ロッキー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー』とは、1976年公開のアメリカ映画。低予算ながらアカデミー賞3部門を受賞し、無名の俳優シルヴェスター・スタローンを一躍スターダムへと押し上げた世界的大ヒットシリーズ第1作。監督はジョン・G・アヴィルドセン。フィラデルフィアのスラム街に暮らす三流ボクサーの青年ロッキーに、世界チャンピオンのアポロが対戦相手として指名してきた。自分がただのゴロツキでないことを証明するため、そして愛する女性エイドリアンのために、ロッキーはリング上での決死の闘いに挑む。

感謝祭の日、ポーリーの計らいではロッキーはエイドリアンと初デートをする。ポーリーから妹はスケートが好きだと聞き出し、感謝祭で早仕舞いのスケートリンクに頼み込んで10分だけ時間をもらう。だがボクシングの話ばかりをするロッキーに、エイドリアンのボクシングに対するストレートな質問のセリフ。それに対してロッキーは「歌もダンスもできないからさ(Because I can't sing or dance.)」と、ジョークで返し、その後も相変わらずボクシングの話だった。

初デートだが、何を話していいのか分からないロッキーの話題はボクシングのことばかり。だが、エイドリアンはどうして殴り合いをするのかが分からないボクシングに、いい印象を持っていない。一見楽しそうなデートに見えるが、相変わらずロッキーの一方通行な感じが面白い。

「よく分からねえけど、すき間を埋めてくれるんだ」"I dunno... she fills gaps."

アポロとの試合が決まり練習を開始したロッキーは、ポーリーが働く精肉工場の倉庫に肉をもらいに来た。そこでポーリーから妹とのことについて「お前本当にあいつが好きか?」と聞かれたロッキーが、返したセリフ。
だがこの後、相変わらず口の悪いポーリーの「ヤッたのか?」「寝たのか?」という愚劣な質問にカッとなったロッキーは、肉の塊に素手で思いっきり数発のパンチを撃つ。因みにそれがきっかけで後に練習法として取り入れることになる。

エイドリアンと付き合い始めたことで、毎日の生活が充実してきたロッキーの本心を、口下手な彼らしく表現したいいセリフである。それに対して本当はうれしいのだが、相変わらずうだつが上がらず素直になれないポーリーの気持ちも表現された友情のワンシーンである。

「そんなこと言うなんて、兄さんはブタよ!」"Only a pig would say that! "

試合を間近に控えたクリスマスの夜、ポーリーの家でロッキーとエイドリアンが2人で過ごしていると、2人にバカにされていると思い疎外感を感じていたポーリーは、帰って来るなり悪態をつき、野球のバットで家の中の物を壊しだす。「妹までくれてやったのに、この恩知らずが!」とロッキーに叫ぶポーリーに対して、エイドリアンが言い放つセリフ。彼女はこの後決心したように「ここを出る」とロッキーに言うと、彼は「うちに来な」と誘うのだった。

たった二人の兄妹でありながら、長年自分のことを馬鹿にしてきた兄に対し、不満が一気に爆発したエイドリアン。これまでは泣いて部屋に引っ込んでしまっていた彼女が、愛する人を得たことで兄に食って掛かるのだが、初めて見せる怒りの表情が印象的なシーンである。

「最後のゴングが鳴ってもまだ立っていられたら、俺はゴロツキじゃないことを初めて証明できるんだ」"If I can go that distance, you see, and that bell rings and I'm still standin', I'm gonna know for the first time in my life, see, that I weren't just another bum from the neighborhood."

アポロとの試合前夜、眠れずに試合会場に足を運んだロッキーは、大きな会場に圧倒されて帰ってくる。目を覚ましたエイドリアンに「絶対勝てない」と弱音を吐いた後、彼女に聴かせるというより、自分に話しているように語った言葉。

相手は世界チャンピオン。アポロに勝てなくても、自分のために戦うというロッキーの決意を自分自身で確認する重要なシーンである。

エイドリアン!!"Adrian!"

判定に持ち込まれた試合会場は興奮が冷めやらず、判定前から挑戦者ロッキーのもとには報道陣が詰め寄り何本ものマイクが向けられた。ボロボロに傷付き目も塞がった状態のロッキーは、報道陣そっちのけで、渾身の力を振り絞りエイドリアンの名前を何度も叫ぶ。会場のエイドリアンもまたロッキーの名を叫びながら、観客の波を掻き分けロッキーの立つリングへと向かう。

ロッキーとエイドリアンは、何度も「I love you」と言い、抱き合う。ここまで2人は「I love you」とは言っていなかった。ビル・コンティの名曲「The Final Bell」と共に、テンションがマックスまで上がった瞬間で終わる。全世界の感動を呼んだ名シーン(ラストシーン)である。

多くの人が真似したトレーニングシーンの数々

フィラデルフィア美術館の前から街を一望しながら何度も飛び上がるロッキー。

生卵5個を片手で割ってコップに入れるロッキー。

精肉工場の牛肉をサンドバッグ代わりに叩くロッキー。

本作に登場するロッキーのトレーニングシーンの数々はいずれもパロディなどで真似をする人も多く、後年はYoutubeなどでの一般人の動画も多く上がっていて、これらのシーンのインパクトの大きさを物語っている。

本作の中で、最もインパクトのある名シーンとして有名なのが、アポロとのタイトルマッチ直前に、ミッキーの指示でトレーニングを開始するロッキーのシーンである。
有名なロッキーのテーマ曲「Gonna Fly Now」に乗せて、市場や川沿いのロードワークから、パンチングボール、腕立て伏せ、腹筋を経て、再びロードワークに出て、フィラデルフィア美術館前の階段を一気に駆け上がって最後には街を見渡しながら何度も飛び上がる。
このロードワークのシーンは、ゲリラ的に撮影が行われ、自由な移動撮影のために開発されたステディカムが使われている(ステディカムが使われた最初期の作品である)。練習のシーンの撮影を市内でおこなった際、ステディカムをつかった小規模の撮影クルーだったため映画のロケとは思われず、本物のボクサーと間違えた市民から声援を送られた。特に、ロードワークシーンでは、果物屋の店主がロッキーにオレンジを投げ渡す場面があるが、これはこの店主が、撮影中のスタローンを本物のボクサーと勘違いしたことで起こったハプニングであり、それをそのまま映画に使用している。また、このロードワークのシーンで、スタローンは足の腱を痛め、病院に運ばれたという話もある。

また、最初のロードワークに出るシーンでは、朝4時に目覚まし時計が鳴り、ラジオをつけてベッドから起き上がると、生卵5個を片手で割ってコップに入れ、一気に飲み干すという場面も有名である。因みにこの当時の海外では、生卵は衛生的に危険なので食当たり覚悟で飲み込んだそうである。

精肉工場の牛肉をサンドバッグ代わりに叩くシーンも多くの人が真似するほどの有名なものとなったが、当のスタローンは肉を叩きすぎて手の骨を痛め、結果握り拳をテーブルに付けると隙間がないくらいに真っ平らに変形してしまったという。

『ロッキー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

もう一つのエンディング

激闘を戦い抜いたロッキーが「エイドリアン!」と叫び、リング上でエイドリアンと熱い抱擁を交わすシーンは余りに有名であるが、実はもう一つのエンディング候補も用意されていた。
それは、戦いを終えたロッキーが1人ロッカールームに戻ると、そこで待っていたエイドリアンが小さな星条旗を取り出しロッキーに手渡す。そして2人だけで静かに裏口から会場の外に出て行くという物で、このシーンを使ったポスターも作られたそうだ。
因みに「興奮した観客がロッキーを担いでいく」というシーンも予定していたが、観客役のエキストラを「フライドチキンを配布する」というチラシで募集したため、ほとんどが素人で統制を保てず、撮影できなかったというエピソードもある。

また、脚本段階でも別のエンディングが候補になっていたらしい。
それは、ミッキーがアポロに対する人種差別的な考えを見せ、ロッキーが失望して試合を放棄するというものだったという。当時アメリカで隆盛を極めていたアメリカン・ニューシネマと呼ばれるジャンルの流れを汲む陰鬱なものであったが、これを当時のスタローンの妻・サーシャが読んで「私はこんなロッキー嫌いよ」と述べたため、ハッピーエンドに変更したそうである。

『ロッキー』の原点は世界ヘビー級タイトルマッチにあった

スタローンが29歳の時、それまで映画のオーディションに50回以上落選していたスタローンは、ポルノ映画への出演や用心棒などで日々の生活費を稼いでいた。長い極貧生活を送っていたある日、彼は世界ヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー」戦のテレビ放送を観戦した。アリは当時世界最強と言われていたのに対し、ウェプナーはスタローン同様、繰り返す転職の中で日銭を稼いでいた。誰が見ても勝ち目がないウェプナーであったのだが、なんと予想外の善戦を展開する。ウェプナーの繰り出したパンチがアリのわき腹を直撃しダウンを奪い、対戦後に「二度と対戦したくない」と言わしめた。試合は結局アリが勝利したのだが、スタローンは「アリをダウンさせたその瞬間、ウェプナーは偉大なボクサーとなり人々の心に永遠に刻まれる」と感じ、この出来事を基に彼はわずか3日で脚本を書き上げ、プロダクションに売り込んだという。

ロッキー役を譲らなかったスタローン

yudai10184
yudai10184
@yudai10184

Related Articles関連記事

ロッキー5/最後のドラマ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロッキー5/最後のドラマ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー5/最後のドラマ』とは、1990年製作のアメリカ映画。ボクシングに挑む1人の男の愛と闘いを通して、サクセス・ストーリーを描いてきた『ロッキー』シリーズの第5作にして完結篇。シリーズ1作目で監督を務めたジョン・G・アヴィルドセンを再び監督として招き、脚本・主演はシルヴェスター・スタローンが務める。脳へのダメージからボクサーを引退し、財産も失い、原点であるフィラデルフィアの下町に戻ったロッキーが、新人ボクサーを育成しトレーナーとして第二の人生を歩む姿を描く。

Read Article

ロッキー4/炎の友情(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロッキー4/炎の友情(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー4/炎の友情』とは、1985年に製作されたアメリカ映画。『ロッキー』シリーズ第4作。監督・脚本・主演はシルヴェスター・スタローン。当時の東西冷戦下のアメリカとソ連を背景としたストーリーは、過去3作とは大きく趣の異なる作品となっている。ロッキーの宿敵であり親友であるアポロが、引退後再びリングに立つことになった。だが、挑戦者であるソ連の長身ボクサー・ドラゴの殺人的パンチによって、リング上で死んでしまう。ロッキーはドラゴを倒すため、敵地ソ連へと旅立つのだった。

Read Article

ロッキー・ザ・ファイナル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロッキー・ザ・ファイナル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー・ザ・ファイナル』とは、2006年製作のアメリカ映画。シルヴェスター・スタローンの出世作にして代表作「ロッキー」シリーズの6作目。スタローンが監督・脚本・主演を務め、第5作から16年ぶり、第1作から30周年を迎えた伝説のシリーズを締めくくる。現役を引退し、愛妻エイドリアンにも先立たれ、一人息子ジュニアとの関係もこじれて満たされない日々を送るロッキーが、ある決意を胸に無謀な復帰戦に挑む姿を、彼の人生の思い出の数々をちりばめつつ熱く感動的に綴る。

Read Article

ロッキー3(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロッキー3(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー3』とは、1982年公開のアメリカ映画。『ロッキー』シリーズの3作目であり『ロッキー2』(1979年)の続編。前作に引き続きシルヴェスター・スタローンが監督・脚本・主演の三役を務め、シリーズ最終章の予定で製作された。世界チャンピオンとなり、順風満帆な生活を送っていたロッキー。そこへ強敵黒人ボクサー・クラバーが挑戦して来た。だが、ハングリー精神を忘れたロッキーは無残に敗れ去る。再起をかけるロッキーにかつての宿敵アポロがトレーナーとして名乗りをあげ、クラバーとのリターンマッチに挑む。

Read Article

ロッキー2(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ロッキー2(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー2』とは、1979年公開のアメリカ映画。シルヴェスター・スタローンを一躍スターダムに押し上げた『ロッキー』(1976年)の続編でシリーズ第2弾。本作ではジョン・G・アヴィルドセンに代わりスタローンがメガホンを取り、監督・脚本・主演の三役を務めている。ロッキーとの試合に納得がいかない世界チャンピオンのアポロは、彼をリターンマッチに引きずり出そうと目論む。ボクシングを辞め、恋人エイドリアンと結婚しジュニアも誕生したロッキーだったが、苦悩の末、再びアポロの挑戦を受けることにする。

Read Article

クリード チャンプを継ぐ男(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

クリード チャンプを継ぐ男(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『クリード チャンプを継ぐ男』とは、2015年に製作されたアメリカ映画。シルヴェスター・スタローンを一躍スターダムに押し上げた『ロッキー』シリーズ初のスピンオフ作品で、『ロッキー・ザ・ファイナル』以来9年ぶりに新たな物語を描く。今は亡き伝説のボクサー・アポロの息子アドニスは、かつて父と歴史に残る激闘を繰り広げたロッキーを探し出してトレーナーを依頼。アドニスの純粋さと情熱にアポロの面影を見たロッキーは、彼を鍛え上げ自らのすべてを託し、セコンドとして共に世界タイトルマッチに挑む。

Read Article

ベスト・キッド(The Karate Kid)のネタバレ解説・考察まとめ

ベスト・キッド(The Karate Kid)のネタバレ解説・考察まとめ

『ベスト・キッド』とは、1984年に製作されたアメリカ映画。『ロッキー』のジョン・G・アヴィルドセン監督による、カラテを通して成長していく少年の姿を描いた青春アクション映画。カラテの達人であるミヤギ役のノリユキ・パット・モリタがアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。ひ弱な高校生ダニエルは、不良グループに痛めつけられる毎日を送っていた。そんな彼がカラテの達人ミヤギに出会ってカラテを習い始め、やがて少年カラテ選手権大会に出場する。

Read Article

ベスト・キッド2(The Karate Kid Part II)のネタバレ解説・考察まとめ

ベスト・キッド2(The Karate Kid Part II)のネタバレ解説・考察まとめ

『ベスト・キッド2』とは、1986年公開のアメリカ映画。高校生のダニエルが日系人・ミヤギから学んだ空手を通して成長していく大ヒット作『ベスト・キッド』シリーズの第2弾。監督は前作にひき続きジョン・G・アヴィルドセン。今回はミヤギの故郷、沖縄に舞台を移し、ミヤギに復讐を目論むかつてのライバル・サトウとの因縁の対立に巻き込まれるダニエルの新たな試練を描く。

Read Article

ランボー/怒りの脱出(ランボー2)のネタバレ解説・考察まとめ

ランボー/怒りの脱出(ランボー2)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランボー/怒りの脱出』とは、80年代アクション映画の金字塔で、収監されたランボーの元にトラウトマン大佐が訪ねて来て、極東での作戦への参加を提案する。その作戦とはベトナムで捕虜になっている兵士を調査することだった。「80年代は筋肉と爆薬がすべてだった」とスタローンも言ってるように、爆薬の量とアクション描写は、それまでの常識を超えている。また「映画史上最もパクられた本数が多い映画」とも言われており、「ベトナム帰還兵」や「ベトナム捕虜救出」がテーマの映画がビデオ店の戦争アクションコーナーに並んだ。

Read Article

ランボー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ランボー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランボー』(原題:First Blood)とは、1982年に米国で公開されたシルベスター・スタローン主演のアクション映画で、『ランボー』シリーズの第1作である。 社会から排除されたベトナム帰還兵のランボーが、たまたま訪れた街でランボーを追い出そうとする保安官に出会い、戦いへと発展する。ランボーを通してベトナム戦争の負の遺産として社会問題になった米国の暗部が描かれている。 本作は『ロッキー』に続き、シルベスター・スタローンの代表作となり、ハリウッドスターとしての地位を不動のものとした。

Read Article

ランボー/最後の戦場(ランボー4)のネタバレ解説・考察まとめ

ランボー/最後の戦場(ランボー4)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランボー/最後の戦場』とは、2008年5月24日に公開されたアクション映画で、『ランボー』シリーズの第4作。主演、監督、脚本はシルヴェスター・スタローン。前作の『ランボー3/怒りのアフガン』から20年ぶりの続編にあたる。 タイ北部で静かに暮らしていたランボーは、ミャンマー軍に捕らえられたキリスト教系NGOの一行を救出するために、敵地へ向かう。本作はミャンマーを舞台にランボーが再び戦いの地に舞い戻ることとなった。

Read Article

ランボー3/怒りのアフガン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ランボー3/怒りのアフガン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランボー3/怒りのアフガン』とは1988年にアメリカ合衆国で製作されたアクション映画作品で『ランボー』シリーズ第3作にあたる。ベトナム戦争時代の上官でランボーの唯一の理解者であったトラウトマン大佐がアフガニスタンの戦場でソ連軍の捕虜となってしまう。タイで静かに暮らしていたランボーは、それを知ると大佐救出のためアフガンに向った。 公開当時は「101分の本編で108人の死者が出る」というキャッチコピーでギネスブックに「最も暴力的な映画」と記載された。

Read Article

目次 - Contents