
『外道の歌』は渡邊ダイスケによる日本の青年漫画。2016年から2023年にかけて『週刊漫画ゴラク』で連載され、WEBドラマ化もなされた。法の限界に挑む犯罪被害者と加害者を描き、社会的なメッセージを多分に含む。主人公のカモとその相棒のトラが、軽い刑罰や不当な釈放に苦しむ被害者のため、私的な制裁を加え独自の正義を貫く姿が物語の中心となる。冷徹で計画的な復讐劇の反面、復讐が正義か悩む内面も描かれている。
『外道の歌』の概要
『外道の歌』(げどうのうた)とは、渡邊ダイスケによる青年漫画、およびそれを原作としたWEBドラマ。2016年から2023年にかけて『週刊漫画ゴラク』で連載された、犯罪被害者と加害者、そして法の限界を主題とした作品である。2024年12月6日からはDMM TVでWEBドラマも配信された。
前作『善悪の屑』(ぜんあくのくず)の続編にあたり、引き続き、法で裁かれない加害者に対して独自の正義を行使する姿や、復讐における正義に葛藤する様子も描かれている。
本作は、現代日本を舞台に、実際の犯罪事件をモチーフとしたリアリティのある作風を特徴とする。特に少年法や精神鑑定による減刑制度など、日本の刑事法制に対する問題提起がなされており、加害者が軽い刑罰で済まされる現実に対する憤りが、登場人物たちの行動原理として強調されている。
物語は基本的に一話完結型のオムニバス形式を採用しており、各話には異なる依頼人と犯罪者が登場する。依頼人は、犯罪によって家族や恋人を失った者、あるいは法的手段では救済されなかった被害者たちであり、主人公たちは彼らの代理として「復讐」という名の制裁を加えていく。犯行は残忍であり、加害者に対して過酷な罰が与えられるが、作中ではそれが正義として描かれることが多い。
しかし、物語が進行するにつれ、復讐の正当性に対する疑問が浮かび上がる。依頼人の憎悪が過剰となり、復讐が新たな加害を生む可能性が示唆される場面も存在する。また、主人公・鴨ノ目武自身の過去や内面が明かされることで、彼の冷徹な行動の裏に潜む悲しみや葛藤が描かれるようになる。
本作の大きなテーマは、「法律による正義」と「個人の正義」の対立である。司法制度が必ずしも正しい結果をもたらすわけではないことが強調され、鴨ノ目たちは法に代わる制裁者としての役割を果たす。しかし、その行為は私的な復讐であり、法の枠を越えたものであるという点が作品の核心となっている。
『外道の歌』は、過激な内容とともに現代社会への鋭い批判を込めた作品である。実際の事件を連想させる描写も多く、読者に強い衝撃を与えている。被害者支援の不備や加害者への寛容さに対する批判が込められており、主人公たちの行動は一種のカタルシスとして機能していると受け取られることもある。
一方で、暴力描写や残酷なシーンが多く、倫理的な問題を提起する作品でもある。復讐の正当性や制裁の限度について明確な答えは示されていないが、正義とは何か、復讐は許されるのかという問いを読者に投げかける作品として、高い評価を受けている。
本作『外道の歌』は、2014年から『ヤングキング』で連載が開始された第一部『善悪の屑』(ぜんあくのくず)との二部構成になっている。
『善悪の屑』は犯罪被害者遺族の苦しみを救済する「復讐屋」としての活動にスポットを当てた内容となっており、復讐に葛藤するトラや、被害者遺族に寄り添いつつも淡々と復讐を遂げるカモの姿、最大のライバルとなる「朝食会」との出会いも見ることができる。
善悪の屑(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ - RENOTE [リノート]
renote.net
『善悪の屑』は、作者の渡邊ダイスケにより『ヤングキング』で連載され、シリーズ累計発行部数が460万部を突破した人気漫画である。2014年10号から第一部として連載開始。同作品の第二部では『外道の歌』にタイトルを変更。悲惨な事件を起こしたにも関わらず、様々な理由で十分な裁きを受けない犯罪者達に対し、被害者やその家族に代わって復讐を代行する「復讐屋」の鴨ノ目武と島田虎信の物語である。胸糞悪い事件の加害者たちがさらなる酷い復讐を受けるという、エグサと共にすがすがしさをもたらす作品だ。
『外道の歌』のあらすじ・ストーリー
「復讐代行」のはじまり
「カモメ古書店」での復讐代行の開始から4年前。カモ(鴨ノ目 武/かものめ たけし)は、最愛の妻である美咲(みさき)と幼い娘のリナと共に団地で暮らし、幸せな毎日を送っていた。
しかしある日、買い物帰りの美咲に目をつけた目をつけた一人の男が家に押し入り、二人を暴行の上で惨殺。カモは息もできないほどの絶望に襲われて崩れ落ち、その後、食事も摂ることができないほど憔悴してしまう。
刑事である叔父から「美咲の爪から皮膚片が出ているにもかかわらず、その持ち主が警察官僚の息子であるために上層部が事実の隠蔽に走っている」という事実を聞いたカモは、警察や司法の腐敗に対して強い怒りを覚える。頼る者がいないと確信したカモは男の居所を突き止めて刺殺し、妻子の復讐を果たすのであった。
しかし、初めての殺人で手が震えたカモは男の抵抗を許してしまい、額に深い引っかき傷を作られてしまう。
こうして、法で裁けない相手に対する「復讐屋」としての一歩を踏み出したカモ。表向きでは「カモメ古書店」の店主として静かな日常を送り、同じく犯罪で家族を失ったという傷を抱えた仲間のトラ(島田 虎信/しまだ とらのぶ)や奈々子(開成 奈々子/かいせい ななこ)と共に、裏では法で裁かれなかった悪人に制裁を加える「復讐屋」として活動する日々を送るようになる。
「練馬区殺人事件」の決着
ある日、居候の奈々子から「親友と連絡が取れない」と相談を受けたトラは、漫画家を志していたその親友が漫画をよく持ち込んでいた「ゴアゴアコミック」の編集部を訪れていた。その親友の担当についていたのは園田(そのだ)という人物で、お洒落な洋服に身を包んだ比較的若い、人当たりの良い男だった。園田は奈々子とトラの訪問を歓迎してコーヒーを振舞おうとするが、彼の歩き方を見た奈々子は、園田こそが自分の家族と従姉を惨殺した「練馬区の殺人鬼」であることを見抜く。
一方、初めから、奈々子とトラが自分が起こした事件の被害遺族と、一度対峙した「復讐屋」の相棒であることに気づいていた園田は、彼らが受付で書き込んでいた名前と住所を手に、カモメ古書店を目指していた。
奈々子とトラよりも先回りしてカモメ古書店に辿り着き、カモと対峙する園田。カモも園田が以前対峙し、取り逃した「練馬区の殺人鬼」であることを見抜き、二人は互いの体に刃物を突き立て合う。
この死闘を制したのはカモだった。血だらけで縛り上げられた園田は自身の殺人の動機を「面白いマンガを描くための経験」と語った後で静かに息絶えていった。
奈々子は自身の家族の墓前で復讐への葛藤があったことを語り、トラに想いを告げてカモメ古書店を去る。こうして、「練馬区の殺人鬼」がこの世を去る形で、奈々子の復讐は終わるのであった。
引き返したトラ
ある日、刑務所では一人の男が釈放されていた。男の名前は國松義忠(くにまつ よしただ)、IT企業などをはじめとし、複数の企業を経営する事業家だった彼は人心掌握術に長けており、街に蔓延るヤクザなどの反社会勢力を一掃しようと目論んでいた。新しく質のいいドラッグを安価でばら撒き、ヤクザ同士の抗争を煽る國松は、巧みな話術でヤクザや半グレを自身の仲間に引き入れ、多くの人物を手駒として動かして立ち回る。そして、この國松の手駒であった蛍田と富水に対しての依頼に対応したことで、「復讐屋」は彼から目をつけられてしまう。
一方、トラの元には彼の母を殺した犯人が出所するという知らせが届いていた。復讐を果たすべく、単身で犯人の家を吸収するトラだが、そこにはカモの旧友で、國松の手駒のひとりである桜内がいた。この犯人の義兄である桜内は、必死に義弟の不始末を詫びる。固く決意をして復讐に臨んだトラだったが、結局、彼は犯人を殺すという最後の一線を超えることができずに引き返していった。しかし、トラに見逃され、桜内の手引きで誰も知らない場所へと逃亡しようとしていた犯人を、カモが仕留めるのであった。
國松義忠(くにまつ よしただ)という名の巨悪
國松は人体破壊愛好家の異名を持つ殺人鬼、逆口(さかぐち)と手を組み、彼を護衛として自身の手駒に引き入れる。しかし奇しくも逆口は、朝食会が次期会長選抜選挙の一環として探している殺人鬼の一人でもあった。逆口と戦闘になり、命を落としかけた鶴巻を救ったトラは、自身も満身創痍になりながら何とか逆口を制する。しかし自身も瀕死の重体を負ったところを國松に捕えられ、カモについて話すよう強要されたことを拒んだトラは、背中の皮膚を刺青ごと剥がされてしまう。
翌日、トラの皮膚を縫い付けられた身元不明の遺体が港で発見された。
怒りに震えるカモの元にトラの電話を使用した國松からの着信が入り、「専属で仕事をしてほしい」と依頼をされる。怒りに震えながらも冷静に一蹴したカモは朝食会を尋ね、榎加世子にトラの捜索を依頼するのであった。
「復讐屋」の最期
義弟を見逃してもらったことでトラに恩義を感じていた桜内は、國松の目を盗んで彼を逃がし、カモの元に送り届ける。そこで義弟を始末したことを明かしたカモに対し、自分はもう復讐に取り憑かれない、と宣言。國松に仲間ではなく手駒として利用されていたことを悟った桜内は、警察に自首する道を選んだ。一方カモは、朝食会に突き止めてもらった國松の居場所を急襲し、自分にとって新しい家族であるトラを傷つけたことの報復として殺害する。
トラは逆口に潰されたことで片目を失明し、背中の皮膚を失う重傷を負ったが一命を取り留め、カモメ古書店には元の日常が戻りつつあった。
しかしある日、買い物に出たカモは、國松の信奉者であった梅沢に刺されて致命傷を負い、妻子の幻を見ながら命を落とす。
カモ亡き後のカモメ古書店には、店主として店を切り盛りするトラと、戻ってきた奈々子の姿があった。
そしてカモの妻子の仏壇には、カモが生前常にかけていたサングラスが供えられている。
『外道の歌』の登場人物・キャラクター
カモメ古書店(カモメこしょてん)/復讐屋(ふくしゅうや)の関係者
カモ/鴨ノ目 武(かものめ たけし/演:窪塚洋介)

通称「カモ」。表向きは古本屋「カモメ古書店」を経営するごく普通の青年。しかし、その裏ではトラと共に、犯罪被害者のために犯罪者へ制裁を加える「復讐屋」として活動している。冷静沈着で、感情に左右されずに計画を遂行する能力に長けており、犯罪者に対して冷酷な罰を与える姿勢から、非常にドライで無感情な人物に見えることが多い。しかし、彼のその冷徹さの背後には、最愛の妻と娘を惨殺され、自身が犯罪被害者の遺族となった過去があり、そこからくる深い憎悪と正義感が行動原理となっている。
外見的には派手さがなく、周囲に溶け込むような控えめな印象を与える。しかし、その内面には、法律や司法制度が適切に機能しないと感じる場面に対する強い不満と怒りが渦巻いており、犯罪加害者が法の隙間を利用して軽い罰を受ける、または無罪放免となる現実に対し、深い失望を抱いており、それが彼を復讐代行人という道へと導くことになった。
表情は乏しいながら、トラや奈々の騒がしさを楽しんでいることもある。
トラ/島田 虎信(しまだ とらのぶ/演:亀梨和也)

通称「トラ」。カモの相棒で、彼と比較すると暴力的で衝動的な一面を持ちながらも、仲間や被害者に対する深い思いやりを持つ側面が目立って描かれている。
かつて暴力団に所属していた経歴を持ち、そのため、作中でも暴力に対して熟練した技術と恐れを持たない人物として描かれている。大柄で屈強な体格を持ち、戦闘においてはその圧倒的な腕力と経験を生かして、犯罪者に制裁を加える役割を担っている。見た目や行動は粗野で暴力的に映ることが多いが、根本的には心優しく、仲間や家族を大切にする一面を持っている。
しばしば感情に動かされて行動し、犯罪者に対しては激しい怒りを露わにすることが多い。復讐に対する姿勢も非常に過激であり、カモに比べると冷静さを欠く場面がしばしば見られ、特に犯罪者に対しては容赦なく暴力を振るう。
開成 奈々子(かいせい ななこ/演:南沙良)
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目次 - Contents
- 『外道の歌』の概要
- 『外道の歌』のあらすじ・ストーリー
- 「復讐代行」のはじまり
- 「練馬区殺人事件」の決着
- 引き返したトラ
- 國松義忠(くにまつ よしただ)という名の巨悪
- 「復讐屋」の最期
- 『外道の歌』の登場人物・キャラクター
- カモメ古書店(カモメこしょてん)/復讐屋(ふくしゅうや)の関係者
- カモ/鴨ノ目 武(かものめ たけし/演:窪塚洋介)
- トラ/島田 虎信(しまだ とらのぶ/演:亀梨和也)
- 開成 奈々子(かいせい ななこ/演:南沙良)
- 朝食会(ブレックファーストクラブ)の関係者
- 榎 加世子(えのき かよこ)
- 鶴巻 裕(つるまきゆう)
- 粕谷 九頭男(かすたに くずお)
- 東京支部a支部長(とうきょうしぶaしぶちょう)
- 京都支部長(きょうとしぶちょう)
- 設楽 真(したら まこと)
- 溝口 吹苗(みぞぐち さなえ)
- 漫画研究会の部員たち
- 園田 夢二(そのだゆめじ)
- 近野 智夏(こんの ちか)
- 木根 誠一(きね せいいち)
- 久野 詩音(くの しおん)
- 吉飼 飛夫(よしかい とぶお)
- 國松とその協力者たち
- 國松 義忠(くにまつ よしただ)
- 桜内 淳(さくらうち あつし)
- 梅沢 保(うめざわ たもつ)
- 五月女 潤(そうとめ じゅん)
- 逆口 拓(さかぐち たく)
- 蛍田 茂之(ほたるだ しげゆき)/富水 康太(とみず こうた)
- 事件の加害者たち
- カモの妻子殺害犯
- 加藤 真理江(かとう まりえ)
- 榊 奈緒子(さかき なおこ)
- 榊 久文(さかき ひさふみ)
- 榊 華代(さかき はなよ)
- 榊 哲(さかき てつ)
- 榊 葉介(さかき ようすけ)
- 滝谷(たきや)
- 逆巻 良人(さかまき よしと)
- 尼崎 京子(あまさき きょうこ)
- 東 幸則(あずま ゆきのり)
- 中野殿 江尚(なかのどの えなお)
- 源心 (げんしん)
- ニューハーフ殺人犯
- 田神(たがみ)
- トラの母親死亡の加害者
- 『外道の歌』の用語
- カモメ古書店(カモメこしょてん)
- 朝食会(ブレックファーストクラブ)
- 復讐代行人(ふくしゅうだいこうにん)
- 少年法(しょうねんほう)
- 精神鑑定(せいしんかんてい)
- 復讐(ふくしゅう)
- 私刑(しけい)
- 『外道の歌』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 鴨ノ目 武 「誰もやろうとしないから 他の誰にも できない事だから」
- 鴨ノ目 武 「許せなくてもいい 許せない人間だって いてもいい」
- 島田虎信「だがな俺は決めたんや 世の中のクズを一人残らずブッ殺すってな! そのためにはコイツが必要なんや」
- カモの最期
- 『外道の歌』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- その後の作品をさらにグレードアップさせた「映画化中止」の経験