素早く解決するための代案を要求するのだった。

AK-12たちは、反乱部隊と防衛部隊が交戦している最前線へ辿り着いていた。壁内下層の軍用人形や機動兵器は既に排除しており、残るは上層にいる人間の反乱部隊兵士だけだ。その時、M4は倒れていた防衛部隊の将校を助け起こしていた。この状況で負傷者の救助をしている暇があるのかと言うAK-12に、M4は先に上層へ向かうよう言うと将校を安全地帯へと運んでいった。戦いへの介入を嫌がったかと思えば事態の解決より負傷者の救助を優先するM4の身勝手ぶりに半ば呆れながらも先へ進むAK-12。
自分を置いて上層の反乱部隊を早く殲滅するよう懇願する将校を封鎖エリアへ運び込んだM4は、素早く応急手当てを済ませる。礼を言った将校は、M4が戦術人形であることを知ると、防衛部隊の他の兵士たちにM4とAK-12の識別信号を味方増援として送信した。どの部隊から派遣されたのかを尋ねる将校に「ただの通りすがりです」と答えるM4。将校は、上層の反乱部隊殲滅へと向かうM4の武運を祈って見送るのだった。
合流したM4に、Ak-12は将校を助けて味方としての識別信号を得るところまでが作戦だったのかを尋ねる。M4は、臨機応変に対応しただけだと答えた。「それに、アンジェさんは不要な死を好まないから」と言うM4に、「クールに装っても自分の心は偽れない」と返したAK-12は、今後は任務に支障がない範囲でM4が好きなように行動すればいい、と笑いかける。M4の持つ優しさはきっと面白い結果に繋がると考えてのことだった。一方のM4は、「自分の感情すら制御できないのに自分の中にはOGASまで存在している」と、これからの自分がどうなるのか不安になっていた。
防衛部隊と反乱部隊の戦いは、終わりを迎えようとしていた。浄化壁の最上層で包囲された反乱部隊からは持ち場を放棄して逃げ出す者まで現れた。士気崩壊かと思われたが、AK-12はその逃げたはずの兵士が隔壁下層部に集結していることを不審に思いアンジェリアへ通信を送る。状況を見たアンジェリアは、最上層の部隊は囮だと判断した。反乱部隊は、逃げたと思わせた兵士による隔壁制御システムの奪取が真の狙いだと言うアンジェリア。AK-12たちは、制御室を守るためすぐに下層へと向かった。
制御室前に陣取った敵部隊を排除したAK-12たちは、制御室へ入ろうとするがドアはロックされていた。AK-12は制御システムを電子戦で掌握しようとするが、都市における最重要施設だけにガードが硬くなかなか侵入できない。ようやくドアを開いた時、中では反乱部隊の兵士が隔壁を開くための操作を行っていた。M4は兵士の背に銃口を押し当て操作を止めるよう命じるが、兵士は止めようとしない。やむなく兵士を射殺したM4に、OGASは「躊躇ったね」と囁く。人殺しを悔いるM4に、OGASは「正しいことをするためには仕方がない」と言う。その時、AK-12が声をかけた。死んだ兵士の通信機から、反乱部隊の通信が聞こえてきたのだ。制御室を奪回されたと知った反乱軍は、最後の手段として浄化塔の爆破を選んだのだ。発信位置を特定したM4は、すぐに阻止へと向かう。通信機からは、反乱軍リーダーからの呼びかけが聞こえてきた。「全てが徒労だ」と嘲笑うその声に、AK-12は「無駄な悪あがきは止めることね」と返す。反乱部隊リーダーは、隔壁の占拠、制御室の奪取は両方とも囮で、本命は隔壁の爆破だったのだと言う。「軍人の務めは民間人を守ることだ」と叱責するAK-12に対し、反乱部隊リーダーは、下層市民が壁外で貧窮にあえぐ中で都市部の富裕層がのうのうと暮らしていることへの怨嗟を叫ぶ。そして、真の自由と平等を実現するために浄化壁を破壊するのだ、と。隔壁を爆破したら壁内にいる兵士も皆死んでしまうと説得するAK-12に、反乱部隊リーダーは「最初からそのつもりだ」と言う。AK-12は、死を覚悟した狂信者には並大抵のことでは勝てない、とM4に警告する。速やかに制圧に移ろうとしたM4だったが、あと少しのところで間に合わなかった。反乱部隊リーダーは、「狂った世界に俺たちの咆哮を轟かせろ!」と絶叫し、起爆装置を起動させたのだ。爆発炎上した浄化塔は倒壊し、防壁には隙間ができた。暴風雨に追い立てられた感染者たちは、炎をものともせずその隙間から大挙して市街に雪崩れ込んでいった。
アンジェリアの通信機には、阿鼻叫喚の様相となった市内の様子が流れ込んでいた。火だるまになったまま暴れる感染者によって引き起こされた市街地の火災、襲われる市民たち。そして潜伏していたパラデウス機械兵たちの蜂起。ベルグラード市は、まさに地獄となっていた。凄惨な戦場を見慣れたはずのアンジェリアですら目をそむけるほどの光景だった。

異性体04「鮮血の信念」

〈時間軸は、同時進行であった異性体01~03の直後となる〉
ベルグラード市内に感染者の群れが流入してきてから30分後。議事堂周辺は既に大量の感染者によって包囲されていた。ウルリッヒ主席をはじめとした要人たちを連れて早く教会へ逃げ込みたい指揮官とROたちだったが、押し寄せる感染者の群れを前に立ち往生していた。そこにKからの通信が入る。議事堂内を狙撃していたパラデウスの砲撃陣地は、国家保安局エージェントたちの犠牲によって壊滅したという。これでパラデウスによる狙撃を考慮せずに動けるようになったのだ。指揮官は、議事堂前に集結した全小隊に要人たちを連れて教会に移動するよう命令する。と、カリーナから昏倒していたウルリッヒ主席が目を覚ましたとの報告があった。指揮官はウルリッヒ主席に駆け寄り、会談が中止になったこと、市内は感染者たちが溢れかえっていること、ロシチン大使や議事堂の保安要員はみんな死んでしまったことを伝える。思いのほか冷静に対応するウルリッヒ主席に驚く指揮官だったが、彼女は「こういう状況は初めてではありません」「私は最初から犠牲になるつもりでやって来ました」と答える。指揮官は、ウルリッヒ主席を死なせないのが自分たちの役目だと言い、RO率いる小隊を護衛に付けるのだった。
建物の陰に隠れながら移動するウルリッヒ主席と護衛小隊。この程度の行軍では疲れない戦術人形と違い、人間で軍事訓練を受けているわけではないウルリッヒ主席は疲労の色を隠せなかった。ROは、彼女の様子を見て休憩を挟む。自分の疲れを考慮してくれたROに謝るウルリッヒ主席に、ROは元々ここで指揮官の指示を仰ぐ予定だったので謝る必要はないと言う。教会に逃げ込むことになっていると言うROに、ウルリッヒ主席は、教会周辺は居住区だったことを思い出し住民たちの安否を気遣う。ROは、グリフィンの支援部隊が到着すればこの周辺を警護してくれるから地域の住民も大丈夫だと答えた。それが気休めでしかないことを承知の上だった。
その時、銃声と共に「支援部隊が来るって本当なの?」と問う声がした。ROの前に姿を現したのは黒衣の少女だった。ベルグラード城塞に侵入した上級ネイト・マーキュラスとそっくりの少女だ。ウルリッヒ主席を引き渡せと言うその少女を「ネイト」と呼んだ途端、少女は激昂した。「卑しい名前で呼ばないでくれる?」と言った彼女はニモゲンと名乗り、ROたちを葬り去るためにやって来たのだという。ROたちの死体を弄ぶのだと嘲笑した直後、背後に控えていたパラデウス機械兵たちが攻撃を開始した。ウルリッヒ主席を巻き込むのか、と問うROに、ニモゲンは「生かして連れてこいなんてお父様は言ってない」「死んでいた方が楽だもの」と答えるのだった。
ニモゲン率いるパラデウス部隊の猛攻を支えきれず、指揮官に救援を要請するRO。しかし、指揮官の部隊はパラデウス部隊による分断攻撃を受けて合流するのが困難な状況にあった。ROは、敵を指揮しているニモゲンさえなんとかできれば、と突撃を敢行する。しかし、ニモゲンの戦闘力はこれまでのネイトよりも遥かに上であった。伸びる触手に足を絡め取られ、2階ほどの高さまで持ち上げられた後に叩き落とされたROは、立ち上がろうとしたところをニモゲンに踏みつけられた。グリフィンを「出来損ないの集団」と罵倒しROにとどめを刺そうとしたニモゲンだったが、飛んできた榴弾を回避するためにROから離れてしまった。SOPIIが救援に駆けつけたのだ。起き上がったROは遮蔽物へと隠れる。SOPIIを「遊びがいがありそうなオモチャ」と評するニモゲンに、SOPIIは「生意気なネイト」「強くなってないのに口だけは一丁前」と返す。ネイトと呼ばれて再び激昂するニモゲンに、「分類してもゴミはゴミ」と言うSOPII。嘲笑で返そうとしながらも怒りを抑えきれないニモゲンをSOPIIは更に挑発する。指揮官の部隊がルートを確保したのでウルリッヒ主席を連れて早く教会へ逃げようと言うROに、「適当にぶちかましてしまえばいいんだから楽勝だ」と答えるSOPII。SOPIIの攻撃はニモゲンの進撃を阻止するには充分であり、その間にROはウルリッヒ主席を連れて教会へ急ぐ。かつてのSOPIIであれば破壊衝動に呑まれて我を忘れていたはずだが、今のSOPIIは冷静に戦況を見極めてニモゲンの足止めに徹していた。ROからの称賛に応えた隙をついてSOPIIの首に触手を巻きつけ、勝利を確信したニモゲンだったが、SOPIIは触手を掴んで引きちぎるとそのまま手繰り寄せ、ニモゲンを思い切り蹴り飛ばした。更に追い討ちで榴弾を叩き込む。爆発が消えた後、ニモゲンからの追撃がないのを確認したROたちは教会へ向かうのだった。

市街地は、敵味方問わず破壊された人形の躯体と感染者の死骸がいたるところに散らばっていた。小隊を連れて移動していたROは、廃墟の陰に友軍の信号を探知して足を止める。鉄板で作られたバリケードの奥には、怯えてうずくまっている1体のグリフィン人形が潜んでいた。ROが呼びかけても返事をしない。ROは、彼女が消息を絶った監視小隊の一員であるHS2000であることを思い出していた。名前を呼ばれてようやく返事をしたHS2000は、恐怖と申し訳なさが入り交じった表情をしていた。HS2000によると、他の小隊メンバーは全て敵との交戦で破壊され、恐怖で動けなくなってしまった彼女だけが生き延びたのだという。元々はただの医療用人形で、初めての実戦で頭が真っ白になったのだと答える彼女に、自分の初陣も酷いものだったと答えるRO。まずは生き延びて次のことを考えようと言うROの言葉に元気を取り戻したHS2000。ROは、HS2000を主力小隊へ合流させると移動を再開するのだった。

教会では、指揮官が残存する人形部隊を再編し、周辺の感染者を排除して防衛線を構築していた。カリーナは、感染者の群れが思った以上に手強かったことで「”簡単に一蹴できる”なんてKさんの嘘つき」と憤っていた。教会の防衛部隊に編入されたルイスは、撃退した感染者の体液まみれになってしまい「気持ち悪い、無理」を連呼していた。P22は、ROたちがウルリッヒ主席を連れてくるまで防衛線を維持しなければならない、とルイスを叱責する。その時、ROたちがようやく教会に辿り着いた。
それからしばらくの後、榴弾の爆発で瓦礫に埋もれていたニモゲンがようやく立ち上がった。強敵に巡り会えた喜びと敗北の悔しさが入り交じり、哄笑しながら激怒するニモゲン。彼女は、グリフィン部隊をこの街ごと焼き払うことを宣言し次の作戦の準備へ取り掛かるのだった。

教会周辺に展開した防衛線の状況を確認して戻って来た指揮官を出迎えたのは、無事に合流できたROとSOPIIだった。早速指揮官にウルリッヒ主席を連れてきたことを褒めるようおねだりするSOPII。指揮官は、まだ周辺にはパラデウス部隊と感染者の群れが大量に徘徊しており予断を許さない状況だと言う。SOPIIは、パラデウスのリーダー人形だったニモゲンをぶちのめしてきたことを告げて更に褒めるよう言ってきた。カリーナは、SOPIIがいつものようにその人形を引き裂いて残骸を持ってこなかったことに安堵する。SOPIIは、ニモゲンがネイトなのにネイトと呼ばれて激怒していたと言う。そして、気持ち悪い笑い方をしていた、と。それを聞いた指揮官は、あの時監視カメラに向けて薄気味悪い笑みを浮かべていた黒衣の少女がニモゲンだったと確信した。そして、パラデウスはどれだけの策を用意しているのかと考えて背筋が冷たくなっていた。指揮官は、SOPIIにニモゲンにとどめを刺したのかを確認するが、SOPIIは榴弾で吹っ飛ばしただけでとどめは刺してないと答える。死体確認に向かうというSOPIIを止めた指揮官は、ニモゲンが何を企んでいるかを考えようとしたが、それ以前にやるべきことが山積していることに気がついて眩暈がしそうになっていた。
そんな指揮官を案じて声をかけたのはウルリッヒ主席だった。ウルリッヒ主席は、同様に教会へ避難してきた民間人のことを心配しており、国家保安局の支援がいつ到着するのかを尋ねてきた。支援がいつ来るかはわからないと答えた指揮官は、ウルリッヒ主席に教会の中にいるよう要請する。カリーナに連れられて教会奥へ向かうウルリッヒ主席は、指揮官はベオグラード当局でも新ソ連国家保安局のエージェントでもなさそうだけど、一体何者なのかと問う。指揮官は、しがない民間軍事会社の者だと答えるにとどまった。
気を取り直した指揮官は、ROと共に今後の状況について話し合う。これまでの戦いで、グリフィンの兵力は大幅に削られていた。再編したとはいえ先鋒部隊の戦力に不安が残る。すると、教会外周で断続的に爆発音が響きはじめた。パラデウスがこの教会に対して砲戦による火力制圧を開始したのだ。指揮官は教会周辺の防衛陣地を維持することを諦め、教会内に籠城することを選択。通信妨害で後方部隊との連絡がままならない中での撤退戦を進めるのだった。

なんとか部隊を教会内へ撤退させた指揮官は、教会入口に防衛線を構築した。カリーナはようやくKとの通信に成功したが、Kは市内全域が戦場になっており支援を送れる状況でないと言う。そして、先ほどの敵の攻撃で破損していた通信機は動かなくなった。教会が陥落したらウルリッヒ主席を連れて逃げるしかないと考える指揮官だったが、この教会には子供を含む民間人もいる。最悪の場合、彼らを見捨てる覚悟が必要だった。カリーナは、通信機を修理してKに再び連絡を取るという。Kが何の考えもなくこの教会を避難場所に選んだはずがないというのだ。その時、カリーナはウルリッヒ主席が近くにいないことに気がついた。ウルリッヒ主席は、砲撃の振動で崩れて降り注ぐ天井の破片から民間人の子供を庇うために覆い被さっていたのだ。それに気づいたSOPIIは、ウルリッヒ主席がいると声をあげる。ウルリッヒ主席は、この教会から退避するなら自分よりも民間人の救助を優先するよう指揮官に要請する。自分は重要人物などではなく、単なる駒にすぎないのだと。ウルリッヒ主席を守るのが任務だと答えるSOPIIに、民間人を見捨ててまで生き延びたいとは思わないと言うウルリッヒ主席。恐怖のあまり顔から表情が抜け落ちてしまった子供を見たROは、ウルリッヒ主席の意思を理解した。指揮官も、人々を守るために自分の命を賭けようとするウルリッヒ主席の姿を見て軽々しい答えはできなかった。ウルリッヒ主席は、ロクサット主義者である自分は常に国内外の敵意に晒されており殺されることも覚悟できているが、民間人に罪はなく、誰であれこのような状況に置かれるべきではないと言う。国連の情報部からもこの会談に出席するのは危険であると警告を受けており、だから最小限度の要員で訪れたのだと語るウルリッヒ主席。彼女は、グリフィンが民間人を残してこの教会を放棄するなら、自分に武器を渡してほしいと言う。最後までここに残って応戦するつもりであった。揺るがないその信念を見た指揮官は、可能な限りこの教会を防衛することを約束した。自分の命を人質に取って指揮官を脅している自覚はある、と言うウルリッヒ主席。彼女は、指揮官が正しくその力を行使して正義を行ってくれると信じていると言った。それが「新世界の輝きとなるべく」という言葉の意味か、と問う指揮官に、ウルリッヒ主席は頷くのだった。

パラデウスの攻勢は教会まで迫っていた。教会裏口に殺到する新たな避難民を内部に誘導しつつ、正面部隊はパラデウスの攻撃を押しとどめていた。敵部隊の中には、人間のパラデウス信徒も混じっていた。人間への発砲を拒むTEC-9に代わり、X95が前線を引き受ける。
パラデウスの攻撃を押し返し、新たな避難民を教会に匿ったグリフィン部隊。しかし、彼らには助かったことを喜ぶ様子が見られなかった。異常を見抜いたX95は、カリーナに相談する。カリーナは、「戦場には必ずこうなってしまった人がいる」と言う。その言葉を反芻していたX95の背中に、突然石が投げつけられた。石を投げたのは、先ほど救助した避難民だった。恐怖に怯え、教会の隅にうずくまったまま石を投げつけたのだ。向き直ったX95の顔に、また新たな石が投げられた。「この人間もどきが! お前たちがこの街をめちゃくちゃにしたんだ!」「私たちの家が無くなったのはあんたのせいよ!」と口々に罵倒しながらX95に石を投げる避難民たち。X95は、彼らに近づき視線を合わせるようにしゃがみ込むと、「ごめんなさい」と謝罪した。石を手にした男は、思わぬ行動に手を止める。「あんたたちさえこの街に来なければ」と罵倒を繰り返す女性に、X95は「人形だって戦いたくて戦っているわけではないのですが、多くの場合わたしたちに選択肢はありません」と語る。そして、「あなたたちに生きていてほしいから戦います」「争いで消耗するのはわたしたち人形だけでいい」と決意を告げる。真摯なX95の言葉を聞いた避難民たちは、罵倒を止めてただすすり泣くだけだった。カリーナは、避難民を説得するのは自分の役目だった、とX95に謝る。X95とカリーナは、この戦いを早く終わらせてあの避難民たちのような悲劇が繰り返されないよう願うのだった。

一方その頃、郊外の無名戦士慰霊碑の前でアンジェリアは悔しさと怒りにうち震えていた。浄化塔が破壊され市内に雪崩れ込んだ大量の感染者、呼応して動き出したパラデウスの大部隊。彼女はKに連絡を取ると、怒りをぶち撒けた。「最初から知っていたわね!」と問い詰められるKだったが、「全ての潜伏者を割り出すことはできなかった」と淡々と答えるだけだった。アンジェリアはKに隔離壁近辺への支援部隊を要請するが、Kは国家保安局のエージェントは全滅しロシチン大使も死んだことを告げる。想定以上の惨事に驚いたアンジェリアは反逆小隊を議事堂に向かわせると言うが、Kはそれを拒否し、これまで通りバラクーダノードの発見に全力であたるよう命令する。「彼らの犠牲を無駄にするな」と言うKに、アンジェリアはKこそが裏切り者である可能性を示唆する。しかし、Kはアンジェリアの疑念を受け流し、アンジェリアが目的を果たすためには自分の助力が必要だと返す。Kは、アンジェリアに余計なことを考えるな、と再度念を押して通信を切るのだった。

パラデウスの猛攻に晒されながらも、教会はなんとかその姿を保っていた。砲撃による焼け跡と感染者の体液に汚されてもかつての佇まいを残す教会内で、ROは感慨にふけっていた。「神が人に正義の概念を与えたはずなのに」と言うROに、SOPIIは「人間が神様の愛に甘えて好き放題したからこうなったんじゃない?」と答える。崩れ落ちた天使像の頭を蹴って、「神様が人間のすることを全部許したからだ」とぼやくSOPIIに、ROは「指揮官はきっとあの化け物たちを許しはしない」と言う。指揮官と共に世界中の悪を潰していこうと決意するROだった。
一方その頃、教会の反対側にある防衛線では、TEC-9が悲鳴をあげていた。人間恐怖症(註:TEC-9は人間の骨や内臓などに生理的嫌悪感を持っている)のTEC-9にとって、たくさんの避難民の存在は耐え難いものだった。避難民から目を逸らしながら建物の外にいる感染者を撃っていたTEC-9は、自分を見て恐怖で歯の根が合わない避難民の子供の立てる音に怯えていた。TEC-9は、子供に歯が震える音を出さないよう呼びかける。すると子供は、「姉ちゃんは人を殺しているの?」と問いかけた。すぐにカリーナかX95を探して応対を替わってもらおうとするTEC-9だったが、カリーナたちはいない。勇気を出して「お姉ちゃんはバケモノをやっつけている」と答えるTEC-9。すると子供は、母親が感染者に殺されたことを思い出し泣き始めた。「母ちゃんの仇をとってやる」と言う子供に、TEC-9は、「まずは生き延びて遠くに逃げよう」と言う。そして、「あとのことは全部自分たちに任せてほしい」と。そこに現れたカリーナは、人間恐怖症で指揮官とさえまともに話せないTEC-9が、子供とはちゃんと話せていることに驚いていた。自分の背後にカリーナが現れたことに驚いたTEC-9は、慌てて距離を取るのだった。
それからしばらく後。教会に押し寄せる感染者の群れは、もはやグリフィン部隊では支えきれないほどの数になっていた。パラデウス部隊からの砲撃も続いている。連戦続きで人形たちにもさすがに疲れが見えており、弾薬も残り少なくなっていた。「弾切れになっても感染者なら素手で引き裂けばいいけど砲弾はそうもいかない」とぼやくSOPII。支援さえ来ればなんとかなる、と自分に言い聞かせて前線で指揮を執るRO。カリーナは、故障した通信機を修理しながら早くKと連絡を取らなければ、と焦っていた。カリーナが苛立ちのあまり通信機を蹴飛ばした時、通信機は突然正常に動作した。そこにKから通信が入る。「全員くたばったかと思っていた」と言うKに、指揮官は「教会には撤退に必要な人員も設備も何もない、このままでは全滅する」と苦情を言う。Kは、市街地にはヘリを下ろすことができないと答えると、新たな撤退ポイントとして郊外の三角州を指定。30分後にヘリを向かわせると言った。しかし指揮官は、ウルリッヒ主席が教会の民間人を見捨てて撤退ポイントに向かうことを了承しない、と答える。Kは、ウルリッヒ主席を気絶させてでも撤退ポイントへ向かえと重ねて要求するが、指揮官はその要請を改めて拒否。「安全なところにいるお前は切り札を隠しているはずだ」とKを問い詰める。「これは駆け引きではない」とはっきり言い切った指揮官に根負けしたKは、5分後に支援を送ることを約束した。そして、先ほどの指揮官の態度について「後でカタをつけてやる」と珍しく感情的な捨て台詞を吐いた。指揮官も、「生きていれば相手してやる」と言い返すのだった。

アンジェリアはKに通信を送り、浄化壁に新たな穴が開いたことを報告する。Kはアンジェリアに、「お前の任務はバラクーダノードの捜索であって感染者への対処ではない」と言う。アンジェリアにはそれを無視すると、グリフィン指揮官の状況を尋ねる。指揮官はウルリッヒ主席を警護していると聞かされたアンジェリアは、よくそこまで重要な任務を任せたものだと驚き呆れる。Kも、本当はそこまで重要な任務を任せるつもりはなかったが、今や指揮官はなくてはならない存在になってしまったと言う。外部の人間をそこまで信用できるのかと問うアンジェリアに、Kは指揮官もグリフィンという会社を守るために必死なのだと返す。Kにとってもアンジェリアにとっても、今やグリフィン部隊だけが頼れる戦力になってしまったのだ。相変わらず感情を出さず、任務を遂行するように言って通信を切ったKに、アンジェリアは舌打ちをするのだった。

異性体05「狼と梟」

マーキュラスの罠に嵌り絶体絶命の危機に陥ったAR-15たちの前に現れたのはM16率いる鉄血の軍勢だった

(異性体02「猫と鼠」より続く)
ベルグラード城塞の地下通路ではAR-15とAN-94がマーキュラス率いるパラデウスの軍勢から逃げ続けていた。戦力差があり過ぎてとても勝算はない。AN-94は、探知を受けずにここから逃げられるのはツェナー通信ポートを閉ざしているため識別信号を発しないAR-15だけだと言う。そして、AN-94が囮となってパラデウス部隊を引きつけている間に脱出してアンジェリアに指示を仰ぐよう要請した。しかし、AR-15はそれを拒否し、地下通路をうまく使って二手に分かれて逃げることを提案する。AN-94は、メンタルバックアップを持たないAR-15の生存を優先すべきであり、いざとなったら自分が盾になると言う。やむを得ずAR-15はAN-94を置いて先へ急ぎ、AN-94はパラデウス部隊の足止めをすべく攻撃を開始した。現れたマーキュラスは「仲間を見捨てて逃げた」とAR-15を嘲笑しAN-94に死を宣告するが、AN-94はマーキュラスを倒し自身も生還する、と啖呵を切ってマーキュラスへ挑むのだった。一方のAR-15は、記録していた地下通路のルートをメンタルから呼び出しながら通路を進んでいた。可能な限り早く通信可能な場所へ向かおうと急ぐAR-15。

マーキュラスとパラデウス部隊の猛攻を凌いでいたAN-94だったが、既に機体の排熱は限界寸前であった。時間稼ぎに徹したAN-94を称賛しながら、機械兵たちにとどめを刺すよう命令しAR-15の追撃に向かうマーキュラス。その時、AN-94の真上の天井が爆発し大穴が開いた。そこにいたのはAR-15だった。パラデウス機械兵の追跡を振り切ったAR-15はAN-94の真上の位置に移動し、そこでバラクーダノード爆破用の爆弾を使用したのだ。AR-15の援護射撃を受けて天井の穴から退避に成功したAN-94。爆発で加熱された粉塵により断熱機能が失われればいくらマーキュラスでも無事では済まないと言うAR-15。AN-94は、AR-15の機転に感嘆するのだった。

真っ暗な地下通路を移動しながら、AN-94はAR-15が自分を助けるためにマーキュラスのところまで戻ってきたことを不思議がっていた。AN-94の計算では、AR-15があのまま地下通路を出てアンジェリアに連絡を取るのが最善手だった。「そうしたかっただけ」と答えるAR-15の判断を非合理的だと言うAN-94。メンタルのバックアップを取れないAR-15の方が優先順位は高いと言うAN-94に、AR-15は、アンジェリアにとってはよく知った相手であるAN-94の方が優先度は高いはずだと答える。自分がいなくても任務は達成できるはずだと答えるAN-94に、AR-15は「自分の価値を低く見るのは大概にしてほしい」と言う。しかしAN-94は、アンジェリアにとっての最重要戦力はM4とそのサポートであるAR-15であり、自分とAK-12はその補助要員でしかないのだと言うのだった。

城塞からの脱出を目指し、地下通路を進むAR-15たち。二人が辿り着いたのは、城塞の外ではないが広い空間だった。AR-15たちは、扉を開けて中に入った。次の瞬間扉は閉ざされ、空間に照明が灯る。そこは、地下にある劇場だった。照らされる舞台から朗々と聖譚曲「メサイア」の一節を歌いあげる声が聞こえる。スポットライトを浴びているのは、あの黒衣の少女だった。マーキュラスが待ち伏せていたのだ。
マーキュラスは地下通路を抜けてここまで辿り着いた二人を称えると、改めて決闘を申し入れる。すると、大量のパラデウス機械兵が劇場に姿を現した。信号を探知できなかったことに驚くAR-15に、AN-94はこの劇場全域がジャミングされていることを伝え、センサーが使えない以上目視で戦うしかないと言う。
客席で戦い続けるAR-15たちをよそに舞台の上で踊り、歌うマーキュラス。これまでの激戦で弾薬は残りわずかとなっていた。そして、二人は感覚がうまく働いていないことを認識する。マーキュラスの電子戦攻撃により知覚情報が撹乱されているのだ。もはやこれまでかという時、劇場は暗闇に閉ざされた。「複製品がベラベラとよく喋る」とマーキュラスの口上を遮る声。そして、再び劇場に照明が灯る。2階観客席から現れたのは、M16とその傍に控える鉄血の高等人形たちだった。M16の指揮の下、パラデウス部隊へと襲いかかる鉄血人形。鉄血によってマーキュラスのジャミングが解除されたのを好機と見たAN-94は、今のうちにアンジェリアへ通信を送るようAR-15に促す。AN-94が封鎖領域を展開した中でアンジェリアに通信を繋いだAR-15は、バラクーダノードを発見したが現在パラデウスとM16率いる鉄血との間で三つ巴の争いになっていることを告げた。鉄血という想定外の勢力が出現したことに驚くアンジェリアは、すぐに増援を送ることを約束し通信を切った。マーキュラスは、「お父様」からの称賛を得るため必死で鉄血人形たちに立ち向かう。一方のM16はこの場にM4がいないことを確認し、何としてもM4がバラクーダノードに触れる前に回収すべくパラデウス殲滅を目論むのだった。
鉄血とパラデウスの激闘により、劇場は崩壊寸前であった。鉄血人形たちが過去のデータ以上に強くなっていることに驚くAR-15。その中には、初めて見る高等人形の姿があった。AN-94によると、過去の鉄血工造のアーカイブに記載がない機体であるという。鉄血がこれだけの戦力をベルグラード市に潜伏させていたのは、おそらくパラデウスの隙をついてのことであろうと推測するAN-94。AR-15は、アンジェリアの側も緊迫した状況だと言っていたので、市内で何かしらの事態が発生したのだろうと予想していた。
鉄血とパラデウスの戦いは、鉄血の勝利で終わろうとしていた。マーキュラスを警護するパラデウスの機械兵は次々と破壊されていく。これ以上は無理だと判断したマーキュラスは隠し扉を使って逃亡、M16の攻撃も届かなかった。とどめを刺し損ねたM16を嘲笑するのは先ほどの見慣れない鉄血人形だった。その直後、M16を狙って放たれたAR-15の銃弾をたやすく手ではたき落とした鉄血人形は、「グリフィンの人形にはマナーってもんがないのかよ」と粗暴な物言いで凄む。M16を撃ったAR-15を「AR小隊の仲間じゃないのか」と咎めるAN-94だったが、AR-15は「アイツはとっくの昔に仲間じゃなくなった」と冷たく言い放つ。それを見た鉄血人形は「あいつら殺しとく?」と軽い口調で言うが、M16はビークと呼ばれたその鉄血人形に「お前にその権限はない」と言いAR-15たちに降伏を勧告する。抵抗しようとするAR-15だったが、AN-94は残弾も残り少ない中でこれだけの鉄血部隊を相手に勝ち目はないと言い、援軍が来るまで時間を稼ぐために投降すべきだと言う。武器を捨てて両手を上げたAR-15たちに、M16はバラクーダノードの隠し場所まで案内するよう命令した。M16はマーキュラスの目的を把握しており、AR-15たちがマーキュラスから逃げてこの劇場まで来たことを推察していたのだ。「OGASが進化を遂げてしまうまでに」と言うM16。彼女はバラクーダノードとは何なのかを知っているようだった。

異性体06「高い壁の下」

(異性体03「辺境の外」より続く)
隔離壁周辺の街道は、既に地獄と化していた。倒壊した浄化塔跡から侵入してくる大量の感染者は次々に市民を襲い、軍による感染者撃退と市民の避難誘導もあまりに多い感染者を前にしては焼け石に水だった。
M4とAK-12は、反乱部隊により浄化塔が爆破され隔壁に穴が空いたことをアンジェリアに報告していた。最悪のタイミングで市内に感染者が雪崩れ込んだことに頭を抱えるアンジェリア。M4は、反乱部隊との戦いの中でベルグラードの防衛部隊から味方としての識別信号と通信コードを貰ったことをアンジェリアに報告し、協力して感染者撃退をすることを提案した。アンジェリアはその意見に賛同し、防衛部隊との接触を試みる。
アンジェリアはボイスチェンジャーを使用してM4が先ほど助けた防衛部隊の将校ことドラゴヴィッチ少尉に通信を送り、協力を申し出た。ドラゴヴィッチ少尉によると、現在隔壁上部の反乱部隊と交戦しており、隔壁下部は既に感染者により突破されてしまったとのことだった。少尉は、元々防衛部隊所属の兵士は実戦経験に乏しく、それが事態に対処しきれなかった一因となってしまったと言う。軍本部とも連絡がつかず、増援が見込めない現状では戦線の維持は難しいと語る少尉。アンジェリアは、残存兵力を集めてできるだけ狭い場所で戦い、火力を集中して感染者を撃退するよう助言する。市内に流入してしまった感染者の撃退は諦めて、これから市内に入ろうとする感染者を止めることに全力を注ぐのが防衛部隊のやるべきことだと言うアンジェリア。少尉は、壁内での戦線立て直しを約束する。
これを受けたアンジェリアは、M4とAK-12に隔離壁内の各部隊を支援し、孤立している部隊を誘導して本隊に合流させることを命じる。危険な状況に進んで飛び込むアンジェリアを「嵐の中でサーフィンをするような人」と揶揄するAK-12。アンジェリアは、今ここで防衛部隊を助けて感染者の侵入を防ぐことが自分たちの任務にも繋がるのだと言う。そして、ある程度感染者を撃退したら安全なエリアへ退避するように指示するのだった。AK-12は、以前の作戦(註:「特異点」「秩序乱流」を参照)でコーラップスに被曝したアンジェリアに、これ以上感染症を悪化させないよう屋内で指揮を執るよう要請する。市内にはコーラップスに汚染された感染者が溢れており、またコーラップス交じりの暴風雨が降り注いでいるからだった。
アンジェリアはKに連絡を取り、国家保安局のエージェント部隊を侵入した感染者の駆除に回すよう要請する。しかし、Kはそれを拒否した。Kは淡々とアンジェリアに任務を遂行するように言い聞かせ通信を切った。アンジェリアは、「予測範囲内だ」「問題ない」の一点張りでこちらの話を聞かず、しかも必要な支援を送らないKに悪態をつく。アンジェリアは、国家保安局のエージェント部隊はパラデウスの攻撃によって全滅しており、Kがつとめて平静を装いながら次善の策を練っていることをまだ知らなかった。AK-12はKの言い分に賛成し、「E.L.I.D.感染者を阻止することは私たちの仕事ではない」とアンジェリアに防護壁からの撤退を提案する。しかし、アンジェリアはAR-15たちがバラクーダノードを破壊するまではできる限り市内の混乱を最小限に抑えたいと言い、その提案を拒む。M4によると、壁内の状況はわずかに好転したものの全ての防衛拠点で戦力が不足しているとのことだった。そして、少尉が言っていた通り防衛部隊の兵士は練度が低く、M4が呆れるほどに射撃精度が悪い。AK-12は、このままではすぐに防衛線は突破されると言う。そして、市内の状況から考えてとても増援は来そうになかった。反乱部隊が先んじて自律人形や機動兵器のコントロールを掌握してしまったことが悔やまれる中、M4たちは防衛線の維持に奮闘するのだった。
隔壁下部での戦況が好転したと思った途端の出来事だった。隔壁上部で大爆発が発生した。磁気嵐で通信が乱れており、M4たちも状況を正確に把握できていない。アンジェリアの指示で目視確認に向かったM4は、再度爆発が発生した瞬間を目撃することとなった。AK-12は、反乱部隊は遅延信管を使い、爆発で空いた穴を修復するために工兵部隊が集まったところを狙っていたのだろうと推測する。もはや大穴が空いた隔離壁は用をなさず、残された防衛部隊は侵入してくる感染者に包囲されるしかない状態であった。アンジェリアは少尉に連絡を取り、戦力温存のために隔壁から脱出するよう要請する。しかし、少尉は撤退を拒否した。共に戦う部下や同僚たち、そして壁の向こうにある守るべき家族や市民。たとえ合理的判断であろうと、これらの大切なものを見捨てることはできないと言う少尉。彼は沈黙するしかないアンジェリアに礼を言うと、M4たちが撤退するまでの時間を稼ぐために戦うことを告げる。アンジェリアはM4たちに撤退を命令する。少尉を見捨てられないと言うM4に、命令は絶対だと言うAK-12。通信を切ったアンジェリアは、大切なもののために命を落とす決断を下した少尉の姿に、部下の命を守るために復讐の好機を捨てたエゴール大尉の姿を重ねていた。
隔壁の防衛線は既に崩壊し、破壊された隔壁を伝って這い上がってくる感染者の群れは、孤立している防衛部隊を次々に襲っていた。そんな中、M4は撤退しながらも道中で見つけた防衛部隊を援護し、隔壁からの脱出を促していた。しかし、兵士たちは脱出を拒否する。「背後には守るべき街がある」と強い決意を示す兵士たちを見て、M4は立ち去るしかなかった。AK-12は、ここで撤退するような者は最初の爆発で隔壁の防衛を諦めているだろうと言う。ここに残っているのは、死を覚悟している者だけであった。M4は、それでもまだ助けられる人がいないか探しに行くと言う。AK-12は、撤退命令を忘れないように念を押すと自身は速やかに撤退を開始した。
隔離壁を見渡せる頂上に登って戦況を見極めていたM4は、アンジェリアに「自分が持っている武器弾薬を全て誘爆させれば一つ目の隔壁の穴を塞ぐことができる」と提案した。アンジェリアは、その穴の周囲には既に感染者の群れが溢れていると言いその提案を拒否するが、M4はどうしても今戦っている兵士たちの力になりたいのだと言う。そして、M4は隔壁の穴へ向かおうとした時、胸の奥が急に熱くなると同時に激しい耳鳴りに襲われた。OGASがM4に干渉してきたのだ。OGASは、M4が死地に赴こうとするのを止めるつもりだった。OGASは、非情な復讐者になろうとしたM4が今でも心優しい人形であることを告げ、それでもM4を守りたいから邪魔をするのだと言う。OGASの干渉で動きを止めたM4に、アンジェリアは冷静になるよう諭す。今ここでM4が言うように爆発を起こして隔壁を防ごうとしたら、かえって隔壁全体の崩壊を招くと言うアンジェリア。それでも何かをしなければ、と言うM4に、アンジェリアは「ドラゴヴィッチ少尉たちの犠牲を無駄にするわけにはいかない」と答える。悔しさを募らせるM4に、アンジェリアは「ペルシカは自由な魂をあなたに与えたが、今はそれを発揮する時ではない」と言う。その時、AK-12が通信に割り込んできた。AR-15たちが大変なことになっているのだという。
AR-15によると、バラクーダノードの位置は特定できたものの現在はM16率いる鉄血部隊とパラデウス部隊による三つ巴の戦いになっているという。アンジェリアは、M4たちに速やかにAR-15たちの救援へ向かうよう命令した。

アンジェリアは深いため息をついていた。M4の心に背くような命令を下したことを心苦しく思っていたのだ。AK-12は、「全てを救うことはできない」とアンジェリアの判断を肯定する。アンジェリアは、自分自身の判断は自分すら救うことができないのではないか、と思っていた。

指定された合流地点へ向けて移動していたM4は、折り重なった感染者の死体とその傍に倒れていた兵士の姿を見つけた、兵士は装備が損壊し重傷を負っていた。M4は兵士をコーラップス汚染から守るため屋内へ運び込み応急手当をしようとするが、兵士はM4に自分を射殺するよう頼み込んだ。既にE.L.I.D.感染症の症状が出てきたというのだ。「最期まで人間でありたい」と願う彼の言葉を受け入れ、M4は敬礼する兵士の頭部を銃弾で撃ち抜いた。OGASは、今度は躊躇わなかったとM4を褒めるが、M4はこれまでの戦いで何ひとつ救えなかった自身の無力さを責める。OGASは、死んでいった兵士たちは「価値あるもののために犠牲になった」と言うが、M4は地獄となったベルグラード市の惨状を前に、「私が犠牲になることで全てが取り戻せるのならそうする」と叫ぶ。しかしOGASは、そうならないことはM4自身がわかっているはずだと諭した。自分のことを「ただの疫病神」と呼ぶM4は、OGASが求めているわけのわからない力なんか欲しくないと言う。OGASは、誰も自分自身の運命を決めることはできず、M4が持って生まれてきた運命は他の誰にも得ることができないのだと言う。M4はそれを「呪い」と呼ぶが、OGASはM4が人形として生まれてきたからそう考えているだけだと言う。そして、M4が自身の運命を全うすることができたなら、それによって助かる人命はこれまでM4が見てきた犠牲の数より遥かに多いのだと言い、人々を救うためには自身の苦しみと向き合わなければならないと告げた。「苦しむことが決まっているかのようね」と言うM4に、OGASは改めて「自分はM4と運命を共にする者であり、可能な限りM4に適した道を提示しているつもりだ」と答える。苦笑したM4は、これまでのOGASの発言でいちばん信ぴょう性がある言葉だと言う。OGASは、M4に受け入れてもらうために努力をしているのだと返す。M4は、自分の中に他者の意識があることは耐え難いけれど、今は指揮官や他の人形たちだけでなくOGASの助力も必要だと言う。M4の決意を見届けたOGASは、「あなたが最後に何を選ぶかを楽しみにしている」と答えた。そして、M4はAR-15たちと合流するためにベルグラードの街を駆けていくのだった。

異性体07「失われた手札」

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